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第23話 侯爵との会談
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程なく客間で目覚めた。一応手当はされている。しかし切れて血の滲んだシャツとパンツはどうにかしてもらいたい。一応、まだナイジェルが袖を通していない新品を用意されたが、断っておいた。この家に借りは作りたくない。どうせ転移ですぐ帰るしな。
しかし、今回はダイニングではなく執務室に通され、そこには厳つい表情の侯爵が待っていた。
「お前さん、円卓のこと知ってんだな」
そうだ。彼も円卓を囲む者の一人、ノースロップの当主である。
「———まァ、お前さんもマガリッジだ。無関係って訳でもねェ。しかもそんだけの腕だ。遅かれ早かれ、殿下に見っかってたろうなァ」
「はぁ…」
「だがなァ。お前さん、このままじゃ死ぬぞ?」
侯爵の話は、本で読んだよりも生々しかった。「俺も生まれる前の話だからよ」と前置きした上で、前々侯爵の壮絶な戦いと戦死の話。
前マガリッジ伯夫妻、つまり俺の祖父母は、メレディスが生まれて間もなく発狂し、討伐されたらしい。不幸なことに二人とも真祖に近い血筋を持ち、二人同時に「真祖の因子」と呼ばれる呪いを発動させてしまった。一度呪いが発動すれば、彼らは悍ましい魔獣の姿に変わり果て、元の何十倍、何百倍の力をもって破壊と殺戮を繰り返すのだそうだ。
二人が一度に因子が発動したのは初めてのことで、討伐は困難を極めた。しかし二人ともヴァンパイアとしては若く、個々の力は強くなかった。そのため、円卓の諸侯は辛うじて彼らを破り、現在の平和が保たれているのだという。
「円卓は飾りじゃねェ。力が無けりゃ、蹂躙されるだけだ」
本でも触れられていたが、「円卓」の八席とはつまり王家、二つの公爵家、四つの侯爵家、マガリッジの当主を指す。言い換えれば、この国で最も強い八名が名を連ねているということだ。討伐には、一騎当千の猛者が当たる。でないと、弱い者が束になってかかっても蹂躙されるだけ。それほど「因子」を発動したマガリッジは強大で、毎回円卓をもってしても討ち取れるかギリギリなのだそうだ。
なるほどね。ラスボス戦にモブを連れて行っても、攻撃も当たらずに普通に死んじゃいそうだもんね。戦場になった地域は、街がいくつも消し飛ぶ勢いらしいし。
俺は侯爵の話を、どこか上の空で聞いていた。本を手に取った時もそうだ。いつも俺と目も合わさず、不機嫌を隠さない父上。だけど飢餓に我を忘れ、俺を母と間違えて泣きながら縋った彼が、本の挿絵のような怪物に姿を変え、討伐される運命だったなんて。幼少からロクに交流もなかった俺は、父親とはいえ彼のことを何も知らないわけだけど、彼が一体何をしたというのだろう。言いようのないやるせなさを感じる。
他人事のように聞いている俺に、侯爵は語気を強めた。
「王太子殿下がお前さんを引き入れたっつうことは、お前さんも円卓の頭数に数えられてるってことだ」
「えっ」
「俺と手合わせして互角にやりあえたんだ、無理もねェ。だが、基礎がなってねェ。お前さん、このまま戦場に送り込まれたら、死ぬぜ」
「だ、だって俺、淫魔ですし…」
しつこいようだが、俺は超後衛型だ。はなっから戦闘に向いてない。前衛職と一緒にされても困る。
「分かってる。お前さんは元々術者向きだ。しかし淫魔だとか未熟だとか、実戦でそんなモンは通用しねェ。弱いヤツから死んでいく」
———死。俺はこの先、獣になったメレディスと戦って、死ぬんだろうか。
「お前さんがどこで腕を磨いて来たのかは知らねェ。だが生き延びるためにァ、腕っぷしと体力が絶対に必要だ。そこで」
侯爵はずいと身を乗り出し、ニィッと嗤った。
しかし、今回はダイニングではなく執務室に通され、そこには厳つい表情の侯爵が待っていた。
「お前さん、円卓のこと知ってんだな」
そうだ。彼も円卓を囲む者の一人、ノースロップの当主である。
「———まァ、お前さんもマガリッジだ。無関係って訳でもねェ。しかもそんだけの腕だ。遅かれ早かれ、殿下に見っかってたろうなァ」
「はぁ…」
「だがなァ。お前さん、このままじゃ死ぬぞ?」
侯爵の話は、本で読んだよりも生々しかった。「俺も生まれる前の話だからよ」と前置きした上で、前々侯爵の壮絶な戦いと戦死の話。
前マガリッジ伯夫妻、つまり俺の祖父母は、メレディスが生まれて間もなく発狂し、討伐されたらしい。不幸なことに二人とも真祖に近い血筋を持ち、二人同時に「真祖の因子」と呼ばれる呪いを発動させてしまった。一度呪いが発動すれば、彼らは悍ましい魔獣の姿に変わり果て、元の何十倍、何百倍の力をもって破壊と殺戮を繰り返すのだそうだ。
二人が一度に因子が発動したのは初めてのことで、討伐は困難を極めた。しかし二人ともヴァンパイアとしては若く、個々の力は強くなかった。そのため、円卓の諸侯は辛うじて彼らを破り、現在の平和が保たれているのだという。
「円卓は飾りじゃねェ。力が無けりゃ、蹂躙されるだけだ」
本でも触れられていたが、「円卓」の八席とはつまり王家、二つの公爵家、四つの侯爵家、マガリッジの当主を指す。言い換えれば、この国で最も強い八名が名を連ねているということだ。討伐には、一騎当千の猛者が当たる。でないと、弱い者が束になってかかっても蹂躙されるだけ。それほど「因子」を発動したマガリッジは強大で、毎回円卓をもってしても討ち取れるかギリギリなのだそうだ。
なるほどね。ラスボス戦にモブを連れて行っても、攻撃も当たらずに普通に死んじゃいそうだもんね。戦場になった地域は、街がいくつも消し飛ぶ勢いらしいし。
俺は侯爵の話を、どこか上の空で聞いていた。本を手に取った時もそうだ。いつも俺と目も合わさず、不機嫌を隠さない父上。だけど飢餓に我を忘れ、俺を母と間違えて泣きながら縋った彼が、本の挿絵のような怪物に姿を変え、討伐される運命だったなんて。幼少からロクに交流もなかった俺は、父親とはいえ彼のことを何も知らないわけだけど、彼が一体何をしたというのだろう。言いようのないやるせなさを感じる。
他人事のように聞いている俺に、侯爵は語気を強めた。
「王太子殿下がお前さんを引き入れたっつうことは、お前さんも円卓の頭数に数えられてるってことだ」
「えっ」
「俺と手合わせして互角にやりあえたんだ、無理もねェ。だが、基礎がなってねェ。お前さん、このまま戦場に送り込まれたら、死ぬぜ」
「だ、だって俺、淫魔ですし…」
しつこいようだが、俺は超後衛型だ。はなっから戦闘に向いてない。前衛職と一緒にされても困る。
「分かってる。お前さんは元々術者向きだ。しかし淫魔だとか未熟だとか、実戦でそんなモンは通用しねェ。弱いヤツから死んでいく」
———死。俺はこの先、獣になったメレディスと戦って、死ぬんだろうか。
「お前さんがどこで腕を磨いて来たのかは知らねェ。だが生き延びるためにァ、腕っぷしと体力が絶対に必要だ。そこで」
侯爵はずいと身を乗り出し、ニィッと嗤った。
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