【完結・R15BL】最弱インキュバスは自家発電で成り上がる!

明和来青

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第25話 裏円卓会議

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「おいおい、お前さん。近衛を揉んでやるって、もうちょっとやり方があらァな」

 別の方向から間の抜けた声。振り返ると、ノースロップ侯爵がタオルで汗を拭き拭き呆れている。

「———ケッ、オッサンに言われたかねェぜ」

「オッサンじゃねェ。お前さんより二十は若ェってんだ」

 よく見ると、侯爵の側は侯爵の側で死屍累々と騎士が倒れている。しかし侯爵的には、「加減してやってるからセーフ」らしい。二人は周囲が怪我人の手当てで騒然とする中、妻子持ちだからオッサンだとか二十も上の癖に若い気でいるとか言い合いになり、ついには拳で語り合いだした。

 訓練中の近衛は運が悪かった。俺とナイジェルは、黙々と治癒を掛けて回った。



「で、何か申し開きは?」

「「ありません」」

 王太子殿下の執務室。ここは謁見の間の隣のプライベート空間らしい。一見美女にしか見えない王太子殿下の、凄みのある微笑み。大柄なオッサン二人が背中を丸めてしゅんとしているのは、なかなか見応えがある。

 訓練場で彼らがボコスカやっているうちに、秘書官がやって来た。ノースロップ侯爵は、王太子殿下とアポがあったのをすっかり忘れていたらしい。三六五日、分単位で予定の詰まっている殿下は激おこだ。「僕は時間の無駄が好きじゃないんだよね」ってニコニコしているけど、執務室の中は氷点下。このオッサンたちをここまで従順にテイムできるなんて、コイツどんだけ強いんだろう。



 なお、ナイジェルは訓練場で解散と言われたにも関わらず、執務室までついて来た。

「ナイジェル。君は呼んでないよ」

 王太子殿下も嗜めたが、彼はここでも食い下がる。

「おいおい、子猫ちゃんよ。こっから先は遊びじゃねんだ」

「父上とつがいが関わっているのです。引き下がるわけには参りません」

「こら、ナイジェル」

「ふぅん。いいけど君、この話に関わったら死ぬよ?」

 ナイジェルは一瞬怯んだが、それでも引き下がらなかった。そこで王太子殿下は折れ、ナイジェルも一緒に招き入れた。



「さて、裏円卓会議へようこそ。歓迎するよ、メイナード」

 王太子殿下が「世界ザ・ワールド」と呟いた途端、ピシリという音とともに部屋の壁がうっすらと光った。耳慣れないスキル。防音結界でも張ったのだろうか。

 ここには円卓会議のうちの四席が揃っている。まず王家の王太子殿下。筆頭公爵家のプレイステッド閣下。次席侯爵家のノースロップ侯爵。そして俺。だけど俺は、一応マガリッジではあるがヴァンパイアじゃない。討伐側にカウントされてるってことか。

 しかしにこやかな王太子殿下とは裏腹に、プレイステッド閣下もノースロップ侯爵も不機嫌そうだ。そしてナイジェルに至っては、怪訝な表情。円卓会議のことは知らないらしい。

「俺ァ反対だぜ。こんなひょろっこいの、ものの役にも立ちゃしねェ」

 いきなりプレイステッド閣下が口火を切った。

「いや。コイツぁ俺と互角にやり合って、ウチの精鋭どもを一気に片付けやがったぜ」

「何ッ」

「見た目だけで相手を侮るのは、君の悪い癖だ、パーシヴァル。メイナード、偽装を解きたまえ」

 全員の視線が俺に集まる。俺は渋々偽装を解いた。

「———長角ちょうかく!」

 ひょろい俺が、王太子殿下や閣下、侯爵と同じように長い角を生やしているのを、プレイステッド閣下は驚愕の目で、そして残りの三人は「さもありなん」という顔で見ている。まあ、見た目からして屈強な彼らと違い、こんななりでレベル三百超えだもんね。後衛タイプだから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。

「ふふ、やはりね。それにしても、ここまで上手く隠し通したものだね。家族愛の為せるわざかな?」

「いえ、その…」

 彼は俺がずっと前から偽装していたのだと誤解している。ナイジェルと侯爵も。別に誤解を解く必要はないんだけど…

「そんな君に朗報だよ。僕たちは、メレディスの討伐を阻止するための仲間だ」

「えっ」



 王太子殿下は忙しい。今回は顔合わせということで、会議はものの十分ほどで終わった。俺はまだ少し呆然としている。いや、話の内容は頭に入って来てはいるんだけど、最近いろんなことが立て続けに起こりすぎて、今ひとつ実感が湧かない。

 しかし、歓迎ムードの王太子殿下とは裏腹に、プレイステッド閣下も侯爵も乗り気ではなさそうだ。

「真祖討伐は、子供の遊びじゃねンだぞ。生け捕りが無理だったら、速攻で獲りに行くっつーの」

「おや、パーシヴァルは自信がないのかい?」

「!ケッ、たかだか二本角に遅れを取るかよ!」

 乗せられやすいプレイステッド閣下は、割と操縦が簡単そうだ。

「ナイジェルまで巻き込みやがって。俺ァ乗り気じゃねェんだがな…」

 浮かない顔のノースロップ侯爵。

「おや。首を突っ込んで来たのはご子息の方だよ、ナサニエル。僕としては未熟な彼が計画に加わるのは、はなはだ心配だけどね」

はなっからせがれを人質に取りやがって、今更だっつうの」

「何のことだか」

 実に楽しそうな王太子殿下。なまじ顔がいいだけに、邪悪な腹黒さが際立つ。どうやらナイジェルの王宮勤めは、ノースロップ侯爵に対する人質という側面もあったようだ。

 なるほど。薄々気付いていたが、ノースロップ侯爵はナイジェルに甘い。溺愛していると言ってもいいだろう。それでいて、ノースロップの正式な後継とはなり得ない。爵位を継がない貴族の子弟が、王宮にスカウトされて勤めに出るのは至極自然なこと。殿下はまんまと侯爵の首根っこを押さえているというわけだ。

 なお、彼らの現在のステータスはこんな感じ。



名前 パーシヴァル
種族 神狼族ワーウルフ
称号 プレイステッド公爵家次子
レベル 313

HP 12,520
MP 3,130
POW 1,252
INT 313
AGI 939
DEX 626

属性 闇・火

スキル 
神狼の遠吠えグレートハウリング LvMax
剣術 LvMax
格闘術 LvMax
身体強化 LvMax
ファイアエンチャント LvMax
炎の羽衣 Lv8

E 訓練用の剣
E 武闘着

スキルポイント 残り 20



名前 ナサニエル
種族 虎人族ワータイガー
称号 ノースロップ侯爵
レベル 301

HP 9,030
MP 3,010
POW 903
INT 301
AGI 1,204
DEX 602

属性 闇・風

スキル 
聖なる咆哮セイクリッドグロウル LvMax
爪術 LvMax
格闘術 LvMax
気功術 LvMax
身体強化 LvMax
加速アクセラレイト Lv6

E 武闘着

スキルポイント 残り 50



 俺は現在レベル346。なので彼らに鑑定が通る。だけど王太子殿下には通らない。まだまだ上には上がいるってことだ。

 一緒に退出したナイジェルは、何やら考え込んでいる。彼は円卓のことを知らなかったわけだから、無理もない。俺だってつい先日知ったばかりで、混乱しているところだし。

「———王宮で厳重な監視を受けて、何やら思惑が働いているのは、分かっていたことだが」

「まあ、仕方ないよ。俺もお前も、好きで巻き込まれたんじゃなし」

「…お前が能力を偽装しながら強さを磨いて来たのは、お父上の為だったのか」

「うえっ」

 何やら誤解が深まっている。

「そうとは知らず、ずっと無礼を働いてきた。済まなかった」

「いや違うんだ、俺は本当に落ちこぼれで」

 しかしナイジェルは聞く耳を持たないまま、何やら思い詰めた様子で官舎の方に去ってしまった。別に誤解を解く必要はないんだけど、なんだかなあ。
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