【完結・R15BL】最弱インキュバスは自家発電で成り上がる!

明和来青

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第41話 査察

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 それからしばらく。

 俺は火曜日と水曜日は王太子殿下の後宮、そして木曜日はノースロップ邸、それ以外は父上メレディスの私邸で暮らしながら、内偵十二課で働く日々。火曜日と土曜日は訓練場でしごかれ、毎日が目まぐるしく過ぎて行った。

 唯一変わったこと言えば、ノースロップ侯爵が姿を見せなくなったことだ。俺でレベルが上げられないなら、自力で上げて来るしかない。当主の仕事はナオミ夫人に任せ、再び武者修行に旅立って行った。どういう「話し合い」が持たれたのかは不明だが、当の婦人は「ほほほ、男はそうでなければ」だそうだ。いいのか侯爵家。



 その間、初めて査察ガサいれにも連れて行ってもらった。俺はナイジェルとラフィと一緒に事前調査資料と令状を持って踏み込み。ロドリックは離れた場所で待機。とはいえ、ここに来るまでには他の部署で事前に下調べがあり、俺たちは細部まで監査した後だから、事実上は一方的な「通告」のようなもんだけど。

「———以上をもちまして、本日の査察は終了です。何かご質問は?」

 ラファエルのよどみない場捌きで、帳簿の突き合わせや事実確認があっという間に終わる。ナイジェルも単なる置き物ではなく、相手方の説明の矛盾点などを容赦なく指摘する。彼は王宮の権威の象徴だ。貴族が黒といえば、白いものも黒くなる。しかし、敢えてそれを良しとせず、徹底的な調査の上に公平を期するやり方を取り入れたのは、王太子殿下だそうだ。Hentaiだけど、マジでシゴデキだな。

 入社(?)一年足らずでベテランと変わらない成果を挙げるナイジェルもさることながら、このラファエルという男の能力も凄まじい。高い情報分析能力に加えて、隙のないプレゼン、そして相手が納得する落とし所。彼は「過去の事例を参考にしたまでですよ」と受け流すが、どんだけ読み込んで来たんだよってくらい引き出しがヤバい。そして一番の強みは、読心術。オスカーの審判ジャッジメントほどの精度はないにしろ、相手に悪意ややましいところがあれば「匂い」というか「雰囲気」で分かるのだそうだ。

 この仕事をしていると、相手の反応は様々。「いやぁ、おかみには敵いませんな」というのが大半、その次は「今は状況が厳しいので処罰はちょっと」といった感じ。中には部下の汚職を把握しておらず、「よくぞ調べて下さいました」というケースもある。しかし、たまぁに敵意を向けて来る馬鹿もいる。

 今回の相手には、敵意はなかったようだ。ラフィはにこやかにクロージングを進めている。だけどさっきから、魔眼の端にアラートが出ている。部屋の隅に盗聴の魔道具、そしてメイドが運んで来たワゴンに薬物の入ったお茶。

「すまないが、俺たちに薬物は効かない」

 俺はメイドを制して、ラフィに目配せをした。その場の誰もが動けない中、彼は記録用の魔道具を取り出して撮影の上押収。ワゴンごとマジックバッグに収めた。

 俺たちは客先で出されたものは、基本的に口にしない。しかし話の流れで、どうしても断れないこともある。そういう時は、ナイジェルがちゃんとキュアーで解毒をしてから摂取することになっている。その前に、怪しい場合はラフィのスキルに引っかかる。従って、俺たちに薬物や毒物は効果がないのだ。

 しかし事前に解毒してしまうと、悪意の物証としては残らない。今回は、俺がちゃったからね。残念だけど、ラフィが用意した温情マシマシの裁定は、御破算となってしまった。

 後で分かったことだけど、この商会の不正は一部の親族と貴族が結託して行ったことだった。会長やあの場にいた幹部はまったく関知せず、お茶に薬物が仕組まれていたことはメイドすら知らなかった。完全に、王宮の査察を視野に入れたやり口だ。結果、商会と男爵家がお取り潰し。情報を漏らしていた官吏かんりを含む関係者が処刑。王宮に楯突いただけでなく、ナイジェルを害そうとしたに等しいからな。厳しいようだが、仕方ない。

 幸い、商会は親族が買い取った形で看板だけ挿げ替えて実質そのまま存続。会長は下っ端からやり直すそうだ。気の毒だけど、かえって生き生きやってるらしい。頑張っていただきたい。



「お手柄だったね、メイナード」

 水曜日の後宮。いつもの如く、おねむな殿下とまったりピロートーク。彼は相変わらず忙しく、水曜日の午後のアポも飛んだり、飛ばなかったり。しかしレベルアップなら寝ながらでもできるということで、最近は寝落ちした殿下から勝手に唾液と精気を頂いている。睡眠学習か。

 しかし、末端の俺らの仕事をちゃんと気にかけて、こうして褒めてもらえるとちょっと嬉しい。なんせ豆腐メンタルなので、褒めて伸ばしていただきたい。やればできる子、YDK。

 そうして何度かアポが飛んだ後、久しぶりの水曜日の午後。俺は殿下に求められるがまま、今現在の俺のレベルを紙に書き写していた。あとそれから殿下の分と、覚えている範囲でメレディス、プレイステッド閣下、ナイジェルの分も。その間、殿下は長年取り組んでいる古文書の解明に勤しんでいる。今日の装いは巫女装束だ。水曜コスプレ枠は継続らしい。

 ふと目を遣ると、彼はペンの軸を唇に当て、魔法陣と見られる図形を凝視している。

「闇属性のエンチャントなんて、随分マニアックですね」

 つい口を滑らせてしまった。すると殿下は、凝視していた瞳をそのままこちらに向ける。

「…分かるの?これが…」

 彼の瞳孔は縦にキュッと細まり、黄金の虹彩がぼんやりと光を帯びる。ああ、こういうところが竜人族ドラゴニュートなんだ、などと呑気に考えたのはほんの一瞬で、彼は肩を砕かんばかりの握力で握り締める。

「え、えどッ、闇属性スキル威力三〇パー上昇の”ッ…体”力二十パー回ふぐ…いだいいだいいだい!!!」

 ごわれぢゃう!肩、ごわれぢゃう!

 俺が涙目でエグエグしていると、彼ははっと正気に戻り「これは?」「じゃあこれは?」とページを捲る。俺はそのたびに「それは鳥型モンスターの召喚で」「暗闇状態の回復」などと解説を加える。視えた通り素直に答えるだけだ。

「そんな…僕のこれまでの解読は、一体…」

 殿下が放心している。どうやら、彼が長年行き詰まっていた箇所を、俺の鑑定があっさり読み取ってしまったようだ。なんかごめん。
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