【完結・R15BL】最弱インキュバスは自家発電で成り上がる!

明和来青

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第46話 偵察

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「安全なら、皆で行っても安全なはずだ」

 メレディスのこの一言を、俺も殿下も論破できなかった。いや、口達者な殿下ならばどうにかして論破していたかもしれないが、彼は論破する気がなかったようだ。難しい顔をして唸っているようで、「メレディスとお出かけ」のウキウキ感が伝わってくる。その辺はパーシーことプレイステッド閣下も察知したようで、「やってらんねェ」と悪態をついている。

 問題はナイジェルだ。裏円卓の中で最もレベルの低い彼は、レベルの伸び率が最も高い。しかし、最初から持っている固定スキル呪歌じゅかと水属性スキルが重くて、なかなかスキルレベルが上がりきらない。



名前 ナイジェル
種族 ハーフサイレン
称号 ノースロップ侯爵家長子
レベル 128

HP 2,560
MP 5,120
POW 256
INT 512
AGI 256
DEX 256

属性 闇・水

スキル 
呪歌じゅか Lv7
剣術 Lv7
ヒール Lv7
キュアー Lv6
ウォーターボール Lv6

E 魔力糸の礼服
聖銀ミスリルのバングル

スキルポイント 残り 20



 俺が今王宮に勤めているのは彼に巻き込まれたからだけど、彼が円卓に絡んでいるのは俺に巻き込まれたからでもある。そもそもノースロップの当代はナサニエル侯で、彼は円卓の正式なメンバーではない。実力も不足しているし、彼がついて来る理由などどこにもないのだが。

つがいを守れない者は、男とは呼べませんので」

 彼はそう言って譲らなかった。

「誰が番だ。メイナードは俺のモンだっつーの。なァ?」

「うえっ、はぁっ?」

 待て待て。どうして俺がお前らの番認定されている?

「そんな棒切れ振り回すだけのなよっちい雑種猫より、俺の方が燃えるだろ」

「笑止。剣術の手合わせなら私で間に合っておりますので」

「テメェじゃ足手纏いだっつってんだろ!」

「安全な偵察なのでは?」

「君たち。そういうじゃれ合いは後にしてくれないかな」

 そういうわけで、今回の裏円卓は場外が紛糾して終わった。彼らと組んで円滑に仕事が出来る気がしない。チームワークって難しい。



 散会後、俺とオスカーとメレディスで、ちょっと偵察の下見に出かけることにした。楽園は、遠く南西の果て、険しい山脈の中にあるという。正直、この世界の大きさというか距離感っていうのがよく分からない。そして移動手段によって、どのくらいの時間がかかるのかも。

 今回メレディスが強行に同行を主張したのは、彼の機動力が理由でもある。オスカー殿下は俺一人くらいは抱えて飛べるが、風属性スキルで飛ぶことのできるメレディスには輸送力においてもスピードにおいても遠く及ばない。メレディスはこのたび加速アクセラレイトスキルを取得し、余っていたポイントで一気にレベル6までのし上がった。更に彼には真祖の権能という固有スキルがあり、生命力と引き換えに自身の能力を爆発的に引き上げることができる。殿下の呼び出しを受けて、マガリッジから数分で王宮まで到着する彼のスピード、そして場合によっては裏円卓全員を一気に飛ばすキャパシティ。確かに、俺たち二人だけで何とかするよりも、メレディスの協力を仰いだ方が良さそうだ。

「では、行こう」

 ドンッ

 俺たちはベランダに出て、殿下がざっくり「あっちの方」と指差した。その瞬間、メレディスは何の前触れもなく飛翔フライを掛け、王宮を飛び出した。



(じぬ!じんじゃう!)

 空気が痛い。熱い。そして薄い。咄嗟とっさに身体強化を使わなければ、粉々になっていたかもしれない。同じくものすごい顔をしているオスカー殿下が、世界ザ・ワールドの防御結界を張り、やっとのことで呼吸が可能となった。

「メ、レディス…ちょっと、速すぎるんじゃ、ないかな」

 俺たちのことを全く気にしている風に見えないメレディスに、殿下が思い切って声を掛ける。すると、

「平気そうだね。では」

 こともあろうか、彼は「権能」を使って更にスピードを上げた。あっすごい。火の玉だ。俺たち、火の玉になってるよ。きっと地上では、流星が観測されてるに違いない。俺たち、お星様になっちゃう。

「持たない!結界が持たないよ!」

「あばばばばば!」

 安全な偵察のはずなのに、天使族とはまったく関係のないところで、俺たちは最大の命の危機に陥っていた。
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