【完結・R18BL】インキュバスくんの自家発電で成り上がり

明和来青

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第10章 後日談 終わりの始まり

(81)最愛の懇願

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今回はオスカー視点です

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 おびただしい魔力の暴走を感知し、僕は即座に暴走地点へ転移した。するとそこには、黒い獣に姿を変えた愛しい恋人の姿。

「待っで!ナイジェル!嫌だあ!!」

 彼は王都が消し飛ぶほどの魔力を、一点に注いでいる。しかし彼の腕の中では、入れ違いのように大洋の魔力が尽き果て、消滅しようとしているサイレンの姿。

「メイナード、これは…」

「助けて、オスカー!ナイジェルが!ナイジェルが!!」

 数日前、完全に浄化したはずの真祖の因子。彼は十年前、僕の死をきっかけに発動した時そのままの姿で、紅い瞳から血の涙を流しながら懇願した。

世界ザ・ワールド

 僕は彼の腕の中の憎い恋敵に時間停止を掛け、メイナードと共に執務室へ跳んだ。



 十年間、僕らは彼に愛と魔力を注ぎ続けた。一国どころか世界を滅ぼしかねない、真祖の因子。彼は僕らの情愛を受け止め、それを体内で飼い慣らした。

「はぁっ…もう、オスカーのドスケベ…!」

 繋がったまま脇を執拗に味わっていると、メイナードの甘い吐息と恨みがましい睦言。僕は彼の前で、一切取り繕うのをやめた。彼はどんな醜い僕を見ても、受け入れてくれた。そして僕も。僕らは特殊な性癖を共有し、つまらないことで喧嘩して、くだらないことで笑い合って。こんなの初めてだった。彼は僕の恋人、親友、そして魂の片割れ。たとえそれが、他の恋人と日替わりで共有する関係だったとしても。僕の大事な、かけがえのない———

 だけどそれは、唐突に終わった。いや、浄化は日に日に進んでいた。終わりが来るのは分かってた。そしていずれその日が来たら、彼が誰を選ぶのかも。

 ナイジェル・ノースロップ。

 メイナードは、六人の恋人の誰とも親しく打ち解け、情を交わし合った。だけど、別れ話にまで発展するような喧嘩をするのは、彼とだけだった。



従兄上あにうえ。ちったァ休めって」

 あれから一ヶ月。今日もパーシヴァルが後宮を訪ねて来て、苦言を呈する。

「必ず助けるって約束したんだ。僕が休むわけには行かない」

 楽園から取り寄せた古文書。僕は古代語を解読しながら、ナイジェルの内側から微かに漏れ出る術式を暴く手がかりを探している。これは旧神殿にあった原典オリジナルだ。レプリカと口語訳は、十年前にメイナードが新神殿と共に塵にしてしまった。しかし基礎は理解している。資料は古ければ古いほどいい。なぜなら彼を崩壊に導いているのは、旧き海洋神の術式なのだから。

「そうだけどよ。従兄上が倒れたら、誰も解けねェだろ」

「……」

 僕はため息をついて、ペンを置く。

 部屋の中央には、メイナードが解呪を受けていたベッド。術式が可視化されたそこには、時間停止と状態保存の世界ワールドに包まれた、メイナードとナイジェル。残された僕たちは、世界の上から魔力を注ぎながら、再び顕現した真祖の因子を中和している。

 僕はあの日、すぐさま義弟オーウェンに、王太子の座を譲位した。そしてメイナードたちを執務室から後宮に移し、王子宮と改称。膨大な魔力の暴走で混乱を招かぬよう、僕はメイナードごと時間停止の世界に包み、それからナイジェルの術式の解除に取り掛かった。

 天使族は、地上で最も旧い種族。彼らは長い寿命でもって膨大な知識を蓄え、精霊体である聖龍の遺伝子情報を改変してエネルギー源として利用するほど、世界の仕組みの把握と術式の理解に長けている。僕も対真祖の戦略兵器として、その仕組みの基本を習得させられた。「世界」スキルは、この理論の応用に過ぎない。だから、ナイジェルの自壊を促す術式を止められるとしたら、天使族、あるいは天使族のスキルを持つ僕しかいない。

 ———ナイジェルをうしないそうになって、獣に戻ってしまったメイナード。彼を助けられるのは、僕しかいないんだ。

 だから、そうだ。僕しかいないから、僕が急がなければならないのだけれど、僕しかいないから、僕が倒れるわけにはいかない。

 テーブルには、昼に置かれた軽食。僕はメイドを呼び、新しいものと取り替えさせる。少し食べたら、仮眠を取ろう。そしてまた、解読を進めなければ。

 明かりを落とし、長椅子に行儀悪く倒れ込めば、微かに光るベッドの上。ナイジェルの心臓では碧い炎がゆらめき、その空いた綻びに、メイナードの魔力が流れ込む。時間停止とは、正確には絶え間なく小刻みな巻き戻しだ。そして僅かずつではあるが、時間は進行していく。維持するには膨大な魔力が必要だが、それには母上や王宮に仕えるの天使族の力も借りている。

 いつまで続くか分からない。いつまでに読み解けるか分からない。だけど、しくじるわけには行かない。メイナードを討伐なんて、絶対にさせない。

「メイナード…」

 彼らを横目に見ながら、僕は瞼を閉じた。
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