乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです

葵川真衣

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7.悪魔な義弟2

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「エディは、えらいわね」
 
 シャロンが心から言うと、エディは頬を染めた。

「当然のことですよ。そのためにぼくは公爵家に引き取られたのですから。跡取りとして選ばれた矜持をもっています」
「わたくし、エディを応援しているわ」
 
 義弟の頭を撫でれば、彼は身を捩り、シャロンを睨んだ。

「何するんですか、やめてください。子供扱いしないでもらいたいです。不愉快です」

(……八歳で子供よね?) 

 ゲームでは口が上手く、裏表の激しいキャラだったので、はっきりとこうやって言葉にする義弟を新鮮に感じた。

「ごめんね」

 唇が綻んでしまう。エディは驚いたようにシャロンを見た。

「姉様」 
 
 義弟は眉間に皺を寄せる。

「いったい何がおかしいんです?」
「あなたが可愛いな、と思って」

 正直に言ってしまえば、エディはかっと顔を赤らめた。

「ぼくと一歳しか違わないのに、どうしてぼくを幼子扱いするんですか!?」
 
 前世の記憶があるからだ。
 ライオネルは、すでに落ち着きがあるのだけれど、エディは本当に子供らしく可愛らしい。
 シャロンがにこにこしていると、エディは眉を逆立て、不審げにした。

「姉様、どうなさったんですっ」
「え?」
「以前となんだか違います」

 シャロンはぎくりとする。

「そ、そう?」
「はい!」
「そんなことはないけれど……? どう違うかしら?」
「いつも姉様はぼくを冷たく一瞥します。ぼくと話したり、そんな緩んだ顔をみせません」
「緩んだ顔……?」
「にやけてます」

 エディはかなり辛らつだ。
 このころはまだ表に出しているけれど、ゲーム時は完全に隠していた。

「王宮の階段から落ちたんでしょ? 動き回ったりせず、静かにしておいたほうがいいと思います」

 義姉がおかしいのは、階段から落ちたためだと、エディは考えたようだ。

「心配してくれてありがとうね」
「心配云々ではなく、公爵家の人間としてどうかと思うのです!」

 きっと心配もしてくれているのだろう。
 話しかけてきたのも、たぶんそれがある。
 笑顔のシャロンに、エディは呆れたようだ。

「やはり前の姉様と違います……」
「今のわたくしは駄目?」
「駄目ですっ!」

 エディは怒った顔をしてそこから離れていった。
 
(あら)
 
 怒らせるつもりはなかったのだけれど。
 エディが可愛くて。
 子供だから当然だが、幼くてゲームより感情豊かだった。

「若様は、照れ屋ですね」

 シャロンは肩を竦めた。

「怒らせてしまったわ」
「戸惑ってはいらっしゃいましたが、怒ってはいらっしゃいませんでした」

 クライヴはそう言うけれど、エディは怒っていた。
 シャロンはこれまでの言動を反省した。
 
 ただの他人だと今まで思ってきたが、せっかく姉弟になったのだし、仲良くなりたい。
 エディの考えも気になるし、将来彼が屈折してしまわないよう、打ち解けたかった。



 シャロンとクライヴが庭で武術の稽古をしていると、木陰からエディがのぞいてくるようになった。
 しばらくシャロンは様子をみていたが、エディに近寄っていった。
 
「エディ」

 義弟は目に見えて焦った。

「な、なんですか、姉様?」
「いつも見ているわね?」
「そ、それは、姉様が下々の者とまた一緒にいると。呆れてしまって」

 シャロンは注意した。

「そういう言い方はいけないわ。人に上とか下とかないわ」
「それぞれ身分があるではありませんか」
「この世界に身分制度があるのは事実だけれど、わたくし疑問に感じるの」
「どうしてです?」
「ひとは皆平等だわ。身分によってそのひと自身を見ることができなくなってしまう。勿体ないもの」
「……姉様の言っていることが、よくわかりません」

 エディは唇を尖らせる。シャロンは吐息をついた。

「今わからなくても、心に留めておいて。エディもわたくしも、この屋敷で勤めているひとも皆同じ人間なのよ」
「公爵家の跡取りになるぼくと、クライヴが同じで、王太子殿下の妃となる姉様と下女が同じだと?」
「そうよ」

 エディは聞いたことのない言語を耳にしたかのように、呆然とした。

「姉様はやっぱりおかしいです!」

 だっと義弟は駆け出していった。
 シャロンはその背を消沈して見送った。

(また怒らせてしまったわ)

 家族だし仲良くなりたいのに……。
 記憶が戻るまで、義弟を無視し冷たくしていた。今はエディにとってシャロンは非常識なことを言う変な人物なのだろう。
 
 ゲーム通りの行動をとるなら、エディに意地悪をする必要があるが、そんなことできないし、したくない。
 まだゲームは始まっていない。開始後は悪役令嬢として動くつもりだけれど、義弟と家族として接しても問題はないはずである。
 
「お嬢様」

 クライヴに声を掛けられ、シャロンは彼のほうを向いた。

「本当にそう思ってらっしゃるのですか? 同じ人間だと」
「ええ」
 
 シャロンは頷く。
 
「若様が困惑されるのも当然だと思います」
「皮を一枚はいだら人間は皆、同じよ?」

 するとクライヴは目を丸くし、くすっと笑った。
 自分が以前生きていた場所では、人は皆平等で、記憶を得た今のシャロンにはその考えのほうが、自然に感じる。
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