乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです

葵川真衣

文字の大きさ
18 / 60

18.光2

しおりを挟む

 暗い雨のなかで、よく見つけてくれた。クライヴに感謝しつつ、洞穴まで行った。
 雨足が強まる。
 白くけぶる外の景色を見、シャロンは遭難してしまったのかもと感じる。
 
 魔力はあれど、うまく使いこなせない。
 今ここで役立つ魔術など持ち合わせていなかった。
 嫌な予感が胸をよぎる。

(……ゲームがはじまるまでもなく、わたくしひょっとしてここで亡くなってしまったりして……?)

 血の気が引く。
 危ないからと廃屋に行くのを止めていたエディの言葉を聞いておくべきだったかもしれない。
 シャロンは膝を抱え、呟いた。

「ここで死んじゃうのかしら」

 それを耳にしたクライヴが緩くかぶりを振った。

「いいえ、そんなことにはなりません」
「そうかしら……?」
 
 地獄が待ち受けている将来を知っても、生き残ろう、と決意した自分は、基本的に楽観的で能天気だ。
 だが今、死をすぐそばに感じている……。
 
 冷ややかな雨はざあざあ降ってやむ気配はないし、寒いし、お腹は空いているし。眠気も感じてきた。
 シャロンは目を擦る。

「……わたくしの呪われた運命に、あなたを巻き込んでしまったのかもしれないわね……」
「呪われた運命?」

 断罪される悪役令嬢に転生していた時点で、呪われているようなものだ。
 恐ろしい運命に、他人を巻き込んでしまった。
 そうならないよう、気を付けようと決めていたのに……。
 寒さとショックで、ふるふると震えてしまう。

「どういうことなのですか?」
「ううん、なんでもない」

 シャロンは滲む涙を拭う。
 すると隣に座るクライヴが、シャロンの手に触れた。
 シャロンはクライヴを見る。

「クライヴ?」

 彼はぎゅっと、あたためるようにシャロンの手を握りしめた。

「どうかお話しください。いったい、何を隠してらっしゃるのです?」

 シャロンは視線を逸らし、俯いた。

「わたくしは何も……」

 クライヴは憂いに満ちた瞳で訴える。

「お嬢様。もしここで俺たちが亡くなるのであれば、吐露しても構わないでしょう。秘密を抱えたままではなく、話したほうがきっと気持ちもラクになりますよ」
 
 そうかもしれない……とシャロンはぼんやり思った。

(わたくしまた亡くなってしまうのね)

 また転生するのか、それともこれで終了なのだろうか?
 転生するなら、今度は呪われた人生でなければいい……。
 シャロンは吐息をおとした。

「実はね」
「はい」
「わたくし、二度目の人生なの、今」
「二度目の人生? それはどういうことでしょう?」

 シャロンは遠い目をした。

「エディが聞いたら、『姉様は夢を見たんですよ』と笑うだろうけれども」
「俺は笑ったりしません」

 シャロンは目元の涙を拭い、真実を告げた。

「わたくし、今とは違う人生を十五年間送っていたの。こことは異なる世界で」

 日本のフツーの女子高生であった。

「そこで転落事故で亡くなって、転生して」
「……転生?」
「ええ。王宮の階段から落ちたとき、気づいたのよ。ここは以前、わたくしがプレイしていた乙女ゲームの世界だと。その中のキャラに転生したんだ、って」

 クライヴは首を傾げる。

「乙女ゲームというのは……」
「女子が好む恋愛ゲームよ。ライオネル様もアンソニー様もルイス様もエディも皆登場していたわ。あなたは登場していなかったけど」
「ゲームの世界」
「そう。ちなみにわたくしはゲームで悪役令嬢で。ルートにより死亡したりね、よくて国外追放になる、とっても悪いキャラなの」

 シャロンはすべてをクライヴに話した。
 どうせ亡くなる、支障ない。
 クライヴは理解できないようで、表情を失っていた。
 シャロンは洞穴の天井を仰いだ。

「今度も転生するのかしら」
「終わりはしませんよ、お嬢様」
「でもこのままだと、あなたもわたくしも亡くなってしまうわ」
「亡くなったりしません」
「あなたを巻きこんでしまって、ごめんなさい」

 たいへん申し訳なく思う。
 そのとき、洞穴の奥がぼんやりと明るく輝いた。

「?」

(何かしら)
 
 気にかかり、立ち上がってふたりで光に向かってみた。
 近づくにつれ、それが廃屋でみた、魔力の残滓であることがわかった。

「廃屋で見たものだわ!」
「そうですね」

 近づこうとするクライヴをシャロンは止めた。

「クライヴ、近づかないほうがいいんじゃない?」

 あの光によって、飛ばされたのなら、また触れれば戻れるかもしれないけれど、もっと辺鄙な場所に飛ばされてしまうかもしれない。
 シャロンはクライヴの手を取って、引き留める。
 
 しかしその青い光はこちらに向かってきて──。
 びりっという感覚がし、シャロンの意識は暗闇に落ちていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...