乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです

葵川真衣

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19.不思議な出来事

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「うわぁあああ、姉様――――!」

 泣きわめく声が聞こえ、シャロンはふうと目を開けた。
 すると自分の横でエディが号泣していた。

「エディ?」
「ね、姉様……」
「どうしたの、なぜ泣いているの」
「姉様――――っ! 気が付いた……っ!」

 エディはぽろぽろと涙を零し、シャロンにぎゅうっとしがみつく。
 シャロンは廃屋にいて、そばにはクライヴの姿がある。
 ルイスがクライヴを抱えていた。
 クライヴは具合をルイスに訊かれ、大丈夫と短く答えた。

「わたくし……」

 確かクライヴと共に洞穴にいて──青い光が向かってきて、気づけばここに。
 ルイスが息を零す。

「君たちは気を失ったのだ」
「わたくしたち、しばらくの間姿が消えていたでしょう?」
「いや、ずっとここにいたが?」
「さっき気絶してしまったのです、姉様たちは」

 では先程のは夢だったのか。

(死なずに済んだのね……)
 
 助かった、と思えば、シャロンはまた急速に意識が薄らいでいくのを感じた。



◇◇◇◇◇



 次に目を覚ましたときには、別荘の寝台だった。
 脇の椅子には涙目のエディがいる。
 クライヴはそばに立っており、壁際には両腕を組んでいるルイスがいた。

「シャロン、君が再度気を失ったので、クライヴが君を背負い、廃屋から運んだ」

(またわたくし気絶してしまったの)

 シャロンは身を起こす。

「ありがとう、クライヴ」
「いえ」

 クライヴは首を左右に振る。

「お嬢様、体調は」
「大丈夫よ」

 不快感もないし、どこも痛くない。
 エディは膝の上に置いた自らの手を、きゅっと握りしめる。

「ぼくが姉様を運ぼうと思ったのですが……力がなく背負うことができず……。ごめんなさい」 

 項垂れるエディにシャロンは慰めるように言葉をかけた。

「謝ることないわ。あなたはまだ子供なんだもの」
「クライヴも子供です。彼は運ぶことができました」
「あなたより、彼は三つ年上だから」

 エディはさらに固く拳を握る。

「ぼくがあんなことをクライヴに言ったばかりに……姉様は倒れて……。ぼく、ぼく……」
「エディ」

 エディは涙をぽたぽたと落とす。 
 シャロンが気絶することになったのは、自分のせいだと責任を感じているようである。

「あなたのせいではないわよ、エディ。わたくしは何ともないし、泣かないで?」
「姉様……」
 
 シャロンは手を伸ばし、涙に濡れたエディの頬を拭う。

「ひとつだけ言うとね」

 シャロンはじっとエディを見つめる。

「クライヴにもほかのひとにも、あんなふうに命じるのはよくないと思うの。前話したわよね?」

 エディはこくりと頷いた。

「はい……。ぼくは今後、姉様の言いつけを守ります」

 余程ショックを受けたのだろう、エディは元気がない。
 気絶したときに怖い思いをしたけれど、こうして義弟が反省してくれて、考えを改めてくれるきっかけとなったなら、よかった。
 ルイスが口を開く。

「魔力の残滓に触れたため、君たちは意識を失ってしまったようだ」
「あの青い光はどうなったんですの?」
「消滅した。珍しいものなので見学に行ったのだが。申し訳なかった」
「いえ、今特に何もありませんし、大丈夫ですわ」


 ──それから数日間、何事も起きることなく、ガーディナー家の別荘で魔術の勉強をした。
 エディがクライヴや他の使用人に、ひどく不遜な態度を取ることはそのあとなくなった。
 怪我の功名である。
 
 廃屋での出来事は不思議だったけれど、シャロンは夢の中で、自分の抱える悩みをクライヴに話し、胸のつかえが取れたような気がしていた。



※※※※※ 



 エディは後悔の気持ちでいっぱいだった。

(ぼくが、青い光に近づくようにとクライヴに命じたばかりに)

 義姉が気を失うことになってしまった。
 倒れたときのシャロンは真っ青で、今にも死んでしまいそうだった……。
 意識が戻ったけど、また気絶してしまって。

(ぼくのせいだ)

 義姉を運ぶことすらできない。なんて無力なのだろう。
 自分は何もできない。
 森の入り口までクライヴが義姉を運び、待機していた馬車に乗って、別荘に戻った。
 いくらか義姉を助ける上で、彼のほうが役に立った。
 
 エディははっきり自覚した。

(姉様はぼくにとって世界で一番大切なひとだ……!)

 義姉を守ることのできる人間になりたい。
 お人好しなシャロンをなんとかしないと、と最初は考えていたけれど。
 シャロンが大切だから。

(姉様が言っていたことを、ちゃんと聞こう)

 使用人に、尊大な態度をとるのはやめよう。
 クライヴには魔力がある。青い光の前で立ち止まっていたし、見えていたのだ。
 貴重な魔力持ちは、貴族でも珍しいが、彼は平民でありながら保持しているのだ。
 
 義姉のいうとおり、人に上も下もなく身分だけで判断できない。
 ──廃屋でのことからエディは心を入れ替え、人と向き合うようになった。
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