21 / 60
21.事情を話す2
しおりを挟む
(クライヴは……亡くなるの?)
悪役令嬢は憎々しいほど、ゲーム中、元気いっぱいだったけれども。
「この屋敷から、違う場所に移動するとかじゃないかしら……?」
悪い方向に考えるのはいけない。
「この屋敷から俺が出ることはありません」
彼はきっぱりと言葉にする。
「こちらでずっと勤めさせていただきたいです」
「そうしてもらえるとありがたいわ」
公爵家が彼を解雇にすることはないだろう。
クライヴは真面目に働いてくれている。
彼も公爵家で勤めたいと意思表示してくれているし、違う場所に行くことは考えにくい。
彼は人差し指を曲げて、自身の顎に置く。
「お嬢様のおっしゃる物語と、この世界はすべて同じなのでしょうか?」
シャロンは両腕を組んで考え込んだ。
「わからないわ。わたくしもすべてを覚えているというわけではなくて」
主人公の周辺が当然一番描写は多く、悪役令嬢側はおざなりだった。
「ヒロインを中心とした物語。敵役であるわたくし側についてはあまり詳しく描かれていないの」
「俺は死んでいたのかもしれませんが、そうではなく、ただ内容に関係ないので省かれていただけかもしれませんね」
美少年なのでなぜ攻略対象にしないのか、と疑問に感じるが。
「あなたは見た目素晴らしいし、省いたのはなぜかそれはそれで謎なんだけどねえ」
「俺はそんな見た目よくありませんよ」
「何いっているの!?」
シャロンは虚を衝かれる。
攻略対象と並んでも遜色ないのに。
「俺はふつうです」
まったく、ふつうではない。
イケメンであることを自覚していないのか。
シャロンはびっくりしてしまった。
「あなたはとても見目が良いわよ。わかっていなかったの、自身の容姿の素晴らしさを!?」
彼は苦笑した。
「ありがとうございます。でも俺はそんな大層なものじゃありません」
いや、大層美形である。
だってお茶会で、令嬢も彼を見てそわそわしていたし、メイドたちにも人気がある。
まだ十一歳だが、将来が楽しみなイケメンだ。
「お嬢様の前世で見られた物語と、すべて同じではないと思うのです。そのゲーム内の、悪役令嬢に前世はなかったのでしょう?」
「なかったわ」
「それだけみても、違う部分です」
そう言われれば、そうだ。
「あなたはわたくしが話したことを、事実だと思っている?」
「はい。事実なのでしょう?」
「わたくしの頭がおかしくなったとは?」
「内容は驚きましたが、お嬢様のことを信じます」
本当はおかしいと思われているかもしれないが、彼はさすが、おくびにも出さない。
シャロンはクライヴに事実を話し、非常にすっきりした。
なんともいえない解放感である。
スキップを踏みたいくらいだ。
変人と思われたとしても、口外しないでもらえるならいい。
「ライオネル様はお嬢様の婚約者です。もしゲームのヒロインが、ライオネル様を選んだら、どうなさるのですか」
シャロンの話した内容を、彼は事実として扱うことにしたようだ。
「もちろん、その場合、ハッピーエンドになるよう応援するのよ」
「ゲーム同様、悪役になってですか?」
「ええ。それがわたくしの役割だから。でも屋敷の皆に迷惑はかけられないわ。その辺、注意しないといけないんだけれども」
難易度はすこぶる高い。
「婚約者のライオネル様ではなく、他の攻略対象と結ばれるように、応援されれば?」
「ヒロインが選んだひととの恋を応援するわ。ライオネル様はメインヒーローだったから、彼と結ばれる可能性が一番高い」
「お嬢様はライオネル様がお好きでしょう。彼がヒロインと結ばれてもよろしいのですか」
シャロンは胸がちくっと痛む。
(初恋だったわ……)
儚く散ってしまったけれど。
「わたくしが優先するのは、恋より、生命」
恋はすでに諦めている。
「世界が滅亡なんてことになってもいけないし。わたくしの初恋なんかより、いくらかゲームをハッピーエンドに導くことのほうが重要だわ。わたくし使命感をもってもいるの。あなたには、このことを内密にしてもらって、ぜひ手伝ってもらえるとありがたいわ」
シャロンがお願いしてみれば、クライヴはすぐさま頷いた。
「誰にも言いません。微力ながらお手伝いいたします」
「ありがとう」
彼は真面目だし、きっと話さないでいてくれるだろう。
クライヴに事実を告げ、協力者となってもらえたことで、シャロンは心が軽くなった。
彼には変人と思われているだろうけれども……。
悪役令嬢は憎々しいほど、ゲーム中、元気いっぱいだったけれども。
「この屋敷から、違う場所に移動するとかじゃないかしら……?」
悪い方向に考えるのはいけない。
「この屋敷から俺が出ることはありません」
彼はきっぱりと言葉にする。
「こちらでずっと勤めさせていただきたいです」
「そうしてもらえるとありがたいわ」
公爵家が彼を解雇にすることはないだろう。
クライヴは真面目に働いてくれている。
彼も公爵家で勤めたいと意思表示してくれているし、違う場所に行くことは考えにくい。
彼は人差し指を曲げて、自身の顎に置く。
「お嬢様のおっしゃる物語と、この世界はすべて同じなのでしょうか?」
シャロンは両腕を組んで考え込んだ。
「わからないわ。わたくしもすべてを覚えているというわけではなくて」
主人公の周辺が当然一番描写は多く、悪役令嬢側はおざなりだった。
「ヒロインを中心とした物語。敵役であるわたくし側についてはあまり詳しく描かれていないの」
「俺は死んでいたのかもしれませんが、そうではなく、ただ内容に関係ないので省かれていただけかもしれませんね」
美少年なのでなぜ攻略対象にしないのか、と疑問に感じるが。
「あなたは見た目素晴らしいし、省いたのはなぜかそれはそれで謎なんだけどねえ」
「俺はそんな見た目よくありませんよ」
「何いっているの!?」
シャロンは虚を衝かれる。
攻略対象と並んでも遜色ないのに。
「俺はふつうです」
まったく、ふつうではない。
イケメンであることを自覚していないのか。
シャロンはびっくりしてしまった。
「あなたはとても見目が良いわよ。わかっていなかったの、自身の容姿の素晴らしさを!?」
彼は苦笑した。
「ありがとうございます。でも俺はそんな大層なものじゃありません」
いや、大層美形である。
だってお茶会で、令嬢も彼を見てそわそわしていたし、メイドたちにも人気がある。
まだ十一歳だが、将来が楽しみなイケメンだ。
「お嬢様の前世で見られた物語と、すべて同じではないと思うのです。そのゲーム内の、悪役令嬢に前世はなかったのでしょう?」
「なかったわ」
「それだけみても、違う部分です」
そう言われれば、そうだ。
「あなたはわたくしが話したことを、事実だと思っている?」
「はい。事実なのでしょう?」
「わたくしの頭がおかしくなったとは?」
「内容は驚きましたが、お嬢様のことを信じます」
本当はおかしいと思われているかもしれないが、彼はさすが、おくびにも出さない。
シャロンはクライヴに事実を話し、非常にすっきりした。
なんともいえない解放感である。
スキップを踏みたいくらいだ。
変人と思われたとしても、口外しないでもらえるならいい。
「ライオネル様はお嬢様の婚約者です。もしゲームのヒロインが、ライオネル様を選んだら、どうなさるのですか」
シャロンの話した内容を、彼は事実として扱うことにしたようだ。
「もちろん、その場合、ハッピーエンドになるよう応援するのよ」
「ゲーム同様、悪役になってですか?」
「ええ。それがわたくしの役割だから。でも屋敷の皆に迷惑はかけられないわ。その辺、注意しないといけないんだけれども」
難易度はすこぶる高い。
「婚約者のライオネル様ではなく、他の攻略対象と結ばれるように、応援されれば?」
「ヒロインが選んだひととの恋を応援するわ。ライオネル様はメインヒーローだったから、彼と結ばれる可能性が一番高い」
「お嬢様はライオネル様がお好きでしょう。彼がヒロインと結ばれてもよろしいのですか」
シャロンは胸がちくっと痛む。
(初恋だったわ……)
儚く散ってしまったけれど。
「わたくしが優先するのは、恋より、生命」
恋はすでに諦めている。
「世界が滅亡なんてことになってもいけないし。わたくしの初恋なんかより、いくらかゲームをハッピーエンドに導くことのほうが重要だわ。わたくし使命感をもってもいるの。あなたには、このことを内密にしてもらって、ぜひ手伝ってもらえるとありがたいわ」
シャロンがお願いしてみれば、クライヴはすぐさま頷いた。
「誰にも言いません。微力ながらお手伝いいたします」
「ありがとう」
彼は真面目だし、きっと話さないでいてくれるだろう。
クライヴに事実を告げ、協力者となってもらえたことで、シャロンは心が軽くなった。
彼には変人と思われているだろうけれども……。
188
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる