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29.身動きが取れない
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ひょっとしてライオネルを責めているように感じてしまったのかもしれない。
シャロンは慌てた。
「ライオネル様が悪いのではありませんわ。帰るとき、わたくしがそのことを忘れてしまったので」
ライオネルはシャロンの手を両手で包み込む。
「すまなかった。僕が別のものを贈るよ」
気遣わせてしまってはいけないと、シャロンがかぶりを振れば、ライオネルの眼差しが冷たくなった気がした。
どうしたのだろう?
「僕のプレゼントは要らない?」
「え?」
「アンソニーのプレゼントは受け取れるけれど、僕のものは受け取れないのかな」
シャロンはびっくりして否定した。
「そういうことではありませんわ」
すると彼は唇を綻ばせた。
「よかった」
彼はポケットからケースを取り出す。
「実はなくしてしまったお詫びに、代わりのものを用意してきたんだ」
彼はケースを開ける。そこには蝶の髪飾りがあった。
精巧な作りで、宝石があしらわれていて目映い。
高価なものだ。
「これを君に」
シャロンは困惑してしまう。
「いただけませんわ」
彼は眉をひそめ、声をおとした。
「気に入らない? なら他のものにする」
「いえ。とても素敵な髪飾りですけれど……」
「そう思うのなら、もらってくれると嬉しい」
「あまりに高価すぎますし、いただくわけにはいきませんわ」
「僕たちは婚約者なんだ」
壊してしまったらどうしよう、という思いが先に立つし、気後れする。
「それともアンソニーが渡したものと同じものがいいの?」
彼は目を伏せる。
「もしそうならそれを探す」
彼は落としてしまったことに罪悪感を抱いているのだ。
「ライオネル様、どうかお気になさらないでください」
アンソニーには申し訳ないけれど、シャロンが忘れていたのだし、ライオネルが悪い訳ではない。
「気にするよ」
ライオネルはシャロンの髪に触れる。
「君の気に入るものを、僕が君にあげたいんだ」
じっと眼差しを注ぎ込まれる。
「これが気に入らなかったら、違うものを」
「気に入らないわけではありませんわ。壊してしまったらどうしようと心配で」
「壊れれば、また新たなものを用意する」
受け取らないと、彼はまた違うものを用意しそうだ。
ライオネルは哀しそうに見てくる。迷った末、返事をした。
「……ライオネル様、いただいてよろしいですか?」
すると彼は表情を輝かせた。
「ありがとう。じゃ、つけるね」
「……お願いします」
ライオネルは髪飾りを髪に挿してくれようとするが、彼の美貌の顔が近づいてき、シャロンは緊張した。
(ち、近いわ)
離れようと後ろに体重をかけ、シャロンは体勢を崩して倒れてしまった。
「!」
「シャロン」
「……すみません」
「大丈夫?」
「はい」
身を起こそうとすれば、ライオネルがシャロンの顔の横に手をついた。
倒れたシャロンを上から見下ろす。
「この体勢のほうがつけやすい。少しじっとしていてくれる?」
「……わかりました」
ライオネルは上体をおとす。彼の綺麗な頬に金の髪がかかる。
非常に心臓が騒ぐ。
ライオネルはシャロンの頭に髪飾りをつけてくれた。
「よく似合っている」
「ありがとうございます」
彼が動かないので、シャロンも身動きが取れない。
「ライオネル様……?」
彼はシャロンの髪を指で梳く。
「ねえ、シャロン」
ライオネルはそっと尋ねる。
「僕の贈った髪飾りと、アンソニーの髪飾り。どちらが気に入った?」
「え……? どちらもとても素敵です」
「僕の、とは言ってくれないんだね?」
ぽつりと呟かれた言葉にシャロンは瞬く。よく聞こえなかった。
「?」
すると彼はさらに上体を倒した。
額に彼の唇がおとされる。
シャロンは硬直した。
吸い込まれそうなライオネルの双眸が至近距離にある。
「ライオネル様?」
彼はシャロンの頬をやさしく指で辿った。
全身が熱くなる。
吐息が触れる距離で彼はささやいた。
「キスしていい?」
「今キスされましたわ……!?」
「今度は唇に」
シャロンは慌てた。
「ライオネル様が悪いのではありませんわ。帰るとき、わたくしがそのことを忘れてしまったので」
ライオネルはシャロンの手を両手で包み込む。
「すまなかった。僕が別のものを贈るよ」
気遣わせてしまってはいけないと、シャロンがかぶりを振れば、ライオネルの眼差しが冷たくなった気がした。
どうしたのだろう?
「僕のプレゼントは要らない?」
「え?」
「アンソニーのプレゼントは受け取れるけれど、僕のものは受け取れないのかな」
シャロンはびっくりして否定した。
「そういうことではありませんわ」
すると彼は唇を綻ばせた。
「よかった」
彼はポケットからケースを取り出す。
「実はなくしてしまったお詫びに、代わりのものを用意してきたんだ」
彼はケースを開ける。そこには蝶の髪飾りがあった。
精巧な作りで、宝石があしらわれていて目映い。
高価なものだ。
「これを君に」
シャロンは困惑してしまう。
「いただけませんわ」
彼は眉をひそめ、声をおとした。
「気に入らない? なら他のものにする」
「いえ。とても素敵な髪飾りですけれど……」
「そう思うのなら、もらってくれると嬉しい」
「あまりに高価すぎますし、いただくわけにはいきませんわ」
「僕たちは婚約者なんだ」
壊してしまったらどうしよう、という思いが先に立つし、気後れする。
「それともアンソニーが渡したものと同じものがいいの?」
彼は目を伏せる。
「もしそうならそれを探す」
彼は落としてしまったことに罪悪感を抱いているのだ。
「ライオネル様、どうかお気になさらないでください」
アンソニーには申し訳ないけれど、シャロンが忘れていたのだし、ライオネルが悪い訳ではない。
「気にするよ」
ライオネルはシャロンの髪に触れる。
「君の気に入るものを、僕が君にあげたいんだ」
じっと眼差しを注ぎ込まれる。
「これが気に入らなかったら、違うものを」
「気に入らないわけではありませんわ。壊してしまったらどうしようと心配で」
「壊れれば、また新たなものを用意する」
受け取らないと、彼はまた違うものを用意しそうだ。
ライオネルは哀しそうに見てくる。迷った末、返事をした。
「……ライオネル様、いただいてよろしいですか?」
すると彼は表情を輝かせた。
「ありがとう。じゃ、つけるね」
「……お願いします」
ライオネルは髪飾りを髪に挿してくれようとするが、彼の美貌の顔が近づいてき、シャロンは緊張した。
(ち、近いわ)
離れようと後ろに体重をかけ、シャロンは体勢を崩して倒れてしまった。
「!」
「シャロン」
「……すみません」
「大丈夫?」
「はい」
身を起こそうとすれば、ライオネルがシャロンの顔の横に手をついた。
倒れたシャロンを上から見下ろす。
「この体勢のほうがつけやすい。少しじっとしていてくれる?」
「……わかりました」
ライオネルは上体をおとす。彼の綺麗な頬に金の髪がかかる。
非常に心臓が騒ぐ。
ライオネルはシャロンの頭に髪飾りをつけてくれた。
「よく似合っている」
「ありがとうございます」
彼が動かないので、シャロンも身動きが取れない。
「ライオネル様……?」
彼はシャロンの髪を指で梳く。
「ねえ、シャロン」
ライオネルはそっと尋ねる。
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「え……? どちらもとても素敵です」
「僕の、とは言ってくれないんだね?」
ぽつりと呟かれた言葉にシャロンは瞬く。よく聞こえなかった。
「?」
すると彼はさらに上体を倒した。
額に彼の唇がおとされる。
シャロンは硬直した。
吸い込まれそうなライオネルの双眸が至近距離にある。
「ライオネル様?」
彼はシャロンの頬をやさしく指で辿った。
全身が熱くなる。
吐息が触れる距離で彼はささやいた。
「キスしていい?」
「今キスされましたわ……!?」
「今度は唇に」
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