乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです

葵川真衣

文字の大きさ
31 / 60

31.警告

しおりを挟む
 ゲームをクリアしたし、実際この世界にいて見ていればわかる。

「わたくしはライオネル様の婚約者で、弟君のアンソニー様と会う機会もありますし、接していますから」
「ふうん」

 ライオネルの表情が強張る。機嫌がなぜか悪い。

(やっぱりアンソニー様と大きなケンカをされたのかしらね……?)

「いったいどうされたんですの」
「何が?」

 シャロンは横に座るライオネルの頬を、両手で挟んだ。
 ライオネルは目を白黒させる。

「シャロン?」
「いつもと違いますわ」
「どう違うの?」
「意地悪な顔つきになっていますわよ」

 険がある。
 こういう表情は、悪役令嬢の専売特許だ。
 メインヒーローのする表情ではないだろう。
 きっとアンソニーと仲違いしたのだ。それでいつもと違う。

「仲良くなさってくださいませ」

 シャロンはエディにお説教するようについ言ってしまった。

「君は、僕と弟に仲良くなってほしいの」
「ええ」

 ケンカ中なら、仲立ちをしたい。

「僕と弟の仲を慮るより、君は僕との仲を深めるべきじゃない?」
「わたくしたちは仲違いしておりませんわ?」

 ライオネルはシャロンの手を掴む。

「もちろん僕たちは仲違いなんてものをしていないけれど、関係性が深まってもいないよね」
「今日草原に行きましたし、この間、街にも出掛けました。よくお会いしていますわ?」

 すると彼は皮肉に笑った。

「キスもしていない」
 
 草原でのことを思い出せば、シャロンは頬が染まる。

(頬にキスされたけれど……)

 ゲームの中ではなかったことだ。

「わたくしたちのことと、ライオネル様とアンソニー様のことは別ですわ」
「僕は別だとは思わないけどな」

 彼はふっと目を逸らせた。

「わたくし、ライオネル様にアンソニー様を大切にしていただきたいですわ。どうか仲良くなさってください」

 彼らは、ただひとりの兄と弟なのだから。
 ライオネルは口を噤み、少ししてから吐息を零して頷いた。

「……そうだね。君に心配をかけることを、僕は望まない。弟と仲良くする」

(よかったわ)

「やっぱりケンカなさっていたのですね?」
「ケンカというものでもないけれどね」
 
 シャロンは安堵して、笑顔になった。



※※※※※



 アンソニーは暗い気持ちでいた。
 シャロンは自分が贈ったのとは違う髪飾りをしていた。
 精巧で見事な品だった。

 アンソニーがプレゼントした、おもちゃのような代物ではないが、蝶を象ったのは同じ。
 それを兄はシャロンに贈った。
 あてつけや警告のように感じた。
 


 翌日、アンソニーはライオネルに呼び出された。
 戦々恐々としていれば兄に、剣合わせをしようと誘われた。
 アンソニーは兄と庭園に出、剣を交えることになった。

「僕は昨日、話しただろう。髪飾りを落としたと」
「……はい」
 
 兄の剣は重かった。

「本当は故意に壊して処分した」

 そうかもしれない、とは想像していた。
 だがはっきり告げられて動揺し、動きが鈍る。
 ライオネルはためらうことなくアンソニーの剣を弾き飛ばした。

「…………っ!」

 衝撃で、アンソニーは倒れた。
 兄はアンソニーの傍らに立つ。

「心は自由だ。誰にも縛ることはできない。僕も縛りはしない」

 ライオネルは氷のような冷たい目をしていて、アンソニーは肝が冷えた。

「責めないよ。たとえ、おまえがシャロンに特別な感情を抱いているとしても」

 アンソニーはどきりとした。
 ライオネルは肩を竦める。

「おまえが、越えてはならない一線を越えるとは思わない」

 倒れたアンソニーに、ライオネルは手を差し出す。
 アンソニーはライオネルの手を取った。

「……申し訳ありません、兄上」

 アンソニーは立ちあがる。謝ることしかできない。

「いちおうはっきりさせてはおこう。おまえ、シャロンのことが好きだな」

 アンソニーは自分の気持ちがよく掴めなかった。
 それでわかる範囲で話した。

「……好きか嫌いかでいえば、好きです」

 ライオネルは口の端を持ち上げる。

「好きか嫌いかでいえば、か」

 アンソニーのなかでシャロンは重要な位置付けである。
 関心はあるが、恋愛のそれとは違うはず、だ……。
 将来、兄と結婚する相手なのだから。

 それで重要視し、気になっているだけ……。
 彼女を好ましく感じているのも、それでだ。
 自分が最も大事に思うのは、将来の王、ライオネルである。

「おまえにとって僕とシャロン、どちらの存在がより大きい」
「兄上です」

 ライオネルは剣先をアンソニーの喉に向ける。もう少しで刺さる距離だ。
 アンソニーは脂汗が滲んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

処理中です...