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35.心配性な義弟
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「昨日、若様にご相談を受けました」
母の実家で稽古をしたあと、休憩中に、シャロンはクライヴにそう言われた。
「エディに?」
クライヴは顎を引いた。
「はい。若様はお嬢様が結婚なさりたくないのではと。お嬢様に悩みがあるのなら解決したいと、おっしゃっていました。若様はお嬢様をいつも気にかけてらっしゃいます」
「ありがたいけれど。ちょっと心配性なのよね、あの子は」
どうしたものやら。
エディに話せるわけもない。
「事実を知っているのは、あなただけなの。話せばエディに余計に心配かけるし……」
「お嬢様の大事な秘密です。俺は誰にも言いません」
クライヴは今までも黙っていてくれたし、話さないでいてくれるだろう。
(わたくし、エディに心配をかけてしまうようなこと、してしまったかしら)
結婚云々ではない、将来地獄に落ちるのでは、とシャロンは悩んでいるのだった。
屋敷に帰り、部屋で過ごしていれば、扉を叩く音が聞こえた。
「はい?」
「ぼくです、姉様」
シャロンは室内を横切り、扉を開けた。
そこには真剣な顔をした義弟がいた。
「ちょっと今、いいですか?」
「いいわよ」
シャロンはエディを室内に通した。
義弟はきゅっと自身の手を握りしめる。
「ぼく、見守ろうと思ったんですけど、やっぱり気になってしまって。姉様は思い悩まれていますよね」
クライヴから聞いたことかと、シャロンは思考を巡らした。
(わたくし、義弟に心配させてしまうなんて駄目ね……)
十三歳のエディに、心労をかけられない。
「掛けて」
エディは長椅子に腰かける。シャロンはその隣に座った。
「まずエディ、わたくし何も悩んでなんてないからね」
「嘘です!」
エディは即、断ずる。
義弟は確信しているとばかりに眦を決した。
「ぼくは鈍くはありませんよ。姉様はライオネル様をお好きですけれど、結婚したがっていません」
義弟の言う通りだが、事情は説明できない。
シャロンが口ごもれば、エディは眉をひそめた。
「姉様はどうして結婚したくないのですか?」
すべては話せないけれど、エディは勘が鋭い。
ある程度、話しておこうとシャロンは思った。
「わたくし、王太子妃って柄ではないでしょう? 性格も変わっているし」
「そうですね」
(……否定してはくれないの……)
「……だから、わたくしが王室に入りたがっていないようにエディには思えるんじゃない? 結婚したがっていないように」
エディはふむ、と顎に手を置く。
「つまり姉様は、王室という堅苦しい場所に、やはり戸惑いがあるのですね。ぼく、姉様が結婚したくないのであれば、結婚しなくてもいいと思っています。姉様は結婚せず、ずっとこの家にいてください。ぼくが一生守ります」
「そ、それはありがとう」
国外追放になるので、家に留まることはないけれど。
「でも、わたくしの心配はいいわ、大丈夫よ」
エディはシャロンに疑いの目を向ける。
「本当でしょうか? ぼくは姉様が何かに不安を感じているのなら、それを取り除いてあげたいのです」
「あなたはいい子ね」
シャロンがエディのキャメルの髪をなでなですれば、エディはぷくっと頬を膨らませた。
「姉様!」
(あら、怒ってしまったわ?)
「なあに?」
「いったい、いつになったらぼくを子ども扱いしなくなるのですかっ!?」
「子ども扱いなんてしていないわよ」
ただ良い子だな、可愛いな、と思ったのだ。
「もう……っ!」
エディは頬を赤らめる。
「ぼくには相談してくれないのですか」
義弟に心痛を与えるわけにはいかない。
「悩みなんてないもの」
「絶対嘘ですから!」
引き下がる気配がみられず、シャロンはふうと息を零す。
「そうねえ……では打ち明けてしまおうかしら……? あなた、鋭いんですもの」
「はい! 話してください!」
シャロンはスカートのよれを直す。
「ライオネル様が好きだけど、確かに結婚することはないと思っているわ」
「姉様……」
義弟はやっぱり、という顔をした。
「わたくし、王室に入るような柄ではないし」
「それはそうですね」
義弟はまた即認める。
母の実家で稽古をしたあと、休憩中に、シャロンはクライヴにそう言われた。
「エディに?」
クライヴは顎を引いた。
「はい。若様はお嬢様が結婚なさりたくないのではと。お嬢様に悩みがあるのなら解決したいと、おっしゃっていました。若様はお嬢様をいつも気にかけてらっしゃいます」
「ありがたいけれど。ちょっと心配性なのよね、あの子は」
どうしたものやら。
エディに話せるわけもない。
「事実を知っているのは、あなただけなの。話せばエディに余計に心配かけるし……」
「お嬢様の大事な秘密です。俺は誰にも言いません」
クライヴは今までも黙っていてくれたし、話さないでいてくれるだろう。
(わたくし、エディに心配をかけてしまうようなこと、してしまったかしら)
結婚云々ではない、将来地獄に落ちるのでは、とシャロンは悩んでいるのだった。
屋敷に帰り、部屋で過ごしていれば、扉を叩く音が聞こえた。
「はい?」
「ぼくです、姉様」
シャロンは室内を横切り、扉を開けた。
そこには真剣な顔をした義弟がいた。
「ちょっと今、いいですか?」
「いいわよ」
シャロンはエディを室内に通した。
義弟はきゅっと自身の手を握りしめる。
「ぼく、見守ろうと思ったんですけど、やっぱり気になってしまって。姉様は思い悩まれていますよね」
クライヴから聞いたことかと、シャロンは思考を巡らした。
(わたくし、義弟に心配させてしまうなんて駄目ね……)
十三歳のエディに、心労をかけられない。
「掛けて」
エディは長椅子に腰かける。シャロンはその隣に座った。
「まずエディ、わたくし何も悩んでなんてないからね」
「嘘です!」
エディは即、断ずる。
義弟は確信しているとばかりに眦を決した。
「ぼくは鈍くはありませんよ。姉様はライオネル様をお好きですけれど、結婚したがっていません」
義弟の言う通りだが、事情は説明できない。
シャロンが口ごもれば、エディは眉をひそめた。
「姉様はどうして結婚したくないのですか?」
すべては話せないけれど、エディは勘が鋭い。
ある程度、話しておこうとシャロンは思った。
「わたくし、王太子妃って柄ではないでしょう? 性格も変わっているし」
「そうですね」
(……否定してはくれないの……)
「……だから、わたくしが王室に入りたがっていないようにエディには思えるんじゃない? 結婚したがっていないように」
エディはふむ、と顎に手を置く。
「つまり姉様は、王室という堅苦しい場所に、やはり戸惑いがあるのですね。ぼく、姉様が結婚したくないのであれば、結婚しなくてもいいと思っています。姉様は結婚せず、ずっとこの家にいてください。ぼくが一生守ります」
「そ、それはありがとう」
国外追放になるので、家に留まることはないけれど。
「でも、わたくしの心配はいいわ、大丈夫よ」
エディはシャロンに疑いの目を向ける。
「本当でしょうか? ぼくは姉様が何かに不安を感じているのなら、それを取り除いてあげたいのです」
「あなたはいい子ね」
シャロンがエディのキャメルの髪をなでなですれば、エディはぷくっと頬を膨らませた。
「姉様!」
(あら、怒ってしまったわ?)
「なあに?」
「いったい、いつになったらぼくを子ども扱いしなくなるのですかっ!?」
「子ども扱いなんてしていないわよ」
ただ良い子だな、可愛いな、と思ったのだ。
「もう……っ!」
エディは頬を赤らめる。
「ぼくには相談してくれないのですか」
義弟に心痛を与えるわけにはいかない。
「悩みなんてないもの」
「絶対嘘ですから!」
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「そうねえ……では打ち明けてしまおうかしら……? あなた、鋭いんですもの」
「はい! 話してください!」
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「ライオネル様が好きだけど、確かに結婚することはないと思っているわ」
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義弟はやっぱり、という顔をした。
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「それはそうですね」
義弟はまた即認める。
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