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42.ルートの消滅
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「姉様、ぼく、留学することになりそうです……」
エディからそう聞かされたのは、アンソニーがガーファル王国に留学してすぐのことだった。
シャロンは目を見開いた。
「えっ?」
「父様に言われたのです」
シャロンは愕然とし、エディは奥歯を噛みしめた。
「ぼくと同い年のアンソニー様が先日留学されたでしょう? それを父様が知り、僕も留学をするようにと。将来領地を治めるぼくは、魔法学校の飛び入学より、視野を広く持つため一度ここを離れたほうがいいと父様はおっしゃって」
エディは眉を寄せる。
「父様と視察に行き、父様はぼくがもっと成長しなければならないと痛感されたようなのです。姉様のことを心配するぼくのことが逆に心配だと」
それはシャロンも思わないでもない。
確かにエディはシャロンに関して心配性すぎる。
ショックでしばし何も言えずにいると、エディは溜息をついた。
「父様のお言葉なので、逆らうことはできません。ぼくは今月中に留学することになります」
(今月中!?)
「そ、そんなに早くなの……!?」
「はい。魔法学校には通常の年に入学することになります。そのころには戻ると思いますが」
そんな!
ではゲームスタート時に、ふたりの攻略対象がいないことになってしまう……!?
(エディルートも消滅するの……?)
ならばハーレムルートはやはりナシだ。
四人中、ふたりもの攻略対象が表舞台から去ってしまって果たしてよいのか。
ゲームに支障が出ればとシャロンは深刻な不安を覚え、エディの手を掴む。
「エディ、留学をやめることはできないかしら?」
「父様の指示ですし、やめることはできません」
エディは眉間の皺を深める。
「アンソニー様が留学されてしまうから。それで父様も同い年のぼくに留学をと……。ぼくは姉様のそばで、姉様を守るつもりでしたのに……!」
エディはシャロンの手をぎゅっと握り返す。
「ライオネル様に他に良い人が現れれば、留学から戻れば、ぼく手助けしますからねっ!」
しかしそのころにはすでにゲームが始まって大分経っている。
(大変だわ……!)
シャロンはエディの留学を考え直してもらえないかと父の元に、直談判しにいった。
ゲームではエディも留学していない。
半分もの攻略対象がいなくなれば問題だ。
「お父様!」
父の部屋に押しかけ、シャロンは言い募った。
「どうかエディの留学を考え直してくださいませ」
父は首を傾げる。
「なぜだ?」
「そ、それはですね……」
ゲームのハッピーエンドに向け、支障が出るから。
しかしそんなこと言えない。
「……エディも留学したくなさそうですわ」
「おまえのことを心配しすぎて、そんなエディこそが心配なのだ」
父は大きく息を吐き出す。
「第二王子のアンソニー様も留学された。エディにもこの家の跡取りとして、成長してもらいたい。これは将来の領主であるエディのために決めたことだ」
そう言われれば、それ以上要求できない。
ゲームの攻略対象だから、できれば残ってほしいのだが……。
留学することで知見を得るし、父の言う通り、義弟のためになる。良い経験になるだろう。
シャロンは父の書斎からよろけつつ出た。
廊下で待っていたエディがシャロンに詰め寄った。
「どうでしたか、姉様」
「お父様の考えを変えることはできなかったわ……」
エディは肩を落とすが、気を取り直したようにシャロンを見つめた。
「ぼくは、ひと回りもふた回りも成長して戻ってきます。姉様を守れる男になって!」
「エディ、頑張って。わたくしのことはいいからね」
──そうして月末には義弟は屋敷を離れ、国外へ出た。
攻略対象のうち、ふたりも消えてしまった。
……しかし。
メインヒーローのライオネルと、二番人気のルイスがまだ残っている……っ!
大丈夫……!
ライオネルルートに入る公算が大なのだから。
ヒロインとライオネルがうまくいくよう、頑張ろうとシャロンはぐっと手を握りしめた。
エディからそう聞かされたのは、アンソニーがガーファル王国に留学してすぐのことだった。
シャロンは目を見開いた。
「えっ?」
「父様に言われたのです」
シャロンは愕然とし、エディは奥歯を噛みしめた。
「ぼくと同い年のアンソニー様が先日留学されたでしょう? それを父様が知り、僕も留学をするようにと。将来領地を治めるぼくは、魔法学校の飛び入学より、視野を広く持つため一度ここを離れたほうがいいと父様はおっしゃって」
エディは眉を寄せる。
「父様と視察に行き、父様はぼくがもっと成長しなければならないと痛感されたようなのです。姉様のことを心配するぼくのことが逆に心配だと」
それはシャロンも思わないでもない。
確かにエディはシャロンに関して心配性すぎる。
ショックでしばし何も言えずにいると、エディは溜息をついた。
「父様のお言葉なので、逆らうことはできません。ぼくは今月中に留学することになります」
(今月中!?)
「そ、そんなに早くなの……!?」
「はい。魔法学校には通常の年に入学することになります。そのころには戻ると思いますが」
そんな!
ではゲームスタート時に、ふたりの攻略対象がいないことになってしまう……!?
(エディルートも消滅するの……?)
ならばハーレムルートはやはりナシだ。
四人中、ふたりもの攻略対象が表舞台から去ってしまって果たしてよいのか。
ゲームに支障が出ればとシャロンは深刻な不安を覚え、エディの手を掴む。
「エディ、留学をやめることはできないかしら?」
「父様の指示ですし、やめることはできません」
エディは眉間の皺を深める。
「アンソニー様が留学されてしまうから。それで父様も同い年のぼくに留学をと……。ぼくは姉様のそばで、姉様を守るつもりでしたのに……!」
エディはシャロンの手をぎゅっと握り返す。
「ライオネル様に他に良い人が現れれば、留学から戻れば、ぼく手助けしますからねっ!」
しかしそのころにはすでにゲームが始まって大分経っている。
(大変だわ……!)
シャロンはエディの留学を考え直してもらえないかと父の元に、直談判しにいった。
ゲームではエディも留学していない。
半分もの攻略対象がいなくなれば問題だ。
「お父様!」
父の部屋に押しかけ、シャロンは言い募った。
「どうかエディの留学を考え直してくださいませ」
父は首を傾げる。
「なぜだ?」
「そ、それはですね……」
ゲームのハッピーエンドに向け、支障が出るから。
しかしそんなこと言えない。
「……エディも留学したくなさそうですわ」
「おまえのことを心配しすぎて、そんなエディこそが心配なのだ」
父は大きく息を吐き出す。
「第二王子のアンソニー様も留学された。エディにもこの家の跡取りとして、成長してもらいたい。これは将来の領主であるエディのために決めたことだ」
そう言われれば、それ以上要求できない。
ゲームの攻略対象だから、できれば残ってほしいのだが……。
留学することで知見を得るし、父の言う通り、義弟のためになる。良い経験になるだろう。
シャロンは父の書斎からよろけつつ出た。
廊下で待っていたエディがシャロンに詰め寄った。
「どうでしたか、姉様」
「お父様の考えを変えることはできなかったわ……」
エディは肩を落とすが、気を取り直したようにシャロンを見つめた。
「ぼくは、ひと回りもふた回りも成長して戻ってきます。姉様を守れる男になって!」
「エディ、頑張って。わたくしのことはいいからね」
──そうして月末には義弟は屋敷を離れ、国外へ出た。
攻略対象のうち、ふたりも消えてしまった。
……しかし。
メインヒーローのライオネルと、二番人気のルイスがまだ残っている……っ!
大丈夫……!
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