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49.夢中
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「何をしている?」
ライオネルはクライヴに問うた。
しばらく学校を離れていたライオネルは外交を終えて戻ったばかりだ。
シャロンに会うため、まっさきに寮に向かった。
けれど不在で、彼女の教室に来たのだが──。
机の上でうつ伏せになっていて、眠っている。
あとはクライヴの姿しかない。
ライオネルが教室に入れば、クライヴが言った。
「お嬢様はお眠りになっています」
「それは見ればわかる。誰もいない教室でいったい何をしていた?」
「勉強です。途中でお嬢様はお休みに」
彼は一切動揺をみせない。
が、何かおかしい。
前からライオネルはこの従者を前にすれば、どこか警戒心をもつ。
どこがどうとは説明できない。それは本能的なものだった。
「いくら主従だとしても。君とシャロンは男女だ。誰もいない教室にふたりきりでいるのはどうなんだ」
「従者という立場上、お嬢様とふたりだけになることもあります。……ライオネル様を不快にさせてしまったなら、大変申し訳なく思います」
「彼女は僕が寮まで送る。君は下がってくれ」
クライヴは礼をし、鞄を持って教室から出ていった。
ライオネルはクライヴを一瞥して、シャロンの背に手を置いた。
揺すっても彼女は起きない。
「シャロン」
彼女の肩を抱いた。
「……ん? クライヴ……?」
愛らしい唇から、別の男の名が出て、ライオネルはむっとした。
「僕だよ」
シャロンは目を擦る。
「え……ライオネル様ですの……?」
彼女はぼうっとライオネルを見つめた。
まだ半分眠っているようだ。
「学校を休まれていたのでは……」
「さっき戻ったんだ。それですぐに君に会いにきたんだよ、シャロン」
シャロンは瞬き、姿勢を正す。
「失礼しました。おかえりなさいませ、ライオネル様」
「ただいま。少し話をしようか?」
ライオネルはシャロンの隣の椅子に座った。
「ねえ。君はここで何をしていたの?」
「べ、勉強ですわ……」
彼女は目を泳がせる。本当に勉強か?
机の上にはノートも何も置かれていない。
ライオネルは彼女の頬にかかる髪をかきあげた。
寝起きだからか。いつもよりなんだか無防備だ。
「どうして君はそんなに可愛らしいんだろうね」
「え?」
久しぶりにシャロンに会って、胸が甘く疼いた。
だが怒ってもいるライオネルは彼女を机の上に押し倒した。
「ライオネル様……!」
身を傾け、彼女の瞼の上に唇をおとす。
赤くなって狼狽するシャロンが可愛くて仕方ない。
「好きだよ」
気持ちを告げれば、シャロンは瞳を揺らめかせた。
「僕のこと、好き?」
彼女は恥じらいながら頷いた。
今すぐ唇を奪いたかった。
泣きそうな顔をする彼女の唇を親指で撫でる。
泣かせてみたい、と子供のころから秘かに思っている。
ライオネルはそんな感情を抑える。
「今度王宮で開かれる舞踏会、出席するよね」
「……はい」
「君を迎えに行くよ。その日はずっと一緒に過ごそう」
「あの、ライオネル様」
「何?」
「この体勢でお話をするのは……」
「うん、そうだね、ごめん」
ライオネルは身を起こし、シャロンの手を取って起き上がらせ、教室内を眺める。
「クライヴと勉強していたらしいけど、彼は従者でも男だよ。ふたりだけでいるのは、なるべくやめてほしい」
彼女の頬に口付ける。
このままここにいればもっと違うことをしてしまいそうだった。
「寮まで送る」
※※※※※
(クライヴさんは、シャロン様とお付き合いされているんだ……)
ドナは衝撃を受けていた。
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容姿端麗でやさしく魅力的だ。けれど、公爵令嬢とは身分が違う。
釣り合わない。
シャロンの家に仕えているのである。
しかもシャロンは王太子の婚約者。
だからドナは、クライヴとシャロンが付き合っていることを信じられなかった。
(きっと付き合ってなんてない。何かの間違いよ)
そう思い、ここ数日間様子をうかがっていた。
しかし放課後の教室で親密に過ごしているふたりを何度も目撃する羽目に陥り、ようやく事実だと悟った。
自分は失恋してしまったのだ。
傷心で、ふさぎ込んだ。
そんなドナに、あらたな恋の出会いは驚くほどすぐに訪れた。
運命のひとは新しく赴任してきた教師だった。
歳の近い彼は、平民であるドナにもやさしくしてくれる。
彼は名門ガーディナー家の遠縁の人間で、血筋が良いのに、ドナを見くだしたりもしない。
授業でわからないところがあって質問しに行くと、懇切丁寧に教えてくれた。
街に出た際や、校内でも短期間に何度も遭遇して。
偶然が重なり、ドナは彼に恋をした。
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ドナは歓喜した。
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