乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです

葵川真衣

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50.突然の婚約

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 舞踏会の日。
 迎えに訪れたライオネルと、シャロンは馬車に乗った。
 豪奢な王宮の大広間に、たくさんのひとが集まっている。
 
 ヒロイン、ドナの姿もみえた。
 背の高い男性とダンスをしている。
 目鼻立ちが整っている青年。

(どこかで見たことがあるような)
 
 そう思いながら、シャロンはライオネルに手を引かれ、会場の中央に行った。

「踊ろう」
 
 ライオネルとのダンスは、いつも胸が高鳴る。
 まだこの段階では、断罪されることはない。
 
 だがゲームははじまっている。
 
 ドナのことを気にかけていれば、ダンス後、彼女のほうからこちらにやってきた。
 彼女は満面の笑顔だ。

「シャロン様」
「ドナさん」

 どうしたのだろう。彼女は威勢よく言った。

「あたし、婚約したんです!」
 
 シャロンは息を呑む。

(婚約!? ルイス様と? まさかライオネル様……!?)

 今ライオネルと自分はまだ婚約している。
 ここで断罪され、婚約破棄されるのだろうか!?
 ゲームより展開が早い。完全に不意打ちだった。

「ど、どなたと……!?」
 
 覚悟して訊くと、ドナは隣の青年を仰いだ。

「先生とです!」

 彼女の横にいる青年は照れたように、首の後ろをかいた。
 よくよく見れば、彼は魔法学校にあたらしく赴任してきた、外国語の教師である。

「学校の内外で会うことが多くて、惹かれていって。教師と生徒という関係性ですけど、結婚すれば問題ないし。先週婚約したんですっ!」

 弾む声で彼女はそう報告した。
 シャロンは度肝を抜かれた。

(攻略対象以外と婚約!?)
 
 動転して、頭が真っ白になったが、お祝いの言葉を口にする。

「お、おめでとうございます、ドナさん」
「ありがとうございます!」

 ドナはにこにこしている。シャロンの隣でライオネルが尋ねる。

「シャロンのクラスメート?」

 シャロンは頷く。

「そうですわ……」

 ライオネルはドナに視線を向ける。

「君、校内で迷ったことがないかな。会ったことがある気がする」
「?」

 ドナははて、と軽く首を傾げる。
 彼女は当時、クライヴに夢中になっていた……。
 それでライオネルとの出会いは印象薄くなってしまっているのだろう。

(ゲームではどきどきするイベントだったのに……!)

 シャロンにはまったく理解できない。
 なぜライオネルとの出会いを、忘れることができるのだ。
 婚約者の教師が慌てる。

「ドナ、王太子殿下だ」
「へっ?」

 ドナは目をぱちくりする。

「シャロン様の婚約者の、王太子殿下?」

 彼女はシャロンに顔を近づけ、小声で耳打ちした。

「シャロン様、あたし、クライヴさんとのこと誰にも言いません……っ! 婚約者のかたとうまく別れられて、クライヴさんと幸せになれるといいですね……!」
 
 彼女はいったい何を言っているのだろうか……。
 ひとつのことに思い当たり、冷や汗が滲んだ。

(ああ。彼女はわたくしとクライヴが付き合っていると思っているのだわ)

 きっと禁断の恋に落ちていると想像されている。
 そう思わせるようにしたのはこちらだが。
 彼女は新たなひとをすでに見つけ、婚約までしたのだから、もう事実を話しても構わないだろう。

「ドナさん、少しお話がありますの。今、よろしいかしら?」
「? はい」
「ライオネル様、申し訳ありませんが、少々失礼いたしますわ」

 ライオネルと教師に会釈し、シャロンはきょとんとするドナを連れ、大広間から出た。
 誰もいない廊下の円柱まで歩き、ドナに告げた。

「わたくしとクライヴは付き合っていないわ」
「え、でもクライヴさんとシャロン様は、放課後一緒に……」
「主従なので一緒にいたんです」
「それだけじゃありませんよね! あたし、シャロン様に好きだってクライヴさんが告白しているのを聞きましたよ! それにキ、キスも……」

 頬を染めるドナに、シャロンは真実を話した。

「ごめんなさい。あれはフリなのよ。クライヴがあなたの気持ちに応えられないということで、諦めてもらうために芝居を打ったの」
「芝居……」
「ええ。本当にごめんなさい」

 ドナは眉を上げる。

「でもクライヴさんはシャロン様を好きですよ。あたし、恋をしていたからわかります。今は運命のひとに出会って、一番好きなのは婚約者の彼ですけど!」

 彼女が幸せになってくれれば、世界もシャロンも救われる。
 ハッピーエンドを迎えてもらいたい。

「ドナさん、どうか幸せになってくださいね」

 心からの言葉をかければ、ドナはまじまじとシャロンを見、返事をした。

「はい! シャロン様、やさしいひとです。最初は怖いひとかなって思いましたけど、クライヴさんもそういうところに恋をしたんですね!」
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