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57.ずっと
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ヒロインが話していたとおり、彼女は翌月結婚し、国から去っていった。
最後見た彼女は輝く笑顔で幸せそうだった。
これはゲームのハッピーエンドと、いえるのか……。
ヒロインの恋が成就したのは確かだ。
だが魔王を倒さなければ、世界は救われないのでは?
魔王はほとんどのルートで登場している。
ゲームにおいて登場時期はまだ先だが、そのときヒロインが国外ならどうなるのだろう。
◇◇◇◇◇
シャロンは母の実家オーデン家に久しぶりに行き、武術の稽古をした。
(どうなるかみえないし、備えは怠れないわ)
どしゃぶりの雨が降り、その日は泊まることになって、入浴後、書庫へ向かった。
魔王はゲーム終盤で突如現れる。
姿形は靄がかっており、ゲームをしたシャロンにも瞳が金色に光っていたくらいしかわからない。
人間を嫌悪していた魔王は、世界を壊そうとする。
今どこにいるのかは不明だ。
魔王について記されていそうな本はすでに読んだのだが、見落としていることもあるかもしれなかった。
(もう一度調べてみましょう)
オーデン家の蔵書は多い。
書庫の本棚の間を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「お嬢様」
振り返ればクライヴがいた。
彼はゆっくりこちらに歩み寄ってくる。
「雷が苦手でしょう。鳴りそうですよ」
「えっ! 雷?」
「はい」
ちらりと窓を見れば、外は真っ暗で暴風雨となっている。
「大変。本を探したら、すぐに部屋に戻ることにするわ」
「何の本をお探しなのですか?」
「魔王についての本。ここにある本は読んだんだけど、もう一度調べようと思って」
「そうですか」
クライヴはふいに言った。
「──お嬢様、俺、魔王を知っています」
(え?)
「知っている、って?」
「魔王は俺です」
シャロンは唖然とクライヴを正視した。
「クライヴ?」
「お嬢様、思い出してください」
彼は真面目な顔で淡々と告げる。
「俺が初め、父の形見だと言ったブレスレットの石。あれはゲームでも登場していませんでしたか? 魔王のものとして」
シャロンは記憶を辿ってみる。
(確かにあれと似たものが、魔王の心臓部で登場していたかもしれない)
「でもあれって……」
「元は指輪の石なんです。それをブレスレットにつけました」
事実ゲームでは指輪だった。
「俺の父の魔王が母に送ったものなのです。母の死後、指輪は父の元にまた戻りました。
父が亡くなった後は俺が魔王となり、指輪を引き継ぎました。あれは魔王の証であり、俺の心臓も同然です。俺が魔王の核の後継者です」
シャロンは可笑しくて笑ってしまう。
「あなたが魔王だなんて。魔王は魔族で人間じゃないのよ」
「俺は人間ではないんですよ、お嬢様」
クライヴはシャロンに視線を返す。
とんでもなく整った容貌で、魔性がかってはいるものの。
あり得ない。
「魔王が、どうしてわたくしの従者をしているの?」
「どうしてだと思いますか?」
彼はシャロンをからかっているのだ。
清廉な彼が魔王なら、世界中の人間が魔族ではないか。
雷を怖がっているシャロンを和まそうとしてくれているのだ。
「クライヴはわたくしを助けてくれたわ。前世のことを言っても変人扱いしなかったし、相談に乗ってくれた。クライヴはいいひとだもの。あなたがもし魔王なら、わたくし、魔王を従者につけて最強じゃない?」
「ええ、お嬢様は最強ですよ」
クライヴは笑みを唇に浮かべる。
なぜか彼がすっと消えてしまいそうな気がし、ふいにいいようのない不安が胸をよぎる。
「……ずっと公爵家にいてくれるわよね?」
「はい。ずっと勤めたいと思っております」
「わたくし、あなたを誰より頼りにしているわ」
正直な思いをシャロンが口にすると、彼は小声で呟いた。
「お嬢様は人が悪い……。本当に悪い令嬢です」
「え?」
「いえ」
クライヴはかぶりを振る。
そのとき、窓の外で稲妻が走り、雷鳴がとどろいた。
「きゃっ!」
シャロンは悲鳴を上げ、目の前にいるクライヴにしがみついた。
彼はシャロンに手を回した。
強く抱きしめられ、唇にクライヴのそれが掠める。
(え──)
ゆっくりと彼は腕を解いた。
彼の瞳が雷光を受け、金色に光る。
今──。
いや、状況が状況で混乱しているし……気のせいだろう。
「ごめんなさい……雷にびっくりして」
「早くお部屋にお戻りになったほうがよろしいです」
シャロンは黙って頷く。
本を読むどころではない。
「戻るわ」
シャロンは、そのままクライヴに部屋まで送ってもらった。
彼はやさしく微笑む。
「おやすみなさい、お嬢様」
「おやすみなさい、クライヴ」
室内に入り、雷の音が聞こえないよう羽根布団の中に潜り、きゅっと瞼を閉じる。
いずれゲームのように、魔王は現れるのだろうか?
世界が滅亡しないようにしないと、と思いながらシャロンは浅い眠りに入った。
◇◇◇◇◇
あくる日、デインズ公爵家に戻り、気になって夜、自室のチェストの引き出しを開けた。
(わたくし、クライヴに話したことがあったかしら……)
魔王の心臓部が指輪だった、と──。
腕飾りを取り出す。
吸い込まれそうな赤い石。
魔王の心臓部と似ているが。
そのときのシャロンは夢にも思わなかった。
──クライヴが魔王だなんて。
神秘的に深く輝くブレスレットを、そっと引き出しにしまった。
窓から差し込む月の光が黄金に煌めいていた。
完
最後見た彼女は輝く笑顔で幸せそうだった。
これはゲームのハッピーエンドと、いえるのか……。
ヒロインの恋が成就したのは確かだ。
だが魔王を倒さなければ、世界は救われないのでは?
魔王はほとんどのルートで登場している。
ゲームにおいて登場時期はまだ先だが、そのときヒロインが国外ならどうなるのだろう。
◇◇◇◇◇
シャロンは母の実家オーデン家に久しぶりに行き、武術の稽古をした。
(どうなるかみえないし、備えは怠れないわ)
どしゃぶりの雨が降り、その日は泊まることになって、入浴後、書庫へ向かった。
魔王はゲーム終盤で突如現れる。
姿形は靄がかっており、ゲームをしたシャロンにも瞳が金色に光っていたくらいしかわからない。
人間を嫌悪していた魔王は、世界を壊そうとする。
今どこにいるのかは不明だ。
魔王について記されていそうな本はすでに読んだのだが、見落としていることもあるかもしれなかった。
(もう一度調べてみましょう)
オーデン家の蔵書は多い。
書庫の本棚の間を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「お嬢様」
振り返ればクライヴがいた。
彼はゆっくりこちらに歩み寄ってくる。
「雷が苦手でしょう。鳴りそうですよ」
「えっ! 雷?」
「はい」
ちらりと窓を見れば、外は真っ暗で暴風雨となっている。
「大変。本を探したら、すぐに部屋に戻ることにするわ」
「何の本をお探しなのですか?」
「魔王についての本。ここにある本は読んだんだけど、もう一度調べようと思って」
「そうですか」
クライヴはふいに言った。
「──お嬢様、俺、魔王を知っています」
(え?)
「知っている、って?」
「魔王は俺です」
シャロンは唖然とクライヴを正視した。
「クライヴ?」
「お嬢様、思い出してください」
彼は真面目な顔で淡々と告げる。
「俺が初め、父の形見だと言ったブレスレットの石。あれはゲームでも登場していませんでしたか? 魔王のものとして」
シャロンは記憶を辿ってみる。
(確かにあれと似たものが、魔王の心臓部で登場していたかもしれない)
「でもあれって……」
「元は指輪の石なんです。それをブレスレットにつけました」
事実ゲームでは指輪だった。
「俺の父の魔王が母に送ったものなのです。母の死後、指輪は父の元にまた戻りました。
父が亡くなった後は俺が魔王となり、指輪を引き継ぎました。あれは魔王の証であり、俺の心臓も同然です。俺が魔王の核の後継者です」
シャロンは可笑しくて笑ってしまう。
「あなたが魔王だなんて。魔王は魔族で人間じゃないのよ」
「俺は人間ではないんですよ、お嬢様」
クライヴはシャロンに視線を返す。
とんでもなく整った容貌で、魔性がかってはいるものの。
あり得ない。
「魔王が、どうしてわたくしの従者をしているの?」
「どうしてだと思いますか?」
彼はシャロンをからかっているのだ。
清廉な彼が魔王なら、世界中の人間が魔族ではないか。
雷を怖がっているシャロンを和まそうとしてくれているのだ。
「クライヴはわたくしを助けてくれたわ。前世のことを言っても変人扱いしなかったし、相談に乗ってくれた。クライヴはいいひとだもの。あなたがもし魔王なら、わたくし、魔王を従者につけて最強じゃない?」
「ええ、お嬢様は最強ですよ」
クライヴは笑みを唇に浮かべる。
なぜか彼がすっと消えてしまいそうな気がし、ふいにいいようのない不安が胸をよぎる。
「……ずっと公爵家にいてくれるわよね?」
「はい。ずっと勤めたいと思っております」
「わたくし、あなたを誰より頼りにしているわ」
正直な思いをシャロンが口にすると、彼は小声で呟いた。
「お嬢様は人が悪い……。本当に悪い令嬢です」
「え?」
「いえ」
クライヴはかぶりを振る。
そのとき、窓の外で稲妻が走り、雷鳴がとどろいた。
「きゃっ!」
シャロンは悲鳴を上げ、目の前にいるクライヴにしがみついた。
彼はシャロンに手を回した。
強く抱きしめられ、唇にクライヴのそれが掠める。
(え──)
ゆっくりと彼は腕を解いた。
彼の瞳が雷光を受け、金色に光る。
今──。
いや、状況が状況で混乱しているし……気のせいだろう。
「ごめんなさい……雷にびっくりして」
「早くお部屋にお戻りになったほうがよろしいです」
シャロンは黙って頷く。
本を読むどころではない。
「戻るわ」
シャロンは、そのままクライヴに部屋まで送ってもらった。
彼はやさしく微笑む。
「おやすみなさい、お嬢様」
「おやすみなさい、クライヴ」
室内に入り、雷の音が聞こえないよう羽根布団の中に潜り、きゅっと瞼を閉じる。
いずれゲームのように、魔王は現れるのだろうか?
世界が滅亡しないようにしないと、と思いながらシャロンは浅い眠りに入った。
◇◇◇◇◇
あくる日、デインズ公爵家に戻り、気になって夜、自室のチェストの引き出しを開けた。
(わたくし、クライヴに話したことがあったかしら……)
魔王の心臓部が指輪だった、と──。
腕飾りを取り出す。
吸い込まれそうな赤い石。
魔王の心臓部と似ているが。
そのときのシャロンは夢にも思わなかった。
──クライヴが魔王だなんて。
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窓から差し込む月の光が黄金に煌めいていた。
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