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2021
「帝国」について
しおりを挟むご無沙汰しております。
今回も現在SFカテゴリーに投稿中の「遠すぎた橋」について、皆さん周知の駄ウンチクと戯言と屁理屈をダラダラ書き連ねていきたいと思います。
この作品はすでに書きましたように作家コーネリアス・ライアンのドキュメンタリーを原作にした映画『遠すぎた橋』を下敷きにして書いております。厳然たる史実、戦史がもとになっております。
だた、舞台は今から千年後の未来。天変地異か、不幸な戦争か、はたまた疫病かによって人類が滅亡寸前まで追い込まれ、そこから復活して新たな世界を構築している世界です。
主人公ヤヨイの国「帝国」も、そうした未来の架空の世界の国として描いております。
さて、こうした架空史やSF作品でしばしば登場する「帝国」ですが、有名なのはあの「スターウォーズ」でデススターを建造した「帝国」でありましょうし、あの田中芳樹さんのベストセラー「銀河英雄伝説」に登場する「銀河帝国」だったりでしょう。
「銀英伝」は筆者もハマリました。
何と言ってもあの白い艦の金髪の貴公子、ラインハルト・フォン・ローエングラムはサイコーでした。
「では、それは違うと卿はいうのか」
「作戦名は、『ラグナロック』だ」
カーッ、いいですねえ・・・。
ま、そういうのはさておきまして。
「帝国」とは、毎度ウィキペディアによれば次のように定義されております。
「一、皇帝が支配・統治・君臨する国家のこと。
二、複数の地域や民族に対して君臨し、大規模で歴史にも残る国家のこと。ラテン語のインペリウムに由来し、政体や国号は問わない。
単なる「王国」ではなく「複数の地域や民族に対して君臨し」というところが、「帝国」たる所以なのだと思います。
いわゆるコミュニズムを信奉する方々は「帝国」とか「帝国主義」という言葉に否定的な色を付けて語られるのを好まれるように思います。
ですが、筆者はこれに疑問を持つ一人として、敢えて「帝国」を理想国家的なものとして作品中で書いております。
ちなみに「帝国主義」をウィキで見ると、
「帝国主義(ていこくしゅぎ、英: imperialism)またはインペリアリズムとは、一つの国家または民族が自国の利益・領土・勢力の拡大を目指して、政治的・経済的・軍事的に他国や他民族を侵略・支配・抑圧し、強大な国家をつくろうとする運動・思想・政策である。語源はラテン語の「インペリウム」(imperium)。
「帝」という字は「最高の神」、天下の「きみ」を意味し、インペリアリズム(imperialism)は「帝国主義」、「帝政」、「皇帝制」、「広域支配主義」などと和訳される。
と、あります。
これだけ見ると、何やら力によって他国を「強引に」支配し、搾取する悪玉みたいな印象を受けます。
ですが、果たして歴史的に「帝国」は「他国を強引に支配し、搾取する悪玉」だけだったのでしょうか、と思うのであります。
古代の「帝国」はざらっと書けば、アッカド帝国、バビロニア帝国、アッシリア帝国、アケメネス朝ペルシア帝国、それに中国の秦、漢、晋、隋王朝・・・、という感じですかね。そして有名なアレクサンドロスが一代で築いた「アレクサンドロスの帝国」があり、古代ローマ帝国に続きます。
筆者はこの「ヤヨイシリーズ」を書くにあたり、この「古代ローマ帝国」をモデルにしました。それは「ローマ」の帝政がそれ以前の「帝国」で施政された帝政とは大きく異なるからです。
ヤヨイの時代の人々から見れば古代に当たってしまうこの21世紀の現代ですが、ヤヨイの「帝国人」から見ますと、必ずしも理想的とは見えなかった、という設定にしてあるのであります。
一例を上げれば、今のボスニアヘルツェゴビナというバルカン半島一帯にはかつて「オーストリア・ハンガリー帝国」というものがあり、ここから東欧を広く領有していました。この辺りのことを割と親しみやすく知るには筆者は「エリザベート ハプスブルク家最後の皇女」塚本 哲也著 をお勧めします。
要は、異なる人種や宗教を持った地域を幅広く穏やかに治めていたのが、「オーストリア・ハンガリー帝国」だったわけですが、第一次大戦で「帝国」が崩壊するとそれまで抑えていたタガが外れ、一気に民族主義が台頭し、ユーゴスラビア崩壊後の二十世紀末には悪名高い「民族浄化」ジェノサイドまで引き起こす悲劇を生んでしまいました。
民族主義とか神秘主義、原理主義と言うのは自分たち以外の他の民族や自分たちの信ずる神以外の神を認めないという行き方です。当然に排外主義を生み、異なる民族異なる宗教を持つ国同士が争うタネを生んでしまいます。アフガニスタンがタリバンに再び支配されたことは耳新しい出来事ですが、それでかの地の人々は幸せになるんでしょうかね。
さて、古代ローマの「帝政」ですが、これは他の歴史上の帝国とは違うと書きました。
ではどこが違ったのかと言えば、古代ローマの「帝政」の母体となったのは元老院という少数指導体制だったからだと思うのです。
もちろん、事実上の「初代皇帝」となったユリウス・カエサル、ジュリアス・シーザーが「反元老院派」であったことは知っています。ですが、二代目以降のアウグストゥス帝も三代目のティベリウス帝も裏では独裁を施しながらも表向きは「元老院の第一人者」であることを堅持してまつりごとをおこなったのであります。
古代ローマの「帝政」は「血」による世襲ではありませんでした。アウグストゥスは平民のうまれでしたが貴族であるカエサルの養子になりました。ティベリウスはれっきとしたクラウディウス一門という超メジャーな貴族の生まれであり元老院階級の本流の出でした。アウグストゥスの死の十年前に彼の養子となりましたが、ティベリウスの即位は今でいえば世襲ではなく事実上の「後継者指名」によるものだったと思うのです。
以降、歴代のローマ皇帝は時に軍人出身のヴェスパシアヌス帝なども出ましたが、基本的には元老院階級という「人材プール」の中から多く輩出されてきたことは事実なのであります。
そしてそれは古代ギリシャが民主制の末にポピュリズムの悪夢に喘いだのを見たからだと思うのです。
ポピュリズム(英: populism)とは、ウィキによれば、
「一般大衆の利益や権利を守り、大衆の支持のもとに、既存のエリート主義である体制側や知識人などに批判的な政治思想、または政治姿勢のことである。日本語では大衆主義(たいしゅうしゅぎ)や人民主義(じんみんしゅぎ)、平民主義などのほか、否定的な意味を込めて衆愚政治や大衆迎合主義(たいしゅうげいごうしゅぎ)などとも訳されている。
また、同様の思想を持つとされる人物や集団をポピュリスト(英: populist)と呼び、民衆派や大衆主義者、人民主義者、もしくは大衆迎合主義者などと訳されることがある」
とあります。
二十一世紀の今、世界にはこの「ポピュリズム」が溢れています。アメリカの前の大統領然り、ロシアの今のそれも然り、先のオリンピックで選手の亡命者を出したベラルーシ然りなのです。皆大衆にあまごとをいって権力者の座につき、着いたとたんにやりたい放題。民主主義などはどこへやら。報道を規制し司法を歪め独裁まっしぐらになるところはあのヒトラーのナチズムそのものだと思うのです。
古代ローマの人々は、特に指導的立場にいた人々は、民主制の持つ危うさを知っていたからだと思うのです。広大で多くの異なる民族の上に君臨して統治するには、民主制は不向きだと知っていたからだと思うのです。
ヤヨイの生きる「帝国」の指導者層もまた、人類が滅亡しかかったころの「民主主義」の果てにそれがあったことを発掘した文献によって知りえたからこそ、異なる人種、異なる宗教の上に「一千年も」続いたローマの歴史に学び、その政治形態を模倣、標榜したのだと思うのです。
それだけに、ヤヨイに鉄十字章を授けたヤン議員の養父である現皇帝は元老院階級の堕落が許せませんでした。そのエピソードもいずれ書かれると思います。
よろしくお付き合いのほどを。
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気になる点がありますけどいいですか?
登場人物の紹介欄でヤヨイは空手の先生と初体験を済ましたと書いてありますけど、前作の『優しい狩人』でヤヨイはリセの寄宿舎で出会った子と初体験を済ましたと回想していますがこれはどっちが初体験でどう違うのか教えて下さい。
いつもご支援ありがとうございます。
そこは大事なところですね。
ただ、男と女では受けとり方が違うかもしれないかもしれないと思ったりします。
殿方は初めて閨を共にした女性を忘れられないと伺いました。
でも、女は違うのです。
女にとっては、最初に官能を与えてくれた男が忘れられないのです。
男は「挿入」で逐次積み重ねるのかもしれませんが、女は「上書き保存」なのかもしれません。
ヤヨイにとっては、初めて男の官能を教えてくれた相手が初めての男なのかもしれません。
そこは、「睦ごと」の話としてそっとしておいていただきたく、作者として思う今日このごろだったりします。
一つよろしいですか?
登場人物の紹介も良いですけど、この作品内に出てくる施設や戦地について載せていただければ途中から見初めた人でも分かりやすくなると私は思います。
いつもありがとうございます。
ご指摘をいただき、拙い画ですが「遠すぎた橋」戦域図をUPしました(作成にまる半日かかりました。不器用なものですから)。要領はわかりましたので今後適宜図にて補足していきたいと思います。
さて、施設についての件ですが、本作では帝国や軍関係の詳しい施設や軍の装備等については記述しないことになっております。なぜならば、ボロが出るからです(笑)。
そこは読者様に自由に想像していただければと、勝手に思っております。悪しからずご了承くださいませ。
感想書いといていうのもあれですが、戦闘描写はとても素晴らしいです。でもそういった緊迫した中に置かれている兵士達が戦いが始まる前、もしくは終わった後の合間に皆と一緒にシャワーを浴びたり全てを包み隠さずさらけ出すシチュエーションも合ったほうが戦場で戦うヤヨイや兵士達の人間性が出ていて作品はより面白みを増すんじゃないかと私は思います。
いつもありがとうございます。
アイディアのご提案ありがたく、
今後に生かしたいと思います。
今後もご支援よろしくお願いいたします。