96 / 277
6巻
6-3
しおりを挟む「ヨシュアさん、これから作る料理は、『唐揚げ』と『コロッケ』の二種類です。どれも、王都ではレシピを登録していません」
「シャーロットの開発した料理は、もう露店とかで食べているんだ。君の作る料理は斬新で、人の心を掴むものばかりだ。俺は、自分の料理の腕前が、平凡であることを痛感した。自分の言葉で改めて言うよ。頼む、俺に君の技術を学ばせてくれ‼」
十四歳という思春期真っ盛りの年齢、男としてのプライドだってあるだろう。そんな彼が私に対し、深々と頭を下げる。この人は、料理人としての誇りさえかなぐり捨ててでも、より高みを目指そうとしている。それに応えるために、私の知る揚げ物の調理方法を全て伝授してあげよう。
「もちろん構いませんよ。さあ、始めましょう」
唐揚げに必要な鶏肉は、トサカドリで代用する。実物を見たことがないけど、味が鶏に近かったから美味しくなると思う。私が調理方法を丁寧に教えていくと、やはりヨシュアさんも『油で揚げる』という行為に驚いていた。
「油で……食材を……揚げる……その発想はなかった」
「この調理方法、かなり奥が深いです。油の温度が重要なポイントです」
日本の一般家庭と同様、ここにも温度計などがない以上、木製の箸で生じる泡の量を目安に、最適条件を教えていく。
「シャーロット、ここからは私が教えてもいいかな? コロッケで一度コツを掴んでいるから、ヨシュアさんと二人で調理したいの」
う~ん、実際に自分たちで調理しながらの方が、覚えやすいかな。リリヤさんも、貧民街で練習したもんね。唐揚げも材料こそ違うけど、後半の工程は似ているから問題ないと思う。
「わかりました。後方で見ていますから、二人で協力して調理してください」
「やった‼ ヨシュアさん、頑張って揚げて、みんなを驚かせましょう‼」
「ああ‼」
火事の危険性もあるから、常時見張っておこう。
――あれから、後方でずっと様子を窺っているのだけど、ちょっと予想外のことが起きている。調理の工程に問題はないのだけど、二人の雰囲気がまずくないかな?
「ヨシュアさん、ジャガガの潰し方が甘いよ? ここは、もっと丁寧にしっかりと潰さないと……ほら、こんな感じ」
「あ……手……」
リリヤさんがそっとヨシュアさんの手を握り、ジャガガを潰していく。手を握られている彼は真っ赤となり、ジャガガではなくリリヤさんをじっと見ている。なんか、趣旨が違ってきてない? 傍から見れば、カップルがイチャついているみたいなんだけど? とてもじゃないけど、アッシュさんには見せられない光景だよ。そういえば、彼は何か良案を見つけ出せたのだろうか?
○○○
シャーロットは上手く進められているのかな? 僕――アッシュは料理の腕前も、リリヤほど上達していない。だから、違う面で役に立たないとな。
ユーリアが先導してゆりかごを案内してくれたけど、部屋の掃除も行き届いているし、荷物や装備類用のハンガーラックの設置も、宿泊者の立場になって考えるとありがたい。性格によっては、適当に荷物を置いた後、どこにあるのか忘れる人だっている。これがあれば、そういうこともぐっと減る。部屋の内装に関しても、問題ないと思う。
「ユーリア、僕の見た限り、今のところ不満はないよ。ただ、気になる点といえば、食事かな」
彼女は意味がわからないのか、首を傾げる。
「宿泊者が食堂に来て席に座ったとき、君は何を用意しているの?」
「何って……普通にお水を出すだけだよ?」
やはり、ここもそれだけか。
「アッシュさん、どういうこと? どこのお店でも、水しか出さないよ?」
普通は、そうなんだよ。
「ユーリア、君が外出して夕飯前に帰ってきたとき、クレアさんがいつも言っている言葉がきっとあるよね?」
「え……と、お客さんがいなかったら、私たちだけでご飯を食べるから、そのときは『うがいをして、手を洗いなさい』って言ってるかな?」
どこの家庭も、普通はそういうものだ。
「ねえ、アッシュ、何が言いたいの?」
一緒に見て回っているアイリーンさんも気づいていないのか。
「簡単なことですよ。お客の大半は『冒険者』。当然服も身体も汚れています。時間帯によっては、そのままの状態で食堂に向かってくる。そんな汚い状態で食事をすると、自分自身の汚さでお腹を壊すこともあるし、石や砂が気づかぬうちに料理に入り、クレームを入れてくる場合もある」
「あった‼ アッシュさん、ありました‼」
やはり、実際に起きている。となると、僕の考えた『アレ』を使用すれば、そういった事件をかなり軽減できるはず。
「そうか!! そういうことが起きないよう、私たちが配慮すればいいわけね‼」
「まずは、食堂に移動しよう。それでユーリア、少し大きめの容器二つと、うち一つにお湯を入れて持ってきてくれないかな?」
「え? はい、わかりました」
僕たちは食堂にある椅子に座り、ユーリアがお湯の入った容器をテーブルに置く。僕はマジックバッグから、例のものを取り出す。なんの変哲もない、吸水性の高い小さめのタオルだ。これを容器に入ったお湯に浸け、その後すぐに絞る。
「ユーリア、これで顔や手を拭いてみて」
僕がユーリアに温かな布を渡すと、彼女は言われた通り、自分の手や顔を拭いていく。
「はあ~温か~い、スッキリする~~~あ‼」
「なるほど、そういうことね‼」
そう、食前にこういった温かなタオルをお水と一緒に出しておけば、宿泊者もすぐにその意図に気づく。これだけで、先程の事件を未然に防ぐことができる。
「アッシュさん、凄い、凄いよ‼ 私、全然思いつかなかった‼」
「完全に盲点ね。私も、言われるまで気づかなかったわ」
よし、第一段階は上出来だ。さあ、第二段階に移行するぞ‼ 今のアイデアは、はっきり言ってすぐに広まり、目新しさもなくなる。だから、ゆりかごでしか堪能できないものを作る。マジックバッグから、アレを取り出そう。
「アッシュさん、それは何ですか?」
「魔導具? 初めて見る形ね」
さすがに、これはまだ広まっていないか。
「これは……魔導具『温泉銃』」
「温泉銃?」
「温泉銃ですって⁉」
アイリーンさん、名前だけは知っているんだな。
「それは、クロイス様が発表したばかりの新作魔導具よ‼ 完全調整されたものの、まだ数が少ないから、国の全ての街に簡易温泉施設を建築して、当面はその施設だけに設置される予定と聞いているわ。なぜ、あなたがそれを持っているの‼」
クロイス様、仕事が早い。あの計画を、もう実行に移しているのか。シャーロットから、責任者のビルクさんも温泉というか、温泉兵器を気に入っていたと聞いている。彼も、温泉をみんなに早く堪能してもらいたいと思っているのかな?
「僕たちは、反乱軍に途中加入しました。その後、シャーロットの活躍もあって、温泉兵器を特別に貰えたんです。まずは、この温泉銃の効果をお見せしましょう」
空の桶に温泉を注ぎ入れる。そして、新たな小さめのタオルを温泉に浸けて軽く絞った後、ユーリアに渡す。
「ふわああ~~、なにこれ~~~、気持ちいい~~~。ただのお湯と、全然違う~~」
うん、君のそのホワアアンとした顔を見ただけで、気持ちよさが僕にも伝わってくるよ。
「アイリーンさんもどうぞ。シャーロット曰く、美肌効果もあるそうです」
「なんですって⁉」
やっぱり、女性は肌に敏感なんだな。美肌と言っただけで、顔色を変えて飛びついてきた。
「これは……確かに気持ちいいわ。ただのお湯と、全然違う。あ~温泉に入りたい」
アイリーンさんからの評価も高い。ユーリアのときと同様に、その気持ちよさが伝わってくる。つい僕も見惚れてしまうほどだ。ユーリアは、ずっと両手で温泉の染み込んだタオルを握っている。そろそろ、効果が現れてきたかな?
「ユーリア、手荒れが酷かったけど、今はどうかな?」
「え……うええええ~~~~手が綺麗になってるよ~~~~」
よし、思惑通りだ‼
「この温泉兵器は、諸事情があって複数所持しているんだ。だから、この一つを君にあげるよ。可愛い女の子の手を、これ以上荒れさせたくないからね」
「え……えええええええええーーーーーーーーー」
この温泉兵器は、いずれ一般人も入手できる。だから、そこまで驚くことないだろうに。なぜか、顔を真っ赤にさせて、両手を頬につけている。
「アッシュ」
「アイリーンさん? どうしたんですか?」
なぜか、奇妙な表情で僕を見ている。
「いえ、なんでもないわ。とにかく、あなたの案を即採用させてもらうわ。ユーリアも賛成でしょ?」
「は……はい‼ 大賛成です‼ アッシュさん、ありがとうございます‼」
よし、僕も役に立てたぞ‼
あとは、シャーロットたちの作る料理だけだ‼
6話 ナルカトナ遺跡に行ってきます
昨日は、『奪い合いの戦争』となってしまった。ケアザさんとハルザスさんは大食いな上、合計九人いることもあって、購入したトサカドリの肉を全部使って唐揚げを作ったのだけど、あそこまで波乱の夕食になるとはね。
当初、私、リリヤさん、ヨシュアさんの三人だけで試食を行っていた。
やはり、はじめの数品に関しては、調味料の配分や揚げ時間などにより味もイマイチだったけど、その失敗から試行錯誤を重ねることで調理の最適条件を導き出すことに成功した。その後、全員で完成品を試食してもらったのだけど……あっという間になくなった。そこから、私以外の全員が目の色を変えたんだ。
私、リリヤさん、ヨシュアさんは唐揚げとコロッケと野菜サラダを大量に調理していき、その間にケアザさんとハルザスさんがテーブルを動かして一つにまとめてから、椅子をセッティングした。そして、ユーリアさんとクレアさんが黙々と料理を配膳していく。
アイリーンさんとアッシュさんは、彼考案の『温泉おしぼり』を人数の二倍作成していく。まさか、アッシュさんがおしぼりを思いつくなんてね。私も、その存在を忘れていたよ。
お風呂が設置されていない分、温泉で身体を拭いたり、食前食後におしぼりを提供することで、衛生面を整えるんだね。温泉兵器に関しては、まだ供給が整っていないから、当面カッシーナではゆりかご独自のものとなるだろう。
全ての用意が整い、アイリーンさんが「夕食をいただきましょう」と言ったところで、周囲の空気が一変する。よほど食べたかったのか、私を除く全員が唐揚げに集中した。試食が相当気に入ったようで、みんな貪るように食べる、食べる、食べる‼ 女性陣も、黙々と食べていく。量が少なくなってからは奪い合いの戦争になったのだ。私は唐揚げ三個をいただいた後、コロッケを食べ、腹を満たした。
夕食後、ゆりかごの面々やアイリーンさん、ケアザさん、ハルザスさんが、私、アッシュさん、リリヤさんに対し、お礼を言ってくれたのは言うまでもない。しかも、ゆりかごに滞在している間の宿泊料金は、アイリーンさんだけでなく、ケアザさんやハルザスさんも負担してくれることになった。国外の遺跡に関連する情報もタダで教えてもらう。ナルカトナ遺跡についての追加情報も、三人から色々ともたらされた。
・個人が同じ階層でエンチャントゴーレムを十体倒すと、残機数が一増える。
・宝箱からアイテムを取り出す度に、フロア内のどこかで、新規のエンチャントゴーレムが発生する。つまり、欲に溺れれば溺れるほど、危険度が増していくシステムとなっている。
・外部から持ち込んだエスケープストーンは使用不可。ダンジョン内の宝箱またはゴーレムを倒すことで入手可能。
・セーフティーエリアに宝箱を持ち込んではならない。
・宝箱をマジックバッグに入れることは可能だが、一時間という時間制限がある。制限時間を越えたり、その階層から出てしまうと、バッグ内の宝箱全てが消滅する。
・エスケープストーンは、石板で登録したパーティーの人数と同じ個数を入手しないと使用できない。
・遺跡内でしか入手できない特殊アイテムに限り、アイテム名とその効果が所持者のステータスに表示される。
・石板に触れて魔法を入手した後、いくつかの質問がステータスに表示される。ケアザさん曰く、『アンケートのような内容だが、そこで何を求めるのかが重要だ。「第一に欲しいものは?」と聞かれたら、エスケープストーンと答えろ』とのこと。
・質問が終了すると、『今すぐダンジョンに挑戦しますか?』と聞かれる。
これらは、かなり重要な情報だ。ただ私たちの場合、ほとんど観光目的だから、クエイクとボムの魔法を入手するだけでいい。
こうして、充実した一日があっという間に過ぎたんだよね。
――そして翌朝、私たちは食堂で朝食を食べ終えた後、ナルカトナ遺跡に向かうことをみんなに伝える。
「三人とも、帰ってくるよね?」
ユーリアが不安げに私たちへ尋ねる。昨日の夕食のバトルで、彼女たちとは一気に距離が縮まった。
「もちろん、帰ってくるよ。そうですよね、アッシュさん、リリヤさん」
そういえば、ユーミアはアッシュさんのことを、ヨシュアさんはリリヤさんのことを結構意識している。リリヤさんについては私も見ていたからわかるけど、アッシュさんの方でもキッカケとなる何かが起きたのだろう。
「当たり前さ。今回の目的は、遺跡の雰囲気を知ること。観光と同じだから、夕方までには戻ってくるよ」
ここからナルカトナ遺跡まで、徒歩一時間と聞いている。順調にいけば、アッシュさんの言う通り夕方までには余裕で帰れる。
「うん、こんな解放的な気分で冒険するのは久しぶり‼ ピクニック気分で行ってくるね」
アッシュさんやリリヤさんから、力みを感じない。ユアラ戦以降、私もどこか緊張して訓練に臨んでいたから、ここまで解放的になるのは久しぶりだ。
「お前ら……気をつけて行けよ。俺は冒険者じゃないけど、何が起こるのかわからないのが冒険なんだろ?」
ヨシュアさん、それってリリヤさんだけに言ってない? さっきから、チラチラ見ているしね。その後も、クレアさんやケアザさん、ハルザスさんにアドバイスを貰っていく。そして、最後のアイリーンは――少し真剣な面持ちだった。
「三人とも、領主様の馬鹿息子『ゼガルディー・ボストフ』には気をつけなさい。二日前、三人組の冒険者とともにナルカトナ遺跡へ行ったきり戻ってきていないの。あいつは十八歳で、領主様と違って自己中、傲慢、我儘の三点揃い踏みの愚か者なの」
今時、そんな馬鹿貴族がいるのね。
「優秀な領主様であっても、親としてはダメね。息子を甘やかして育てたせいで、ゼガルディーはボストフ領全ての人から嫌われているわ。みんな、表には出さないけどね」
その人、相当な大馬鹿者だね。いつか、痛い目に遭うといいよ。
「顔と服装だけで、『こいつがセガルディーか』と一発でわかるから、もし姿を見かけても絶対に近寄ったり話しかけたりしてはダメよ」
そんなに目立つ存在なの?
アイリーンさんから奇妙な忠告を受け、私たちはナルカトナ遺跡へと向かった。
○○○
ナルカトナ遺跡は、千年以上前に建築された砦と聞かされている。その後起きた戦争の影響で、砦の半分以上が崩壊しているものの、ダンジョン化してからはずっと形態を維持しているらしい。遺跡は小高い丘の頂上にあり、訪れる冒険者が多いこともあって、遺跡までの道は整備されていた。先日の大量討伐のせいか、魔物と遭遇することもなく、私たちはピクニック気分でウォーキングを楽しめた。遺跡からは周辺の景色も窺える。
「シャーロット、アッシュ、凄いよ‼ あの大きくて半壊した砦がナルカトナ遺跡なんだね‼」
「大きいな。確かに、ここからなら周辺の景色を見渡せるから、砦としての機能を果たせそうだ」
千年以上前のことだから、多分地形も大きく変化していると思うけど、半壊した状態でこれだけの存在感を放つのだから、当時はかなり重要視されていたに違いない。
「アッシュさん、リリヤさん、遺跡入口周辺に、大勢の冒険者がいますよ」
「本当だ、何かあったのか?」
「みんな、遺跡の中を見て、何か言い合っているね」
ダンジョン内で、トラブルでも発生したのかな?
「無用なトラブルは避けたい。僕が先に行って騒ぎの理由を聞いてくるよ。リリヤとシャーロットは、ここにいて」
あそこに行ったら巻き込まれる可能性大だもんね。ここは、アッシュさんに任せよう。
「アッシュ、気をつけてね」
「危なくなったら、即逃げてくださいね」
アッシュさんが、遺跡入口で話し合っている八人の冒険者のところへ行き、話を聞いてくれた。楽しく話していると思いきや、いきなり驚いたりもしている。そしてアッシュさんは、全員にお礼を言ってから私たちのもとへと戻ってきた。
「二人とも、理由がわかったよ。どうやら『クエイクエリア』の地下三階で、ゴーレムが大量発生したらしいんだ。その数……なんと三十体以上」
「「三十体以上⁉」」
一体、地下三階で何が起きているの?
「彼らは、全員地下三階にいたんだ。なんの前触れもなく、大きな振動が突然起こった。しばらくすると、その正体が大量のゴーレムが出現したためとわかり、捌ききれないほどの数だったから、全員がエスケープストーンで脱出してきたそうなんだよ。そして、こうして他のパーティーと互いの状況を説明しあっているってわけ」
ゴーレムの大量発生、何か理由があるはずだけど、貴重な残機数を失う危険性を考えたら、『脱出する』という選択肢を選ぶのが最善だよね。
「アッシュ、シャーロット、その……遺跡の中には入りたいけど、ダンジョンでの『クエイク』と『ボム』の入手は、この騒ぎが落ち着いてからにしない? 今やったら、何か起きるかもしれないよ?」
リリヤさんの言いたいこともわかる。こんなとき、無理にやろうものなら、絶対何かに巻き込まれるよ。
「私は構いませんよ。落ち着くまで、カッシーナでゆっくりしましょう」
「僕も賛成。焦る必要はないからね」
ナルカトナ遺跡には、観光で来たようなものだ。アイリーンさんやケアザさん、ハルザスさんのおかげもあって、遺跡の情報もいくつか入手できている。今日は、遺跡の観光だけに留めよう。
「よかった。それじゃあ、遺跡の中に入ろうよ‼」
状況もわかったところで、私たちは遺跡へと向かう。すれ違う冒険者たちは人間族の私に驚いていたけど、私が自己紹介したら、みんなも納得してくれた。挨拶する人全員が真剣な面持ちで、『ダンジョンに入らないように』と注意してくれたよ。そして、私たちはいよいよ遺跡内部への進入を試みた。
「これが……遺跡内部……」
あの騒ぎのせいもあって、周囲には誰もいない。私の声だけが響く。
「「……」」
言葉がこれ以上出てこない。二人も、口を開けたまま何も喋ろうとしない。私自身、こういった巨大な遺跡の内部を見るのは、前世も含めて生まれて初めてだ。当時の人たちは何を思い、この砦に住んでいたのだろうか? 稼働していた当時は、さぞ賑やかであったに違いない。
「あ、大きな石碑があるよ」
リリヤさんの指差す先には、高さ四メートルほどの石碑があり、文字が刻まれている。
『冒険者たちよ、我はこのダンジョンを管理する土精霊なり。この地には、金銀財宝が眠っている。一攫千金を狙うものは挑戦するといい。ただし、生半可な気持ちで挑戦すると、すぐに「死」を迎えるだろうから、心してかかるように。そなたたちから見て左手方向にある石板に触れると「クエイクエリア」、右手方向にある石板に触れると「ボムエリア」へのルール説明がステータス内に記載される。説明後、いくつかの質問が用意されている。最後の質問を答え終わると同時に、エリアに向かうか問われるので、そこで「はい」か「いいえ」を選択するといい。健闘を祈る』
土精霊様が管理しているだけあって、内容も丁寧だ。私たちの場合、最後の質問で『いいえ』を選択すればいい。
「『クエイクエリア』と『ボムエリア』、各エリアの内容に関しては、アイリーンさんたちからまだ教わっていないし、絶対に入らな――」
え? アッシュさんが話している最中に、周囲の景色が急に切り替わった。
「あ……れ? ここはどこだ? さっきまで石碑近くにいたはず?」
「うん……私もシャーロットもアッシュも、ずっと石碑の近くにいて、あの内容を見ていたもの。でも、急に……どういうこと? ここはどこなの?」
私たちの身に、何が起きたのだろうか?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11,291
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。