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7巻

7-2

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「今、この大陸で何かが起きている。シャーロットから聞いたスキル販売者が、いい例だ。もしかしたら、そいつがエルギスにしたようなことを、彼女にもしたんじゃないかと思ってな。だから、内密にかくまうことにした。それに、現在の彼女は魔鬼族へ変異して偽名を名乗っているから、誰も指名手配犯のベアトリスと同一人物であることに気づいていない」

 なるほど、だから私が緊急で呼ばれたわけか。
 私の『構造解析』で調査すれば、事態が多少進展するかもしれない。
 でも、ユアラがこの件に関わっているのかな?
 七年前となると、彼女は八歳だ。いくらなんでも、そんな子供のときに、人を操ろうとするかな? 彼女自身が前世持ちなら可能性としてはあるかもしれないけど、う~んユアラの件をアトカさんたちに話さないと前に進まないよ。
 どうする? 話すべきかな?
 でも話したことをユアラが知ったら、何か悪さをしてくるかも……というか、神が背後に絡んでいる以上、『話す』『話さない』に関係なく、絶対に悪さしてくるかもしれない。
 ここは覚悟を決めて、ユアラとドレイクのことを話そう‼
 ただし、人間の隠れ里や霊樹様の件だけは伏せておこう。理由は不明だけど、精霊様は『霊樹様』の存在を公にしたくないようだしね。アッシュさんとリリヤさんにテレパスで伝えると、二人とも了承してくれた。

「アトカさん、私たちはそのスキル販売者との接触に成功しています」
「なんだと‼ それで捕縛ほばくできたのか?」

 私は、首を横に振る。

「敵は、思った以上に手強いです。その件に関しては、後で報告します。今は、ベアトリスさんのもとへ向かいましょう」
「そうだな。シャーロット、先に言っておく。あいつの目的は、『復讐』だ。復讐すべき相手は、『王家』」

 ちょっと‼ それを聞いているにもかかわらずかくまうの? 下手したら、サーベント王国と戦争になるよ‼

「お前の言いたいこともわかる。そうならないよう、俺やイミア、クロイスが全力でベアトリスを説得する‼ だから、頼む‼ シャーロット、ベアトリス・ミリンシュを助けてやってくれ」

 さすがに、『はい』と断言できない。
 まずは、『構造解析』で彼女の人柄や呪いについて確認させてもらおう。


         ○○○


 国賓こくひん用の客室に到着し、みんなで中へ入ると、そこには三人の人物がいた。そのうちの一人は私たちの知り合いだけれど、ここにいるはずのない意外な人物だった。

「よ、久しぶりだな。シャーロット、アッシュ、リリヤ」
「「「トキワさん⁉」」」

 どうして、トキワさんがいるの?
 指名依頼が入って、国外へ行くと言っていたよね?
 時期的に魔剛障壁が解除された頃だから、当分の間会えないと思っていたよ。

「トキワさんの依頼者って、ベアトリスさんなんですか?」
「ああ、詳しいことは後で話す。まずは、彼女を解析してくれないか? 呪いのせいで、かなり危険な状態なんだ」

 この部屋には、クイーンサイズのベッドが二台用意されている。国賓こくひん用の部屋だけあって、土台の材質も高級品で、上品なデザインが刻まれている。
 私がベッドに近づくと、一人の魔鬼族の女性が横たわっており、呪いのせいか、かなり苦しがっている。金髪で、ややうつろな目をしているが、目の奥からは『死んでたまるか‼』という執念を強く感じる。
 彼女の左腕には、点滴用の針が刺さっており、連結されているチューブを辿たどると、ベッドのすぐ横上方に点滴液がセットされている。多分、ポーションだろう。通常、ポーションは経口投与だけど、自力で飲めないくらい弱っている人には、静脈用に調整されたものを与える。


「シャーロット様、私はベアトリス様の専属メイド、ルクス・ソルベージュと申します」

 ベアトリスさんのそばに控えているメイド服を着た見知らぬ魔鬼族。この人が脱獄の手引きをしたルクスさんか。紫色の短い髪、物腰柔らかそうな雰囲気ふんいきかもし出しているけど、その目からは私への警戒を解いていないのを強く感じる。

「シャーロット・エルバランです」
「トキワ様から、あなたのことをおうかがいしております。……正直に申し上げますが、彼から聞いた話は到底信じられない内容でした。しかし、今に至ってはあなたを頼るしかありません。どうか我が主人を、ベアトリス様をお救いください」

 ルクスさんは知り合って間もない私に対して、深々と頭を下げた。ここまでの経験から、『構造解析』や『構造編集』の通用しない敵もいることがわかった。ベアトリスさんの呪いがどれほどのものかはわからないけど、自分のできる限りのことをしよう。

「最善を尽くします。それでは始めますね。『構造解析』‼」


 名前 ベアトリス・ミリンシュ(呪いで弱体化中)
 種族 ダークエルフ/性別 女/年齢 24歳/出身地 サーベント王国
 レベル46/HP7(最大値50)/MP0/攻撃10/防御10/敏捷10/器用10/知力10
 魔法適性 火・水・風・土・雷・光/魔法攻撃0/魔法防御0/魔力量0
 称号 『努力家』『不屈の心』


 備考
 卒業パーティー三日前に発症した『積重呪力症』の効果で、『スキル封印、魔法封印、ステータス固定、重力三倍』の呪いを受けている。


 ……酷い。本来はAランクの力量を持っているけど、『積重呪力症』という呪いのせいでかなり弱体化している。リーラやオーキスと同じくらい危うい状態だ。ステータスが封印されている以上、現在の彼女の体力は地球の成人した一般女性と同じくらいだろう。その状況で常時重力三倍を浴びているのだから、心身ともに相当きついはずだ。一日でも遅れていたら、治療も間に合わなかったかもしれない。まずは、この呪いを詳細に分析してみよう。


『積重呪力症』
 発動者:アルバス・エブリストロ、ランドルフ・エブリストロ、エマ・エブリストロ
 維持者:クォーケス・エブリストロ
 呪い対象者:ベアトリス・ミリンシュ、ミリアリア・ミリンシュ


 サーベント王国の王都フィレントにあるエブリストロ侯爵邸の地下から、闇魔法禁術『カーズサクリファイス』を行使し、呪いを永続稼働させている。代償は、発動者の『命』と『負の感情』。怒り、ねたみ、悲しみといった負の感情が強ければ強いほど、凶悪な力を発揮する。呪いを受けた本人には、必ずこれに加えて四つの呪いが付与される。ただ、維持者によって呪いの種類は異なる。今回使用された呪いは、『スキル封印』『魔法封印』『ステータス固定』『重力三倍』の四つである。
『積重呪力』とは、呪いの積み重ねを指す。たとえ呪いの一つを解呪しても、新たな呪いが瞬時に付与されるため、生きている限り、永遠に何らかの呪いを受け続ける。また、『積重呪力症』や『積重呪力』の名称を『構造編集』で解呪したとしても、呪いが発動している本拠地をたたかない限り、再度発症する。


 これは、かなり厄介やっかいな呪いだ。自分の命を犠牲ぎせいにしてまで、ベアトリスさんに呪いを与えるなんてね。ただ、その理由までは記載されていない。呪いのエネルギー源は命と負の感情である以上、彼女自身、もしくはミリンシュ侯爵家自体のどちらかが強くうらまれているということだ。
 あと、彼女のここまでの経緯だけど、魔剛障壁が国土全域に敷かれたとき、呪いが一時的に解除されたようだね。その間、彼女はダンジョンに潜って身体をきたえまくり、Aランクと同等の強さになったわけか。
 そして強くなったベアトリスさんは、決着をつけようと、トキワさんを雇ってサーベント王国に戻ることにした。でもその途中、魔剛障壁が解かれ、同時に呪いも復活したわけね。トキワさんとルクスさんの力で解呪を試みたけど、状況がより悪化してしまい、トキワさんが緊急帰還手段として用意しておいた『転移トラップ』を使って、ここへ逆戻りしたわけか。
 指名手配に至った理由に関しては、アッシュさんから聞いた内容とほぼ同じだけど、少し齟齬そごがある。ベアトリスさんはエルギス様のように洗脳されているわけじゃないし、そういったスキルも所持していない。シンシアさんに嫉妬しっとして、度重たびかさなるいじめを実行していたのは事実だ。
 でも、クロイス様のことを実の妹のように可愛かわいがっている彼女と、苛烈かれつにシンシアさんをいじめ抜く彼女が同一人物のように思えない。現状、ユアラが絡んでいるのかは不明だけど、『構造解析』の内容と照らし合わせると、当時のベアトリスさんの身に何かが起きた可能性がある。
 まずは呪いの対処方法から考えていこう。



 3話 呪いの対処方法


 ベアトリスさんがかけられた呪いは、『積重呪力症』と、それによる『スキル封印』『魔法封印』『ステータス固定』『重力三倍』の合計五つ。一番の問題は、呪いの源泉となる『積重呪力症』だよね。これを『構造編集』で別なものに変化させても、本拠地がある以上、また同じ呪いにかかってしまう。となると……

「ルクスさん、ベアトリスさんの呪いを全て確認しました。まず、この呪いの根源ですが、サーベント王国の王都フィレントにいるエブリストロ侯爵家が大きく関わっています」
「エブリストロ侯爵家ですか⁉」

 この名前を出したことで、彼女の顔色が大きく変化する。

「ルクス、その家って……確かミリンシュ侯爵家と敵対しているんじゃなかったか?」

 トキワさんも、ベアトリスさんの抱える事情の一部を聞いているのね。

「はい、その通りです。正確に言いますと、今から三十年ほど前、激しい派閥争いが貴族間で起こりました。当時の侯爵様はベアトリス様の祖父ジュデック・ミリンシュ様でございます。この争いは、エブリストロ侯爵側がミリンシュ側の策略にまり、力を大きく衰退させたと聞いています。それ以降、貴族間の大きな争いは起きていません」

 三十年前の話でしょう? エブリストロ家は、ず~っと根深くミリンシュ家をうらんでいたってこと? もしかしたら、ずっと積年のうらみを晴らす機会をうかがっていたのかもしれない。

「呪いの発生時期が、卒業パーティー三日前となっていますので、タイミング的に王太子側と結託した可能性がありますね」
「三日前⁉ まったく……気づきませんでした。いつも通りの口調でお話ししていましたし、体調も万全……のように見受けられたのですが……」

 多分、体調不良を自分の管理不足と思い、誰にも悟られないよう、王太子の婚約者としての責務を果たそうとしたんだ。

「ところでルクスさん、ミリアリア・ミリンシュという人物を知っていますか?」
「そのお方は、ベアトリス様の妹君ですが?」

 これを聞いたら、激怒するかもしれない。多分、ベアトリスさんもルクスさんも亡命することに必死で、家族側で何が起きたのかも知らないはずだ。

「誠に言いにくいのですが、ミリアリアさんもベアトリスさんと同じ呪いがかけられています」
「え……そんな……まさか……ミリアリア様はなんの関係もないのに……どうして……」

 卒業間近ということもあって、家族側もベアトリスさんに心配をかけないよう、この事実を伏せていたんだ。
 エブリストロ家は三人の命を犠牲ぎせいにするほど、ミリンシュ家を強くうらんでいる。
 おそらく、目的はミリンシュの血筋を途絶えさせることだろうね。
 二人を呪い殺せば、次代の子供が生まれなくなるもの。
 子供たちが呪いで苦しめられることで、現侯爵や先代を奈落ならくの底に突き落とすつもりだ。
 やり方が、非道だよ。


 ・王太子側は、ベアトリスさんとの婚約破棄を望んでいる。
 ・エブリストロ家は、ミリンシュ家を滅亡させたい。


 二者の思惑が一致しているからこそ、結託しているのだろう。とは言っても、それは六年前の話、今がどうなっているのかが肝心だよね。さすがに、そこまでの情報は掲載されていない。魔剛障壁のせいで、外界の情報が完全遮断されていたのだから、クロイス様だってミリンシュ家の状況を知らないだろう。

「今の……話……本当なの?」

 このかすれた声の持ち主が、ベアトリスさんのようだ。
『重力三倍』で体力も残り少ない中、無茶をする。

「初めまして、ベアトリスさん。シャーロット・エルバランと申します。今の話は全て真実です。その話をする前に、まずはあなたの呪いを解呪させるのが先決ですね」

 ベアトリスさんが私を見て、ほんの少しだけ目を大きく開ける。

「できる……の?」
「可能です……が、いくつか方法があります。どれを選ぶのか、トキワさん、ルクスさん、ベアトリスさんの三人で決めてください」

 私が、彼女に付与されている呪いについて詳細に説明していくと、ここにいるメンバー全員が渋い顔をした。解呪する方法は、二つある。


 一)私のスキルで、『スキル封印』『魔法封印』『ステータス固定』『重力三倍』を無害なものに編集する。『積重呪力症』は『構造編集』スキルでの消失が現状不可能なので、ステータス上では残り続ける。そのため、何かの拍子ひょうしで無害化した呪いが消えたりすると、新たな呪いにかかる危険性はある。
 二)『洗髪』スキルで、全ての呪いを完全消失させる。私、アッシュさん、リリヤさんのいずれかでベアトリスさんの頭を洗髪すれば、それが可能となる。


 おすすめは、断然後者だ。
 前者を説明した際、全員複雑な胸中で『それが妥当だとうだろう』と思っていたはず。でも、後者を説明したらポカ~ンとして何もしゃべろうとしなかった。

「シャーロット様、ふざけていますか?」

 ルクスさん、言うと思いました。
 誰だって、頭を洗髪しただけで呪いが消失するとは思わないよ。

「ふざけてなどいません。ナルカトナ遺跡を完全制覇したことで、土精霊様からご褒美ほうびとして、とある称号と『洗髪』スキルをもらいました。この二つを併用すれば、どんな呪いでも解呪できるのです」

 称号『禿げの功労賞』を口にすると、余計こじれるから言わない方がいい。
 私の言葉に真っ先に反応したのは、トキワさんだった。

「お前ら、ナルカトナに挑戦したのか‼ しかも、完全制覇しただと⁉」

 そこから話してしまうと、話がかなり長くなってしまう。

「トキワさん、その件に関しては後ほど詳しくお話しします。ある意味、あなたやコウヤさんにとってショッキングなお話でもありますので」
「俺や師匠にとって……だと? わかった……ベアトリス、つらいのは承知している。どちらを選ぶ?」

 今の彼女に選択できるほどの思考力が残されているのだろうか? これは彼女の未来を大きく左右する選択肢。酷なようだけど、彼女自身に選んでもらわないといけない。

「前者……よ。後者は……論外。完全解呪……された……途端……黒幕に……気づかれる……ミリアリアが危険……シャーロット……お願い」

 確かに『洗髪』で呪いを洗い流すと、黒幕となるエブリストロ家の連中が確実にかんづくだろう。そうなると、ミリンシュ家の人たちに危害が及ぶ可能性もある。危険度で言えば、まだ前者の方が低いか。

「わかりました。後は、私にお任せを‼」

 さて、久しぶりの『構造編集』だ。
 今回治すべきものは、『スキル封印』『魔法封印』『ステータス固定』『重力三倍』『積重呪力症』の五つ。
 治療すべき順番も重要だ。
 まずは……『ステータス固定』→『ステータス解放』かな。

「この呪いをこの名称で構造編集して、マックスヒール‼」

 ベアトリスさんの身体が淡い緑色の光に覆われると、顔色も少しずつよくなっていく。おお、HPの最大値が50から387へ、魔力量も0から411へと上がっていく。他のステータスも完全復活したようだ。この強さなら、『重力三倍』にも耐えられる。
 彼女も自分の身体の異変に気づいたのか、目を見開いた後、ゆっくりと起き上がる。彼女は、平民女性用ルームウェアを着ているけど、違和感があまりない。侯爵令嬢ではあったものの、長年の逃亡生活でそういった服装に慣れ親しむようになったのだろう。

「ベアトリス様、まだ呪いが解けたわけでは……」
「ルクス、大丈夫よ。身体が嘘のように軽いのよ。『重力三倍』は継続中だけど、私のステータスが一部回復したおかげもあって、これなら耐えられるわ」

 よし、ここからは『積重呪力症』に注力しよう。

「ベアトリスさん、完全復活したら王家へ復讐するのですか?」
「当然よ。私は自分の中で起きている奇妙な変化を、殿下や国王陛下にお伝えしていたのよ。有りていに言えば『嫉妬しっと』なんでしょうけど、どういうわけかシンシアに限り、心を抑えきれないの。彼女へのいじめもやめられないから、彼女への見張りを強化させることも訴えたわ。事前に伝えていたからこそ、彼女に降りかかる災難をギリギリのところで防げたのよ」

 そう、それについては『構造解析』で得られたデータに記載されていた。シンシアさんが殿下と知り合ってから、ベアトリスさんは強い嫉妬しっとを覚えた。これは、事実だろう。でも、シンシアさんが殿下以外の男性や女性と談笑しているときでも、同じく『嫉妬しっとしん』を覚えてしまい、それが日に日に増加していき、だんだん抑えきれなくなってきた。
 シンシアさんがいない場所ではいつも通りの自分でいられるのに、彼女が視界に入っているときだけ、まるで自分が自分でないような奇妙な感覚にとらわれる。当初、この感覚を『劣等感れっとうかん』と思っていたようだけど、知り合って間もない時点で感じているため、この言葉は当てはまらない。
 ベアトリスさんも自分一人では解決できないと考え、両親や殿下、国王陛下に相談したけど、解決策は見つけられず、シンシアさんを自殺未遂にまで追い込んでしまう。その後も、陰険な策略で彼女の暗殺を何度も何度も実行してしまう。そして、卒業パーティーで言い逃れできない証拠を提示され、婚約破棄へと至る。

「心の中では、シンシアに申し訳ないことをしたという罪悪感でいっぱいだったわ。でも、なぜか自分を抑えられなかった。これが普通の嫉妬しっとなら、殿下や国王陛下には言わないわよ。自分自身を調査してもらったけど、何の異常も検出されなかった。殿下や陛下も私の異変を知っていたにもかかわらず、卒業パーティーという重大イベントで婚約破棄され、最終的には公開処刑よ。私は裏切られたのよ‼ 絶対に許せないわ‼」

 う~ん、私たちの知らない事情が潜んでいる。それがわからない限り、ベアトリスさんの復讐心を抑えきれないだろう。

「ベアトリス、お前の気持ちもわかるが、クロイスにそんな黒い一面を見せるなよ。あいつは、お前のことを『ベアト姉様』としたっているほどだ」

 アトカさんの一言に、ベアトリスさんは悲しい表情を見せる。

「わ……わかっています。でも……」
「お前の中に、それだけ強い復讐心があることも理解している。だが、どうにもきな臭い話だ。俺たちの知らない何かが裏に潜んでいるな。まあ、それを知るために、魔剛障壁が解除された後、お前たちはトキワとともにサーベント王国へ行こうとしたわけだが。とにかくシャーロット、まずはベアトリスの解呪作業を続けてくれ」

 私はうなずき、作業を続行する。

「ベアトリスさん、もしあなたの正体がサーベント王国内で露見した場合、あなたとルクスさんはどうなるのでしょう?」
「状況にもよるけど、王族をまもる守護騎士たちが私のもとへ押し寄せてくるでしょうね。全員がAランク以上の力を持っているから、今の私でもかなり厳しいわ。まあ、簡単に捕縛ほばくされるつもりもないから、とことん抵抗するつもりよ」

 そうなると、彼女自身が真実に辿たどり着くためにも、力が必要となる。絶対的な切り札があれば、彼女の心にも余裕ができて、王族への復讐もすぐには実行しないだろう。
 ならば、あえて『積重呪力症』も変えて、新しい力をあげよう。

「わかりました。まずは、あなたに切り札を与えましょう。あなたの持つ『積重呪力症』を、雷と光属性をあわせ持つ『積層雷光砲』へと構造編集します」

 なぜか、全員が私を一斉に凝視ぎょうしする。

「シャーロット、一応聞いておくが、どんなスキル……いや魔法なんだ?」

 全員が、アトカさんと同じ疑問を抱いているようだ。ふっふっふ、私としては一度でいいから、アニメとかである手から放つ『気』とやらで相手を消滅させる技を編み出したいと思っていたのよ。

「手元に集束させた強大な雷を光属性と融合させ、それを音速を超える速度で対象物に放てるようにした大技です。威力は、所持者の魔力量に比例しますので、今のベアトリスさんの力なら、この王城を半壊にできると思います」

 そんなイメージで、構造編集したい。
 う~ん、当のベアトリスさんもポカ~ンとして、私を見ている。
 それと、『重力三倍』を『魔力二倍』に編集するのもアリかなと思っている。
 王族の守護騎士と同等という中途半端な強さのせいで、復讐心にも無駄なあせりが見える。こういうときって、いい結果が出ないものなんだよね。ここは、ドーンと強くさせるべきでしょう‼
 私が渾身こんしんの思いで強くみんなに訴えると……

「ふふ、あははは、面白いじゃない。シャーロット、それで構造編集してみて」
「ベアトリス様、本気ですか⁉ 過ぎた力は毒になりますよ‼」

 ルクスさんは否定的なようだけど、アトカさんとトキワさんを見ると……

「いや、ここはシャーロットの案に賛成だ。中途半端な力を持つより、過ぎた力を持たせた方が、心にも余裕ができ、視野が広くなる。トキワはどう思う?」
「俺も、アトカさんと同じ意見だ。今のベアトリスだと、危なっかしくて見ていられない節がある。このままサーベント王国の王都に行けたとしても、真実には辿たどり着けないだろう。力を増大させ、その力を制御する訓練を行えば、一人のダークエルフとして成長できる。俺とルクスが責任をもって、彼女を見る」

 アッシュさんとリリヤさんは部外者ということもあって、この場を見守っている感じだね。

「ふふふ、決まりね。私が暴走しそうになったら、ルクス、あなたが止めてね」

 ここに入ってから初めて、ベアトリスさんが優しく微笑ほほえんでくれた。
 その笑みからは、負の感情をまったく感じ取れない。

「あ……わかりました」

 ルクスさんも気づいたのか、私の案を賛成してくれた。もし、彼女がその身を『悪』に染めようとするのなら、私が責任を持って対処しよう。私には、彼女のステータスを構造編集した責任があるのだから。



 4話 ベアトリスの復活


『積重呪力症』→『積○○○○』→『積層雷光砲』
『重力三倍』→『○力○倍』→『魔力二倍』


 ――にした結果、彼女の魔力量が822へと大きく上昇したけど、『魔力二倍』という項目が消失した。これは呪いではないと、システムに判断されたのだろう。
 完全にSランクの力を有しているものの、それはあくまで魔力だけであって、他の基本数値は全てBかAランクのものとなっている。急激に増加した魔力に慣れるためにも、無理な運動は禁物だろう。また、『積層雷光砲』へ編集しても、すぐに新たな『積重呪力症』という言葉が現れた。さらに『魔力二倍』がなくなったため、新規に『大幅好感度低下』という呪いが表示されてしまった。


 呪い『大幅好感度低下』
 これまで出会ってきた全ての人々とのきずなあかしとも言える好感度を、九十九パーセント低下させる凶悪な呪い。


 ……やってくれる。
 これが表示された途端、ベアトリスさんを見るアトカさん、トキワさん、ルクスさんの目の色が明らかに悪い方へと変化した。彼女もいち早くその変化に気づいて、かなりあせった顔で私の方を見た。私自身が彼女を嫌ってしまったら、百パーセント死ぬことになるからね。

「私は、『状態異常無効化』スキルを持っていますから、外部から私の内部にあるあなたの好感度を低下させるようなスキルや呪いが放たれたとしても、まったく効きませんのでご安心を」
「それを聞いて安心したわ。まったく、この呪いってエブリストロ家の誰が考えているのよ。私にはシャーロットがいるから安心できるけど、妹のミリアリアには頼れる人物はいないはず。早く、会いに行きたいわ」
あせりは禁物ですよ。まずは、自分の身体の治療に専念しましょう」

 ちなみに、私の後方に控えているアッシュさんとリリヤさんは、呪い発動前と発動後で、ベアトリスさんを見る目に変化はない。会って間もないから好感度自体が、ゼロに近いのだ。また、自分たちには手に負えない事態となっているため、ず~っと何も言わずに状況を見守っている。


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