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9巻

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 プロローグ 死を覚悟した出発


 聖峰アクアトリウムからの清浄な風が舞い込むダークエルフの国――サーベント王国王都フィレントは、いつも以上の活気に満ちあふれており、王都にいる全国民がその理由を理解している。
『ベアトリス・ミリンシュ』――六年前に王太子の婚約者シンシアを殺害しようとした罪で収監され、後に牢屋から脱獄したことで指名手配された女性。
 今から約三週間前、積層雷光砲による途方もない魔力で作られた彼女の顔が、王城上空に出現した。王族、貴族たちは大混乱におちいったのだが、聖女一行の介入により、ベアトリスと和解する。
 しかも、和解後に開かれた会見にて、ベアトリスはシンシア・サーベントを自分以上に王太子妃として相応ふさわしい存在であると認め、今後は護衛騎士として王族をまもることを宣言した。この情報は緊急速報として、王都だけでなく各領地にも伝えられた。
 そして、これまで最底辺だった彼女の好感度にも変化が表れる。
 王族主催のイベント『ミニクックイスクイズ』において、ベアトリスは敗者たちに、予選では冷淡に、決勝では叱咤激励をした。すると、この両極端な対応がクセになったのか、彼女のファンが急増し、好感度が飛躍的に上昇した。
 その一方で、ルベリアに姿を変えて正体を隠しつつルベリアとして司会をしていたシンシアは、挑戦者たちを小馬鹿にする発言が目立ったため、評価がどんどん下降していった。シンシアはその不満を周囲に訴えるのだが、シャーロットたちからは自業自得だと責められ、挙げ句の果てには神ガーランドや雷精霊からも注意されてしまう。そこでようやく、彼女はルベリア変異時の口調には気をつけようと心に決めた。
 こうして王都フィレントに平和が訪れたものの、シャーロット一行の心は晴れていない。それは、諸悪の根源とも言えるスキル販売者ユアラ・ツムギに勝負を挑まれたからだ。彼女は、黒幕である神の力を借りて、ベアトリスの『嫉妬しっと心』をいじり、シンシアには『好感度パラメーター』と『好感度操作』というユニークスキルを与え、二人の人生を激変させた張本人でもある。
 ただし、挑まれた勝負の内容は一切不明。指定した日にフランジュ帝国の帝都に来るよう命じられたのみ。勝負に勝てばユアラから、負けても神ガーランドから、シャーロットは長距離転移魔法と全都市の座標を入手できる見込みである。
 しかし、ユアラの裏にいる黒幕との戦いは避けられそうにない。それを懸念した神ガーランドは、新たなユニークスキルをシャーロットに授ける。シャーロットは、それを使いこなせるよう、勝負の日まで心身を鍛え、仲間たちも彼女を援護できるよう各自で修練に励んだ。
 そして勝負が明日に迫ろうとする中、シャーロット一行にサーベント王国の国王アーク・サーベントから王城へ来るよう緊急の要請があった。この件を伝えにきたのは、あの邪悪な呪いから解放されたベアトリスだった。その緊急度は極めて高いものらしく、シャーロットたちは急ぎ準備を整え、これまでお世話になった高級宿屋を後にし、一路王城へ歩を進めることとなった。


         ○○○


 私――シャーロットたちは、以前会談の場所となった会議室入口にいる。謁見えっけんでなく、ここで話し合うということは、用件は間違いなくユアラ関係だ。
 アッシュさん、リリヤさん、トキワさんも、難しい顔をしている。とにかく、国王陛下から用件を聞こう。
 私たちがベアトリスさんとともに部屋へ入ると、そこにはアーク国王陛下、アレフィリア王妃、クレイグ王太子、シンシア王太子妃がいた。さらに、見知らぬ一人の女性が国王陛下の隣にたたずんでいた。
 でも、一目見ただけで彼女の正体がわかった。紺色こんいろの長髪で、化粧けしょう自体はうっすらとしかしておらず、大和やまと撫子なでしことも言える美しい顔立ちと肌。なんと言っても目立つのは着用している服だ。つややかで涼しげなデザインの、日本の海を彷彿ほうふつさせる着物を着ている。この人は、間違いなくラプラスドラゴンのプリシエルさんだ。人の形態に変化できると言っていたけど、実際に見るのは初めてだね。

「緊急に呼び出してすまない。みんな、とりあえずそちらにかけてくれ」

 私たちはアーク国王陛下に言われ、王族の方々の向かいにある席へ座り、護衛騎士のベアトリスさんは、シンシアさんの横へ座る。

「ここでの長話は無駄だろう。用件を簡潔に伝える」

 アーク様の声からは、余裕を感じ取れない。切羽詰まったような緊張感がある。陛下だけじゃなく、アレフィリア王妃、シンシアさんも緊張しているように思える。一体、何が起きたのだろう?

「ユアラとの勝負を明日に控えているからこそ、聖峰アクアトリウムに住んでおられるアクアドラゴン・シヴァ様が、君たちとの会談を求めてきた。時間もないから、今すぐにプリシエルとともにシヴァ様のところへ行ってくれないだろうか?」

 驚きの発言だ。ここに滞在している間、私もサーベント王国の国土や風習について勉強して知ったけど、『アクアドラゴン・シヴァ』はサーベント王国の守護竜と言われており、全国民から崇拝されている。
 ただ、聖峰アクアトリウムの中でも、シヴァさんの住むエリア一帯は結界が展開されているらしく、認められた者しか入れない。それゆえ、このダークエルフの国でも進入可能な者は限られており、現時点ではイオルさん、アーク様、アレフィリア様の三名のみ……私たち人間や魔鬼族が入っていいの? 

「シャーロット、ユアラの件については、ガーランドはんからも詳しく聞いているわ」

 優雅に着物を着こなすプリシエルさんは、実は江戸時代の日本からの転生者だけど、ガーランド様と連絡を取り合えるほどの間柄なんだ。

「あの子はあかんな。人だけでなく、神すらもおちょくってるわ。背後に正体不明の神がおるせいで、うちやシヴァ様でも太刀打たちうちでけへん」

 いくら最強種のドラゴンとはいえ、二匹が協力してくれたとしても、ユアラの背後にいる神だけは倒せないのは当然と言えば当然だろう。プリシエルさんは、何を言いたいのかな?

「シャーロットだけが頼りなんやけど、転生者といっても八歳の子供や。うちやシヴァ様だけでなく、ガーランドはんも心配しているんよ。せやから、念には念をということで、シヴァ様になんやけったいなもんを作らせてはったわ」

 けったいなもの? それを私にくれるってこと?

「ものの名称や効果に関しては、直接シヴァ様に聞いたらええわ。今回は特別で、シャーロットだけでなく、トキワ、アッシュ、リリヤ、カムイを連れてきてもええって言ってはるで」

 どんなアイテムをくれるのかはわからないけど、みんなが私を心配してくれているんだね。仲間全員を連れてきていいのは、私としても嬉しいよ。ただ、アッシュさんとリリヤさんの二人は、それを聞いてすごく緊張しているけどね。

「わかりました。国王陛下、私たちも今日出発しようと思っていたので、シヴァさんのところに寄った後、直接フランジュ帝国の方へ出向きます」

 待ち合わせの場所は、フランジュ帝国の帝都。帝都近くの街で宿を取ろうと思っていたから、これくらいの寄り道なら全然問題ないよ。それにしても、ガーランド様はどうして直接私に渡さないのだろう? あのユニークスキルを使いこなせるよう、毎日夢の中で会っているのだから、そこで渡せばいいのに。
 もしかして、師匠の天尊輝星てんそんかがぼし様によるお仕置きを怖れているのかな? 一人の人間と過剰に接している時点で、この世界の成り行きに介入しない件についてはもうアウトだと思うのだけど? シヴァさんを経由することで、きつ~いお仕置きから少しでもまぬがれようとしているのかもしれない。

「すまん。我々もユアラに大きく関わっているというのに、役に立てそうもない」

 その国王陛下の言葉に続いて、アレフィリア王妃やシンシアさん、ベアトリスさんも謝罪の言葉を重ねてきたので、私まで申し訳ない気持ちになってくる。ここは、少しでもみんなの心を軽くさせる言葉を言わないといけない。

「そんなことありません。ここに滞在している間、有意義な時間を過ごせましたし、なによりも『ゆとり』を取り戻すことに成功しています。これなら、ユアラとの勝負で全力を出し切ることができます」

 そういえば、ユアラや神との戦いに勝利できたとしても、ユアラ自身をサーベント王国や、彼女が大災厄をもたらしたジストニス王国へ連行することができるだろうか? 
 そもそも、黒幕の神は日本出身らしいけど、ユアラとの接点はどこにあるの? 
 まさか……彼女は日本人?
 でも私の仮説が当たっていたら、ここへ連れてくることはできないかもしれない。

「みなさん、ユアラと黒幕の神に関しては、私に任せてください。私もガーランド様とタッグを組んでいますし、仲間たちのフォローもあります。必ず勝って、報告に来ますね。ただ、やつらの処遇に関してはガーランド様に任せているので、ここへは連れてこられないかもしれません」

 私の言葉に真っ先に反応したのは、ユアラに心をいじられたベアトリスさんだった。

「やつの心をへし折ってくれるのなら構わないわ。あいつだけは、絶対に許せないもの。ただ、代わりにこの魔導具でユアラと黒幕の屈辱くつじょくに満ちた顔を撮ってほしいの。これは、王都の最先端とも言える魔導具技術を駆使して開発された、超高性能カメラよ。新聞記者の持つコンパクトカメラよりも五倍以上の性能があるわ」

 本来、護衛騎士が国王陛下の前で口を出すのは不敬に値するのだけど、ユアラの話題に限って言えば許されると思う。その証拠に、誰も彼女を非難しないもの。一番の被害者であるベアトリスさんが代表して、私に言っているんだね。
 彼女から渡された魔導具は、地球で見た『一眼レフデジタルカメラ』に酷似している。『飛翔型高感度カメラ』は、ドローンと大型カメラが合体したかのような機体だったけど、これは完全にデジカメだよ。

「ふふふ。この日のために、魔具師の人たちが私とシンシア様の要望を取り入れて開発した、世界で一台の超高級カメラよ。静止画五百枚、動画百二十分を記録できるし、スキル『視力拡大』と『聴力拡大』を、カメラに内蔵されている空間属性の魔石に使えば、視野を拡大し音声も拾えるすぐれものよ。ちなみに、地球の日本ではこれと似た魔導具を何と呼んでいるの?」

 地球のデジカメだと、遠距離の音声までは拾えないよ!?
 えげつない魔導具を開発したよね!!

「空間属性の魔石を平らに加工して、そこに画面が表示されることを考慮すると、『一眼レフデジタルカメラ』ですね」

 こちらの新聞記者が使うコンパクトカメラをきちんと見たことはないものの、この様子からして家庭用のデジカメなんだろうな。渡されたカメラは、どう見ても高級品だ。しかも、世界に一台しかないのだから、扱いには要注意だね。

「いいわね、その名称!!」

 ベアトリスさんだけじゃなく、国王陛下たちもこの名称を気に入ってくれたようだ。全員から、ユアラのお仕置きショットを希望されたよ。でも、こういった魔導具があるのなら、撮ったものを複製・保存できる魔導具も存在しているはず。たとえユアラを連れていけなかったとしても、それをジストニス王国へ持っていけば、クロイス女王たちのうらみも少しは晴れるんじゃないかと思う。

「必ずや勝ち、みんなの求める静止画と動画を撮ってきますね!!」

 私たちはユアラとの勝負に挑むため、ベアトリスさんたちに別れを告げ、ドラゴンの姿となったプリシエルさんの背に乗り、みんなで聖峰アクアトリウムへ向かった。
 会談時、みんなを悲しませないよう、ああ豪語したけど、正直私が殺される可能性も十分にありうる。そうなったら、仲間も全員死んでしまうだろう。今回ばかりは、『自分の死』を覚悟して勝負に挑まないといけない。
 でも、負けるつもりはさらさらない!!
 必ず勝って、長距離転移魔法と各都市の全座標を入手し、故郷へ帰ってみせる!!



 1話 アクアドラゴン『シヴァ』との謁見えっけん


 私たちはプリシエルさんの背中に乗り、風の抵抗を受けないためにシールドを展開しながら、聖峰アクアトリウムの山頂へ向かっている。全員がここから見える地上の風光明媚めいびな風景に見惚みとれており、かくいう私自身も、忘れることのないようこの絶景を魔導具『一眼レフデジタルカメラ』におさめている。せっかくなので、カムイに頼んで、みんなと写真を撮っておいた。
 標高が高くなるほど、樹々が減り、岩石が目立ってくる。聖峰アクアトリウムは今でこそ死火山となっているけど、はるか昔は火山活動が活発だったらしい。その名残なごりなのか、頂上付近は岩石地帯になっていると、プリシエルさんが言っていた。
 アクアドラゴンのシヴァさんは、この岩石地帯の地盤ごと開拓し、頂上にドラゴンの楽園を作ったという。今の時点で頂上付近を見ても、ただの岩石地帯にしか見えない。
 頂上周辺に展開されている結界を通り抜けると、何が待ち受けるのだろう? 結界まではもう少しかかるようだし、プリシエルさんとは念話で話せるから、今のうちに気になることを聞いておこう。

「一つ気になるんですけど、ドラゴンの人型形態って完全に見た目は人間でしたよね?」
「そうや、人間やで? それがどないしたん?」
「ランダルキア大陸にいる竜人族との違いがよくわからなくて」

 この世界には、人間、ドワーフ、獣人、エルフ、ダークエルフ、魔鬼族、獣猿族、ザウルス族、鳥人族、竜人族の十種族がいる。竜人族の大半がランダルキア大陸に住んでいるため、私もまだ見たことがない。

「ああ、それは簡単やで。竜人族は、ドラゴンと人間の混血やねん。ドラゴンの中には人間形態の方を好む者もおってな。彼らが人間と結婚して生まれてきたのが竜人族の先祖というわけ。混血のせいもあって、ドラゴンの角が額付近から生えてるわ。角の形が魔鬼族とちゃうから、すぐ区別できるわ」

 なるほど、竜人族は人間とドラゴンのハーフなのね。

「竜人族は、ドラゴンに変身できるのですか?」
「ドラゴンの血が濃い者に限り変身できるで。変身したら身体能力も飛躍的に上がるけど、時間が限られてるわ」

 制限時間付きの変身、『鬼神変化』のようなものかな? 

「人間や獣人と違って、そこまで強い欲望を持ってないものの、たまに戦争を起こしてるな」

 人間や獣人は三大陸の支配を狙ってハーモニック大陸に攻めてきたのに、変身能力を持つ竜人族は、世界征服までは企まないんだ。それだけ人間や獣人の支配欲が強いということか。

「今から結界を通過するで。通過したら、みんな驚くわ。山頂付近をよう見ときや」

 おお、いよいよシヴァさんのいる住まいが見えるんだね。
 私たちが頂上付近をじっと見つめていると、ある地点から急に景色が切り替わった。そして私は、あまりの光景に言葉が出なかった。結界を通り抜けた瞬間、数十頭のドラゴンが大空を駆け、頂上部分には一つの街が形成されており、中心には神殿が鎮座していたのだ。シヴァさんの住まいだから、王宮と言えばいいのだろうか?

「うわあ~すごい、すごい!! 僕と同じドラゴンがいっぱいいる!! これだけいれば、僕の両親の居場所もわかるよね!!」

 カムイは、これまでに『フロストドラゴンのドレイク』と『ラプラスドラゴンのプリシエルさん』としか遭遇そうぐうしていないから、これだけのドラゴンを見たらはしゃいで当然だよね。私だけでなく、アッシュさんやリリヤさん、トキワさんもこの威風堂々たるドラゴンの勇姿を見て、言葉を出せないでいるよ。ただ、ドラゴン全員がこっちを見ているよね?

「あら~。みんな、シヴァ様に認められたシャーロットの姿を見たいんやな~。ごっつう視線を感じるわ~」

 この視線、やっぱり私に向けられているんだ。

「まあ、無理ないな~。人間と魔鬼族の子供らがこのエリアに侵入してくるんは、史上初やからな~」

 このプリシエルさんの言葉に一番驚いたのは、アッシュさんとリリヤさんだ。

「ええ、史上初!? アッシュ、どうしよう!! シャーロットとトキワさんは認められて当然だけど、私たち二人は何の実績もない普通の魔鬼族だよ!!」

 リリヤさんよりも、アッシュさんの方が顔色が悪い。

「いや……リリヤには、トキワさんと同じユニークスキル『鬼神変化』があるから、みんなも納得してくれると思う。でも、僕には強力なスキルや魔法なんて一つもない。僕が……一番いてはいけない魔鬼族な気がする」

 う~ん、ユアラの件が全てのドラゴンに伝わっているのかわからないけど、どのドラゴンからも敵意を感じないから、ビクビクする必要もないはずだよね。

「何言ってるの!! アッシュには、魔法『スパイシースティンク』があるじゃない!!」

 リリヤさん、説得力ないよ。確かに強力な魔法ではあるけど、ユニークスキル『鬼神変化』と比較すると、インパクトが圧倒的に足りない。

「二人とも、周りをよく見ろ。シヴァさんが他のドラゴンにも事の重大さをきちんと伝えているようだ。敵意もないし、むしろ歓迎されているだろ。というか、そんなにいちゃつくな」
「「え?」」

 トキワさんの言葉で、二人は改めて周囲の様子を確認し、ドラゴンたちが楽しそうに自分たちを見ていることに気づいて、顔を真っ赤にしてしまった。
 ミニクックイスクイズを乗り越えたことで、二人は互いに好意を告白し、ようやく恋人関係となった。ただ、告白の翌日は互いの動きがぎこちなかったから、ベアトリスさんとシンシアさんがアドバイスしてくれたんだよね。そのおかげもあって、二人とも自然な恋人関係を保てるようになったんだよ。

「アッシュもリリヤも、アツアツやな~。あんたらやったら、結婚していい家庭を築けそうやわ~。さあ、シヴァ様のおられる王宮へ着陸するから、しっかり踏ん張りや~~」

 二日前、アッシュさんが十三歳になり、リリヤさんもあと一月もすれば十三歳になる。結婚は、最低でもあと五年くらい先だよね。
 いよいよ、シヴァさんとの謁見えっけんだけど、よく考えたら性別すら知らない。こんな場所で聞くのも失礼だし、実際に見ればいいかな。


         ○○○


 う~ん、こうやって地面に降り立ち、シヴァさんの住む王宮を眺めると、これまで見てきた王城とは少し違う建築様式なのがわかる。何となく、地球のオーストリアの首都ウィーンにあるシェーンブルン宮殿に似ている。さすがに、あそこまで大きくないけど、デザインが似ている。

「さあ、シヴァ様のおる謁見えっけんへ行こうか」
謁見えっけんがあるんですか?」

 私は、プリシエルさんの言葉に驚いた。ドラゴンがわざわざ人間のようにそんな部屋を作るなんて不思議に思えた。

「シヴァ様は、そんな硬っ苦しい『』なんかいらんと言ったんやけど、大勢のドラゴンたちがな、『あなた様はハーモニック大陸の国々を裏で牛耳ぎゅうじる世界最強種の竜王。威厳を見せるためにも必要です!!』と言うこともあって、みんなで作ったんよ」

『竜王』……エンシェントドラゴンと同格だから、そう言われても問題ないよね。でも、シヴァさんっていつ頃からこの大陸にいるのだろう? 
 私たちが王宮へ入り、床や壁、調度品類などを見ると、ドラゴンの趣味嗜好しこうも、私たち人間や魔鬼族と大差ないことがわかった。しかも、どれもこれもがジストニス王国やサーベント王国の城で見たものと同じで、ハイレベルだ。時折すれ違う人型形態の使用人や臣下の方々の礼儀も完璧で、誰もがここで働けることを誇りに思っているのか、自信に満ちあふれている。

「ここが『謁見えっけん』入口やで。ほな、行こか~~~」
「「「「「え!?」」」」」

 私たちの声を無視して、プリシエルさんはいきなりドアを開けたよ!! 
 心の準備が全くできていないんですけど!! 

「シヴァ様~~~連れてきましたよ~~~~」

 ええ、そんな気さくな話し方でいいの!?
 何のために、謁見えっけんを作ったの!?

「きゃあ~やっと来たわね~シャーロットちゃ~~~~ん」
「ぐほ~~~~」

 シヴァさんを見ようとした瞬間、いきなり誰かに抱きつかれた~~~。このやわらかな感触って、胸だよね? 胸に埋もれて窒息死ちっそくししそう……

「こらシヴァ様、何やってんねん!! シャーロットが窒息死ちっそくしするやろ?」

 どこからか、何かをたたくかのようなスパーーーンという音が聞こえた。それと、いつまで続くのこの状態? どんどん苦しくなっていくんですけど?

「あら、ごめんなさい。この子たちがサーベント王国に入って以降、ず~っとここから見ていたし、シャーロットちゃんが私の子供のような容姿をしているから、つい抱きしめてしまったのよ」

 やっと解放されたものの、私とシヴァさんって似ているの?
 目の前にいる人物を見上げると、それはそれは美しい女性がそこにいた。長く美しいきらきらと光る流麗な銀髪、まるで雪女とも言える冷たくまぶしいお顔。水色のドレスを着ていることもあって、容姿と服装の全てがマッチしているよ。というか、私と美しさのレベルが全然違う。私が成長しても、シヴァさんのようにはなれないよ!?

「シャーロットちゃん、私の子供にならない?」

 あ、プリシエルさんがハリセンでシヴァ様の頭をたたいた。これって、ツッコミだよね?

「何を言ってはるの!? シヴァ様には旦那様もおるし、子供かて三人もおるやろ。みんな用事があって今はおらんけど、怒られるで!!」

 ユアラとの戦いに備えてここへ来たことを、シヴァさんは理解しているよね?

「ごめんなさいね~。子供成分が不足していたところに、シャーロットちゃんが訪れたからついね。みなさん、初めまして。私がアクアドラゴンのシヴァよ。千年前の戦争以降、ガーランド様からハーモニック大陸の国々があのときの馬鹿げた戦争を二度と起こさないよう、見張りを言いつかっているのよ」

 千年前の戦争? そういえば、二百年前と三千年前の戦争に関しては私も調査して内容も理解しているのに、千年前の戦争に関しては何も知らない。アイテムをもらった後、聞いてみようかな。

「シャーロット・エルバランです。対ユアラ戦用のアイテムを私に与えてくれると聞いたのですが?」
「そうね。今回は戦争どころではないわね」

 シヴァさんも、ユアラと黒幕の神についてガーランド様から聞いているからか、先程までのゆる~い表情から真剣なものへと変化した。一体、どんなアイテムを製作したのだろう?


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