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2巻
2-1
しおりを挟む1話 上空一万二千メートルからのスカイダイビング
製薬会社で構造解析研究者だった私――持水薫は、あるとき不慮の事故で命を落としてしまう。でも女神様のはからいで、異世界ガーランドに公爵令嬢『シャーロット・エルバラン』として転生した。『構造解析』と『構造編集』というチートなスキルまでもらって。
そんな私は今、パラシュートなしのスカイダイビング中だった。
もちろん、空なんて飛べない。なす術なく落ちている……
それもこれも、私から『聖女』の称号を奪い、多くの人々に大迷惑をかけたイザベルのせいだ。
逃亡していた彼女を追いつめたとき、彼女が隠し持っていた転移石によって、こうしてハーモニック大陸ジストニス王国のケルビウム山の上空一万二千メートルに飛ばされてしまったのだ。
この世界の神ガーランド様のおかげで、体力と魔力が完全回復し、頭も冴えているけど、現状をどう乗り越えようか?
ここはアストレカ大陸の正反対に位置しており、時差の関係で周囲が明るい。ただ、下に雲があるせいで、地上が見えない。あの雲を突き抜けた先にあるはずの地上に衝突すれば、私は間違いなく死ぬだろう。
とにかく、まずは空気を確保しないとまずい。息を止められる時間も限られている。
「シャーロット頑張れ~~」
「シャーロットなら生き残れる。頑張るんだ~」
風精霊の方々が目の前で応援してくれている。あの……そんなことしてないで助けてよ!!!
精霊様は、地上にいる生物たちを無闇に助けてはいけないことになっているから、応援してくれるだけありがたいのかな。
ここで魔法を使うなら、まだ持っていない『無詠唱』のスキルが必要となる。ぶっつけ本番で習得するしかない。
ただ、詠唱は魔法を構築するための補助的な役割にすぎない。だから、強くイメージするだけで魔法は発動するし、流れで『無詠唱』も習得できるはずだ。これまで教わった魔法の中で、比較的イメージしやすく、この状況に最適な魔法を使おう。
――イメージイメージ……心の中で強く念じ……ウィンドシールド!!
よし、詠唱なしで声にも出さず、念じるだけでウィンドシールドの発動に成功した!!
ウィンドシールドは、自分の周囲を風で覆うことで身を守る防御魔法だ。
次にすることは、『構造解析』を使用して現在の大気圧と酸素濃度をチェックし、風を利用して地上と同じ設定に調整すれば良い。やり方は簡単。風でシールドの外側から『構造解析』で酸素だけを選択して送り込むだけ。
……やった!! ウィンドシールドのおかげで、少しだけ落下速度が低下した。酸素濃度も、地上とほぼ同じだ。
次は、まだ余裕があるはずだけど、現在の高さも確認しておこう。
《現在の高さは標高八千六百十メートル、ケルビウム山山頂が八千メートルのため、衝突まで残り六百十メートルとなります》
なにいいぃぃぃーーーー!!
集中していて下を見ていなかった。周囲は雲に覆われているけど、下降気流が発生したのか、私の真下だけ、地上が見えてる!! やばい、地面がすぐそこまで迫っている。そうか、ケルビウム山上空一万二千メートル、下に見えている地面は山頂か!!
……焦るな。考えろ、考えろ!!
消費MPが低くて、衝撃を和らげる魔法は……あれしかない。ウィンドシールドの外側に出せるようにイメージして……お願い、間に合えー!!
「エアクッション!!」
私は、地上に向けて全力でエアクッション――軽い風の衝撃波――を連続で放った。私の身体が、連続するエアクッションの衝撃で悲鳴をあげている。そして大きな音とともに地上に衝突し、派手にバウンドした瞬間、仰向けとなった。
痛い……痛いよ……タイミングが少し遅かった。あちこち骨が砕けた。嫌だ、死にたくない、死んでたまるか。
「リ、ジェ、ネ、レー、ション」
激痛の中、なんとか回復魔法のリジェネレーションを唱えたところで、私の意識は途絶えた。
「……う、うう」
身体は、なんとか動く。でも、まだ骨が少しおかしい。あれからどのくらい時間が経ったのかな? リジェネレーションの効果は消えていない。身体のどこがおかしいのか調べずに発動したから、回復速度が遅いのかもしれない。今は余裕がないから、効果が消えるまでじっとしていよう。
真っ暗で何も見えないや。……それにしても寒い。少し動いただけでも、体力を使ってしまう。ここは身体を動かせるまで我慢しよう。考えるのが、億劫になる。何も考えずに横になっていよう。
……一体、どれほどの時間が経過したのかな? 頭がはっきりしてきた。今は深夜二時か、どうりで周囲が真っ暗なわけだ。生き残れたよ。あと少し魔法を放つのが遅れていたら、完全に死んでいたと思う。周囲には誰もいない。今後、私一人で行動し、判断しなくてはいけないのか。
ここはハーモニック大陸の中でも、魔人族が支配するジストニス王国。魔人族は私たち人間とは全く異なる種族、横暴で傲慢……と本に記載されていた。
二百年前まで、人間・獣人・エルフ対魔人族で、戦争したらしい。本では、魔人族が一方的に悪いとされていたし、そう教育されてきた。でも、それは怪しいと思っている。その手の教育には、必ず裏がある。三種族が共闘してまで、魔人族と戦う必要があったのだろうか?
とにかく、魔人族は戦争に負け、大気中の魔素濃度がアストレカ大陸より三倍ほど高く、普通の人間の身体では住みにくい環境となっているハーモニック大陸に追いやられたのだ。
……って、あれ?
ここは、そんな環境の上に標高八千メートル。普通なら高山病にかかったり、寒さで凍死するはずだよね? いくらリジェネレーションでも、MPポーションもない状態で長時間使用したら、MPが枯渇するはずだ。どうして私は普通に生きているの? ステータスを確認してみよう。
名前 シャーロット・エルバラン
性別 女/年齢 7歳/出身地 エルディア王国
レベル3/HP3/MP18/攻撃10/防御9/敏捷9/器用660/知力792
魔法適性 全属性/魔法攻撃76/魔法防御67/魔力量102
回復魔法:イムノブースト・ヒール・ハイヒール・リジェネレーション
火魔法:ファイヤーボール
水魔法:アイスボール
風魔法:ウィンドシールド・エアクッション
ノーマルスキル:鑑定 Lv10/気配遮断 Lv10/魔力感知 Lv9/魔力操作 Lv9/魔力循環 Lv8/自己犠牲 Lv8/隠蔽 Lv5/状態異常耐性 Lv3/HP自動回復 Lv2/MP自動回復 Lv2
ユニークスキル:全言語理解・精霊視・構造解析・構造編集・環境適応・無詠唱
称号:癒しっ子
HP3! リジェネレーションを使って、かなりの時間が経過しているはずだけど、ほとんど回復していない。それに、MPの残量が18もある。エアクッションの連発と、リジェネレーションの使用を考えると、0になってもおかしくないはずなのに。どういうこと?
魔力量も少し上がってるし、ノーマルスキルに『自己犠牲』と『気配遮断』と『状態異常耐性』と『HP自動回復』と『MP自動回復』が追加されてる。HPとMPが0にならないのは、これらの自動回復スキルとリジェネレーションのおかげか。それに、『環境適応』って何? そういえば、ガーランド様がユニークスキルを一つ与えたって言ってたよね。えーと詳細は……
環境適応
どんな環境下でも、身体が適応し生存可能となる
うん、嬉しいんだけど、身体が進化するってことだよね? 嫌な予感がするな~。まあ、せっかくもらったんだし、ありがたく使わせてもらおう。残りのスキル……う、また気分が悪くなってきた。HP3しかないのに、考えすぎたかな? 仕方ない、完全回復してから残りのスキルをチェックしよう。また、眠く……なって……きた。
……時刻は朝九時、視界は『真っ暗闇』から『薄暗い闇』に変化し、数メートルほどだけど周囲が見えるようになった。でも、太陽光が山頂に届いている感じがほとんどしない。おそらく、この山頂は、魔素濃度が高すぎるせいで、光をほとんど遮断してしまうんだ。身体もまだ動かせないけど、時折降る雨が唯一の救いかな。
リジェネレーションの光が消えない。それに、精霊様の姿が見えない。ここは魔素濃度が凄く高いから、入ってこられないのかもしれない。周りからは、魔物の気配や魔力も感じられない。おかしい、静かすぎる。これも魔素濃度が原因なの? 今なら、『構造解析』を使えるかもしれない。
「大気……構……造……解……析」
はあはあ、少し声を出しただけでこれだ。どれだけ酷い環境なんだ。
ケルビウム山山頂の大気
魔素濃度:約60% 酸素濃度:約20% 窒素濃度:約20% 気圧:地上の約1/3 気温:マイナス60度
千年前に勃発した魔人族・獣人と人間・エルフ・ドワーフとの大戦争において、魔素爆弾が現在のジストニス王国内で使用され、周囲一帯は誰も住めない環境となった。現在は魔人族の尽力により、周囲の魔素を山頂に集約させることで、人が住める環境となっている。この山頂に踏み込んだ者は、精神錯乱などのあらゆる状態異常にかかる。一呼吸しただけで、大量の魔素が体内に侵入し身体を脅かす。三呼吸しただけで、魔素が細胞を食い破り、全ての生物が息絶える。
なんて極悪な環境なんだ。リジェネレーションが消えないはずだ。今、私の身体は、『環境適応』とリジェネレーションで生き延びているんだ。だから、HPもほとんど回復していないんだ。
時間をかければ、スキルによって身体が完全にこの環境に適応できるように変わるはず。絶対、適応してやる。死んでたまるか!! 必ずエルディア王国に帰るんだ!!
2話 サバイバル生活の始まり
墜落してからどのくらいの時間が経過したのだろうか? 薄暗い視界だけど、不思議と周囲に何があるのか認識できるようになった。例えるなら、暗視カメラで見ているようだ。多分スキルの『暗視』を取得したのだろう。
《身体が完全にこの環境に適応しました。ステータスを更新します》
やった!! ついに、私の身体が、この極悪環境に適応したんだ!!
《人間族のステータス限界250を超えました》
《魔人族のステータス限界500を超えました》
《ステータスシステム999の限界を超えました。ステータスが999以上となったため、正確な数値を算出できません。自分で検討してください》
うん? 今、何かとんでもない内容を聞いたような気が? あ、リジェネレーションの光が消えた! 全ての感覚が急速に蘇ってきた。
よし! 起き上がって手足を動かしてみる。うんうん、きちんと思う通りに動く、問題ないね。身体が環境適応したということは、姿も変化しているのかな? ポシェットの中に、鏡があったはず……うん、当然割れてるよね。割れてる破片の中でも、大きいやつなら辛うじてわかるかな?
ほっ……薄暗いけど、きちんと姿がわかる。瞳、髪、皮膚の色も、環境適応前と同じだ。そうなると、変化したのはステータスの数値だけになるのかな?
名前 シャーロット・エルバラン
種族 人間?/性別 女/年齢 7歳/出身地 エルディア王国
レベル3/HP40/MP999/攻撃0/防御999/敏捷999/器用660/知力850
魔法適性 全属性/魔法攻撃0/魔法防御999/魔力量999
回復魔法:イムノブースト・ヒール・ハイヒール・リジェネレーション
火魔法:ファイヤーボール
水魔法:アイスボール
風魔法:ウィンドシールド・エアクッション
ノーマルスキル:魔力感知 Lv10/魔力操作 Lv10/魔力循環 Lv10/鑑定 Lv10/気配遮断Lv10/隠蔽 Lv10/暗視 Lv10/HP自動回復 Lv10/MP自動回復 Lv10/自己犠牲 Lv10/気配察知 Lv6/聴力拡大 Lv4
ユニークスキル:全言語理解・精霊視・構造解析・構造編集・環境適応・無詠唱・状態異常無効
称号:癒しマスター
『人間?』って何? ガーランド様、ふざけてるの?
人間?
通常ではありえない環境で生き残り進化した新型の人間。寿命は、普通の人間と同じ80~100年ほど。ただし、中身は人間や魔人族よりも大きく変化していて、二十代前半で身体的成長がストップし、寿命が尽きるまで、その姿を維持する
あ~なるほど、だから『人間?』なのか。確かに、こんな特殊環境下で生き残れる人間はいないよね。極悪環境に適応しちゃったから、種族もこうなったわけか。寿命は普通の人間と同じで、身体的成長が二十代前半でストップか。まあ、病気の一種と思えばいいか。地球の女性から見ると羨ましがられるかもだけど、いざ自分がなってみると複雑な気分だ。
新しく覚えたスキルのほとんどが、全部レベル10になってる。一体どれだけの日数をかけて、ここまでに至ったのだろうか? ほとんど何も考えず、魔物に襲われないよう気配を殺していたからわからない。多分、寝てるときも無意識のうちに、スキルを行使していたのかな。ところで、この『自己犠牲』って何かな? 少し前に解析したときにもあったけど、詳細を見てなかった。
自己犠牲
所持者の生命が危機に陥ったときにのみ、自動で発動するスキル。ステータスの数値を犠牲に、生命維持に足りない箇所を補ってくれる
なるほど、私の生命維持には、このスキルも関与していたんだ。そう言えば、はじめに確認したとき、知力が少し減っていた気がする。今後は、MPを犠牲に発動させれば、強さが減少することはないよね。
それと、『聴力拡大』は今後も役立つから、どんどんレベルを上げていこう。
あと、ステータスの攻撃と魔法攻撃以外の数値がとんでもないことになっている。ステータスシステムの限界値を突破したせいで正確な数字はわからないけど、攻撃力が皆無になった代わりに防御、敏捷、魔法防御、魔力量が世界最強になってしまった。自分に『構造解析』をかけてみよう。こうなった原因を正確に知っておかないとね。
シャーロット・エルバラン
偽りの聖女に逆恨みされ、ケルビウム山山頂に転移させられた。山頂の環境は世界最悪なため死ぬ寸前となる。だが、ノーマルスキル『自己犠牲』、ユニークスキル『環境適応』と魔法『リジェネレーション』のおかげで、攻撃力と魔法攻撃力が皆無になった代わりに、強力な物理・魔法攻撃に耐えうる強靭な身体へと変化した
強力な物理・魔法攻撃……か。全てとは記載されていない。そうなると、今の私に対してもダメージを与えられる生物がいるんだ。999を超えたからといって、油断しない方がいい。
うっ……完全に目覚めたおかげか、お腹が異常に減ってきた。何日ご飯を食べていないんだろう。とりあえず、食べ物を探そう。しばらく歩いてわかったんだけど、ここは標高八千メートル、気圧も気温も低い厳しい環境にもかかわらず、息が苦しくないし、寒くもない。自分の身体が、この環境に適応したのが嫌でもわかる。凍傷とかもないから、『状態異常無効』も効いているのかな。
それにしても、薄暗い山頂には見事に何もない。『暗視』のおかげで、周りがだだっ広い平地であることがわかる。
何もないのは山頂だけで、少し下ると森になり、下れば下るほど、明るくなっている。どうやら、薄暗いのは山頂部分だけのようだ。ちょうど、ここからでも見える森との境目、あそこから光は遮断されることなく、地上に届いている。ただ、あそこから環境が変化しているせいか、魔物の気配も感じる。それに、かなり遠いけど人の気配も感じる。『魔力感知』や『気配察知』のおかげで、魔物と人の気配も明確に区別できるね。
人の気配がした周辺を見渡すと、かなり遠いのでわかりにくいが、村らしきものが見えた。とりあえず、目標はあそこに到達することかな。ただ、このまま行動に移しても、すぐ死ぬよね。いくら防御が世界最強になっても、餓死することだってありえる。現に、今は物凄く空腹だ。まずは、食糧を確保しないと。森だから木の実とかあるはずだ。
いったん山頂に戻り、山全体の気配を探ると、北の方向に凄く大きな魔力を感じた。この魔力量、私と比較すると、半分くらいだけど、おそらく戦うことになったらダメージを受けると思う。その周辺にいる魔物たちが怯えているのもわかる。いきなりそんな超強力な魔物と戦いたくないので、北以外で食べ物を探そう。
――そして、森への入口に到着した。現状、魔物とあまり戦いたくないけど、空腹には勝てない。とりあえずこの辺を探してみよう。
……うーん、結構探したのに、実っている果実が二種類しかなかった。
一つは、マンゴーくらいの大きさと形で、色はホワイト。実の表面に厳ついブルドッグのような顔があって、『あん、俺を食う気か? はっ、食えるもんなら食ってみろや』と挑発されている気分になる。
なんか嫌な予感がしたので、構造解析してみた。
ガウガウの実
ケルビウム大森林に生息する厳ついフォレストウルフの顔が表面にある。この顔には、見た者を怒らせ引きつける特殊な魅了の効果がある。実自体は適度の甘さと柔らかさで、非常に美味しい。ただし、一度でも魅了に囚われた状態で食べてしまうと、病みつきになり、ガウガウの実だけを欲するようになる。そして、食べれば食べるほど、無気力となっていく。やがて、自分自身もガウガウの実を生やす木になってしまう
こんな危険なもの、食えるか!! ガウガウの実じゃなくて、魅了の実の間違いだろ!!
もう一つの実は、どうかな? 形も色もガウガウと同じなんだけど、表面の顔が子犬で『お願いだよ、僕を食べないで』と切実に訴えてくる。この顔を見たら、非常に食べづらい。
ウルウルの実
一個で、一日は何も食さなくても良いとされる栄養豊富な実。HPとMPを200回復させる効果を持つ。表面には、子供のフォレストウルフが描かれており、視線を合わせると、僕を食べないでという感情が切実に伝わってくる。この魅了効果に惑わされずに食べることをお勧めする
※現在のシャーロットは十日間何も食していないので、この実を三個食べることを推奨する
なるほど、ガウガウもウルウルにも、天然の魅了魔法が施されているのか。一方が猛毒で、もう一方が食用。ケルビウム大森林に住む人や魔物たちは、これを見極めて食しているんだね。食べづらいけど、ウルウルの実を実食しよう。
モグモグと実を食べると、徐々に味が口の中に広がってきた。美味い!! 味もマンゴーに近いよ!! それじゃあ解析通り、三個食べよう。今後はこれが主食となるのか。太りたくないから、毎日『構造解析』でチェックした方が良いね。
――よし、三個食べて、お腹もいっぱいとなったところで、今後のことを考えよう。
・力を百パーセント制御できるようにする。
・防御力の強化。物理と魔法攻撃を無力化させる方法を考える。
・自分の攻撃力に頼らないなんらかの攻撃手段を考える。
こんなところか。急激に強くなってしまった自分の力を制御することが、第一だね。そして、なんらかの攻撃手段を見つけて完全にマスターしてから、この森を突破しよう。
○○○
山頂で訓練を開始してから二日、体内の魔力を循環させたり、目に魔力を集中させたり、周りの気配を窺ったりしたことで、自分の感覚がどんどん研ぎ澄まされていった。『視力拡大』を習得したし、他のスキルもレベルが上がった。でも急激に強くなったためか、身体がステータスの数値に追いついている気がしない。あと攻撃魔法に関しては、やっぱりだめだった。
訓練当初、試しにファイヤーボールやアイスボールを放ったけど、火はライター程度の大きさ、氷はコップに入れるサイズだった。色々と工夫してはみたものの全く成果なしということで、自分の攻撃魔法は完全に役に立たないことがわかった。
攻撃魔法が使えないとなると、相手の体内にある魔力を利用するしかない。確か地球には外気功というものがあった。あれを応用する。私は考えに考え抜いて、相手の体内にある魔素自体を破壊する技を編み出した。この世界のあらゆるものに魔素が宿っているので、なんにでも効くはず。
それが、スキル『内部破壊』だ。このスキルを編み出すのに、本当に苦労したよ。
――『構造解析』で敵の最も弱いところを解析し、そこに自分の魔力をそっと流し、相手の魔力を狂わせ破壊する。
このイメージ通りにいくか、近くにあった大岩で試してみたが……全くの無傷だった。何度も何度も検証した結果、この魔力による破壊も攻撃認定されるとわかった。だったら、『魔法操作』で相手の魔力をかき乱し破壊する案を思いつき、試しにやったら爆散し、成功。『内部破壊』を取得したのだ。まだまだ弱いから、これをどんどん強化していかないとね。
○○○
訓練を開始してから、五日が経過した。
ノーマルスキル:魔力感知 Lv10/魔力操作 Lv10/魔力循環 Lv10/鑑定 Lv10/気配遮断Lv10/隠蔽 Lv10/暗視 Lv10/HP自動回復 Lv10/MP自動回復 Lv10/自己犠牲 Lv10/気配察知 Lv8/聴力拡大 Lv7/視力拡大 Lv5/内部破壊 Lv5/威圧 Lv5
『気配察知』がレベル8、『聴力拡大』がレベル7、『視力拡大』と『内部破壊』がレベル5にまで到達した。『環境適応』があるせいか、レベルの上がり方も早い気がする。
そして『内部破壊』という攻撃手段、必ず相手に触れなければならないという大きな欠点もあるけど、かなり有効な手段だ。
また、新しくスキル『威圧』も覚えた。ただ、このスキルの扱いには注意が必要だ。威圧量=《使用する魔力量》×《『威圧』のスキルレベル》という計算式で成り立っており、相手の威圧量を上回っていれば、威圧が成立し、相手を恐慌状態にすることができる。しかし、あまりに差があり過ぎると、恐慌を通り越してショック死する危険性もあるのだ。実際、魔力量の制御を間違えて、遠くにいたコボルトナイト一体を討伐してしまった。人に向けるときは要注意だね。
でも、ずっと訓練したおかげで、かなり制御できるようになった。森の探索でも役立ちそうだ。それに、強力な魔物と遭遇したときの必勝パターンも考えた。
『威圧→構造解析→構造編集→ステータスの数値を改ざん→弱点部分を内部破壊』
この流れだ。たとえ相手のHPやMPが999あっても、『構造編集』で100にまで落とせる。これはステータス全てにおいて可能だ。『威圧』や『内部破壊』が通用しなくても、『構造解析』と『構造編集』の連続で相手の弱体化が可能となるから、まず生き抜けるだろう。
訓練と並行して着手したのが、物理・魔法攻撃無力化の魔法作成だ。一口に物理攻撃といっても様々な種類がある。それらの攻撃で生じる運動エネルギーを無力化するには、どうすればいいのか。ここで思いついたのが闇属性だ。
とあるRPGの魔王や邪神は闇の衣を身にまとうことで、物理攻撃や魔法を緩和していた。そこで私も、物理攻撃の運動エネルギーや魔法そのものを闇属性の衣に吸収させるというイメージを強く強く思い、闇属性の魔力を全力で圧縮させ、一つの不可視の衣を作製した。
そうしてでき上がったのが、ユニークスキル『ダークコーティング』だ。なぜか闇魔法ではなく、ユニークスキルになってしまった。
ダークコーティング
闇属性の魔力を極限まで圧縮し身にまとうことで、物理・魔法攻撃が闇に吸収される。ただし、自分の魔力値を超える攻撃が放たれるとダメージを受けてしまう
これじゃあ、完全に魔王だ。いや、攻撃力0なら魔王とは言えないかな?
それはそうと、この五日間の食事は、全てウルウルの実だ。慣れって怖いよね。今じゃ、普通に食べてるよ。これで全ての準備が整った。
そうそう、あれからステータスを再度確認すると、称号の『癒しっ子』が『癒しマスター』になってることに気づいた。なぜ進化したのだろうと思って詳細を見れば……
称号 癒しマスター
癒しっ子の上位版。周囲の者のストレスを大幅に減少させる効果を持ち、スキル所持者に触れた者は、どんな状態であろうとも、状態異常の一つ『精神錯乱』が解消される
『癒しっ子』が『状態異常無効』の影響を受け、『癒しマスター』になったのか。これは、ありがたい効果だ。
五日間山頂で訓練したおかげで、身体の制御方法もわかった。あとは森に入って、スキルを鍛えていこう。特に『内部破壊』は、生きている凶悪な魔物たちで試していかないと、これ以上レベルも上がらないと思う。
さあ、明日からは、いよいよ森の攻略だ。
応援ありがとうございます!
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