segakiyui

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『ラズーン』『そして別れの時』連載中。メルマガ『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』』『闇を闇から』『ドラゴン・イン・ナ・シティ』展開。

『桜の護王』9.蒼(10)アップ。

 頭の芯がくらくらするような思いで、相手の無邪気にさえ見える微笑を見つめた。
 全く悪気がないように見える。むしろ当然のことをしているという自信さえ見える。裁かれるべき罪を背負った殺人犯を逃がして、洋子の安全を脅かしておきながら、それに罪悪感一つも感じていないように見える。そしてなお恐ろしいことに、そういうことがわかっていても、村上は十分穏やかで優しい人間に見えた。
「なぜです?」
 一瞬、外におびき出したのは自分を殺すためだったのか、と洋子は思った。
(でも、たぶんそうじゃない)
 洋子を殺すつもりなら、殺せる機会がいくらでもあった。第一、村上が洋子を殺す理由がわからない。いや、何よりもまず、村上が日高を逃がし、また追い掛けている理由がわからない。
 嵯峨の手紙を持ち出してきた時から既に警察官としては逸脱している。けれど、あのとき、怯え竦んでいた洋子を村上は放り出さなかった。今回も日高を逃がした一方で、洋子の警護に気を配ってくれているのは、動作の端々に感じ取れる。
「日高、貴司、という男はね」
 村上は声にひんやりとしたものを滲ませた。
「五年前にも人を殺してるんですよ」
「五年前?」
「殺されたのは僕の妹、村上詩織、当時ニ十一歳でした」
(殺された、妹)
 どきん、と胸が強く打った。あやこの姿が一瞬にして呼び戻されて重なり、視界が暗くなる。
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登録日 2016.08.30 11:45

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