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【1話】『ないないない令嬢』は追放される
しおりを挟む「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
オフェリア・グライン男爵令嬢は王宮の一室に呼び出されるなり、そんなことを言われてしまった。
言ってきた相手はラグドア王国の第一王子――ルブリオ。
ことあるごとに、『ないないない令嬢』と口にして、婚約者であるオフェリアを罵倒してくる。
でもオフェリアは好きで、ないないない令嬢になった訳ではない。
ルブリオといると、自然とそうなってしまうのだ。
笑わないのは、ルブリオといてもつまらないから。
かわいげがないのは、媚びようなんてちっとも思わないから。
胸がないのは……こればかりは言われたところで治しようがない。いったいどうしろと。
そういうどうにもできない部分をつついてくるあたり、本当に性格が悪いと思う。
つまるところ、オフェリアはルブリオのことが大嫌いだった。
ルブリオの年齢は二十歳。
美しい金色の髪に、端正な顔立ちをしている。
見た目だけでいえばかなりいい。
しかし、人間性には問題しかなかった。
性格は傲慢で、常に他人を見下している。
仕事をまともにせず、いつもサボっている。
どうにもならないときは、オフェリアに押し付けてくることもあった。
そんな人間のことを、好きになれるはずもない。
『ないないない令嬢』になってしまうのも、仕方のないことだった。
「君のようなこれっぽっちも魅力のない人間は、僕の婚約者にふさわしくない。ふさわしいのは、彼女のような女性さ!」
両腕を広げたルブリオは、隣に立っている女性へ体を向けた。
「ありがとうございます、ルブリオ様!」
隣に立っていた女性が、猫なで声を上げる。
そしてルブリオを見つめて、ニッコリと笑った。
彼女は、ルシア・リシューム公爵令嬢。
年齢は、オフェリアと同い年の十八歳。
艶めく茶色の髪に、くりくりとした黄色の瞳をしている。
庇護欲をくすぐるようなかわいらしい顔立ちは、まるで人形のようだ。
「ルシアはよく笑い、愛嬌たっぷりで、そして胸も大きい! 君とはまったくの正反対だ!」
ルブリオはどうやら、ルシアに乗り換えたいらしい。
それで婚約破棄を言い渡してきたのだろう。
(ま、理由なんてどうでもいいのだけど)
身勝手な理由で婚約破棄されたオフェリアが感じているのは、怒りでもなければ憎しみでもない。
溢れんばかりの大きな喜びだった。
そもそもこの婚約は、オフェリアとルブリオが望んだものではない。
王国に決められたものだった。
オフェリアはただの男爵令嬢ではない。
特別な力を持っている。
貧乏な男爵家に生まれたオフェリアが第一王子と婚約者として選ばれたのは、それが理由だった。
だがら最低な人間であるルブリオと結婚することが、婚約当初から嫌でしょうがなかった。
彼という人間をどうにかして理解しようと頑張った時期もあったが、それでもやっぱり無理だった。
向こうから婚約破棄してくれたのは、オフェリアとしてもありがたい。
「オフェリア。君はもう用済みだ。さっさとこの国から出ていけ」
「それは国外追放ということですか?」
「そうだ」
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは特別な力――『大天使の加護』というものを持っている。
大天使の加護は、癒しと守りの力。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアはまだ小さい頃からこの力で、このラグドア王国を豊かにしてきた。
おかげでこの国は急成長。世界有数の大国となった。
だが国からオフェリアが出ていけば、その恩恵がすべて消えることになる。
それがなにを意味しているのか、ルブリオはわかっているのだろうか。
「それなら問題ない。君の役目は、これからはルシアが行う。彼女は『大聖女の加護』という力を持っていることがわかった。大天使の加護を、さらに強化したようなものだ。つまり今まで君がやっていたことは、ルシアにも可能。しかも大天使の加護よりも、ずっと強力な効果がある。君がいなくたってこの国は安泰なのさ!」
「…………はい?」
オフェリアは緑色の瞳を大きく見開いた。
背中まで伸びた金色の髪が、わずかに揺れる。
大聖女の加護、なんてものは聞いたことがない。
きっとなにかの間違いだろう。
でもオフェリアは、思っていることを口にはしない。
ルブリオはオフェリアのことを大層嫌っている。言ったところで、信じてもらえないだろう。
黙れ! 、と怒鳴られるだけなのが目に見えている。
「今までご苦労様」
ルシアの口の端がニヤリと上がる。
勝ち誇った表情でオフェリアを見下していた。
ルシアには以前からずっと嫌われている。
ひどい言葉で罵られたり、勝手に私物を捨てられたりしてきた。
どうしてそこまで目のかたきにされているのかは、よくわからない。
こちらからなにかしたことはないし、一方的に嫌われている。
でもオフェリアは、気にしたことがない。
嫌われている理由を知りたいとも思わないから、どうでもよかった。
「話は終わったようですので、私は失礼いたします」
小さく呟いたオフェリアは、部屋から出ていく。
これからこの国は大きな困難を迎えにことになるだろう。
バカな第一王子の判断のせいで多くの者が苦しむことになるだろうが、もうオフェリアにはどうすることもできない。
(大変だろうけど、せいぜい頑張ってね)
できることといえば、心の中で同情することくらいだった。
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