15 / 29
【15話】扱いやすいバカ ※ルシア視点
しおりを挟む王宮にあるルブリオの部屋。
そこのソファーに、ルシアは座っていた。すぐ隣にはルブリオがいる。
二人は横並びになって、体を密着させていた。
「ルシア。君は世界一かわいいよ」
「ありがとうございます。ルブリオ様も、世界一素敵な殿方ですよ」
(なーんてね)
ルシアば思ってもないことを言ってみる。
なんともバカらしくて笑ってしまいそうになるが、今の生活を続けるためには必要なことだった。
ルシアは以前と変わらない贅沢三昧な生活を送っている――いや、以前よりもずっとよくなった。
ルブリオにお願いして、仕事をすべて外してもらったのだ。
これでもうオフェリアがやっていた面倒な仕事をする必要もなくなった。
「言い忘れていたのですが、大天使の加護には多くの魔力を使うんです。他の仕事なんてとてもできません」
甘えた声でそんなことを言ったら、ルブリオはすぐに仕事から外してくれた。
ちょろすぎる。
疑うことを知らないバカで助かった。
そんな訳でルシアは今、最高の環境で生活を送れていた。
ルブリオのご機嫌を取るだけでこれを続けられるなら、いくらでもやってやる。
贅沢三昧のこの生活には、それに見合うだけの大きな価値があった。
「失礼します!!」
ノックもなしに部屋に入ってきたのは、ラグドア王国騎士団の団長だ。
息を切らし、額には大量の汗をかいている。
「僕は今婚約者と大事な時間を過ごしているんだけど……なんのよう?」
ルブリオの声は不機嫌でいっぱい。
ピリピリとした雰囲気を放っている。
「国境沿いの街に国外から魔物が侵入し、襲撃してきました。この国が魔物の襲撃にあうのは実に十八年振り。オフェリア様が生まれて以降、初めてのことです!」
「……魔物だって? 見間違いじゃないのか。ラグドア王国はルシアの結界によって守られているんだ。魔物の襲撃なんて起きるはずがない」
騎士団長へ向けて、ルブリオが偉そうに鼻を鳴らした。
「そうだよねルシア?」
ルブリオがルシアへ顔を向ける。
自信に溢れている表情だ。
それを全力で肯定するように、ルシアは大きく頷いた。
「先日、国に結界を貼り直しました。悪い心を持つ魔物は入ってこれません」
(ま、それは嘘だけど)
ルブリオにバレないように、ペロッと舌を出す。
「それみたことか。やっぱり見間違いだよ」
「しかし現場で対処にあたった兵士の報告では――」
「おい! ルシアが嘘をついてるって、そう言いたいのか!」
ルブリオが怒号を上げる。
キリキリと吊り上げた瞳で、騎士団長を睨みつける。
「お前の首なんて簡単に飛ばせるんだぞ!」
「ももももも、申し訳ございません!」
騎士団長の顔が真っ青になった。
ルブリオへ深々と頭を下げる。
「もう一度だけ聞いてやるよ。国境沿いの街でなにがあった? お前はなにを報告しにきた?」
「魔物の襲撃を受けたという報告を受けましたが…………それは見間違いでしょう。ルシア様に貼っていただいた結界がある以上、魔物に襲撃されることはありえませんから」
「それでいい。邪魔だから出ていけ」
「失礼します」
安堵の表情を最後に浮かべて、騎士団長は部屋から出ていった。
(だっさ。こんなバカ王子に屈するなんて、恥ずかしいことこの上ないわね。私なら絶対ゴメンだわ)
どんな状況でもルシアなら戦うことを選ぶ。
騎士団長の背中に、軽蔑の視線を送った。
「悪かったねルシア。臣下が無礼なことを言ってしまった」
「お気になさらず。私はまったく気にしていませんから」
「君はなんて器が広いんだろう」
ルブリオは感心したように声を上げた。
騙されているなんて、少しも思っていないのだろう。
「それにしても、最近おかしなことばかり起きるな。農作物の不良に、災害の発生……。ルシアの力によってこの国は守られている。だからそんなことは起きっこないのに、どうしてだろう……」
「いいですかルブリオ様。その話はすべて悪質なデマです」
ルブリオの瞳をまっすぐに見つめる。
「デマを流しているのは、レシリオン王国の評判を落とそうとしている人間です。敵対国、反政府組織――そういう汚い心を持った人間はたくさんいますからね。騙されないよう、注意なさってください。絶対に信じてはいけませんよ」
「そうだよね。嘘に決まってるよな。だってルシアがいるのに、そんなことが起こりようもないんだから!」
ルブリオはうんうんと頷く。
その瞳は曇りのない純粋さで、まったくといっていいほど疑っていなかった。
(扱いやすいバカで助かるわ。これからもずっとその調子でお願いね)
わずかに開いたルシアの口から笑みが漏れる。
それはただの嘲笑だったが、きっとルブリオには違うものに見えていることだろう。
226
あなたにおすすめの小説
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
これまでは悉く妹に幸せを邪魔されていました。今後は違いますよ?
satomi
恋愛
ディラーノ侯爵家の義姉妹の姉・サマンサとユアノ。二人は同じ侯爵家のアーロン=ジェンキンスとの縁談に臨む。もともとはサマンサに来た縁談話だったのだが、姉のモノを悉く奪う義妹ユアノがお父様に「見合いの席に同席したい」と懇願し、何故かディラーノ家からは二人の娘が見合いの席に。
結果、ユアノがアーロンと婚約することになるのだが…
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
【完結】転生悪役っぽい令嬢、家族巻き込みざまぁ回避~ヒドインは酷いんです~
鏑木 うりこ
恋愛
転生前あまりにもたくさんのざまぁ小説を読みすぎて、自分がどのざまぁ小説に転生したか分からないエイミアは一人で何とかすることを速攻諦め、母親に泣きついた。
「おかあさまあ~わたし、ざまぁされたくないのですー!」
「ざまぁとはよくわからないけれど、語感が既に良くない感じね」
すぐに味方を見つけ、将来自分をざまぁしてきそうな妹を懐柔し……エイミアは学園へ入学する。
そして敵が現れたのでした。
中編くらいになるかなと思っております!
長い沈黙を破り!忘れていたとは内緒だぞ!?
ヒドインが完結しました!わーわー!
(*´-`)……ホメテ……
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる