【完結】金貨三枚から始まる運命の出会い~家族に虐げられてきた家出令嬢が田舎町で出会ったのは、SSランクイケメン冒険者でした~

夏芽空

文字の大きさ
1 / 28

【1話】婚約破棄された子爵令嬢は、最低最悪な家族と縁を切る

しおりを挟む

「ミレアにはすまないと思っている。でも、ごめん。僕は自分に嘘をつけないんだ……!」

 申し訳なさそうな顔で言ってきたのは、リグレル・レグルトン。
 ミレア・エルドールの婚約者だ。
 
 リグレルの言葉が、レグルトン子爵邸のゲストルーム内に響いていく。
 
 彼の対面に立つミレアは、大きく動揺。
 こんなことをいきなり言われて、訳が分からないでいた。
 
「どういう……ことですか?」
「君との婚約を解消させて欲しい。心から愛せる人を、僕は見つけたんだ」

 それは、紛れもない裏切りの言葉。
 ナイフで刺されたような鋭い痛みが、ミレアの胸に走る。
 
 レグルトン子爵家の三男のリグレルとは、七年前――互いに十歳の時から婚約をしてきた。
 
 エルドール子爵家の人間がこぞってミレアを虐げる中、リグレルだけはいつも気遣ってくれた。優しくしてくれた。
 彼といる時間だけが、ミレアにとって唯一心安らげる場所だった。
 
 しかしその場所は、今をもって無くなってしまった。
 
(『心から愛せる人』って、それじゃあ私のことは心から愛してくれていなかったのね。リグレル様のことを、私はお慕いしていたのに……)
 
 深緑の瞳から涙がこぼれ落ちる。
 震える体と一緒に、金色の長髪が揺れた。
 
「隠してもすぐに分かるだろうし、今言うよ。相手はリルンだ」

 リルンという名を聞いても、ミレアはあまり驚かなかった。
 むしろ、やっぱりか、という気持ちすらある。
 
 リルンはミレアの一つ歳下、十六歳の妹だ。
 
 くりくりとした琥珀色の瞳に、腰まで伸びている美しい真紅の長髪をしている、とんでもない美少女。
 そんなリルンは両親の寵愛を一心に受け、とても甘やかされて育ってきた。
 
 それが影響してか、リルンは非常にワガママで傲慢な性格をしている。
 周囲の人やモノ、その全てが、自分を光り輝かせるためのアクセサリーとしか思っていない。
 少しでも興味があれば、人の物でもお構いなしに奪い取ってくる。
 
 ミレアはそれを、身をもって体験してきた。
 アクセサリー、ドレス、ミレア付きの使用人――これまでリルンに奪われてきたものを数えたらキリがない。
 
 婚約者のリグレルも、同じようにしてリルンに奪われてしまったのだろう。
 
「謝って済む話じゃないけど、本当にすまなかった」

 謝罪したリグレルは、懐から金貨を三枚取り出した。
 それをミレアの手のひらに載せ、そっと握らせる。
 
「少ししかないけど、迷惑料だ。受け取ってほしい。……それじゃあね」
「……」

 ミレアは何も言わなかった。
 
 恨みつらみ、泣き言。
 言いたいことはいくらでもあった。
 
 しかしそれらを言ったところで、リグレルの心は戻らない。
 そう思うと、言葉にする意味がないような気がした。
 
(こんな酷い人のこと、早く忘れてしまうのが一番よね)
 
 ミレアは何も言わず、レグルトン邸を出て行った。
 
 
 車窓に映る夕日をボーっと眺めながら、馬車で揺られること三十分。
 フィルリシア王国王都、エルドール子爵家の屋敷に、ミレアは戻ってきた。
 
 馬車から降りたミレアは、まっすぐに邸内の食堂へと向かった。
 大きな両扉を押し開け中へと入る。
 
「今日もリルンは可愛いな」
「えぇ、本当に。とは大違いだわ」
「嬉しいです!」
 
 食堂では、両親とリルンが夕食を食べていた。
 食卓テーブルに座りながら、三人仲良く会話をしている。
 
 しかしミレアが入ってきたことで、食卓テーブルの会話はストップ。
 和気あいあいとしていた三人は、一斉に怪訝そうな表情になる。
 
「何をしに来た」

 父がギロリと睨みつけてくる。
 親の仇でも見ているかのようなその視線は、おおよそ娘に向けるものでない。
 
「お前の夕食の時間はまだ先だろう。間違えたのか?」

 十年ほど前からずっと、ミレアはひとりで食事をとっている。
 理由は、「お姉様が睨みつけてくる」とリルンが言ったからだ。
 
 しかし、ミレアはそんなことをしていなかった。
 全てはリルンの嫌がらせによる、まったくの出まかせだった。
 
 だが、両親はリルンの言い分真に受けた。
 ミレアがどんなに違うと言い張っても、信じてくれなかった。
 
 それ以来ミレアの食事の時間だけが、二時間ほど後にずらされるようになったのだ。
 
(もう十年も続いているのに、今さら食事の時間を間違えるわけないじゃない)

 ミレアには別の目的があった。
 三人が座る食卓テーブルへと、足を進めていく。
 
「お話があって来ました。先ほど、リグレル様から婚約破棄を言い渡されました」

 チラッとリルンを見ると、彼女は嬉しそうにニヤニヤ笑っていた。
 
 熱いものがせり上がってくるが、グッとこらえる。
 
 ここで手を上げれば、暴行を働いた罪として衛兵に突き出されるだろう。
 ミレアを衛兵に突き出すことに、両親は何の抵抗もないはずだ。
 
 もし暴行罪が立証されれば、懲役刑が下る可能性がある。
 こんなことのために、牢に入りたくはなかった。
 
「レグルトン子爵家との縁談が無くなった今、私に価値はありませんよね?」

 レグルトン子爵家は、エルドール家よりもずっと大きな権力を持っている。
 
 婚姻によってレグルトン子爵家とのパイプを繋ぐ。
 それが、エルドール家の狙いだった。
 
 しかし、レグルトン子爵家三男であるリグレルとの縁談は、先ほど無くなった。
 今のエルドール家にとって、ミレアは無価値だろう。
 
「お前に価値が無いのは、今に始まった話ではないがな」

 父がそう言うと、食卓テーブルの三人は楽しそうに吹き出した。
 
 娘を無価値と言って笑う、両親と妹。
 最低な光景だが、ミレアは表情一つ変えなかった。
 こうやって罵倒され嘲笑されることには、もう慣れている。
 
「それで、話はそれだけか? 終わったならとっとと出て行け!」
「いいえ、まだです」

 怒声を浴びせてきた父に対し、ミレアは首を横に振る。
 
「私はここを出て、エルドール家とは無関係に生きていきたいんです。ですから、絶縁状にサインをして下さいませんか」

 それは、ずっと前から思っていたことだった。
 
 家族に人間扱いされず、使用人の仕事や帳簿つけなどの書類仕事を強制される日々。
 そんな毎日に、ミレアはずっと嫌気が指していた。
 
 それでもここに居続けたのは、リグレルと別れたくなかったからだ。
 
 でもそれも終わった。
 リグレルに婚約破棄されたことで、ミレアがここに居る理由は無くなったのだ。
 今は一刻でも早く、最低な家族と関係を切りたい。
 
 一瞬の間を置いた後、三人は再び楽しそうに笑った。
 
「魔法も使えなければ特技もないお前など、すぐに野垂死ぬぞ。それに、金も一切渡すつもりはない。本当に良いんだな?」
「構いません」

 笑い混じりの父の言葉に、ミレアは迷うことなく頷いた。
 
「良いだろう。絶縁状は今晩中に用意してやる。だから、明日中にこの家から消えてくれ!」
「承知しました。では、失礼いたします」

 軽く頭を下げて、ミレアは食堂を去って行く。
 
「お姉様がどんな末路を迎えるか楽しみだわ!」
「きっとろくでもないわよ」
「そうだな。あいつは無価値な人間だからな! ワハハハ!」

 背中越しに大盛り上がりしている中、ミレアも嬉しそうに口角を上げていた。
 
 嫌な思い出しかないこの家と縁が切れる。
 そう思うと、嬉しくてたまらなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】侯爵令嬢ガブリエラの災難な結婚 ~ふわふわ王太子に見初められたので婚約破棄を目指します!

三矢さくら
恋愛
【完結しました】ガブリエラはヴィラーグ王国の侯爵令嬢。突然、王太子アルパードから結婚の申し入れをされる。 だけど嬉しくない。なぜならヴィラーグ王国では三大公爵家の権勢が絶大。王太子妃は王家にも比肩する勢力の三大公爵家から輩出するのが慣例で、ガブリエラが王太子妃になれば実家のホルヴァース侯爵家がいじめ潰されてしまう。 かといって光栄な申し入れを断っても王家への不敬。それもお家断絶につながりかねない。 やむなく一旦は婚約するけれど、愛する実家を守るためどうにか穏便に婚約破棄しようと、ガブリエラの奮闘がはじまる。 しかし、アルパードの誰もが見惚れる美麗な笑顔と、まるで子供のように純粋な瞳。そして、アルパードがなぜ自分を選んだのか、その驚くべき理由を知ったガブリエラは、次第にアルパードに惹かれてしまい――。 ガブリエラとアルパードの初々しい恋は、王位継承を巡る陰謀、隣国との複雑な駆け引き、さらには権謀渦巻く国際謀略の渦へと呑み込まれてゆく。 華麗で重厚な王朝絵巻を舞台に、優雅で可憐で個性豊かなご令嬢キャラが多数活躍する、実は才色兼備で文武両道の猫かぶり令嬢ガブリエラが軽快に駆け抜ける、異色の異世界恋愛外交ファンタジー。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

【完結】婚約破棄された令嬢リリアナのお菓子革命

猫燕
恋愛
アルテア王国の貴族令嬢リリアナ・フォン・エルザートは、第二王子カルディスとの婚約を舞踏会で一方的に破棄され、「魔力がない無能」と嘲笑される屈辱を味わう。絶望の中、彼女は幼い頃の思い出を頼りにスイーツ作りに逃避し、「癒しのレモンタルト」を完成させる。不思議なことに、そのタルトは食べた者を癒し、心を軽くする力を持っていた。リリアナは小さな領地で「菓子工房リリー」を開き、「勇気のチョコレートケーキ」や「希望のストロベリームース」を通じて領民を笑顔にしていく。

秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。 完結が確定しています。全105話。

追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~

放浪人
恋愛
公爵令嬢セラフィナは、異母妹イゾルデの策略により、婚約者である王子アラリックから「悪役令嬢」の汚名を着せられ、婚約破棄と同時に辺境への追放を宣告される。絶望の中、彼女を待ち受けていたのは、冷酷無比と噂される「氷の辺境伯」カシアンとの政略結婚だった。死をも覚悟するセラフィナだったが、カシアンは噂とは裏腹に、不器用ながらも彼女を大切に扱い始める。戸惑いながらも、カシアンの隠された優しさに触れ、凍てついた心が少しずつ溶かされていくセラフィナ。しかし、そんな彼女たちの穏やかな日々を、過去の陰謀が再び脅かそうとする。果たしてセラフィナは、降りかかる不遇を乗り越え、カシアンと共に真実の愛と幸福を掴むことができるのか? そして、彼女を陥れた者たちに訪れる運命とは――?

処理中です...