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【3話】新たなお仕事
しおりを挟む艶めく銀色の髪に、ルビーのように美しい真紅の瞳。歳はミレアより、少し上だろうか。
脅威から助けてくれた男性は、これまでに見たこともないような美丈夫だった。
そんな彼は、ミレアをじっと見て顔を赤くしている。
「お顔が赤いようですが、どうかされましたか?」
「いや、えっと……何でもない。気にしないでくれ」
ははは、と男性はわざとらしい笑い声を上げた。
「それより、そのびしょ濡れの服を何とかしないといけないな。早く風呂に入って着替えないと、風邪をひいてしまうぞ。家はこの近くか?」
「いいえ。私、この辺りの者ではないのです」
「……そうか」
困った顔をする男性。
口を結び、しばらく考えるような素振りをしたあと、パッと口を開いた。
「それなら、俺の家に来るといい。ここから近いんだ」
「よろしいのですか! 助かります!」
十日以内に仕事を見つけなければならない今の状況で、風邪をひいて時間を無駄にしたくない。
男性の提案は何ともありがたいものだった。
「気にするな」
まったく嫌味のない優しい顔で、男性は笑った。
その笑顔が、ミレアを大きく安心させる。
まだ出会って数分しか経っていないというのにそう思えてしまうのは、何だか不思議な感覚だった。
「行くか」
ミレアが来た道とは違う方向に、男性は歩いていく。
なんでも、早く抜けられる抜け道のようなものを知っているらしい。
「森のこと、とてもお詳しいのですね」
「ここにはよく散歩に来るんだ」
ポツポツ話しながら十分ほど歩くと、森から出ることができた。
抜け道というだけあって、かなり短い時間で済んだ。
そこからさらに十分ほど。
シルクットの入り口付近に建つ、二階建ての一軒家に到着する。
そこが男性の家だった。
「入ってくれ」
「お邪魔します」
ペコリと頭を下げ、家の中に入る。
「風呂場は一階の突き当りだ」
「ありがとうございます」
トランクケースから着替えを取り出したミレアは、リビングを抜けバスルームへ向かった。
「良い湯加減だわ」
程よい温度の湯船につかり、ホッと一息。
びしょ濡れで冷えていた体が、じんわりと温まっていく。
十分に体を温めて、ミレアは湯船から上がった。
体を拭き、着替えとして持ってきた白いワンピースドレスを着用。
バスルームを出て、リビングへ向かう。
(色々お世話になってしまったわ。きちんとお礼を言わなくちゃ)
リビングでは、食卓テーブルに座った男性が、ティーカップに口を付けていた。
そこへ向かったミレア。
深く頭を下げてお礼を言おうとしたのだが、その前に男性の口が開いた。
「コーヒーは飲めるか?」
男性の対面には、もう一つティーカップが置かれていた。
中に入っているコーヒーが、湯気を上げている。
ミレアのために用意してくれたのだろう。
気の利く優しい人だ。
ミレアがコクンと頷くと、男性は小さく微笑んだ。
「良かった。とりあえず座ってくれ」
「はい」
男性の対面に腰を下ろしたミレアは、深く頭を下げる。
「危ない所を救っていただいただけでなく、お風呂まで貸していただき本当にありがとうございました。……えっと」
顔を上げたミレアは困り顔になっていた。
恩人である男性の名前を聞いていなかったことに、今更になって気づく。
「まだ名乗っていなかったな。俺はラルフだ」
「ミレアと申します」
「この辺りの者ではないと言っていたが、観光で来たのか?」
「実はその、私、家出してきまして……。ここへは今日到着したばかりなんです」
「……すまない。悪いことを聞いてしまった」
申し訳なさそうな顔で、ラルフが謝ってきた。
ミレアは慌てながら「謝らないで下さい!」と、ぶんぶん手を振る。
何一つ悪くない彼にそんな顔をさせてしまったのを、申し訳なく感じる。
少しの間を置いた後、ラルフが再び口を開く。
「これからどうするつもりだ?」
「宿を借りながら、仕事を探してみようと思っています」
「残念だが今の時期、この街の宿は全て埋まっているぞ」
今の時期は、国をまたいで商売を行う行商人の繫忙期になっているらしい。
シルクットの街は彼らにとって休憩するのに都合がいい場所にあるそうで、毎年この時期になると宿の空きが無くなってしまうそうだ。
(嘘でしょ……私、これからどうしたらいいのよ)
事情を知らなかったミレアにとって、それは完全なる不意打ちだった。
頭が真っ白になってしまう。
「おい、大丈夫か?」
「……ご、ご心配なく」
震え声で呟く。
そう言ってみたものの、なにも大丈夫ではなかった。
計画が崩されたことによるいっぱいの不安が、頭を覆いつくしていく。
「問題しかないようだな」
小さくため息を吐いたラルフは、瞳を瞑り考え込むような顔をした。
少しして、すうっと瞳が開く。
「君、家事はできるか?」
「はい、家でやっていたので一通りはできます。ですが、それが何か?」
家事ができたところで宿は借りられない。
ラルフの質問の意味がまったく分からなかった。
「一つ提案がある。俺は今、家事をしてくれる人を欲しているんだ。ここには使っていない部屋があるし、君が良ければ住み込みで家事をしてくれないだろうか?」
「え、いいんですか!?」
両手を机について、興奮気味に席を立ちあがる。
宿と仕事。
ミレアの抱えていた問題を一気に解消してくれるような、何とも素晴らしい提案だった。
「ぜひお願いします!」
「これからなよろしくな、ミレア」
「本当にありがとうございます!」
差し出されたラルフの手を、ミレアは両手でギュッと握る。
窮地を救ってもらっただけでなく、宿と仕事の面倒まで見てくれる。
そんな彼に、ミレアは心から感謝していた。
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