2 / 18
【2話】青血閣下
しおりを挟む「ブルーブラッド家の当主とリトリアが契約結婚することはお前も知っていたよな、アリシア?」
「……はい」
ブルーブラッド公爵家の当主――ルシルは、多額の金を支払うことを条件に、妻の役割を演じてくれる人を募集していた。
それに選ばれたのが、リトリアだったという訳だ。
「しかしリトリアは、嫁入りを直前にして死んでしまった。このままでは、せっかくリトリアを選んでくれたブルーブラッド家に申し訳が立たない」
(……嘘つき。ブルーブラッド家のことなんて考えていない癖に)
アリシアは心の中でため息を吐く。
ダートンが考えているのは、金のことだけだろう。
シーラの散財が主な原因で、フィスローグ家には金がない。
そんな状況で、大量の金が入る契約結婚の話が成立しそうになった。
しかし嫁入りを目前にして、リトリアが病死してしまった。
このままでは、契約結婚は白紙。
そうなれば当然、入ってくるはずの金も貰えなくなってしまう。
ダートンが心配しているのは、恐らくそんなことだろう。
「そこで私は、こう提案した。『リトリアには、一つ年下の妹がおります。もしよろしければ、代わりにしてはどうでしょう』とな。その提案を、ブルーブラッド家は受け入れてくれたのだ」
「早い話が、あんたは死んだ姉の代わりってことよ」
シーラの口の端がにんまりと上がる。
「せいぜい捨てられないように頑張るのね。あの、青血閣下様に!」
ここ、ラードリオ王国で大きな権力を持つブルーブラッド公爵家。
その家の当主であるルシルは二十四歳と若いながらも、きわめて優秀な人物と言われている。
しかし、人格面にはかなり難があると有名だ。
他人に対して厳しく、どこまでも容赦がないらしい。
心を壊された人間が、これまでに何人もいるとか。
冷酷非道なその所業から、ルシルに流れている血は赤色でななく青色と言われている。
それが青血閣下という悪名の由来だ。
「話は以上だ。分かったのなら、早くこの部屋から出ていけ」
「……失礼します」
ソファーに座る二人に頭を下げ、応接室を出たアリシア。
通路の壁際にある窓から、青い空を見上げる。
「お姉様。私、頑張ります。だから、見ていてくださいね」
アリシアの嫁ぎ先は、青血閣下の悪名を持つルシル。
どんな酷い扱いを受けるか分からない。それを想像すると怖くもなる。
けれどアリシアは、精いっぱい頑張ろうと決めた。
見守ってくれているはずのリトリアに、弱気なところを見せて心配させたくはない。
******
嫁ぎ話を受けてから一週間後。
辺境のフィスローグ家から馬車に揺られること数時間、アリシアは王都にあるブルーブラッド公爵邸に到着した。
「大きい……!」
ブルーブラッド公爵邸は、それはもう大きな屋敷だった。
こんなにご立派な屋敷は、生まれてこの方見たこともない。
(今日から私は、ここで暮らすことになるのね。……少し緊張してきたわ)
そんなことを思いつつ馬車を降りると、執事服を着た男性が出迎えに来てくれた。
「お待ちしておりましたアリシア様。こちらへどうぞ。ルシル様のもとへご案内いたします」
執事服の男性の案内で、屋敷の中に入ったアリシア。
価値のありそうな絵画や彫刻が多数飾られている幅広の通路を、緊張しながら歩いていく。
階段を上がり、二階の突き当りにある大きな部屋。
その部屋の前で、執事服の男性が足を止めた。
「ルシル様はこちらの応接室におります」
「ありがとう」
「それでは、私はこれにて失礼いたします」
執事服の男性は一礼すると、その場を去っていった。
一人になったアリシアは、コンコンと扉をノック。
どうぞ、という男性の声が聞こえてきたので、応接室の中へと入る。
部屋の中はとても広々とした空間が広がっていた。
フィスローグ家の応接室よりも、何倍も広い。
中央にあるソファーには、若い男性が座っていた。
艶めく黒色の髪に、深い青色の瞳。
キリっとした、恐ろしく整っている顔立ち。
ソファーに座っているのは、そんな、とんでもない美丈夫だった。
(この人がルシル様ね……)
いっさい隙の無い外見からは、他人に厳しそうな感じがひしひしと伝わってくる。
青血閣下という名に、ピッタリの外見をしていた。
ルシルの目の前まで歩いていったアリシアは、「アリシアと申します」と自己紹介。
深く頭を下げる。
(いきなり、帰れ、なんて言われたらどうしよう……)
相手はあの、青血閣下。
どんな暴言が飛んできてもおかしくはない。
ソワソワしながら、アリシアは第一声を待つ。
「姉を亡くして辛いだろうに、よく来てくれた。ありがとう」
飛んできたのは、暴言とは正反対。
優しさに溢れた労いの言葉だった。
341
あなたにおすすめの小説
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
エリザは恋について考えていた
通木遼平
恋愛
「シューディルくんのこと好きじゃないなら、彼に付きまとうのはやめてほしいの」――名前も知らない可愛らしい女子生徒にそう告げられ、エリザは困惑した。シューディルはエリザの幼馴染で、そういう意味ではちゃんと彼のことが好きだ。しかしそうではないと言われてしまう。目の前の可愛らしい人が先日シューディルに告白したのは知っていたが、その「好き」の違いは何なのだろう? エリザはずっと考えていた。
※他のサイトにも掲載しています
出ていけ、と言ったのは貴方の方です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
あるところに、小さな領地を治める男爵家がいた。彼は良き領主として領民たちから慕われていた。しかし、唯一の跡継ぎ息子はどうしようもない放蕩家であり彼の悩みの種だった。そこで彼は息子を更生させるべく、1人の女性を送りつけるのだったが――
※コメディ要素あり
短編です。あっさり目に終わります
他サイトでも投稿中
【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
『』カクヨムにも、投稿しています。
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?
buchi
恋愛
家の都合で決められた婚約者の扱いがひどい。招待状は無視する、学園では目も合わさない。メガネっ子の私になんか、関心がないんだと思っていました。それならいっそ解放して欲しいものです。と、思っていたら、婚約者は真実の愛を求めてパーティ会場で婚約破棄! でも、事情もあったみたい。元婚約者には幸せになって欲しい。私、彼の真実の愛探しを一生懸命お手伝いしました。知り合いのご令嬢も紹介しましたのよ? だのに強硬に再婚約を迫られて大弱り。一度婚約破棄されたら戻すのなんか至難の業。母だって、私のために他の縁談を探してますし、彼の友達だって私に親身になって寄り添ってくれたり。これはそんな私たちの愛と友情(と下心)の物語です! 12万字くらい。58話。単純な恋愛物語です。
【完結】1王妃は、幸せになれる?
華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。
側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。
ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。
そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。
王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる