生まれ変わったら幸せになりたいと願った不運な女は、何故か猫の王子様のペットになっていた。

刹那玻璃

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始まりの章

人間の身体って結構丈夫……な訳はない。

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 飛ばされた……ぶつかった痛みもあったけれど、結構飛ばされた空中の時間が思ったより長くて、地面に落ちたら痛いだろうなぁと思った。

 ダーン! ドン、ドン!

 全身がアスファルトに叩きつけられた。
 3回も地面にぶつかったのは、かなりの速度で車が走ってきたのだろう。

「……うぅっ!……」

 痛いなぁ……。
 でも、猫は大丈夫だから……。
 全身骨折、打撲……だよねぇ……。

 身動きもできない多岐たきは呻くが、

「な、ななな、何やってんだ! テメェ! 飛び出すんじゃねぇ! 俺の愛車、どうしてくれる!」

と言う声が聞こえ、大きくバックする音の後、多岐の横を通り過ぎていった。

「この酔っ払いが! 俺の車を傷つけただけでも許せねぇ! そのまま死ね!」

 遠ざかって行く罵る声が聞こえるが、何とか動く指を伸ばす。

「……にゃんこさん、は……大丈、夫……かな……」

 喉の奥から何かが溢れる。

 ゴホッ!

血が口の中一杯になる。
 吐き出さないと……呼吸ができない……。

 死んじゃうんだろうなぁ……周囲は公園と駐車場。
 それに、もう動けないし……。

 あぁ、こんな世界にいるより、生まれ変わったら、幸せになりたい。

 せかせかと働き続け、上司には馬鹿だアホだと罵られ、彼氏にはお堅いんだよと振られて、家族にはATM扱い。

 もう頑張りたくない。

 ニャァ……

次第に視界も見えにくくなってきてる。

 でも、やってきたのは、あの銀色の毛の仔猫。
 瞳は青。

「無事?……乱暴、になげ、て……ご、めんね? でも、にゃんこさん……駄目、だ……よ、飛び出しちゃ……」

 伸ばした指で足を撫でる。

「飼い主……さん、がいるなら……お帰り……心配、なって……お迎え……ゴホッ……」

 血を吐く。

「あり……が、とう……一人で死なずに、済んだわ……生まれ、変わったら、幸せ……に、なり……」

 目を閉ざす。
 そして、頑張って動いていた心臓が動くのをやめた。
 最後にゆっくりと息を吐いた。



 如月多岐きさらぎたき……この瞬間、多岐の情報は全てこの世界から抹消された。
 倒れている女性は、身元不明の女性となり……皆、覚えていないのだった。

 彼女の母方は、水の一族の末裔だったことも……。
 名前の『多岐』は『滝』を指すことも。



 仔猫だった存在が、靴だけ邪魔なので捨て、多岐のバッグの中身を全て持って走り去ったのだった。
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