7 / 72
第一章
day.7
しおりを挟む
諏訪に許嫁がいたなんて。
確かに、いてもおかしくはないご身分なのかもしれねぇけど……。
ってか、言っとけよ!!
驚きのあまり、諏訪の顔をバッと見上げる。
しかし、次の瞬間には、グッと頭を押さえ込まれ、顔を胸に押し付けられた。
傍から見れば、ただ抱き締めているような姿勢に見えるのだろうが、多分、今は俺の質問に答える気がないのだろう。
「理由ですか?それは、単純なことです。純也を愛しているからですよ。」
ゾワッと全身に鳥肌が立った。
諏訪の口から“愛”とかいうパワーワードが出てくるなんて、夢にも思わなかった。
それが段々とおかしくなってきて、プッと吹き出しそうになるのを、必死で堪える。
だが、それとは裏腹に、小百合さんの表情は、益々険しいものになっていった。
「そんなはずありませんわ!こんな金髪でチャラそうな、まして女性ではなく男性なんて!どう考えても、冬悟さんと不釣り合いです!」
「不釣り合いかどうかは俺が決めます。そもそも、小百合さんは純也のこと、何も知らないでしょう?」
アンタも俺の何を知っているっていうんだ、と心の中でツッコミつつ、黙って静観に徹する。
俯いた小百合さんは、暫く黙っていたが、やがて、何かを決意したように、震える拳をギュッと握り、真っ直ぐな視線で諏訪を射貫いた。
「…わかりました。そこまで仰るのでしたら、私自身で、この方が本当に冬悟さんに相応しいかどうか、見極めさせていただきます。」
「なっ…!?」
珍しく動揺した諏訪を、小百合さんはスッと目を細めて睨みつける。
「愛し合っておいででしたら、何の問題もないかと思いますが?それとも、本当は嘘を吐いておられるんですか?」
「…いや。何も問題はない。」
諏訪は平静を取り戻し、いつも通り淡々と答えた。
それを聞いた小百合さんはクルッと踵を返し、コツコツと扉の方に向かっていき、出ていく前にピタッと足を止める。
そして、こちらに振り返った。
「それでは、純也さん、明日からよろしくお願いいたします。」
敵意の含んだ目を細め、小百合さんはこの部屋を出て行ってしまった。
その背中をぽかんと見送った後、バッと諏訪の腕から逃れ、絶叫した。
「何が問題ないだ!問題だらけじゃねーか!どうすんだコノヤロー!!」
さすがの諏訪も困ってしまったようで、眉間に深く皺が刻まれている。
はあっと溜息を吐き、来客用のソファを指差した。
「取りあえず、座れ。状況を説明する。」
どうやら、ここにきて諏訪家のお家騒動に巻き込まれてしまったみたいだ。
面倒クセェことになったなと、内心で頭を抱えつつ、ドカッとソファに腰かけた。
だが、慣れないソファに落ち着かなくて、そわそわしていると、コトッと目の前に緑茶が置かれた。
それからは、湯気がモクモクと出ている。
お茶を淹れてくれた諏訪が、隣にドサッと腰かけた。
「先に言っとくけど、俺は別にここに来たくて、来たわけじゃねぇからな。」
怒っているのかと思い、ちらっと諏訪の顔を盗み見る。
だけど、その表情は、怒っているわけではなさそうだが、いつもより疲れているように感じた。
「…わかっている。どうせ、睡眠薬か何かを嗅がされて、強制的に連れてこられたんだろう?まだ実家に結婚の報告をした覚えはないのだが、どこかから耳に入ったのだろうな。」
眉間に皺を寄せたまま、目頭を強く押さえ、はあぁっと深く溜息を吐いた後、諏訪はポツリポツリと話し始めた。
「…先程いた女は、西園寺 小百合。名家のお嬢さんで、あの女が言っていた通り、彼女は祖母が決めた俺の許嫁だ。」
「お祖母さんが決めたんだ?」
ふぅふぅと熱いお茶を冷ましながら、ズズッと啜る。
「そうだ。」
「ふぅん。でも、その小百合さんと、結婚したくなかったんだろ?そしたらさ、お祖母さんにそう言えばよかったんじゃねぇの?」
諏訪はその表情を僅かに曇らせ、少しだけ俯いた。
長い睫毛が、僅かに揺れる。
「…それは無理だ。」
「何で?」
「無理なものは無理だ。」
膝の上に置いてあった手をギュッと強く握り、固く目を閉じた諏訪からは、強い拒絶の色が滲み出ていた。
今はこれ以上、踏み込むべきではないのかもしれない。
咄嗟にそう判断した俺は、話題を変える。
「……そっか。で?小百合さんと結婚したくなかった理由は?別に彼女のこと、嫌いなわけじゃないんだろ?」
「…人を好きだとか嫌いだとかは、正直よくわからない。ただ、あの女といると、息が詰まる。それだけだ。」
その言葉で、ずっと引っかかっていたものが、すとんと腑に落ちた。
だからか。
先程諏訪が口にした、“愛している”がやけに薄っぺらく聞こえたのは。
「俺といるのは?」
は?という視線を寄越してきたので、小百合さんは息が詰まるなら、俺はどう?と改めて聞いてみる。
すると、ほんの少しだけ間があったが、すぐに答えが返ってきた。
「お前といるのは楽だ。別に気を遣う必要もなければ、愛想を振り撒く必要もないからな。」
これはどう捉えるべきなのだろうか。
俺のことは全く眼中にないから、空気みたいだって思われているのか。
それとも―。
はぁ~、やめた、やめた!
考えても答えが出ないことを、考え続けるのは、性分じゃない。
「そりゃどうも。よし、こうなった以上、俺も日常を守るため、小百合さん撃退法を練らねぇとな!」
確かに、いてもおかしくはないご身分なのかもしれねぇけど……。
ってか、言っとけよ!!
驚きのあまり、諏訪の顔をバッと見上げる。
しかし、次の瞬間には、グッと頭を押さえ込まれ、顔を胸に押し付けられた。
傍から見れば、ただ抱き締めているような姿勢に見えるのだろうが、多分、今は俺の質問に答える気がないのだろう。
「理由ですか?それは、単純なことです。純也を愛しているからですよ。」
ゾワッと全身に鳥肌が立った。
諏訪の口から“愛”とかいうパワーワードが出てくるなんて、夢にも思わなかった。
それが段々とおかしくなってきて、プッと吹き出しそうになるのを、必死で堪える。
だが、それとは裏腹に、小百合さんの表情は、益々険しいものになっていった。
「そんなはずありませんわ!こんな金髪でチャラそうな、まして女性ではなく男性なんて!どう考えても、冬悟さんと不釣り合いです!」
「不釣り合いかどうかは俺が決めます。そもそも、小百合さんは純也のこと、何も知らないでしょう?」
アンタも俺の何を知っているっていうんだ、と心の中でツッコミつつ、黙って静観に徹する。
俯いた小百合さんは、暫く黙っていたが、やがて、何かを決意したように、震える拳をギュッと握り、真っ直ぐな視線で諏訪を射貫いた。
「…わかりました。そこまで仰るのでしたら、私自身で、この方が本当に冬悟さんに相応しいかどうか、見極めさせていただきます。」
「なっ…!?」
珍しく動揺した諏訪を、小百合さんはスッと目を細めて睨みつける。
「愛し合っておいででしたら、何の問題もないかと思いますが?それとも、本当は嘘を吐いておられるんですか?」
「…いや。何も問題はない。」
諏訪は平静を取り戻し、いつも通り淡々と答えた。
それを聞いた小百合さんはクルッと踵を返し、コツコツと扉の方に向かっていき、出ていく前にピタッと足を止める。
そして、こちらに振り返った。
「それでは、純也さん、明日からよろしくお願いいたします。」
敵意の含んだ目を細め、小百合さんはこの部屋を出て行ってしまった。
その背中をぽかんと見送った後、バッと諏訪の腕から逃れ、絶叫した。
「何が問題ないだ!問題だらけじゃねーか!どうすんだコノヤロー!!」
さすがの諏訪も困ってしまったようで、眉間に深く皺が刻まれている。
はあっと溜息を吐き、来客用のソファを指差した。
「取りあえず、座れ。状況を説明する。」
どうやら、ここにきて諏訪家のお家騒動に巻き込まれてしまったみたいだ。
面倒クセェことになったなと、内心で頭を抱えつつ、ドカッとソファに腰かけた。
だが、慣れないソファに落ち着かなくて、そわそわしていると、コトッと目の前に緑茶が置かれた。
それからは、湯気がモクモクと出ている。
お茶を淹れてくれた諏訪が、隣にドサッと腰かけた。
「先に言っとくけど、俺は別にここに来たくて、来たわけじゃねぇからな。」
怒っているのかと思い、ちらっと諏訪の顔を盗み見る。
だけど、その表情は、怒っているわけではなさそうだが、いつもより疲れているように感じた。
「…わかっている。どうせ、睡眠薬か何かを嗅がされて、強制的に連れてこられたんだろう?まだ実家に結婚の報告をした覚えはないのだが、どこかから耳に入ったのだろうな。」
眉間に皺を寄せたまま、目頭を強く押さえ、はあぁっと深く溜息を吐いた後、諏訪はポツリポツリと話し始めた。
「…先程いた女は、西園寺 小百合。名家のお嬢さんで、あの女が言っていた通り、彼女は祖母が決めた俺の許嫁だ。」
「お祖母さんが決めたんだ?」
ふぅふぅと熱いお茶を冷ましながら、ズズッと啜る。
「そうだ。」
「ふぅん。でも、その小百合さんと、結婚したくなかったんだろ?そしたらさ、お祖母さんにそう言えばよかったんじゃねぇの?」
諏訪はその表情を僅かに曇らせ、少しだけ俯いた。
長い睫毛が、僅かに揺れる。
「…それは無理だ。」
「何で?」
「無理なものは無理だ。」
膝の上に置いてあった手をギュッと強く握り、固く目を閉じた諏訪からは、強い拒絶の色が滲み出ていた。
今はこれ以上、踏み込むべきではないのかもしれない。
咄嗟にそう判断した俺は、話題を変える。
「……そっか。で?小百合さんと結婚したくなかった理由は?別に彼女のこと、嫌いなわけじゃないんだろ?」
「…人を好きだとか嫌いだとかは、正直よくわからない。ただ、あの女といると、息が詰まる。それだけだ。」
その言葉で、ずっと引っかかっていたものが、すとんと腑に落ちた。
だからか。
先程諏訪が口にした、“愛している”がやけに薄っぺらく聞こえたのは。
「俺といるのは?」
は?という視線を寄越してきたので、小百合さんは息が詰まるなら、俺はどう?と改めて聞いてみる。
すると、ほんの少しだけ間があったが、すぐに答えが返ってきた。
「お前といるのは楽だ。別に気を遣う必要もなければ、愛想を振り撒く必要もないからな。」
これはどう捉えるべきなのだろうか。
俺のことは全く眼中にないから、空気みたいだって思われているのか。
それとも―。
はぁ~、やめた、やめた!
考えても答えが出ないことを、考え続けるのは、性分じゃない。
「そりゃどうも。よし、こうなった以上、俺も日常を守るため、小百合さん撃退法を練らねぇとな!」
15
あなたにおすすめの小説
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
専属バフ師は相棒一人しか強化できません
風
BL
異世界転生した零理(レイリ)の転生特典は仲間にバフをかけられるというもの。
でもその対象は一人だけ!?
特に需要もないので地元の村で大人しく農業補佐をしていたら幼馴染みの無口無表情な相方(唯一の同年代)が上京する!?
一緒に来て欲しいとお願いされて渋々パーティを組むことに!
すると相方強すぎない?
え、バフが強いの?
いや相方以外にはかけられんが!?
最強バフと魔法剣士がおくるBL異世界譚、始まります!
【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜
なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」
男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。
ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。
冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。
しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。
「俺、後悔しないようにしてんだ」
その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。
笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。
一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。
青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。
本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる