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第ニ章
day.38
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伸ばされた冬悟の手は、優しく俺の背中をさすり始めた。
その予想外の行動に、何が起きているのか理解できず、俺は目を見開いて固まった。
「…すまない。よく我慢できたな。もう大丈夫だ。気持ち悪いなら我慢するな。それともどこか痛むのか、純也?」
心配そうに覗き込まれ、思わずビクッと肩を震わせた。
いや、ちょっと待て。
今、何て言った?
「えっ…?」
「おい、純也、しっかりしろ。気持ち悪いなら、我慢せずに出せ。」
…やっぱり、純也って言ってるよな。
あれ?
もしかして、バレてる??
「あのっ、オr、僕、人違いです。」
なんとか誤魔化そうとしたけれど、まったく手応えがない。
はぁっと小さく溜息を吐きながら、それでも冬悟の手は、変わらず俺の背中をさすり続けてくれていた。
「下手な芝居はもうしなくていい。腹は痛くないか?」
……完全にバレてる。
お腹は元々痛くなかったから、コクッと素直に頷いた。
それに、驚きのあまり、さっきまでの吐き気もどこかへ消えてしまったようだった。
「気持ち悪いのも、今はちょっと落ち着いたかも。ってか、なんで俺だってわかったんだよ!?」
観念して素に戻すと、冬悟は俺の様子を探るような、それでいて呆れたような視線を向けてくる。
「純也は純也だろう?」
「どう見たって今、別人だろ!?」
一体、冬悟には俺がどう見えているんだ?
でも、バレていたことで、ひどく安心したのも事実だ。
“俺”を心配して、ここに来てくれた。
そのことがわかった瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。
視界も、鮮やかに色付いていった。
「別人?…まぁ、いい。落ち着いたなら、戻るぞ。」
そう言うと、冬悟はパッと俺から手を離し、そっぽを向いてしまった。
…これはもしかして、相当怒ってるかも。
冬悟はトイレの外に人がいないことを確認し、ドアを開ける前に、俺の方を一瞥した。
「純也。今のお前は周の部下ということらしいな。だから、俺はあまり構ってやれんが、周の側から絶対に離れるなよ。」
「うん…。」
今はまだ、この世界には太刀打ちできないってわかった。
だから、誰かに守ってもらうしかないんだと痛感している。
それに、今の冬悟、めちゃくちゃ怒ってる。
怖くてこれ以上、逆らう勇気なんて出なかった。
ここは黙って従う以外の選択肢は、存在しなかった。
冬悟の後ろに従い、再び華やかな会場へと戻る。
冬悟が側にいてくれるだけで、先程のような緊張感はもうない。
俺達の姿に気付いたのか、周さんが足早にこちらへやって来た。
それと入れ替わるように、冬悟は何も言わず、すっと俺のもとを離れていった。
「奥サマ、大丈夫でしたカ? 私がついておきながら、怖い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでしタ。」
周囲に聞こえないよう、そっと囁かれる言葉に、周さんもまた心配してくれていたのが伝わってきた。
「大丈夫です。心配かけて、ごめんなさい。」
平気だというようにニコッと笑いかけると、ほっと安心したように胸を撫で下ろした。
「すみません、社長にはご挨拶に伺った際に、既に奥サマをお連れしたことがバレてしまっておりましテ…。面目ないでス。」
あの時には、もうバレてたんだ。
じゃあ冬悟は、一体いつから気付いていたんだろう。
「そして、社長からあまり離れるなと仰せつかってしまいましたので、後ろからついていきましょうカ。」
「はい…。」
俺は周さんの後ろについていきながら、ちらっと冬悟の様子を伺う。
冬悟はやっぱり、こういう場には慣れているみたいで、振る舞いがとてもスマートだ。
…カッコいいな。
って、あれ?
今、冬悟と話してる奴は、さっき俺に余計な噂を吹き込んできたアイツじゃねぇか!?
何平然と話してんだよ!?
こういうのって、この世界じゃよくあることなのか?
もう、何を信じていいのかもわからなくなってきて、人間不信になりそうだ。
今回の経験で、今はまだ、冬悟の隣に立てるレベルじゃないってことを、痛い程に思い知らされた。
近くにいるのに、遠くに感じるアイツの背中がやけに眩しくて、俺は目を細めて見つめることしかできなかった。
こうして、豪華客船パーティーへの潜入は、苦々しい記憶となって終わっていった。
帰りは、周さんに送ってもらい、家に着いた。
ガチャと玄関のドアを開けると、既に冬悟は帰ってきていたようで、冷ややかな視線が出迎えてくれた。
「ただいま…。」
「漸く戻ったか、純也。それで?お前が何故あんな場所に居たのか、説明してくれるんだろうな?」
今回ばかりは、逃がしてはくれなさそうだ。
その予想外の行動に、何が起きているのか理解できず、俺は目を見開いて固まった。
「…すまない。よく我慢できたな。もう大丈夫だ。気持ち悪いなら我慢するな。それともどこか痛むのか、純也?」
心配そうに覗き込まれ、思わずビクッと肩を震わせた。
いや、ちょっと待て。
今、何て言った?
「えっ…?」
「おい、純也、しっかりしろ。気持ち悪いなら、我慢せずに出せ。」
…やっぱり、純也って言ってるよな。
あれ?
もしかして、バレてる??
「あのっ、オr、僕、人違いです。」
なんとか誤魔化そうとしたけれど、まったく手応えがない。
はぁっと小さく溜息を吐きながら、それでも冬悟の手は、変わらず俺の背中をさすり続けてくれていた。
「下手な芝居はもうしなくていい。腹は痛くないか?」
……完全にバレてる。
お腹は元々痛くなかったから、コクッと素直に頷いた。
それに、驚きのあまり、さっきまでの吐き気もどこかへ消えてしまったようだった。
「気持ち悪いのも、今はちょっと落ち着いたかも。ってか、なんで俺だってわかったんだよ!?」
観念して素に戻すと、冬悟は俺の様子を探るような、それでいて呆れたような視線を向けてくる。
「純也は純也だろう?」
「どう見たって今、別人だろ!?」
一体、冬悟には俺がどう見えているんだ?
でも、バレていたことで、ひどく安心したのも事実だ。
“俺”を心配して、ここに来てくれた。
そのことがわかった瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。
視界も、鮮やかに色付いていった。
「別人?…まぁ、いい。落ち着いたなら、戻るぞ。」
そう言うと、冬悟はパッと俺から手を離し、そっぽを向いてしまった。
…これはもしかして、相当怒ってるかも。
冬悟はトイレの外に人がいないことを確認し、ドアを開ける前に、俺の方を一瞥した。
「純也。今のお前は周の部下ということらしいな。だから、俺はあまり構ってやれんが、周の側から絶対に離れるなよ。」
「うん…。」
今はまだ、この世界には太刀打ちできないってわかった。
だから、誰かに守ってもらうしかないんだと痛感している。
それに、今の冬悟、めちゃくちゃ怒ってる。
怖くてこれ以上、逆らう勇気なんて出なかった。
ここは黙って従う以外の選択肢は、存在しなかった。
冬悟の後ろに従い、再び華やかな会場へと戻る。
冬悟が側にいてくれるだけで、先程のような緊張感はもうない。
俺達の姿に気付いたのか、周さんが足早にこちらへやって来た。
それと入れ替わるように、冬悟は何も言わず、すっと俺のもとを離れていった。
「奥サマ、大丈夫でしたカ? 私がついておきながら、怖い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでしタ。」
周囲に聞こえないよう、そっと囁かれる言葉に、周さんもまた心配してくれていたのが伝わってきた。
「大丈夫です。心配かけて、ごめんなさい。」
平気だというようにニコッと笑いかけると、ほっと安心したように胸を撫で下ろした。
「すみません、社長にはご挨拶に伺った際に、既に奥サマをお連れしたことがバレてしまっておりましテ…。面目ないでス。」
あの時には、もうバレてたんだ。
じゃあ冬悟は、一体いつから気付いていたんだろう。
「そして、社長からあまり離れるなと仰せつかってしまいましたので、後ろからついていきましょうカ。」
「はい…。」
俺は周さんの後ろについていきながら、ちらっと冬悟の様子を伺う。
冬悟はやっぱり、こういう場には慣れているみたいで、振る舞いがとてもスマートだ。
…カッコいいな。
って、あれ?
今、冬悟と話してる奴は、さっき俺に余計な噂を吹き込んできたアイツじゃねぇか!?
何平然と話してんだよ!?
こういうのって、この世界じゃよくあることなのか?
もう、何を信じていいのかもわからなくなってきて、人間不信になりそうだ。
今回の経験で、今はまだ、冬悟の隣に立てるレベルじゃないってことを、痛い程に思い知らされた。
近くにいるのに、遠くに感じるアイツの背中がやけに眩しくて、俺は目を細めて見つめることしかできなかった。
こうして、豪華客船パーティーへの潜入は、苦々しい記憶となって終わっていった。
帰りは、周さんに送ってもらい、家に着いた。
ガチャと玄関のドアを開けると、既に冬悟は帰ってきていたようで、冷ややかな視線が出迎えてくれた。
「ただいま…。」
「漸く戻ったか、純也。それで?お前が何故あんな場所に居たのか、説明してくれるんだろうな?」
今回ばかりは、逃がしてはくれなさそうだ。
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