【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第三章

day.64

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次の日から、新学期が始まった。
久々の大学で、久々に浩二と会った。

「よっす、純也。今年は全然会わなかったけど、元気にしてたっぽいな。」

左手を軽く上げて挨拶する浩二に、俺も挨拶し返す。

「はよ。あの時はサンキューな。マジで助かった。」

今年の夏休みはずっと、バイトか冬悟と一緒に過ごしていたから、浩二とは2回しか会っていなかった。
しかも、その内1回は、俺が風邪を引いた時に、呼び出して来てもらったやつだ。

「はぁ~あ。とうとう純也が全然遊んでくれなくなったな~。どうせ、ず~っと諏訪さんに夢中だったんだろ~なぁ~。俺寂し~な~。」

机にダラッと上半身を倒しながら、ニヤニヤしてくる浩二を、軽く睨みつける。
だけど、図星のため、強く言い返せない。

「全然寂しくなんてねぇくせに、よく言うぜ。浩二だって、小百合さんと遊んでたんだろ?」

それでも、なんとか言い返そうとして、反撃すると、浩二の顔が突然、しょんぼりしてしまった。
絶対に惚気られると思っていた俺は、予想外の反応に困惑する。

「えっ……と?まさか、あれからあんまり進展なかったのか?」

しょんぼりから、どんよりに変わってしまった浩二の雰囲気に、流石の俺もオロオロしてしまう。

「えっ??嘘だろ!?だって、この前は仲良く花火大会行ったって、言ってたじゃねーか!?」

「………それがさ、その後は全然よかったんだけど、ここ1週間くらい、急に忙しくなったからって言われて、全然会ってももらえないし、連絡も返ってこなくなったんだよね………。これってさ、どう考えても、もう脈ナシってことだよな………?」

「そんなことねぇよ!!」

思わず大声で否定するも、周囲からの痛い視線に、一旦口を閉ざした。
小声でコソコソと話しを再開する。

「んなわけねぇだろ!?しかも、たかだか1週間だろ!?小百合さんも社会人だから、いろいろあって忙しいだけだって!冬悟だって、忙しそうな時あるしさ!」

「たかだかって、言うけどなぁ。お前だって、諏訪さんと1週間も離れられないだろ?」

「ゔっ……。」

「それに、お前らはさ、一緒に住んでるから、お互いの状況がわかるけど、俺はわからねぇからさ……。LINNEだって、最近は既読スルーはおろか、未読が多いし………。その、上手く言えねぇけど、何かいつもと感じが違うのが、不安なわけよ。」

な、なんてこった!!
こんなにベコベコにヘコんでいる浩二なんて、今まで見たことがねぇ!
なんとか元気付けてやりたいけど、今は下手したら、傷口に塩を塗るだけになるかもしれないし。
どうしよう……。

ただ、ここ1週間くらいってのが、ちょっと引っかかる。
それって、冬悟の様子が変わった時と、丁度同じ頃だしな。

でも、ただの偶然かもしれない。
だけど、もし、偶然じゃなかったら?

「そっか……。わかった。俺、浩二の分までがんばるからな!」

「いや、何をだよ。」

はぁ?と疑問を浮かべている浩二を余所に、俺は内心で、冬悟の口を割らせるべく、気合いを入れた。




今日の講義を全て受け終え、帰り道を歩きながら、冬悟にどうやって抱えている問題を聞き出すかを考えていた。

だけど、今回も今回とて、当人からは聞き出せる自信はない。

それに、もしその内容が、俺が力になってあげられないことだったら?
その場合、どうやったら、冬悟を支えてあげられるんだろう―?

うーんと思考を巡らせていると、ふと真正面でイチャついているカップルが、目に入ってきた。
そのカップルの彼女が、彼氏の頭をなでなでしている。
頭を撫でられている彼氏は、嬉しそうにして、彼女に甘えていた。

こ、これだ!!

妙案を思いついた俺は、ダッシュで家に帰っていった。




決行するのは、冬悟甘やかし作戦!
普段は俺が冬悟に甘やかされているから、今日は、俺なりに冬悟を目一杯甘やかしてみることにする。

ちゃんと晩飯を用意して、冬悟が帰ってくるのを待つ。
すると、カチャっと静かに玄関のドアが開く音が聞こえてきた。

「冬悟、おかえり!」

いつも通り、パタパタと走って出迎え、ぎゅっと抱きつく。

「…ただいま。」

そして、いつも通り、優しく抱き締めてくれる冬悟が、いつものように、俺にキスしてくれるよりも早く、冬悟の鼻頭に口付ける。
すると、冬悟の瞳孔が、驚いたように見開かれた。

「へへっ。飯できてるから、一緒に食おーぜ!あ、鞄持ってってやるよ!」

よっ、と冬悟の手から鞄を奪い、いつも置いてあるところに持っていく。

「スーツも脱ぐの手伝うな!」

タタッと戻ってきて、ぽかんとしている冬悟のスーツにそっと手をかけると、脱ぐんじゃなくて、逆にギュッと着込まれてしまった。

「いや、いい。…飯の用意を頼む。」

スーツを脱がすのは拒否られたが、めげない。
一緒に晩飯を食い終わり、いつもは冬悟がしてくれている皿洗いも、いいから座ってろよ!と言って、俺がした。

神妙な面持ちをしながらも、ソファで寛いでいる冬悟の隣にすとっと座ると、それに気が付いた冬悟は、おいでと甘い視線をくれる。
飛びつきたいのは山々だが、今日は違うんだ。
スッと手を伸ばし、ぐるんと俺に背中を向けるようにして、冬悟を横に向けた。

「純也?」

何故背中を向けさせられているのかわからない冬悟は、戸惑っているようだ。
そんな冬悟の肩を、よっと揉んでいく。

「あ~、お客さん、だいぶ肩凝ってますね~。」

「??………まぁ……な?」

突然始まった肩揉みサービスに、冬悟はただただ困惑していた。
だけど、特に説明もしないまま、背面のマッサージを続ける。

「他に凝ってるとこ、ないですか~?」

「…おい。」

こちらに振り返ろうとする冬悟を、振り向かせないように制する。

「いいから、ちゃんと前向いてろよ!」

「…わかったから、肩はもういい。ちょっと寝転がらせろ。」

すると、なにやら諦めたのか、背中を上にしたまま、ソファにごろんと横になった。

「…腰。」

「腰ッスね~!お任せくださ~い!」

そうやって巫山戯ながらも、体だけでも楽になってもらいたくて、真剣にマッサージしていく。

時々、その広い背中にくっつきたくなるのを、必死で堪えた。

結局、なんだかんだで、冬悟が気持ちよさそうにしてくれていたことに満足した俺は、その後のお風呂でも、洗ってやるよ!と提案したのだが、これは頑なに断られた。

その後も、身体拭いてやるよ!だの、水飲むだろ?だのと、あの手この手で甘やかそうとするも、全て断られてしまった。

………ぜ、全然甘やかすことができねぇ!!

上手くいったのって、マッサージだけじゃん!
それ以外は、撃沈じゃねーか!!

ずーんっと沈んでいる俺の背後から、静かにスッと腕が伸びてきたかと思ったら、ふわっと抱き締められる。

「…純也、今日は一体どうしたんだ?」

そして、ゔーっとヘコんだ俺の機嫌を取るように、チュッと頬にキスをくれる。

このままでは、冬悟の温もりを背中に感じた俺の方が、甘えたくなってしまう。

だが、その後、そっと覗き込んできた冬悟の、その優しくも困惑した眼差しを直視していられなくて、視線を落としてしまった。

俺、何やってんだろ……。
甘やかす筈が、困らしちまってる。

「…純也。」

何も言わない俺に、もう一度、答えを促すように、優しく名前を呼ばれる。
観念した俺は、抱き締めてくれているその腕に、きゅっと手を添えた。

「俺………今日は冬悟を甘やかしたかったんだ。」

「………………は?」

「だからっ!俺は、冬悟を甘やかしたかったんだってば!!」

そう叫んでみるも、後ろにいる冬悟が固まっているのが、顔を見ずとも手に取るようにわかる。

「…お前が?俺を?甘やかすだと??」

漸く絞り出された声は、戸惑っているのか、少し上擦っていた。

「そうだけど…。」

「……それで、ジャケットとマッサージはお前が考えたんだろうが、それ以外は、普段俺がお前にしてやっていることを、真似てみたんだな。」

冬悟は1人で勝手に納得していたけど、俺はこの結果に納得できない。
添えていた手に力を込め、ぎゅっとその腕にしがみついた。

「なぁ、やっぱり……冬悟は俺に甘えてくれねぇの?」

しおしおとヘコたれながら、冬悟の方を力なく見上げると、冬悟は困ったように、少し顔をしかめた。

「甘えるというのは………その、慣れていないものでな。」

「なぁんだ!だったら、全然大丈夫!俺が慣らしてみせるから!冬悟は、俺を真似して甘えてみて!」

ぱっと笑って、期待満々の眼差しで見つめる。
すると、暫く黙っていた冬悟は、観念したように、ふうっと息を吐いた。

「…お前の真似……か。それなら―。」





ベッドの上で、いつも通り、2人で抱き合って寝る態勢に入る。
だけど、いつもと違うのは、冬悟の方が、俺の腕の中にいることだ。

「えへへっ。」

これならいいと、さっき冬悟から言われ、早速試してみた。
いつもは俺が冬悟の腕の中にいるのだけれど、こっちも意外と悪くない。

だって、抱き締めてあげられるから―。

ゆっくりと冬悟の頭を、愛おしく撫でていく。
冬悟も気持ちよさそうに、目を閉じてくれている。

「たまには、こういうのも悪くねぇだろ?」

「…俺は、お前に甘えられる方が、落ち着くのだがな。」

目を閉じたまま、そう答える冬悟に、くすっと笑ってしまった。

「そのうち慣れるって。」

少しの間、こうしていると、冬悟がすりっと俺の額に自身の額を擦り寄せてきた。
そのまま、鼻先同士がちょんと触れ合う。

冬悟が甘えてくれた!

嬉しさを噛み締めていると、間近にある冬悟の口元が、そっと緩んだ気がした。

「…お前が側にいると、安心する。」

「えっ?」

聞き返した瞬間、耳元で規則正しい寝息が聞こえてきた。

覗き込んだその寝顔は、とても穏やかな表情をしている。
その寝顔に、そっと触れた。

「俺も。俺も冬悟が側にいてくれると、すっげえ安心するんだぜ。俺達、一緒だな。」

俺が冬悟を安心させてあげられていることが、こんなにも嬉しいことだなんて、初めて知った。
俺のことを、ちゃんと必要としてくれているみたいで、じんわりと心が満たされていく。

その綺麗な黒髪を梳くように、頭をなでなでした後、額におやすみのキスを落とした。

だけど、肝心の悩み事については、何も話してくれなかったな。
小百合さんも変だっていってたし、もしかして、あの人なら、何か知っているかも―?
だけど、できれば会いたくはないんだけどなぁ……。

あ、そうだ!いるじゃん、もう1人知ってそうな人が!

そんなことを考えながらも、腕の中にいる冬悟の体温が心地よくて、すぐに俺も夢の中へと誘われていった。
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