虹かけるメーシャ

大魔王たか〜し

文字の大きさ
16 / 69
異世界フィオール

16話 始まりの勇者

しおりを挟む
 メーシャは謁見の間に入ると澄ました顔のまま王座の前まで進み、指先でスカートを摘み軽く膝を曲げてお辞儀をした。
 その後顔を上げて背筋を伸ばしアレッサンドリーテ王の顔をまっすぐ見る。振る舞いが求められているはずだ。

「…………」

 そしてヒデヨシはいつの間にかメーシャの後方で騎士さんたちと一緒に待機していた。

「……よくぞ参った、ウロボロスの勇者と名乗る者よ。我こそ"ピエール・ド・アレッサンドリーテ"……この国の王だ」

 白髪混じりだがダークブラウンのの髪と髭、ストレスだろうか目は落ちくぼみ、身に着けている宝石が散りばめられた王冠やシルクでできた真紅のマント、座している豪奢な椅子とはばちがいなほどくたびれた印象だ。
 その有り様から年老いて見えるが、実際は年齢は30代半ばから後半くらいだろうか。

 ドラゴン=ラードロの根城が国内にあるというプレッシャーなのかそれとも他の要因なのか、何してもアレッサンドリーテ王の精神状態は限界であるのが容易に伝わってくる。


「……が真実であれば我が自ら出向きそなたを出迎えるべきであろうが、なにぶん夢であるがゆえに真実であるという証拠がない。
 それに、今はドラゴン=ラードロ軍と戦争状態でな…………彼奴らの罠の場合もしが居なくなればこの街の全ての民の命が危険にさらす事となる。……使いを遣ったこと、どうか許してくれ」

 表情を動かさずに王は語る。
 防壁を出す魔法は王族であれば発動できるはずだが、王は『余が居なくなれば』と言う。つまり、王族に名を連ねるヒトは現在アレッサンドリーテ王自身しか居ないと言う事だろうか。

「かまいません、私も街の様子を見ておきたいと思っていましたから。……それで、私を呼んだ理由をお聞きしてもよろしくて?」

 メーシャは少しツンっとしたカンジの澄ました表情を作って答える。……が、内心『ちょっと待って! 今の演技めちゃウマくね!? 会心の出来なんだけど~! こんなんママが見たら絶対にクルクル回りながら喜んでくれるし~』と考えているのはみんなに内緒である。

「不躾で申し訳ないが、時間を取らせるのも悪いから単刀直入に言わせて頂こう。そなたが誠の勇者であるか試させてもらう。もし真実であるならばドラゴン=ラードロ打倒にそのチカラを貸して欲しい。そして…………」

 そこまで言ってアレッサンドリーテ王は握りしめた拳を口元に持っていき、思い詰めた表情で押し黙ってしまう。

「……そちらがこの戦いにおける本懐ほんかいですわね?」

 メーシャの言う通りアレッサンドリーテ王はその目的さえ達成できれば、もうドラゴン=ラードロ打倒などどうでも良かった。だが、王は乱心では無かった。
 確かにドラゴン=ラードロは国にとって国民にとって大きな脅威である。その相手を『どうでも良い』などと思えるのには理由があるのだ。

「………………そうだ。言うか迷ったのだが…………ああ、そうだ。本音を言えばドラゴン=ラードロを倒すことも、金も、国も、兵や国民…………余の命すらも惜しくはない! ……半年前ドラゴン=ラードロに我が娘"ジョセフィーヌ"は奪われたのだ! 余は何もできなかった……! 防壁は確かに発動し邪神軍の攻撃は防いでくれた。
 ……だが! 本当に守りたいものは守ってくれやしなかったのだ!! ドラゴン=ラードロはいとも簡単に防壁を潜り抜け、なに食わぬ顔で騎士や余の魔法を喰らい尽くし、ジョセフフィーヌを奪い去っていった…………。
 ああ…………本当なら今日……ジョセフィーヌ10歳の誕生日パーティーを開いていたはずだったのだ。あの子が喜ぶ……プレゼントも、既に用意しているのだ。
 報酬ならいくらでもくれてやる……! 金でも権力でもなんでも!!
 だから…………だから、あの子を……ジョセフィーヌを救ってくれ……! 本当にウロボロスの勇者ならどうか…………余の希望をとりもどしてくれ!!」


 アレッサンドリーテ王は嗚咽おえつを漏らし、ついには涙を流して声をしぼり出すようにメーシャに懇願こんがんした。
 まだメーシャは本物の勇者か、ただの詐欺師か、敵のスパイかも分からない相手。なのにもかかわらず、ここまで必死に訴えかけるのは本当に限界なのだろう。

 メーシャも小さい頃はよく街に冒険に出かけ、夜遅くに帰っては両親には心配させてしまった。
 ある日珍しく迷子になり、なかなか帰れず結局警察が見つけてくれた事があったのだが、その時のパパやママの表情はいまだに忘れることができない。寂しさや悲しさ、いきどおり、嬉しさ、安堵、色々な感情が入り混じっていたが、何よりいつも元気なふたりがその時ばかりは疲れてすごく弱々しく見えたのだ。
 そんなふたりの姿を見て悲しくなり、メーシャはそれ以降無茶な冒険はしなくなった。


「……すまない、取り乱してしまった。今のは為政者としてあるまじき発言であったな…………もう、今日は休ませてもらう。話は通してあるから後のことは騎士に聞いてくれ………………」

 アレッサンドリーテ王は憔悴しょうすいしきってふらふらの状態でメーシャの横を通り過ぎていく。
 そんな王の姿に両親を重ねてしまいそうになるメーシャ。だが王は両親ではないし、自分は助けられる子どもでもない。代わりに、王は民を導く存在であり、メーシャはウロボロスからチカラを授かり、世界を救うと決めた勇者なのだ。

「──待ちなさい」

 メーシャは呼び止める。

「なんだ……」

「王たるもの民を導き、守り、最後まで責任をまっとうする者であるが故に先の発言は確かに為政者しては絶対に言ってはいけない言葉。……ですが、ジョセフィーヌをおもうピエールとしての悲痛な叫びは受け取りました」

「…………」

「ピエールよ、嘆きの時間は終わりました。今日は眠り、明日よりアレッサンドリーテ王になりなさい。
 この勇者いろはメーシャがドラゴン=ラードロを討ち倒し、必ずや王女ジョセフィーヌを助けると約束しましょう……!」

 メーシャは言い切った。
 連れ去られたのが半年前なら無事だとは言い切れない。が、邪神軍がその時危害を加えなかったということは命を奪うことが目的ではないはずだ。今後もいつ状況が変わるか分からないが希望が無いわけではない。

 それに、メーシャの思い描く勇者ヒーローは必ずやり遂げる。難しくても、辛くても、必ず間に合い、必ず目的をやり遂げるからヒーローなのだ。

「…………ふははっ。言ってくれる」

 生気の感じられない王の瞳に微かな火が宿る。本人はまだそれに気付かず、全てを受け入れられる状態ではないかもしれない。しかし、少なくとも倒れず踏ん張る気力は取り戻せたようだ。

「……ウロボロスはその身をいしずえとし何も無き世界に実りをもたらしたという。それ故にウロボロスのチカラはあらゆるモノと繋がり循環する。精神となり、命となり、魔法となり、奇跡となり勇気となる…………その変容するチカラを手に入れた勇者に出来ぬことはない。そして、ウロボロスの勇者はヒトを英雄に変える。
 …………故に、人はこう呼んだと」

「それは?」

「ただの昔話だ。いつ頃から伝わるものかも分からぬほど昔の、な。きっと色をつけ都合の良いように捻じ曲がったモノだろうな。でもな、先ほどのそなたの目を見た時……ふと思い出してな。……ではな、いろはメーシャ。余は明日から忙しくなるので、先に休ませてもらうぞ」

 王は先ほどとは違い、立ち去るその歩みは力強いものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...