ハーレム帝国ハレムンティア 〜最強フェロモン使いは、ギルドを追放されたのでハーレム帝国を建てることにしました〜

大魔王たか〜し

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第一章

第一話 俺はジョージ・ハレムンティアだ!

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 ここはフェドロ王国。
 フェドロ王は市民には高い税を課し苦しい生活をさせ、己はぜいの限りを尽くす暗君である。そして、反発する者や都合の悪い存在は武力によって弾圧するという暗黒の地である。

 そして、その悪虐は世界100ヵ国による不可侵を約束されいるはずの"神聖リーズン教会"も例外ではなかった──。


 ●     ●     ●


 フェドロ王国はずれにある森。
 町の殺伐さつばつとした雰囲気を忘れさせてくれる穏やかな場所のはずだったが、今日ばかりは騒がしいと言わざるを得なかった。

「──はぁ、はぁ、はあ……!」

 白と金の法衣をまとう金髪碧眼へきがんの若い女性が、枝や岩に衣服が引っかかるのも構わず慌てながら走っていた。神聖リーズン教会の聖女だ。

「ウガー!!!」

 ──バキボキバキボキ!!

 咆哮と共に木々がなぎ倒される音が森中に響き渡る。

 頭に角が生え、サメのような牙を持つ3mもある人喰い鬼"オーガ"だ。聖女はオーガから逃げていたのだ。

「きゃー!?」

 聖女は飛んでくる丸太を髪の毛一本分のところでなんとか回避したが、その勢いで体勢を崩して転倒してしまう。
 白い法衣はもはや泥まみれで、フェドロ王国に誇りを汚されたリーズン教会の現状を思わせた。

「ガルガル……!」

   一体のオーガが唸ると、茂みからさらに二体のオーガが現れた。

「グルル……」

「ゴフゴー」

 オーガは言葉を持たない。だが、鳴き声の意味は聖女にも理解できた。

「私を食べる気ですね……!」

 本来聖女は聖歌を詠唱して聖リーズンの神聖力を使って戦う。神聖力を使えれば目の前のオーガどころか、100体や200体くらい一瞬で消し炭にできるはずなのだ。
 だが、それは仲間が居てこそ使える技であり、守ってくれる仲間も、一時の攻撃を耐える防具も、時間稼ぎできる手段もアイテムもない今の聖女には不可能である。

「せっかくフェドロ軍から逃げられたのに……こんな所で命を落としては、リーズン様や逃がしてくれた司祭様たちに顔向けできません……!」

 聖女は砂を掴んでオーガの顔に投げつけた。

「ガフゥ!?」

 1番前にいる個体の顔にヒット。体勢を崩して後ろのオーガを巻き込んで尻餅をついてしまう。

「今のうちに逃げないとっ!」

 聖女が走り出す。
 こんなことをしても、足の速いオーガが相手では一時しのぎにしかならないかも知れない。だが、少しでもそこに希望があるならすがるしかなかった。

「ガルッフゥ……!」

「ウガーバグバグ……!」

 後続の2体が怒りのあまり牙をガチガチ鳴らし、目をひん剥いて充血させながら聖女に向かって走ってきた。
 一時の安寧。その安息は2秒も無かった。
 だが、その希望2秒が運命を分ける。

「きゃっ!?」

 何か弾力のあるものにぶつかった聖女はよろめいてしまう。そしてその瞬間。

 ──ボフっ。

 酔いそうなほどの甘い香りが聖女の鼻を通り抜ける。
 ……気絶。そう、ほんの一瞬であったが聖女は甘い香りを嗅いで気絶していた。

「ふぁ……!?」

 気付いたら聖女は地面と向かい合わせ。あと零コンマ数秒で倒れ伏してしまう。
 意識を手放したせいで足がいつの間にかもつれていたようだ。
 ここで倒れればオーガに追いつかれてしまうだろうが、聖女は絶望しなかった。
 ここまで頑張った結果がこれなら受け入れようと、リーズン様も司祭様も許してくれるだろう。そう目を閉じた時だった。

「……あれ?」

 身体が止まった。相変わらず地面は目の前にあったが、重力は変わらず聖女の身体を引っ張っていたが、それよりも強い力で、そして優しい力で身体が支えられていたのだ。

「リーズン……様?」

 思わず出た言葉はそれだったが、顔をあげるとそこには筋骨隆々で仏頂面の漢がそこに居た。

「──女ァ! 誰と勘違いしてるのかは知らねーが、俺はジョージ……"ジョージ・ハレムンティア"だ!」

 ラウンドカラーの入ったえり、金色のボタン、ビシッと決まった肩パッド、独特な艶やかさのある厚手の黒いロングコート。同じ素材でできたキッパリと折り目のついたズボンと、固く鋭いツバのついた帽子。
 そして、その服を着た状態からでも分かる、思わず叫びたくなるような美しい霊峰のような筋肉。

 そう、この渋くセクシーな声の漢前こそこの物語の主人公であり、後に千年栄華を極める『ハーレム帝国ハレムンティア』の初代皇帝となる"ジョージ・ハレムンティア"その人である!!!
 ……しかし、ジョージはまだその激動の運命が始まったことを知らない。


「ジョージ・ハレムンティア…………ふむ、名前は存じ上げないですが、確固たる意志が宿り未来を見据え我が道をくかのような黒い双眸そうぼう(ふたつの瞳のこと)を見ると、なぜだか伝説の序曲を目の当たりにしたような妙な安心感を覚えます!
 …………はっ! そんなことよりジョージさん、オーガがすぐそこまで来ています!」

 一瞬忘れかけていたが、聖女は己が置かれている状況を思い出した。

「ウガ……!」

「ウガウガ!」

「ガルフゴ!」

 オーガたちはいつの間にか3体そろってそこまでやって来ていた。
 ジョージの得も言えぬ迫力に警戒の色を強めているが、オーガたちは『待て』ができる程お利口さんではない。いつ襲ってきてもおかしくないだろう。

 だが、そんな事ジョージはつゆ知らず。

「……ふぁあ、眠ぃぜ。お日様の光が心地良すぎるんだ。……ん? 女ァ! 今俺のことをオーガって言ったか!?」

 ジョージは寝起きで頭が回っていなかった。。先ほどオーガが丸太をぶん投げて大きな音を出すまでお昼寝をしていたのだ。

「言ってません! あ、前を見て!」

 聖女が忠告するも時すでに遅し。

「だから俺はジョージ。ハレムン──」

「ガルァアア!!」

 ──ベッチーン!

 オーガの強烈なパンチがジョージの右頬に炸裂していた。

「………………」

 だが、ジョージは吹き飛ぶどころか少しのダメージも受けている様子はなかった。

「す、すごい……! あの脳まで筋肉でできていると言われるオーガの強烈なパンチを受けて1マイクロメートルも微動だにしないなんて、理性と社会性の神であるリーズン様のご意志なみに筋の通った体幹を持っているのでしょうか!? ああ、見た目以上のとんだタフガイです!!」

 聖女が目の前の光景に思わず涙を流してしまう。
 一度気絶してまだ少しまどろんでいるのか、それとも切に望んだ希望が確信に変わり有頂天になっているのか、少なくとも聖女が少しハイになっているのは確かだった。

「…………ったく、今日は騒がしい日だぜ。今日はのんびり昼寝でもしようとおもったんだがな、そんなに遊びてえなら…………いいぜ! 相手してやる!!」

 ジョージがカッと目を見開いた。

「ガゥ……!?」

 オーガたちはジョージの気迫に一瞬圧倒され、即座に距離をとって威嚇し始めた。

「ふんっ……本気をだすまでもないな。じゃあ、ひとつ分でカタをつけてやるぜ」

 ジョージはそう言うと、ツヤのある黒いロングコートの襟を閉じていた金色ボタンをプチッと開け放つ。

「ひとつ分……何かの魔道具を使用するのでしょうか?」

 聖女がジョージの一挙手一投足を固唾かたずを飲んで見守る。襟を開けたのは戦いやすくするためだろうか? しかし、その期待は裏切られた。

「──喰らえ、俺の!!」

「フェロモン!?」

 ──ズドバァ──ンッ!!!!!

「「「ガルッフグォアアア!!?」」」

 首元からあふれ出した空気の塊のようなモノが、ロケットランチャーよろしくすさまじい勢いで発射されオーガを吹き飛ばした。

「えぇ……?」

 聖女は状況が飲み込めずに困惑していた。爆風によってベールが吹き飛び、髪の毛もボサボサになっているのも気付かないほどに。

「……スッキリしたぜぇ!」

 ポカンとしている聖女とは裏腹に、ジョージは春の木漏れ日くらい爽やかな笑顔だった。そして、静かになった森にジョージの笑顔くらい爽やかな風が吹く。

「……あれ、また甘い香り。気のせいじゃなかったんですね」

 風に運ばれた甘い香りが聖女の鼻をくすぐった。

「……ん? もしかしてこの香りって……」

 香りのようで香りでない。不思議な甘い香りには嗅ぎ覚えがあった。

「俺のフェロモンだ」

「では、さっきの攻撃時に言っていた言葉は……」

「フェロモンだな。動物がナワバリを作る時にフェロモンを残して他のヤツらを遠ざけるだろ? それでオーガには遠くに行ってもらったぜ」

「遠ざける? もっと物理的に吹き飛んだようにしか見えませんでしたが、強すぎるフェロモンを受けたオーガが無意識的に遠ざかったということ……? でも、いや、あれ?」

 ジョージの言葉を受けて聖女はより混乱してしまう。

「おっと、そろそろここを離れるとするか……」

 ジョージが慣れた手つきでボタンを閉め直すと、いつの間にか座り込んでいた聖女に手を伸ばした。

「そろそろ?」

「ちょっと、フェロモンが強すぎたみたいだ」

「強すぎた? それってどういう……ああ」

 ジョージの手を借りて立ち上がった聖女は、周りを見回して状況を察した。

「ブルヒヒ……♡」

「ガウン……♡」

「キュイーン……♡」

 そこにはイノシシやオオカミ、シカなどの野生動物たちが目をハートにして茂みから顔を出していた。
 ジョージのフェロモンを嗅いで惚れちまったのだろう。どんどん動物が集まってくる。

 そう、ジョージ・ハレムンティアは生きとし生けるものをにする最強のフェロモンの持ち主だったのだ……!


「理由は知らねえが、あんた追われてんだろ? 来な」

 ジョージが親指で行く方向を示し、聖女について来るよう促す。

「……あ、どこに行かれるんですか?」

 一瞬戸惑った聖女だったが、自分1人では心許ないのとジョージが悪い人ではなさそうなのでついて行くことにした。

「俺の所属するギルドの仲間のところだ。近くに拠点を作ってある」

 ジョージが少し誇らしげに語る。良い人たちなのだろうか。

「どんな方々なんですか?」

「俺は失踪した親父を探しているんだが、なかなか手がかりがつかめなくてな。困り果てているところをあの人たちが、『一緒に探そう』と拾ってくれてよ。半年の仲だが、もうみんな兄弟姉妹みたいなもんだぜ」

 ジョージは少し照れくさそうにそう言った。

「素敵な方々ですね。きっとこの先も良い関係が続いて行くんでしょう」

「そうなるといいな。……おっと、そう言えば名前を聞いてなかったな。俺はジョージ。ハレ──」

「それは先ほど聞きました……! こほんっ。私はリーズン教会唯一にして最高の加護をたまわる聖女"アメリア・リーズン"です」

 リーズン教の聖女になると、家名の縛りから外れて代わりに"リーズン"の姓をたまわるのだ。

「よろしくな、アメリア」

「こちらこそです、ジョージ様。少しの間厄介になります」

 ふたりは軽い握手を交わし、また拠点に向けて歩み始めた。


 ●     ●     ●


 そしてしばらく歩いていると、古いほったて小屋を利用した一時拠点が近付いてきた。

「……着いたぜ。心配するな、リーダーのルーカスはおせっかいなヤツだから、多少アメリアが面倒ごとを抱えていても受け入れてくれるはずさ」

 そうアメリアを気遣いながらジョージがドアを開けるや否や、怒りや悲しみの混じったような複雑な叫び声が出迎えた。

「──帰ってきたなジョージ・ハレムンティア! 単刀直入に言う、お前をこのギルドから追放する……!!!」


「なんてことだ、ちくしょう! 俺、また何かやっちまったのかぁッ!?」

 聖女であるアメリアを連れて仲間の元に帰ってきたジョージに、ギルド追放という青天の霹靂へきれきのごとき通告がなされたのだった。


 
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