62 / 69
62.最小編成
しおりを挟む
「「おおよど」、こちら魚釣島。」
レシーバーにバリトンの声が低く響く
「魚釣島、こちら「おおよど」広田。送れ」
広田は、タブレットを左手に持ちかえて神経質そうにヘッドセットのマイクを口元に寄せる。45歳という割には皺のない広い額が、陽光を反射する。
「今、長官と代わります。そのままお待ちください。」
ハウリングに近い雑音に一瞬顔をしかめた広田だが、長官に取り次がれるとあっては、不用意にヘッドセットを外す訳にはいかない。そんな我慢も束の間、ヘッドセットを外す間もなく、河田の声が凛と響く。
「御苦労。河田だ。」
「ハッ。広田です。」
反射的に背筋を正した広田が次の言葉を待つ。百戦錬磨の元自衛官を中心に組織された河田達の集団にあって、広田は珍しく軟弱に見えた。それもそのはず、広田は、長年研究開発を主体の業務についていたのだった。彼は主にシステム構築に携わってきたことから、河田と共に海上自衛隊のCICシステムをハッキングすることが可能な「鷹の目」を開発したのだった。
「鷹の目」は彼らの現役時代の知識と密かに入手した試作品による産物であり、最新のイージス艦のようなリンク16には対応していないが、現在、彼らが完全に「電子的な支配下」に置いている護衛艦「あさゆき」が搭載しているリンク14は、まさに赤子の手を捻る様な容易さだった。
「中国艦隊が25分後には領海を侵犯する。3号作戦として政府に警告を発したが政府は毅然とした対応を取れないだろう。よって、4号作戦へ進む可能性は極めて高い。しかし、先に警告した通り、乗っ取られた「しまかぜ」が,そちらに接近中だ。沈めてもいい。とにかく今後1時間は、「あさゆき」の「電子的支配」を死守して欲しい。」
河田の命令は、いつも腹に落ちるように染み渡る。状況、内容、そして目的、注意点。全てを適度に伝えてくれるからだ。だから、河田の「死守せよ。」には、自分の意味を見出すことができる。普通の指揮官ならば、「「しまかぜ」を排除せよ。死守せよ。」で終わりだ。そんな命令で、なぜ?、どうして?も分からず効果的に戦えるものか。
きっとこれが最後の戦いになる。河田長官の部下で良かった。
「了解。死守します。」
ゆっくりと目を閉じて答えた広田の顔には、安らかな笑顔さえ浮かんでいた。
さあ来い。邪魔はさせん。
タブレットを置いた広田がM-16A1のチャージングハンドルを引くと金属が触れ合う小気味良い音を発して1発目がチャンバーに送り込まれた。
あとは引き金を引くだけで弾は出る。セレクターをフルオートにすれば、あっという間に弾倉(マガジン)の20発は空になる。奴らは蜂の巣だ。ジャーナリストにしては、ここまで良くやってきたが、所詮は素人だ。
水平線に突き出た針のようなマストの先端が見えた気がした。
「ったく、人使いが荒いよあな~。なんで今から訓練なんだ?今日はスクランブルに上がったんだぜ。しかも特別訓練ってなんなんだ?」
鳥谷部が溜息混じりに言う。吐く息に合わせて鼻の穴が大きく膨らんだ。
「そう言うなよ。飛ぶのは嫌いじゃないだろ?ウータン。さしずめ今日の領空侵犯のフィードバックじゃないのか?」
高山が悪戯ぽい笑みを浮かべて、鳥谷部の肩を軽く小突いた。ウータンは、鳥谷部のタックネームで、パイロットとしての渾名のようなものだ。空中では、氏名や階級ではなく、このタックネームを用いている。
「飛ぶのは好きさ。嫌いなわけないだろう。しょうもないこと聞くなよキョウジュ。お前だってそうだろ?」
「そりゃそうだ。税金で空を飛ばさせてもらってるんだ。贅沢を言っちゃいかんよ。帰ったらビール奢るからさ、機嫌直せ。」
キョウジュこと高山が、なだめるように言い、ブリーフィングルームの扉を開けた。他の隊員たちは午後の訓練に出ているため、食堂のように4人掛けのテーブルが並んだ室内には誰もいない。2人は部屋の奥にある隊長室の扉の前で立ち止まると、踵を揃えた。
「入れ」
ノックした鳥谷部に部屋の中から204飛行隊長の古橋雅人2等空佐の声が即座に返ってきた。いつものような覇気が感じられないのは気のせいだろうか?一瞬、鳥谷部は、高山と顔を見合わせる。明らかに様子が変だ。
先を促す用にドアに目線を投げた高山に、頷いてみせると、鳥谷部は、一気にドアを開けた。
「失礼します。鳥谷部、高山両2尉。特別訓練のブリーフィング願います。」
不安を打ち消すかのように思い切りよく申告する。が、向き合って立ち上がった飛行隊長、古橋2佐の表情は優れない。いつもは胸を張ってドスの利いた声でいながらおおらかな口調で部下に語りかけ、時には叱咤し、時には親父ギャグを発するその口は、硬く閉ざされてへの字に歪む。そして、俯(うつむ)き加減の表情は、健康的な彼の日常とはまるで正反対の慢性的に胃でも痛めているような人物に見えた。
「そこに座ってくれ。今、司令を呼ぶ。」
えっ?何で司令を?
2人は互いに顔を見合わせたが、古橋飛行隊長の態度が尋常でないだけに、言葉にして状況を確認することはためらった。
2人は、デザインは古く色あせているが、その艶から、よく手入れの行き届いていることがひと目で分かる応接セットに座った。
古橋は、部下達が大人しくソファーに腰掛けたのを見届けると、自分のデスクに戻って内線電話に手を掛けた。
「はい。それは私の方から。それを司令からというのは。。。いえ、はい。そうですか。。。では司令から。分かりました。お待ちしています。」
古い黒電話を流用したような重厚に黒光りする内線電話の受話器をゆっくりと戻すと。古橋は少しホッとしたような表情を漏らした。
「鳥谷部、お前、F-1時代に洋上目標の爆撃訓練をしたことは無いよな?」
古橋が、鳥谷部の向かいにゆっくりと腰掛けながら聞いた。まるで、訓練していないと言って欲しいような言い方だった。数年前に退役したF-1支援戦闘機は、三菱の設計による国産初の超音速ジェット戦闘機で、「支援」という名前でお茶を濁しているが、爆弾やロケット弾で地上を攻撃し、洋上の目標には、国産の空対艦ミサイルASM-1で攻撃する。特に、この対艦ミサイルとF-1の組み合わせは、他国も羨む装備と言われていた。F-1の後継機が、アメリカのF-16戦闘機をベースとしたF-2だと言われればその用途が分かりやすいであろう。要は、世界から見れば立派な戦闘攻撃機なのである。
鳥谷部は、そのF-1支援戦闘機部隊の「最後の若手」として、F-1の引退まで操縦桿を握った後、後継の支援戦闘機F-2部隊ではなく、空中戦専門とも言えるF-15部隊に転属となった変わり種だった。その理由が、いくつもの戦技競技会において非力なF-1でF-15を翻弄してきた空戦技術を買われた為であることを鳥谷部自身は知らない。
古橋は、そんな鳥谷部を買っている人物の1人だった。かつて、F-15で編成された敵役専門の教官部隊「飛行教導隊」のパイロットをしていた頃、演習で鳥谷部に撃墜されたことがあったのだった。鳥谷部本人は当然気づいていない。
洋上爆撃の訓練などやったことがない。
そう言ってくれ。「出来ない」と答えられる。そうすりゃ築城のF-2の出番になるかもしれん。
古橋は目を伏せたまま答えを待った。
「よくやりましたよ。ASM-1で攻撃する方がずっと現実的なんですけどね。船に引かれた目標相手によくやらされました。」
「そうか。。。」
呟くように答えた古橋の表情に苦悩が見て取れた。
「隊長。どうかしましたか?どこか痛むんですか?」
高山がいつになく元気の無い古橋を気遣い口を挟む。
「いや、大丈夫だ。司令が来たら、ブリーフィングを始めよう。」
俺は部下に不安を見透かされてるのか?こんなんでいざ実戦になったらどうするんだ?クソっ、俺は煙草が吸いたくなってきたぞ。副隊長から1本めぐんでもらうか。。。こんなんだから禁煙も上手くいかんのだっ。
古橋は、一度歯を食いしばると、フッと軽く息を吐いてから、顔を上げた。
腰を低くして加藤空幕長の元へ行き、メモを渡した紺色の制服の中年自衛官は、加藤の耳元で何か囁くと再び控え室へと踵を返した。
その部下が部屋から出るのを視界の隅で確認した加藤は、立ち上がってメモを忌々しげに一瞥すると、吐き捨てるように言った。
「那覇からF-15が2機、離陸しました。」
閣僚側の席がざわめく。
「空幕長、攻撃命令を出したまえ。」
大きな背もたれの黒皮の椅子に、ふんぞり返るように身を預け直して総理大臣が命じた。その態度が口調にも現れているようで、制服組トップとも言われる、各幕僚長の頬が引きつった。
「まだ護衛艦「あさゆき」が河田の手の内にあると決まった訳じゃありません。」
白い制服が直立する。山本海上幕僚長だった。声は怒りに震えている。
「海幕長の言うとおりです。我々としても確認出来ていない相手を攻撃させる訳にはいきません。しかも相手は海自の護衛艦です。ギリギリまで攻撃を待つことは可能なんです。結果を待ってからでも十分です。
それはそれとして、築城のF-2戦闘機8機の準備を完了しています。全機ASM-2対艦ミサイルを4発ずつ搭載しています。尖閣諸島周辺の警戒を具申します。」
再び閣僚再度にざわめきが起こった。今度は批判的な言葉も混じっているのが分かるくらい大きなざわめきだった。
「おいっ、君は何を勝手なマネしてるんだ!そんな事をして中国が黙っている訳がないじゃないか!国を潰す気かっ!」
総理大臣はテーブルを叩いて立ち上がると、加藤空幕長を射るように指差しながら怒鳴った。激しい語気に口から唾が飛んでいるのが見えるような気がしてくる。
叩かれたテーブルが、合板ではない切り出しの木材の質の良さを、硬い音でアピールしているように響く。その音に全員が反射的に背筋を伸ばす。3人の制服の男達を除いては。。。
加藤は何食わぬ顔でゆっくりと総理の方に顔を向けると、親に悪戯を見つかった子供のように頭を掻いた。が、総理に向けた顔は、とても悪戯っ子のそれではなかった。
「総理。あなたは今、我々が国を潰すと仰いましたね。
では、あなた方政治家が、今やろうとしていることはどうなんですか?航空自衛隊の戦闘機で、海上自衛隊の護衛艦を沈めろ。と仰ってますよね。沈めるべき、もとい、向かうべき相手は魚釣島への攻撃を宣言し、領海に侵入しようとしている中国艦隊じゃないんですか?
あなたは何を守りたいんですか?」
冷静に獲物を見つめて突っ込む鷹のような視線が総理大臣の宇部を射る。長年戦闘機パイロット畑を歩んできた加藤の一撃必殺の研ぎ澄ました目に宇部が一瞬怯み、ゆっくりと腰を降ろした。威厳を保ちたいためか発した宇部の咳払いが虚しく響いた。
総理が怯んだとみた海上幕僚長の山本が、すかさず立ち上がって話を被せる。
「F-2戦闘機は1機に対艦ミサイルを4発も搭載できます。そんな戦闘機は他国にはありません。築城から飛ばしてもらえば8機で32発もの対艦ミサイルを運べるんです。これは艦隊を指揮する者にとっては脅威なんです。しかも中国艦隊は5隻。当然イージスもありません。32発ものミサイルを防ぐことは到底不可能と判断するはずです。十分に牽制できます。」
一気に畳みかけられそうになった宇部は、頷きながら幕僚長達の話を聞いていた防衛大臣を睨みつけた視線を山本に戻した。背もたれに悠然と体を預けたその態度だけは、話の脈絡と関係なく総理大臣のそれだった。
「言いたいことはそれだけか?「撃たれたら」だと?なぜそんな事を中国艦隊が考えるんだ。撃たれる訳がないだろう!それどころか中国に先制攻撃の口実を与えちまうだろっ!」
出来損ないの軍人どもめ。と言い掛けた口を閉じた宇部は、態度はともかく、頭に血が上って頬が上気し、野党在民党との国会討論の時よりも乱暴な言葉遣いになっていた。野党同様に自分の言っていることを理解しない人間は敵でしかないのだ。
「お言葉ですが、軍人は、常に「撃たれたら」ということを考えて行動するのが常識です。撃たれたら終わりだからです。
我々自衛官のように専守防衛を標榜とする者達は、この点について最も敏感なのです。なぜなら、撃たれるまで反撃できないからです。現代兵器は一発必中です。撃たれたら最後、反撃もできずに壊滅する。つまり撃たれたら国を守ることが出来ないということなのです。
撃たれる前に撃つ。これが世界の常識なのです。
しかし、それが出来ないのは理解しています。ですから、我々は守り通す・本気で撃つ用意がある。という意志を示すだけでいいんです。撃たなくていいんです。F-2を出させてください。」
陸上幕僚長の山形が体型に似合わず丁寧に身振りを加えてゆっくりと諭すように語った。皺の寄る余地もないほど突っ張った深緑の制服がジェスチャーに合わせて今にも破れそうだった。
陸海空三自衛隊のトップの強弱硬軟の言葉にさすがのワンマン総理も声を落とした。
「言いたいことは良く分かった。確かに私は軍事の専門家ではない。
しかし、連絡の取れない護衛艦が現場にいて、指揮系統が河田に乗っ取られているというのが現状だ。その艦長の梅沢2等海佐は、僚艦の艦長の息子が中国の公船に撃たれたと思っているんじゃないのかね。彼は情に厚い男だと聞いている。彼の心境なら中国艦隊に対艦ミサイルを撃ちかねない。そうじゃないのかね?海幕長?」
総理は梅沢艦長の情報が載っているらしい一枚の紙を手に持ち、時には激しく振りながら再び語気を強めた。
「しかしそれは、河田の漁船から発砲されたことが判明したんですよね。」
山本が総理に目を向ける。
「その事実は、あなた方はこの場に来て初めて知った訳ですから、当然艦長は知りませんよね?」
海上保安庁長官が口を挟んだ。山本に向けられた目がしてやったりという表情に見えるのは、心のどこかで未だに両者を犬猿の仲だと思っている証拠なのか。。。
「そういうことだろ?海幕長。父親だけでなく、僚艦の艦長も艦から降ろすべきだったな。」
総理が両肘をテーブルに着いて組んだ手の上にしたり顔を載せる。
「領海侵犯をしたからといって、中国艦隊に対艦ミサイルを撃つわけにはいかんのだ。例え一方的に魚釣島に攻撃を掛けても、だ。
河田達は犯罪者だ。テロリストなんだよ。だから我が国の法を犯したから逮捕する。というスタンスを示せばそれでいいんだ。そのために中国の軍艦を攻撃するなんてもっての外だ。海保長官。説明を」
総理に指名されて立ち上がった海上保安庁長官は、得意げに咳払いをしてからスクリーンに向かって歩きながらゆっくりと口を開いた。
「河田とその一味、ここでは、その会社名から「河田水産」と呼ばせていただきますが、これまでの捜査の結果から、河田水産は、大量の武器の密輸、そしてそれを用いた当ヘリパイロットに対する殺人未遂、元陸上自衛隊員の殺害、拉致監禁、そして、魚釣島でのヘリ銃撃。不法占拠の容疑で逮捕します。現在、巡視船に武装した海上保安官50名を載せて魚釣島に向かわせています。彼らは、ゴムボートにて島を強襲。河田水産関係者全員を逮捕します。」
指し棒の先にはスクリーンに魚釣島へ向かう3隻の巡視船があった。速力は25ノット(約47km/h)で急ぐ彼らは、10ノットで進む中国艦隊よりは早く魚釣島に到着する見込みだった。
「いくら中国でも海上保安官が上陸した島に攻撃を掛けるような真似はしないだろう。
君らの考えも汲んで護衛艦への攻撃には猶予を与える。中国艦隊が領海侵犯するまでに連絡が付けば攻撃を中止する。それまでは、F-15を現場の空域に待機させてくれ。」
総理が自信に満ちた声で言う。観閲式で挨拶を述べる時の声だった。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「ありがとうございます。」
立ち上がった山本に続いて加藤、山形も立ち上がり、深々と頭を下げた。着席する音に紛れて「素人め」と呆れと怒りを込めて呟いた彼らの言葉は当然閣僚には届かない。
-ELBOW01,vector270,climb Angels10.Contact HeadQuater channel5.Read back.(エルボー01 方位260度、高度10,000フィート(約3,000m)まで上昇、チャンネル5で基地司令部と交信せよ、復唱どうぞ)-
「ELBOW01,vector270,climb Angels10.Contact HeadQuater channel5.」
-Read back is correct.Good Luck!久々の超低空飛行なんだろ?気をつけてな。-
「Thank you.ありがとうございます。行って来ます。」
先輩の管制官に感謝を伝える。彼は、超低空飛行の訓練としか伝えられていない。目的は有事の際のF-15による洋上爆撃の検証だ。鳥谷部は、隊内無線に切り替えた。
「キョウジュ、しっかりECMを頼むぜ。」
「任せとけたっぷりチャフを撒いて眼つぶししてやるぜ。ウータンは集中してくれ。」
キョウジュこと、高山の声がレシーバーに響く。
あいつ、ワザと元気いい声出しやがって。そう言うのをカラ元気って言うんだ。辛いのは奴も一緒のはずなのに。いや、奴の方が危険かもしれない。
ECM(Electronic Counter Measures)つまり電子対抗手段は、相手のレーダーや無線、電子機器などを妨害する手段で、レーダーや電子機器が欠かせない現代戦では、その攻撃とも防御ともつかない方法が、勝敗を左右する大きな要素となる。本来なら専門の機体を使用するところだが、要撃任務部隊つまり空中戦専門のF-15部隊で急遽編成された攻撃隊では、これが精いっぱいともいえた。鳥谷部、高山2機のコンビで行動し、鳥谷部が、Mk.82爆弾で護衛艦「あさゆき」を爆撃し、鳥谷部を「あさゆき」の対空攻撃から守るために、高山が「あさゆき」上空にチャフを撒いて「あさゆき」のレーダーを撹乱する。チャフは細かいアルミ箔のようなもので、レーダーの電波を反射させる。レーダーは直近で反射してくる電波を全周で捉え、真っ白になる。つまりこの場合、撹乱と言うよりも眼つぶしと言った方が分かりやすい表現だろう。しかし、電波妨害装置などの完全なECM装置を持たない「にわか作り」のこのチームは、チャフを撒くまでは、護衛艦「あさゆき」にとってはネギを背負った鴨同然だった。
何年も前の事とはいえ、洋上攻撃の経験が豊富な鳥谷部は、単機で出撃することを提案したが、却下されたのだった。却下と言うよりは、行くと言ってきかなかった高山に司令も隊長も折れたといった方が正解かもしれない。
「司令部、こちらウータン。目標をキャッチ。これより低空飛行に移る。」
鳥谷部は、自分の声が上ずらないようにいつもよりも慎重にマイクに吹き込む。声が裏返りでもすれば物笑いの種だ。飛行隊内の今年の流行語大賞になりかねない。今のところ流行語大賞の優勝候補は、鳥谷部の「王手っ!」だった。しつこく繰り返すのがコツだ。
ま、こんな状況をネタにする奴はいないだろうがな。。。なんで味方の艦を攻撃しなきゃならないんだ。あんなアルミだらけの貧弱な艦、どこに当てても「轟沈」しちまう。。。
対艦攻撃もするF-1部隊にいた鳥谷部は、軍艦にも詳しかった。
「こちら司令部、攻撃命令は、待機命令に変わった。旋回して待機せよ。」
待機と言う言葉に、一瞬安堵の息をもらしそうになったが、第83航空隊司令直々の声が、ただ事ではない状況を再認識させられた。
この上から下まで特別編成された任務。。。この体制で行動するということは、攻撃命令が、司令から直接来る。躊躇する間もなく実行するしかない。しかも一部の人間しかこの事実を知らない。。。やることは同じだが、、、どこにも向けられない怒りが湧いて来る。
落ちつけ。。。
自分に言い聞かせるように、高山に合図を送ると鳥谷部は急降下するのを中断し、高山と編隊を組み直した。最小編成の攻撃隊の眼下には、いつもと変わらぬ海が水面に南陽の光を反射し鋭く輝いていた。
レシーバーにバリトンの声が低く響く
「魚釣島、こちら「おおよど」広田。送れ」
広田は、タブレットを左手に持ちかえて神経質そうにヘッドセットのマイクを口元に寄せる。45歳という割には皺のない広い額が、陽光を反射する。
「今、長官と代わります。そのままお待ちください。」
ハウリングに近い雑音に一瞬顔をしかめた広田だが、長官に取り次がれるとあっては、不用意にヘッドセットを外す訳にはいかない。そんな我慢も束の間、ヘッドセットを外す間もなく、河田の声が凛と響く。
「御苦労。河田だ。」
「ハッ。広田です。」
反射的に背筋を正した広田が次の言葉を待つ。百戦錬磨の元自衛官を中心に組織された河田達の集団にあって、広田は珍しく軟弱に見えた。それもそのはず、広田は、長年研究開発を主体の業務についていたのだった。彼は主にシステム構築に携わってきたことから、河田と共に海上自衛隊のCICシステムをハッキングすることが可能な「鷹の目」を開発したのだった。
「鷹の目」は彼らの現役時代の知識と密かに入手した試作品による産物であり、最新のイージス艦のようなリンク16には対応していないが、現在、彼らが完全に「電子的な支配下」に置いている護衛艦「あさゆき」が搭載しているリンク14は、まさに赤子の手を捻る様な容易さだった。
「中国艦隊が25分後には領海を侵犯する。3号作戦として政府に警告を発したが政府は毅然とした対応を取れないだろう。よって、4号作戦へ進む可能性は極めて高い。しかし、先に警告した通り、乗っ取られた「しまかぜ」が,そちらに接近中だ。沈めてもいい。とにかく今後1時間は、「あさゆき」の「電子的支配」を死守して欲しい。」
河田の命令は、いつも腹に落ちるように染み渡る。状況、内容、そして目的、注意点。全てを適度に伝えてくれるからだ。だから、河田の「死守せよ。」には、自分の意味を見出すことができる。普通の指揮官ならば、「「しまかぜ」を排除せよ。死守せよ。」で終わりだ。そんな命令で、なぜ?、どうして?も分からず効果的に戦えるものか。
きっとこれが最後の戦いになる。河田長官の部下で良かった。
「了解。死守します。」
ゆっくりと目を閉じて答えた広田の顔には、安らかな笑顔さえ浮かんでいた。
さあ来い。邪魔はさせん。
タブレットを置いた広田がM-16A1のチャージングハンドルを引くと金属が触れ合う小気味良い音を発して1発目がチャンバーに送り込まれた。
あとは引き金を引くだけで弾は出る。セレクターをフルオートにすれば、あっという間に弾倉(マガジン)の20発は空になる。奴らは蜂の巣だ。ジャーナリストにしては、ここまで良くやってきたが、所詮は素人だ。
水平線に突き出た針のようなマストの先端が見えた気がした。
「ったく、人使いが荒いよあな~。なんで今から訓練なんだ?今日はスクランブルに上がったんだぜ。しかも特別訓練ってなんなんだ?」
鳥谷部が溜息混じりに言う。吐く息に合わせて鼻の穴が大きく膨らんだ。
「そう言うなよ。飛ぶのは嫌いじゃないだろ?ウータン。さしずめ今日の領空侵犯のフィードバックじゃないのか?」
高山が悪戯ぽい笑みを浮かべて、鳥谷部の肩を軽く小突いた。ウータンは、鳥谷部のタックネームで、パイロットとしての渾名のようなものだ。空中では、氏名や階級ではなく、このタックネームを用いている。
「飛ぶのは好きさ。嫌いなわけないだろう。しょうもないこと聞くなよキョウジュ。お前だってそうだろ?」
「そりゃそうだ。税金で空を飛ばさせてもらってるんだ。贅沢を言っちゃいかんよ。帰ったらビール奢るからさ、機嫌直せ。」
キョウジュこと高山が、なだめるように言い、ブリーフィングルームの扉を開けた。他の隊員たちは午後の訓練に出ているため、食堂のように4人掛けのテーブルが並んだ室内には誰もいない。2人は部屋の奥にある隊長室の扉の前で立ち止まると、踵を揃えた。
「入れ」
ノックした鳥谷部に部屋の中から204飛行隊長の古橋雅人2等空佐の声が即座に返ってきた。いつものような覇気が感じられないのは気のせいだろうか?一瞬、鳥谷部は、高山と顔を見合わせる。明らかに様子が変だ。
先を促す用にドアに目線を投げた高山に、頷いてみせると、鳥谷部は、一気にドアを開けた。
「失礼します。鳥谷部、高山両2尉。特別訓練のブリーフィング願います。」
不安を打ち消すかのように思い切りよく申告する。が、向き合って立ち上がった飛行隊長、古橋2佐の表情は優れない。いつもは胸を張ってドスの利いた声でいながらおおらかな口調で部下に語りかけ、時には叱咤し、時には親父ギャグを発するその口は、硬く閉ざされてへの字に歪む。そして、俯(うつむ)き加減の表情は、健康的な彼の日常とはまるで正反対の慢性的に胃でも痛めているような人物に見えた。
「そこに座ってくれ。今、司令を呼ぶ。」
えっ?何で司令を?
2人は互いに顔を見合わせたが、古橋飛行隊長の態度が尋常でないだけに、言葉にして状況を確認することはためらった。
2人は、デザインは古く色あせているが、その艶から、よく手入れの行き届いていることがひと目で分かる応接セットに座った。
古橋は、部下達が大人しくソファーに腰掛けたのを見届けると、自分のデスクに戻って内線電話に手を掛けた。
「はい。それは私の方から。それを司令からというのは。。。いえ、はい。そうですか。。。では司令から。分かりました。お待ちしています。」
古い黒電話を流用したような重厚に黒光りする内線電話の受話器をゆっくりと戻すと。古橋は少しホッとしたような表情を漏らした。
「鳥谷部、お前、F-1時代に洋上目標の爆撃訓練をしたことは無いよな?」
古橋が、鳥谷部の向かいにゆっくりと腰掛けながら聞いた。まるで、訓練していないと言って欲しいような言い方だった。数年前に退役したF-1支援戦闘機は、三菱の設計による国産初の超音速ジェット戦闘機で、「支援」という名前でお茶を濁しているが、爆弾やロケット弾で地上を攻撃し、洋上の目標には、国産の空対艦ミサイルASM-1で攻撃する。特に、この対艦ミサイルとF-1の組み合わせは、他国も羨む装備と言われていた。F-1の後継機が、アメリカのF-16戦闘機をベースとしたF-2だと言われればその用途が分かりやすいであろう。要は、世界から見れば立派な戦闘攻撃機なのである。
鳥谷部は、そのF-1支援戦闘機部隊の「最後の若手」として、F-1の引退まで操縦桿を握った後、後継の支援戦闘機F-2部隊ではなく、空中戦専門とも言えるF-15部隊に転属となった変わり種だった。その理由が、いくつもの戦技競技会において非力なF-1でF-15を翻弄してきた空戦技術を買われた為であることを鳥谷部自身は知らない。
古橋は、そんな鳥谷部を買っている人物の1人だった。かつて、F-15で編成された敵役専門の教官部隊「飛行教導隊」のパイロットをしていた頃、演習で鳥谷部に撃墜されたことがあったのだった。鳥谷部本人は当然気づいていない。
洋上爆撃の訓練などやったことがない。
そう言ってくれ。「出来ない」と答えられる。そうすりゃ築城のF-2の出番になるかもしれん。
古橋は目を伏せたまま答えを待った。
「よくやりましたよ。ASM-1で攻撃する方がずっと現実的なんですけどね。船に引かれた目標相手によくやらされました。」
「そうか。。。」
呟くように答えた古橋の表情に苦悩が見て取れた。
「隊長。どうかしましたか?どこか痛むんですか?」
高山がいつになく元気の無い古橋を気遣い口を挟む。
「いや、大丈夫だ。司令が来たら、ブリーフィングを始めよう。」
俺は部下に不安を見透かされてるのか?こんなんでいざ実戦になったらどうするんだ?クソっ、俺は煙草が吸いたくなってきたぞ。副隊長から1本めぐんでもらうか。。。こんなんだから禁煙も上手くいかんのだっ。
古橋は、一度歯を食いしばると、フッと軽く息を吐いてから、顔を上げた。
腰を低くして加藤空幕長の元へ行き、メモを渡した紺色の制服の中年自衛官は、加藤の耳元で何か囁くと再び控え室へと踵を返した。
その部下が部屋から出るのを視界の隅で確認した加藤は、立ち上がってメモを忌々しげに一瞥すると、吐き捨てるように言った。
「那覇からF-15が2機、離陸しました。」
閣僚側の席がざわめく。
「空幕長、攻撃命令を出したまえ。」
大きな背もたれの黒皮の椅子に、ふんぞり返るように身を預け直して総理大臣が命じた。その態度が口調にも現れているようで、制服組トップとも言われる、各幕僚長の頬が引きつった。
「まだ護衛艦「あさゆき」が河田の手の内にあると決まった訳じゃありません。」
白い制服が直立する。山本海上幕僚長だった。声は怒りに震えている。
「海幕長の言うとおりです。我々としても確認出来ていない相手を攻撃させる訳にはいきません。しかも相手は海自の護衛艦です。ギリギリまで攻撃を待つことは可能なんです。結果を待ってからでも十分です。
それはそれとして、築城のF-2戦闘機8機の準備を完了しています。全機ASM-2対艦ミサイルを4発ずつ搭載しています。尖閣諸島周辺の警戒を具申します。」
再び閣僚再度にざわめきが起こった。今度は批判的な言葉も混じっているのが分かるくらい大きなざわめきだった。
「おいっ、君は何を勝手なマネしてるんだ!そんな事をして中国が黙っている訳がないじゃないか!国を潰す気かっ!」
総理大臣はテーブルを叩いて立ち上がると、加藤空幕長を射るように指差しながら怒鳴った。激しい語気に口から唾が飛んでいるのが見えるような気がしてくる。
叩かれたテーブルが、合板ではない切り出しの木材の質の良さを、硬い音でアピールしているように響く。その音に全員が反射的に背筋を伸ばす。3人の制服の男達を除いては。。。
加藤は何食わぬ顔でゆっくりと総理の方に顔を向けると、親に悪戯を見つかった子供のように頭を掻いた。が、総理に向けた顔は、とても悪戯っ子のそれではなかった。
「総理。あなたは今、我々が国を潰すと仰いましたね。
では、あなた方政治家が、今やろうとしていることはどうなんですか?航空自衛隊の戦闘機で、海上自衛隊の護衛艦を沈めろ。と仰ってますよね。沈めるべき、もとい、向かうべき相手は魚釣島への攻撃を宣言し、領海に侵入しようとしている中国艦隊じゃないんですか?
あなたは何を守りたいんですか?」
冷静に獲物を見つめて突っ込む鷹のような視線が総理大臣の宇部を射る。長年戦闘機パイロット畑を歩んできた加藤の一撃必殺の研ぎ澄ました目に宇部が一瞬怯み、ゆっくりと腰を降ろした。威厳を保ちたいためか発した宇部の咳払いが虚しく響いた。
総理が怯んだとみた海上幕僚長の山本が、すかさず立ち上がって話を被せる。
「F-2戦闘機は1機に対艦ミサイルを4発も搭載できます。そんな戦闘機は他国にはありません。築城から飛ばしてもらえば8機で32発もの対艦ミサイルを運べるんです。これは艦隊を指揮する者にとっては脅威なんです。しかも中国艦隊は5隻。当然イージスもありません。32発ものミサイルを防ぐことは到底不可能と判断するはずです。十分に牽制できます。」
一気に畳みかけられそうになった宇部は、頷きながら幕僚長達の話を聞いていた防衛大臣を睨みつけた視線を山本に戻した。背もたれに悠然と体を預けたその態度だけは、話の脈絡と関係なく総理大臣のそれだった。
「言いたいことはそれだけか?「撃たれたら」だと?なぜそんな事を中国艦隊が考えるんだ。撃たれる訳がないだろう!それどころか中国に先制攻撃の口実を与えちまうだろっ!」
出来損ないの軍人どもめ。と言い掛けた口を閉じた宇部は、態度はともかく、頭に血が上って頬が上気し、野党在民党との国会討論の時よりも乱暴な言葉遣いになっていた。野党同様に自分の言っていることを理解しない人間は敵でしかないのだ。
「お言葉ですが、軍人は、常に「撃たれたら」ということを考えて行動するのが常識です。撃たれたら終わりだからです。
我々自衛官のように専守防衛を標榜とする者達は、この点について最も敏感なのです。なぜなら、撃たれるまで反撃できないからです。現代兵器は一発必中です。撃たれたら最後、反撃もできずに壊滅する。つまり撃たれたら国を守ることが出来ないということなのです。
撃たれる前に撃つ。これが世界の常識なのです。
しかし、それが出来ないのは理解しています。ですから、我々は守り通す・本気で撃つ用意がある。という意志を示すだけでいいんです。撃たなくていいんです。F-2を出させてください。」
陸上幕僚長の山形が体型に似合わず丁寧に身振りを加えてゆっくりと諭すように語った。皺の寄る余地もないほど突っ張った深緑の制服がジェスチャーに合わせて今にも破れそうだった。
陸海空三自衛隊のトップの強弱硬軟の言葉にさすがのワンマン総理も声を落とした。
「言いたいことは良く分かった。確かに私は軍事の専門家ではない。
しかし、連絡の取れない護衛艦が現場にいて、指揮系統が河田に乗っ取られているというのが現状だ。その艦長の梅沢2等海佐は、僚艦の艦長の息子が中国の公船に撃たれたと思っているんじゃないのかね。彼は情に厚い男だと聞いている。彼の心境なら中国艦隊に対艦ミサイルを撃ちかねない。そうじゃないのかね?海幕長?」
総理は梅沢艦長の情報が載っているらしい一枚の紙を手に持ち、時には激しく振りながら再び語気を強めた。
「しかしそれは、河田の漁船から発砲されたことが判明したんですよね。」
山本が総理に目を向ける。
「その事実は、あなた方はこの場に来て初めて知った訳ですから、当然艦長は知りませんよね?」
海上保安庁長官が口を挟んだ。山本に向けられた目がしてやったりという表情に見えるのは、心のどこかで未だに両者を犬猿の仲だと思っている証拠なのか。。。
「そういうことだろ?海幕長。父親だけでなく、僚艦の艦長も艦から降ろすべきだったな。」
総理が両肘をテーブルに着いて組んだ手の上にしたり顔を載せる。
「領海侵犯をしたからといって、中国艦隊に対艦ミサイルを撃つわけにはいかんのだ。例え一方的に魚釣島に攻撃を掛けても、だ。
河田達は犯罪者だ。テロリストなんだよ。だから我が国の法を犯したから逮捕する。というスタンスを示せばそれでいいんだ。そのために中国の軍艦を攻撃するなんてもっての外だ。海保長官。説明を」
総理に指名されて立ち上がった海上保安庁長官は、得意げに咳払いをしてからスクリーンに向かって歩きながらゆっくりと口を開いた。
「河田とその一味、ここでは、その会社名から「河田水産」と呼ばせていただきますが、これまでの捜査の結果から、河田水産は、大量の武器の密輸、そしてそれを用いた当ヘリパイロットに対する殺人未遂、元陸上自衛隊員の殺害、拉致監禁、そして、魚釣島でのヘリ銃撃。不法占拠の容疑で逮捕します。現在、巡視船に武装した海上保安官50名を載せて魚釣島に向かわせています。彼らは、ゴムボートにて島を強襲。河田水産関係者全員を逮捕します。」
指し棒の先にはスクリーンに魚釣島へ向かう3隻の巡視船があった。速力は25ノット(約47km/h)で急ぐ彼らは、10ノットで進む中国艦隊よりは早く魚釣島に到着する見込みだった。
「いくら中国でも海上保安官が上陸した島に攻撃を掛けるような真似はしないだろう。
君らの考えも汲んで護衛艦への攻撃には猶予を与える。中国艦隊が領海侵犯するまでに連絡が付けば攻撃を中止する。それまでは、F-15を現場の空域に待機させてくれ。」
総理が自信に満ちた声で言う。観閲式で挨拶を述べる時の声だった。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「ありがとうございます。」
立ち上がった山本に続いて加藤、山形も立ち上がり、深々と頭を下げた。着席する音に紛れて「素人め」と呆れと怒りを込めて呟いた彼らの言葉は当然閣僚には届かない。
-ELBOW01,vector270,climb Angels10.Contact HeadQuater channel5.Read back.(エルボー01 方位260度、高度10,000フィート(約3,000m)まで上昇、チャンネル5で基地司令部と交信せよ、復唱どうぞ)-
「ELBOW01,vector270,climb Angels10.Contact HeadQuater channel5.」
-Read back is correct.Good Luck!久々の超低空飛行なんだろ?気をつけてな。-
「Thank you.ありがとうございます。行って来ます。」
先輩の管制官に感謝を伝える。彼は、超低空飛行の訓練としか伝えられていない。目的は有事の際のF-15による洋上爆撃の検証だ。鳥谷部は、隊内無線に切り替えた。
「キョウジュ、しっかりECMを頼むぜ。」
「任せとけたっぷりチャフを撒いて眼つぶししてやるぜ。ウータンは集中してくれ。」
キョウジュこと、高山の声がレシーバーに響く。
あいつ、ワザと元気いい声出しやがって。そう言うのをカラ元気って言うんだ。辛いのは奴も一緒のはずなのに。いや、奴の方が危険かもしれない。
ECM(Electronic Counter Measures)つまり電子対抗手段は、相手のレーダーや無線、電子機器などを妨害する手段で、レーダーや電子機器が欠かせない現代戦では、その攻撃とも防御ともつかない方法が、勝敗を左右する大きな要素となる。本来なら専門の機体を使用するところだが、要撃任務部隊つまり空中戦専門のF-15部隊で急遽編成された攻撃隊では、これが精いっぱいともいえた。鳥谷部、高山2機のコンビで行動し、鳥谷部が、Mk.82爆弾で護衛艦「あさゆき」を爆撃し、鳥谷部を「あさゆき」の対空攻撃から守るために、高山が「あさゆき」上空にチャフを撒いて「あさゆき」のレーダーを撹乱する。チャフは細かいアルミ箔のようなもので、レーダーの電波を反射させる。レーダーは直近で反射してくる電波を全周で捉え、真っ白になる。つまりこの場合、撹乱と言うよりも眼つぶしと言った方が分かりやすい表現だろう。しかし、電波妨害装置などの完全なECM装置を持たない「にわか作り」のこのチームは、チャフを撒くまでは、護衛艦「あさゆき」にとってはネギを背負った鴨同然だった。
何年も前の事とはいえ、洋上攻撃の経験が豊富な鳥谷部は、単機で出撃することを提案したが、却下されたのだった。却下と言うよりは、行くと言ってきかなかった高山に司令も隊長も折れたといった方が正解かもしれない。
「司令部、こちらウータン。目標をキャッチ。これより低空飛行に移る。」
鳥谷部は、自分の声が上ずらないようにいつもよりも慎重にマイクに吹き込む。声が裏返りでもすれば物笑いの種だ。飛行隊内の今年の流行語大賞になりかねない。今のところ流行語大賞の優勝候補は、鳥谷部の「王手っ!」だった。しつこく繰り返すのがコツだ。
ま、こんな状況をネタにする奴はいないだろうがな。。。なんで味方の艦を攻撃しなきゃならないんだ。あんなアルミだらけの貧弱な艦、どこに当てても「轟沈」しちまう。。。
対艦攻撃もするF-1部隊にいた鳥谷部は、軍艦にも詳しかった。
「こちら司令部、攻撃命令は、待機命令に変わった。旋回して待機せよ。」
待機と言う言葉に、一瞬安堵の息をもらしそうになったが、第83航空隊司令直々の声が、ただ事ではない状況を再認識させられた。
この上から下まで特別編成された任務。。。この体制で行動するということは、攻撃命令が、司令から直接来る。躊躇する間もなく実行するしかない。しかも一部の人間しかこの事実を知らない。。。やることは同じだが、、、どこにも向けられない怒りが湧いて来る。
落ちつけ。。。
自分に言い聞かせるように、高山に合図を送ると鳥谷部は急降下するのを中断し、高山と編隊を組み直した。最小編成の攻撃隊の眼下には、いつもと変わらぬ海が水面に南陽の光を反射し鋭く輝いていた。
1
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる