平穏なβ人生の終わりの始まりについて(完結)

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羽の契り

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はねちぎり》というのは幼稚舎組と、芳聖ほうせいの間に濃密な人間関係を構築するのを目的に敷かれているシステムだ。

その為に幼稚舎組のαは、中等部進学前に制服の採寸を行う際、指のサイズも測られる。
それを元に指輪が作られ、学園入学当日、二つの指輪が配られた。
これらの事に学園は直接関わることはない。
《羽の契り》のすべては、特定の団体の寄付によって賄われ運営されていた。

指輪は二つとも白金プラチナでできているが、一つは鶴水の校章が打ち出され、重厚な印象のもの。
もう一つの方は、羽をモチーフにした優美なデザインで 赤珊瑚がはめ込まれている。
両方とも だいぶレトロなデザインだが、これが伝統という物だった。
また全てナンバリングされて所有者が登録されており、リングの内側に番号が刻印されていた。

幼稚舎組同士で友誼ゆうぎを結び、 鶴見の指輪を交換すると《羽の契り》が成る。
それを《羽を交わす》と言い換えることもあった。
羽を交わすと、お互いを《片翼かたよく》と呼びあい、家ぐるみの付き合いを通じて利害を超えた関係が結ばれることになった。
そこから人脈が広がりビジネスに繋がることはままあることだった。


また、婚約者にしたい芳聖のΩを囲い込むときには、意中のΩに珊瑚の指輪を贈り《羽の契り》とした。指輪を贈られたΩは、贈られたαの婚約者として周囲に認知され、《はねきみ》と呼ばれる。

鶴水の強力な学閥の根幹をなすのが この《羽の契り》であった。
鶴水の指輪を嵌めるものは、その長い年月をかけ醸成されたαのネットワークの恩恵を受ける特権を持つのだ。

俺の家業は製薬が主で、雪穂の家は全国に系列を抱える病院の経営者一族だ。俺と雪穂の場合、羽を交わしたことで両家の結びつきが強固になった。

親父が鶴水生だったときは、海運大手の家の次男と羽を交わしていた。その人には俺も昔から甥のように可愛がってもらっている。
折々にゴルフやら会食やら、ビジネスには関係なく遊んでいるようだが、そこに知り合いを呼んだりして、意外な人脈が出来ているようだった。

また、俺も雪穂も、中等部時代に芳聖のΩを婚約者にしていた。
俺は二つ年下の女性Ω、雪穂は一つ年上の男性Ωに珊瑚の指輪を贈っている。

有力なα名門がこぞって鶴水幼稚舎に子弟を送り込む理由はこれだ。
αに対してΩの人数が少ない中、鶴水幼稚舎組のαは、時間をかけて芳聖のΩと関係を育み、優先的に番に迎えることが出来る。そうすることで次代のαが約束され、一族の繁栄は続いていく。。
《羽の契り》は、この国の支配階級による特権の維持の為に極めて重要なものだった。



「京極様が幼稚舎から高等部までどなたとも《羽の契り》を結ばれなかったことは私たち幼稚舎組の間では有名な話よ?《羽の君》どころか、《片翼》さえ作らなかった。
すると山岸君は京極様を断って《片翼》にならなかった?・・・でもそれで京極様に目をつけられてたら、βの山岸君は・・・いいえ並みのαだってとっくに潰されてるはず。
だけど、彼は普通に高等部を卒業したし、大学進学してるじゃない。」
雪穂が不思議そうにそう言った。
なんで今更と 俺も確かにそう思う。
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