4 / 119
第一章 First love
教師というひと
しおりを挟む
高校に入ってびっくりしたことの一つに教師との距離の近さがあった。特に担任の周防とは歳も近いせいか、みんなが気さくに話しかけている。
「レオくん、これ知ってるー?」
太一が耳に差し込んでいたイヤホンを片方とって、そばにいた周防の耳に差した。
「えー知らんかった、いいね、これ誰?」
突然耳に突っ込まれても動じず、周防は太一の隣に寄り添って音に体を乗せている。
蜜にはなかなかできないことだった。
どちらかと言えば人見知りをしがちで、距離を詰めるのは苦手だ。裕二と太一は向こうからきてくれたからすんなりなじめただけだ。
「おーいレオくんこの問題がわかんないわ」
教室の扉が勢いよくあいて知らないクラスの奴もやってくる。
周防はフットワークも軽く、イヤホンを太一に返すと今度はそっちへと向かっていく。
こんな教師もいるんだなと蜜は視線で追いかけた。
中学の先生と言えば厳しく、躾けてやろうと高圧的な教師が多かった気がする。周防のような先生に会ったのは初めてだった。
ふいに周防が振り返る。
なんとなく眺めていた蜜とバチっと目が合った。ふと目元が和らいで、コイコイと手を振られた。
「ぼく?」
自分の鼻を指さして首を傾げると、そうだと頷く。
「ごめんな蜜、頼まれてくれない?」
周防は蜜を名前で呼び、お願いと手を合わせた。
「教務室に忘れ物しちゃったの思い出してさ、持ってきてくれないかな」
「……なんでぼくが」
「目が合ったから。あと、蜜なら安心して頼めそうだから」
そういわれてしまうと頑なに断るのもかっこ悪い。
蜜は手を出すと「鍵ください」と言った。
「何を持ってくればいいんですか」
「次の授業で使う資料なんだけど、こういう細長い巻物みたいなやつ。机の上にあるからすぐわかると思う」
「巻物……」
聞きなれない言葉を繰り返すと、周防は頷きながら笑みを浮かべた。
「ちゃんとお礼するから。ごめんな」
手の上の鍵は周防の体温で温かくなっていた。
裕二が気がついて一緒に行こうかと言ってくれたが、一人で平気だと答える。
廊下を進んで振り返ると周防は真剣な顔で聞かれた問題に答えていた。
こんな休み時間くらい自由に過ごせばいいものを周防はなるべく教室にいて生徒とかかわろうとしていた。
授業でわからなかった問題もいつでも聞きに来いという。
見た目の頼もしさから想像するより包容力のある周防に、蜜もいつの間にか心を許している。
「レオくん、これ知ってるー?」
太一が耳に差し込んでいたイヤホンを片方とって、そばにいた周防の耳に差した。
「えー知らんかった、いいね、これ誰?」
突然耳に突っ込まれても動じず、周防は太一の隣に寄り添って音に体を乗せている。
蜜にはなかなかできないことだった。
どちらかと言えば人見知りをしがちで、距離を詰めるのは苦手だ。裕二と太一は向こうからきてくれたからすんなりなじめただけだ。
「おーいレオくんこの問題がわかんないわ」
教室の扉が勢いよくあいて知らないクラスの奴もやってくる。
周防はフットワークも軽く、イヤホンを太一に返すと今度はそっちへと向かっていく。
こんな教師もいるんだなと蜜は視線で追いかけた。
中学の先生と言えば厳しく、躾けてやろうと高圧的な教師が多かった気がする。周防のような先生に会ったのは初めてだった。
ふいに周防が振り返る。
なんとなく眺めていた蜜とバチっと目が合った。ふと目元が和らいで、コイコイと手を振られた。
「ぼく?」
自分の鼻を指さして首を傾げると、そうだと頷く。
「ごめんな蜜、頼まれてくれない?」
周防は蜜を名前で呼び、お願いと手を合わせた。
「教務室に忘れ物しちゃったの思い出してさ、持ってきてくれないかな」
「……なんでぼくが」
「目が合ったから。あと、蜜なら安心して頼めそうだから」
そういわれてしまうと頑なに断るのもかっこ悪い。
蜜は手を出すと「鍵ください」と言った。
「何を持ってくればいいんですか」
「次の授業で使う資料なんだけど、こういう細長い巻物みたいなやつ。机の上にあるからすぐわかると思う」
「巻物……」
聞きなれない言葉を繰り返すと、周防は頷きながら笑みを浮かべた。
「ちゃんとお礼するから。ごめんな」
手の上の鍵は周防の体温で温かくなっていた。
裕二が気がついて一緒に行こうかと言ってくれたが、一人で平気だと答える。
廊下を進んで振り返ると周防は真剣な顔で聞かれた問題に答えていた。
こんな休み時間くらい自由に過ごせばいいものを周防はなるべく教室にいて生徒とかかわろうとしていた。
授業でわからなかった問題もいつでも聞きに来いという。
見た目の頼もしさから想像するより包容力のある周防に、蜜もいつの間にか心を許している。
6
あなたにおすすめの小説
リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜
黒崎サトウ
BL
男子大学生の高梨千秋が引っ越したアパートの隣人は、生涯許さないと決めた男であり、中学の頃少しだけ付き合っていた先輩、柳瀬英司だった。
だが、一度鉢合わせても英司は千秋と気づかない。それを千秋は少し複雑にも思ったが、これ好都合と英司から離れるため引越しを決意する。
しかしそんな時、急に英司が家に訪問してきて──?
年上執着×年下強気
二人の因縁の恋が、再始動する。
*アルファポリス初投稿ですが、よろしくお願いします。
初恋ミントラヴァーズ
卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。
飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。
ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。
眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。
知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。
藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。
でも想いは勝手に加速して……。
彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。
果たしてふたりは、恋人になれるのか――?
/金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/
じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。
集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。
◆毎日2回更新。11時と20時◆
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
僕を守るのは、イケメン先輩!?
刃
BL
僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?
BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています
二三@悪役神官発売中
BL
BL小説家である私は、小説の稼ぎだけでは食っていけないために、パン屋でバイトをしている。そのバイト先に、ライバル視している私小説家、穂積が新人バイトとしてやってきた。本当は私小説家志望である私は、BL小説家であることを隠し、嫉妬を覚えながら穂積と一緒に働く。そんな私の心中も知らず、穂積は私に好きだのタイプだのと、積極的にアプローチしてくる。ある日、私がBL小説家であることが穂積にばれてしまい…?
※タイトルを変更しました。(旧題 BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった)2025.5.21
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀ごふん
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる