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第一章 First love
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「先生、めっちゃいい匂いがします」
「え、ほんと? 汗臭いとかじゃなくて?」
焦ったように腕を鼻に寄せにおいを嗅ぐ周防に「違いますよ」と笑った。
「焼きそばとか? あと焼き鳥。屋台の匂い」
くんと鼻を鳴らすと、周防は頷いてから蜜の鼻をつまんだ。ふぐっと変な声が出る。
「何するんですか」
「ずいぶんと鼻がいいなと思って」
クスクスと笑いながら後ろ座席を指さす。
「ご飯食べた? もしかしたらって思って少しだけ買ってきた」
ガサガサと音を立ててビニール袋を取る。においの元はそこだったのか。
中を見るとちゃんと箸のつけられた焼きそばとお好み焼き、それと焼き鳥が数本が入っている。
「美味しそう」
「だろ。おれも食べ損ねてるし、花火をする前に食べようぜ」
車が動き出すと公園とは違う方向へと進んだ。
どこにいくのかわからないけど、周防が連れて行ってくれるならどこでもいいやと身を任せる。
シートに体を埋めると疲れが出てきたのか少しだけウトウトしてしまった。揺れに身を任せているのが心地いい。
「ついたよ」と起こされた時、耳に届いたのは潮騒。潮の香が窓から入ってくる。
「海?」
「そう。やっぱ夏は海でしょ。ここは花火オッケーみたいだし」
窓から見ると他にも花火をしてはしゃいでいるグループがいくつか点在していた。みんな夏をエンジョイしているように華やかな笑い声が届く。
車を降りるとさらに波の音が大きくなった。
車を止めたところから砂浜に下りていくと下駄をはいている素足がジャリジャリとした。鼻緒についた砂が弱い皮膚を傷めつける。
邪魔だなと思って脱ぐと、周防は気がついて手を引いた。
「やっぱ浴衣で海はなかったか」
失敗したかなと頭をかく周防の腕を掴んでブンブンと首を振る。
「全然! 大丈夫、まさか海に来れると思ってなかったから嬉しい」
思わず笑顔になる蜜を一瞬眩しそうに見つめた周防はつられたように笑った。
「それならいい。浴衣似合うな」
急に褒められて言葉に詰まる。
「えっ、と、ありがとう……」
ぎこちないお礼を返すと、周防はくしゃりと蜜の頭を撫でた。
「でも汚したら困るから、あまり奥まで行くのはやめとこう」
砂の少ない場所を探すと車から持ち出したシートを敷いてそこにすわった。暗い中でランタンをつけて並んで屋台の食べ物を食べた。
周防の車の中には何でもそろっていて、聞くとアウトドアが好きだからいつでも遊べるようにしていると返答が来る。
らしいな、と納得した。周防は太陽の下が一番似合う。
遠くから白波を立てて近づいてきた波がドーンと大きな音を立てる。そして静寂。
夜の海は暗く見えない分だけ音が強く聞こえて少しだけ怖い。
震える腕をさすっていると「寒い?」と聞かれた。
「平気。少しだけ波の音が怖いなって」
「ああ、夜の海はちょっと違うよな」
二人で並んで波を眺めていた。まるで揺蕩うようで心地がいい。
隣に周防がいると思えば、怖さも薄れるようだった。
「花火、やる?」
「もちろん!」
「オッケー」
花火を取り出し火をつけた。ジュっと勢いよく散る火花に二人の笑い顔が浮かぶ。
「気をつけて持てよー」
渡された花火をもって蜜は楽しくて幸せでたまらなかった。
あんなに悩んでいたのが嘘のようだ。今、周防を独り占めしているんだと思うと天にも昇る気持ちだった。
ジリジリと小さな炎をを震わす線香花火をもって並んでしゃがんだ。言葉はなかったけど同じ時間を味わっているとわかる。
「ねえ先生」と蜜は声をかけた。
「ん?」
「今日はありがとう」
まさかこんなサプライズが起きるなんて思っていなかった。いつでも周防は蜜の心を動かしてしまう。
苦しさも嬉しさもつらさも楽しさも全部周防が与えてくれる。
「好き」
「え、ほんと? 汗臭いとかじゃなくて?」
焦ったように腕を鼻に寄せにおいを嗅ぐ周防に「違いますよ」と笑った。
「焼きそばとか? あと焼き鳥。屋台の匂い」
くんと鼻を鳴らすと、周防は頷いてから蜜の鼻をつまんだ。ふぐっと変な声が出る。
「何するんですか」
「ずいぶんと鼻がいいなと思って」
クスクスと笑いながら後ろ座席を指さす。
「ご飯食べた? もしかしたらって思って少しだけ買ってきた」
ガサガサと音を立ててビニール袋を取る。においの元はそこだったのか。
中を見るとちゃんと箸のつけられた焼きそばとお好み焼き、それと焼き鳥が数本が入っている。
「美味しそう」
「だろ。おれも食べ損ねてるし、花火をする前に食べようぜ」
車が動き出すと公園とは違う方向へと進んだ。
どこにいくのかわからないけど、周防が連れて行ってくれるならどこでもいいやと身を任せる。
シートに体を埋めると疲れが出てきたのか少しだけウトウトしてしまった。揺れに身を任せているのが心地いい。
「ついたよ」と起こされた時、耳に届いたのは潮騒。潮の香が窓から入ってくる。
「海?」
「そう。やっぱ夏は海でしょ。ここは花火オッケーみたいだし」
窓から見ると他にも花火をしてはしゃいでいるグループがいくつか点在していた。みんな夏をエンジョイしているように華やかな笑い声が届く。
車を降りるとさらに波の音が大きくなった。
車を止めたところから砂浜に下りていくと下駄をはいている素足がジャリジャリとした。鼻緒についた砂が弱い皮膚を傷めつける。
邪魔だなと思って脱ぐと、周防は気がついて手を引いた。
「やっぱ浴衣で海はなかったか」
失敗したかなと頭をかく周防の腕を掴んでブンブンと首を振る。
「全然! 大丈夫、まさか海に来れると思ってなかったから嬉しい」
思わず笑顔になる蜜を一瞬眩しそうに見つめた周防はつられたように笑った。
「それならいい。浴衣似合うな」
急に褒められて言葉に詰まる。
「えっ、と、ありがとう……」
ぎこちないお礼を返すと、周防はくしゃりと蜜の頭を撫でた。
「でも汚したら困るから、あまり奥まで行くのはやめとこう」
砂の少ない場所を探すと車から持ち出したシートを敷いてそこにすわった。暗い中でランタンをつけて並んで屋台の食べ物を食べた。
周防の車の中には何でもそろっていて、聞くとアウトドアが好きだからいつでも遊べるようにしていると返答が来る。
らしいな、と納得した。周防は太陽の下が一番似合う。
遠くから白波を立てて近づいてきた波がドーンと大きな音を立てる。そして静寂。
夜の海は暗く見えない分だけ音が強く聞こえて少しだけ怖い。
震える腕をさすっていると「寒い?」と聞かれた。
「平気。少しだけ波の音が怖いなって」
「ああ、夜の海はちょっと違うよな」
二人で並んで波を眺めていた。まるで揺蕩うようで心地がいい。
隣に周防がいると思えば、怖さも薄れるようだった。
「花火、やる?」
「もちろん!」
「オッケー」
花火を取り出し火をつけた。ジュっと勢いよく散る火花に二人の笑い顔が浮かぶ。
「気をつけて持てよー」
渡された花火をもって蜜は楽しくて幸せでたまらなかった。
あんなに悩んでいたのが嘘のようだ。今、周防を独り占めしているんだと思うと天にも昇る気持ちだった。
ジリジリと小さな炎をを震わす線香花火をもって並んでしゃがんだ。言葉はなかったけど同じ時間を味わっているとわかる。
「ねえ先生」と蜜は声をかけた。
「ん?」
「今日はありがとう」
まさかこんなサプライズが起きるなんて思っていなかった。いつでも周防は蜜の心を動かしてしまう。
苦しさも嬉しさもつらさも楽しさも全部周防が与えてくれる。
「好き」
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