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第一章 First love
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思わず声に出していた。
「先生が好きみたい」
「……」
周防は言葉を発せず、黙ったまま蜜を見つめる。ふ、と微笑んでつけ加えた。
「ぼくの初恋は先生だ」
ハッとしたように周防は立ち上がり、その勢いで火花が落ちた。砂の上で少しだけパチパチと瞬いて、シュンと消えていく。
「蜜、」
困ったような周防に蜜は頷いた。
「いいよわかってる。先生に好かれてるなんて思ってない」
告白なんてするつもりはなかったのに思いは溢れた。
だけどそれを受け入れてもらえないことも知ってた。
「先生は父が好きなんでしょ?」
口に出しながら、そうだと答えられたらどうするんだろうと迷う。父を憎んでしまうかもしれない。
周防は海を見て、空を見上げ、落ち着きなく視線をさまよわせると「違う」とだけ答えた。
「何からどう言ったらいいんだ?」
こんなに困惑する周防を初めて見た。
自分が動揺させているのだと思うと気分がよくて、また小さく笑った。
いつも心を乱されてばかりだけど、今回は蜜の勝ちだ。
周防はグルグルと歩き回ると戻ってきて蜜の隣にもう一度腰を下ろした。
「違うよ」ともう一度確認するように言った。
「総一郎さんに憧れたことはあったし、尊敬してるし、まあ……過去にそれに近い感情を持ったことはあるけど今は違う」
「そうなんですか?」
「当たり前だろ。お前のお父さんだぞ。志穂さんにベタぼれなの見てればわかるだろ。そんなの、横恋慕するつもりなんか全然ないから」
思いがけないほどきっぱりとした答えに蜜は瞬きを繰り返した。
「なんだ、父が好きなんだと思ってました」
「人としては好きだけど、恋愛感情じゃないから」
その答えに嘘はなさそうだった。
こっそりと胸をなでおろす。これで一つ目の障害はなくなった。
「じゃあ、ぼくを好きになってくれますか?」
それには周防は頭を抱えしばらく動かなかくなった。
だけど決めたように顔を上げて、横に振る。
「それもダメ。蜜がどうのっていうんじゃなくて、おれは先生だから。……大人だから蜜を好きになるわけにはいかない」
「結構常識的ですね」
「当たり前だ。こう見えても教師だからな。そこらへんの線引きはちゃんとするって決めてる」
そこで言葉を切って、迷う様につけ加えた。
「でも蜜がいい奴なのは知ってるし、もしかしたら先生じゃなくて年が近くて、例えば太一の立場だったら嬉しいって思ってたと思う。ラッキ―つきあおっかって言ってたかもしれない」
それは喜んでいいんだろうか。それとも悲しむところ?
蜜と周防の歳の差は一生埋まることはないし、蜜が生徒であることも変えられない。もちろん周防が先生であることも。
「なんだ、失恋か」
ポツリと呟くと周防は項垂れながら謝った。
「……ごめん」
「謝られることじゃない。言ったでしょ、わかってるって。でも好きなのは本当だしきっと変わらない」
自分でも驚いた。
こんなにきっぱりとアプローチができるなんて。悩んでいた時のウジウジした蜜はどこにもいない。
人を好きになるってすごい。できないことが出来たり強くなれたり。きっと少し前の蜜とは違う。
「先生じゃなければ好きになってくれてた?」
重ねて問うと少しだけ考えて「もしかしたら」と答えが返ってきた。
「だめじゃない、先生。期待を持たせないようにちゃんと断らなきゃ」
「そう、だよな、ごめん。蜜とは付き合えない」
「……はい」
あっけない結末。
好きだと気がついたのはつい最近だったのにすぐに終わってしまった初恋は、つらいけどどこか晴れ晴れとしていた。
それはちゃんと周防が向き合ってくれたから。
子供が何を言ってるんだと誤魔化さず真正面から応えてくれたから。
やっぱり好きだなあと再確認する。
「先生が好きみたい」
「……」
周防は言葉を発せず、黙ったまま蜜を見つめる。ふ、と微笑んでつけ加えた。
「ぼくの初恋は先生だ」
ハッとしたように周防は立ち上がり、その勢いで火花が落ちた。砂の上で少しだけパチパチと瞬いて、シュンと消えていく。
「蜜、」
困ったような周防に蜜は頷いた。
「いいよわかってる。先生に好かれてるなんて思ってない」
告白なんてするつもりはなかったのに思いは溢れた。
だけどそれを受け入れてもらえないことも知ってた。
「先生は父が好きなんでしょ?」
口に出しながら、そうだと答えられたらどうするんだろうと迷う。父を憎んでしまうかもしれない。
周防は海を見て、空を見上げ、落ち着きなく視線をさまよわせると「違う」とだけ答えた。
「何からどう言ったらいいんだ?」
こんなに困惑する周防を初めて見た。
自分が動揺させているのだと思うと気分がよくて、また小さく笑った。
いつも心を乱されてばかりだけど、今回は蜜の勝ちだ。
周防はグルグルと歩き回ると戻ってきて蜜の隣にもう一度腰を下ろした。
「違うよ」ともう一度確認するように言った。
「総一郎さんに憧れたことはあったし、尊敬してるし、まあ……過去にそれに近い感情を持ったことはあるけど今は違う」
「そうなんですか?」
「当たり前だろ。お前のお父さんだぞ。志穂さんにベタぼれなの見てればわかるだろ。そんなの、横恋慕するつもりなんか全然ないから」
思いがけないほどきっぱりとした答えに蜜は瞬きを繰り返した。
「なんだ、父が好きなんだと思ってました」
「人としては好きだけど、恋愛感情じゃないから」
その答えに嘘はなさそうだった。
こっそりと胸をなでおろす。これで一つ目の障害はなくなった。
「じゃあ、ぼくを好きになってくれますか?」
それには周防は頭を抱えしばらく動かなかくなった。
だけど決めたように顔を上げて、横に振る。
「それもダメ。蜜がどうのっていうんじゃなくて、おれは先生だから。……大人だから蜜を好きになるわけにはいかない」
「結構常識的ですね」
「当たり前だ。こう見えても教師だからな。そこらへんの線引きはちゃんとするって決めてる」
そこで言葉を切って、迷う様につけ加えた。
「でも蜜がいい奴なのは知ってるし、もしかしたら先生じゃなくて年が近くて、例えば太一の立場だったら嬉しいって思ってたと思う。ラッキ―つきあおっかって言ってたかもしれない」
それは喜んでいいんだろうか。それとも悲しむところ?
蜜と周防の歳の差は一生埋まることはないし、蜜が生徒であることも変えられない。もちろん周防が先生であることも。
「なんだ、失恋か」
ポツリと呟くと周防は項垂れながら謝った。
「……ごめん」
「謝られることじゃない。言ったでしょ、わかってるって。でも好きなのは本当だしきっと変わらない」
自分でも驚いた。
こんなにきっぱりとアプローチができるなんて。悩んでいた時のウジウジした蜜はどこにもいない。
人を好きになるってすごい。できないことが出来たり強くなれたり。きっと少し前の蜜とは違う。
「先生じゃなければ好きになってくれてた?」
重ねて問うと少しだけ考えて「もしかしたら」と答えが返ってきた。
「だめじゃない、先生。期待を持たせないようにちゃんと断らなきゃ」
「そう、だよな、ごめん。蜜とは付き合えない」
「……はい」
あっけない結末。
好きだと気がついたのはつい最近だったのにすぐに終わってしまった初恋は、つらいけどどこか晴れ晴れとしていた。
それはちゃんと周防が向き合ってくれたから。
子供が何を言ってるんだと誤魔化さず真正面から応えてくれたから。
やっぱり好きだなあと再確認する。
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