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第一章 First love
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駐車場に向かうと周防の車はまだとまっていた。
遅くまで残って仕事をしているのだろう。
父を働き者だといったけど周防だって負けてはいない。遅くまで残業したり休日の見回りとか、大変そうなのを知っている。
小石川の車に乗り込むと、ちょうど周防も職員玄関を出てきたところだった。
蜜を認めてビックリしたように目を見開いた。
小石川はそれに気がつかず、蜜を乗せた車を動かした。
周防との距離が開いていく。
黙って見送った彼の顔は見たことがないほど無表情になっていた。
「今周防先生がいました」
いうと「ああそう」と面白そうに口元を歪めた。チラリとバックミラーを確認しながら返事を寄越す。
「気づいてた?」
「そうですね。こっちを見てましたけど」
「そっ」
まるでいたずらを仕込んだ子供のように悪い顔を浮かべる。何か良からぬことをたくらんでいる時に見せる顔だ。
小学生の頃の友達がよくこういう顔をしていたのを思い出した。そのあと一緒に怒られるハメになったことも。
「先生何か企んでます?」
聞くと「全然♪」と楽しそうな返事。絶対何かやらかすつもりだとにらむ。
「ぼくは関係ありませんからね」
「え? 何、なんもしないって」
胡散臭いけどこれ以上やり取りしても軍配は上がらなそうだ。蜜は黙り込んだ。
乗っていて気がついたけれど小石川の運転はものすごく精密な感じがした。
ブレーキを踏むタイミングだとか止まり方だとか、スタートの仕方も全部スマートで不快感がない。
動いている事さえ感じさせない静かな運転は車の仕組みを知り尽くして、どうすればいいのかわかっているように思えた。
「先生がめっちゃ頭いいってなんかわかる気がします」
いうと、意外だと言わんばかりに目を見開いた。ク、と喉の奥で笑う。
「急にどうした。やっぱボクのテンサイっぷりってにじみ出ちゃうからなんか伝わっちゃった?」
「そうやってバカなフリしているのも凡人になりたいからでは?」
それには答えず、楽しそうに喉を鳴らして笑っている。
「みっつは怖いね。マジで惚れるかも」
「や、それは結構です」
「つれない」
ナビに蜜の家のアドレスを入れた車はスムーズに進む。
途中でコンビニによることも音楽がかかることもなく、車はただスマートに移動するだけの道具でしかないようだった。
自宅の前まで送り届けてくれると、ゆめのやを眺め「これがあの人の夢か」と呟いた。
「言ってたよ、総一郎さん。本当にお客様が喜んでくれるお菓子を作りたい。そういうお店を作りたいって。レオを助けたように誰かのためになるお菓子屋さんを作るって。叶えててすげえな」
蜜もゆめのやを眺めた。
母が再婚してからずっとここにいたから知らずにいたけれど、ここは父にとって大事な場所で大切に作ってきたものなんだ。
蜜の知らない過去の父も必死で生きていた。
そして血のつながらない蜜を大切に育ててきてくれた。
恨み言ばかり考えていたけど、感謝すべき人なんだ。今更ながらそのことに思い当たる。
本当に自分は子供だった。恥ずかしい。
遅くまで残って仕事をしているのだろう。
父を働き者だといったけど周防だって負けてはいない。遅くまで残業したり休日の見回りとか、大変そうなのを知っている。
小石川の車に乗り込むと、ちょうど周防も職員玄関を出てきたところだった。
蜜を認めてビックリしたように目を見開いた。
小石川はそれに気がつかず、蜜を乗せた車を動かした。
周防との距離が開いていく。
黙って見送った彼の顔は見たことがないほど無表情になっていた。
「今周防先生がいました」
いうと「ああそう」と面白そうに口元を歪めた。チラリとバックミラーを確認しながら返事を寄越す。
「気づいてた?」
「そうですね。こっちを見てましたけど」
「そっ」
まるでいたずらを仕込んだ子供のように悪い顔を浮かべる。何か良からぬことをたくらんでいる時に見せる顔だ。
小学生の頃の友達がよくこういう顔をしていたのを思い出した。そのあと一緒に怒られるハメになったことも。
「先生何か企んでます?」
聞くと「全然♪」と楽しそうな返事。絶対何かやらかすつもりだとにらむ。
「ぼくは関係ありませんからね」
「え? 何、なんもしないって」
胡散臭いけどこれ以上やり取りしても軍配は上がらなそうだ。蜜は黙り込んだ。
乗っていて気がついたけれど小石川の運転はものすごく精密な感じがした。
ブレーキを踏むタイミングだとか止まり方だとか、スタートの仕方も全部スマートで不快感がない。
動いている事さえ感じさせない静かな運転は車の仕組みを知り尽くして、どうすればいいのかわかっているように思えた。
「先生がめっちゃ頭いいってなんかわかる気がします」
いうと、意外だと言わんばかりに目を見開いた。ク、と喉の奥で笑う。
「急にどうした。やっぱボクのテンサイっぷりってにじみ出ちゃうからなんか伝わっちゃった?」
「そうやってバカなフリしているのも凡人になりたいからでは?」
それには答えず、楽しそうに喉を鳴らして笑っている。
「みっつは怖いね。マジで惚れるかも」
「や、それは結構です」
「つれない」
ナビに蜜の家のアドレスを入れた車はスムーズに進む。
途中でコンビニによることも音楽がかかることもなく、車はただスマートに移動するだけの道具でしかないようだった。
自宅の前まで送り届けてくれると、ゆめのやを眺め「これがあの人の夢か」と呟いた。
「言ってたよ、総一郎さん。本当にお客様が喜んでくれるお菓子を作りたい。そういうお店を作りたいって。レオを助けたように誰かのためになるお菓子屋さんを作るって。叶えててすげえな」
蜜もゆめのやを眺めた。
母が再婚してからずっとここにいたから知らずにいたけれど、ここは父にとって大事な場所で大切に作ってきたものなんだ。
蜜の知らない過去の父も必死で生きていた。
そして血のつながらない蜜を大切に育ててきてくれた。
恨み言ばかり考えていたけど、感謝すべき人なんだ。今更ながらそのことに思い当たる。
本当に自分は子供だった。恥ずかしい。
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