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2 火あぶり
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アリッサは騎士によって、聖堂の地下牢へ幽閉された。
なぜ聖堂に牢があるのかと言えば、アリッサのような人の道に外れた罪人を放り込むためだ。
ウェディングドレスを剥ぎ取られ、囚人服に着替えさせられたアリッサ。
閉じ込められてから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
やってくるのは朝晩の食事を届ける看守くらい。
どれだけアリッサが声をかけても、無視された。
運ばれる食事は水のようなスープに、かびのはえたパンという粗末さ。
空腹程度は耐えられた。
これまで義母や義妹から受けた仕打ちと大差なかったから。
しかし耐えられないのは心だ。
浅い眠りの中、ヨアヒムのおぞましいものを目の当たりにしたと言わんばかりの表情と、罵倒の数々を夢の中で繰り返し見ることで、汗だくになって目覚めた。
今にも心が擦り切れてしまいそうだった。
さらに状況は悪化した。
胸元に現れた謎の刻印が突然、熱をもちはじめたのだ。
まるで第二の心臓のようにドクドクと脈打ちだし、眠ることもままならなくなった。
肌が妙にネットリとした汗に濡れ、脈が速くなる。
体の奥がジクジクとまるで爛れるように疼く。
――体が熱い……。まるで燃えるようだわ……。
看守に体の不調を訴え、医者に診て欲しいと懇願しても、無視された。
そんな狂おしいほどの熱と疼きに苛まれる中、カツンカツンと地下牢へ続く階段を下りてくる足音に気付く。
看守にしては足音は軽かった。
ロザミアは気怠い体を起こし、牢屋の格子に縋り付く。
「……お願い。医者を連れてきてください……体がおかしいんです……気が変になりそうで……!」
それに答えたのは、嘲笑う声。
「医者ですってぇ? なにを贅沢なことを言ってるわけ? 悪魔とつがったメス犬の分際で!」
荒々しい罵倒に胸を突かれた。
現れたのは、ルリアだった。
「アハハハ! なんて無様なの! でもメス犬にはふさわしい姿よねえ、お姉様ぁ!」
ルリアはニタァッと笑う。
「ルリア。私は悪魔とつがってないわ」
「それじゃあ、その印は何なの? 悪魔が自分の所有物へ刻印を押した以外の何だっていうのっ?」
「そ、それは……」
知識なんてないアリッサに答えられるはずがなかった。
「お姉様は淫らなメス犬だから、悪魔に狙われるんだわ! 穢らわしいわ!」
「……一体、何しに来たの? 私をただ笑いに来たの!?」
「まあ、それもあるわね。でも、本当の用事はこれ」
ルリアは手に持っていた紙を見せてくる。
書かれた文章を見た瞬間、血の気が引いた。
それは、ヨアヒムの署名入りの処刑命令。
「悪魔と関係を持ちし、罪人アリッサ・テュール・ヴェラを火あぶりに処す。その灰は川へ流せ……」
ご丁寧に、ルリアが暗唱する。
「あんたもこれで終わりね。アハハハハハ! 安心して。陛下のことは私に任せてよ」
「……任せる……?」
「今はまだ内定の段階だけど、私、陛下と結婚することになったから! だって、淫らな姉に代わって嫁ぐのは、伯爵家としてのせめてもの罪滅ぼしですもの……アハハハハ!」
「そんな……」
目の前が真っ暗になる。
婚約者に裏切られ、自分をいたぶってきたルリアが王の新たな婚約者になるなんて。
頭が真っ白で言葉が出ない。
それでも体を疼かせるような熱は、こうしている間にも全身を蝕み続ける。
と、ルリアの視界に、義妹の首を飾るネックレスが目に入った。
「それは!」
双星石。
「まだこんなものを隠しもっていたなんてね! でも薄汚い淫売にこんな綺麗な石はもったいなさすぎるもの。私が使ってあげる。ありがたく思いなさい!」
「それは私のよ! 返して!」
アリッサは牢の格子にすがりつくと、両手を伸ばす。
しかしルリアは嘲笑うと距離を取り、無様な義理の姉をニヤニヤしながら眺めていたかと思えば、
「きゃあああああ! 助けてぇぇぇ!」と突然、叫びだす。
「貴様、何やってる!」
悲鳴を聞きつけた看守が駆けつけたかと思えば、アリッサの腕を警棒で容赦なく殴り付けた。
「ぁああ!」
激痛に、腕を引っ込める。
「ルリア様、離れてください。穢れが移ります!」
「お姉様にひどいことをなさらないでください。お姉様は罪の意識で錯乱していらっしゃるだけなんです……」
そう看守に告げながら、ルリアはアリッサにだけ分かるようにニヤリと笑いかけてきた。
身心が消耗し、ルリアは目の前が真っ暗になった。
※
ルリアが去った翌日。
いつもは朝食を運んでくる看守の代わりにやってきたのは騎士たちだった。
牢の扉が開けられ、乱暴に腕を掴まれ引きずり出される。
「い、痛い……!」
悲鳴を上げても、まるで荷物を引きずるようにアリッサを扱うことをやめることはなかった。
――とうとうなのね。
地下牢から引きずり出されたアリッサは、久しぶりに外気を感じた。
空には分厚い黒雲が垂れ込めている。
――これから死ぬのに、朝日を見ることもできないなんて……。
これから自分の死に場所になるであろう広場には、藁を敷き詰めた磔台が設置され、その周囲には火あぶりが始まるのを今や遅しと待っている大勢の民の姿があった。
騎士たちによりアリッサは磔台に固定された。
「悪魔と寝たメス犬め!」
「神を冒涜する所業だ! 恥を知れ!」
民は腐った野菜を投げつけてくる。体にあたるたび、どろりとした気味の悪い感触と悪臭が全身を汚す。
騎士や兵士が血気に逸る野次馬たちを遠ざけると、役人が一歩踏み出し、文章を声高に読み始める。
「アリッサ・テュール・ヴェラを、悪魔に肉体を捧げたことで聖なる神を冒涜した罪により、火あぶりに処す! また、被告人を伯爵家の戸籍より除外する!」
アリッサは読み上げる声を、まるで他人事のように聞いていた。
心には諦念が広がっている。もう何もかも終わりなのだ。
――お母様、ごめんなさい……。
幸せになって欲しいと死の床で願ってくれた母を裏切ることへの罪悪感で、頭がおかしくなってしまいそうだった。
「火を付けよ!」
役人の指示により、騎士が掲げていた松明を藁山へ近づける。
火が燃え移れば、黒煙が上がった。
ゲホゲホと激しく咳き込み、涙が溢れる。
次第に火の勢いが増し、黒煙で五官が塗り潰され、呼吸さえままならなくなる。
薄れゆく意識の中、力強い馬蹄が聞こえた、気がした。
なぜ聖堂に牢があるのかと言えば、アリッサのような人の道に外れた罪人を放り込むためだ。
ウェディングドレスを剥ぎ取られ、囚人服に着替えさせられたアリッサ。
閉じ込められてから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
やってくるのは朝晩の食事を届ける看守くらい。
どれだけアリッサが声をかけても、無視された。
運ばれる食事は水のようなスープに、かびのはえたパンという粗末さ。
空腹程度は耐えられた。
これまで義母や義妹から受けた仕打ちと大差なかったから。
しかし耐えられないのは心だ。
浅い眠りの中、ヨアヒムのおぞましいものを目の当たりにしたと言わんばかりの表情と、罵倒の数々を夢の中で繰り返し見ることで、汗だくになって目覚めた。
今にも心が擦り切れてしまいそうだった。
さらに状況は悪化した。
胸元に現れた謎の刻印が突然、熱をもちはじめたのだ。
まるで第二の心臓のようにドクドクと脈打ちだし、眠ることもままならなくなった。
肌が妙にネットリとした汗に濡れ、脈が速くなる。
体の奥がジクジクとまるで爛れるように疼く。
――体が熱い……。まるで燃えるようだわ……。
看守に体の不調を訴え、医者に診て欲しいと懇願しても、無視された。
そんな狂おしいほどの熱と疼きに苛まれる中、カツンカツンと地下牢へ続く階段を下りてくる足音に気付く。
看守にしては足音は軽かった。
ロザミアは気怠い体を起こし、牢屋の格子に縋り付く。
「……お願い。医者を連れてきてください……体がおかしいんです……気が変になりそうで……!」
それに答えたのは、嘲笑う声。
「医者ですってぇ? なにを贅沢なことを言ってるわけ? 悪魔とつがったメス犬の分際で!」
荒々しい罵倒に胸を突かれた。
現れたのは、ルリアだった。
「アハハハ! なんて無様なの! でもメス犬にはふさわしい姿よねえ、お姉様ぁ!」
ルリアはニタァッと笑う。
「ルリア。私は悪魔とつがってないわ」
「それじゃあ、その印は何なの? 悪魔が自分の所有物へ刻印を押した以外の何だっていうのっ?」
「そ、それは……」
知識なんてないアリッサに答えられるはずがなかった。
「お姉様は淫らなメス犬だから、悪魔に狙われるんだわ! 穢らわしいわ!」
「……一体、何しに来たの? 私をただ笑いに来たの!?」
「まあ、それもあるわね。でも、本当の用事はこれ」
ルリアは手に持っていた紙を見せてくる。
書かれた文章を見た瞬間、血の気が引いた。
それは、ヨアヒムの署名入りの処刑命令。
「悪魔と関係を持ちし、罪人アリッサ・テュール・ヴェラを火あぶりに処す。その灰は川へ流せ……」
ご丁寧に、ルリアが暗唱する。
「あんたもこれで終わりね。アハハハハハ! 安心して。陛下のことは私に任せてよ」
「……任せる……?」
「今はまだ内定の段階だけど、私、陛下と結婚することになったから! だって、淫らな姉に代わって嫁ぐのは、伯爵家としてのせめてもの罪滅ぼしですもの……アハハハハ!」
「そんな……」
目の前が真っ暗になる。
婚約者に裏切られ、自分をいたぶってきたルリアが王の新たな婚約者になるなんて。
頭が真っ白で言葉が出ない。
それでも体を疼かせるような熱は、こうしている間にも全身を蝕み続ける。
と、ルリアの視界に、義妹の首を飾るネックレスが目に入った。
「それは!」
双星石。
「まだこんなものを隠しもっていたなんてね! でも薄汚い淫売にこんな綺麗な石はもったいなさすぎるもの。私が使ってあげる。ありがたく思いなさい!」
「それは私のよ! 返して!」
アリッサは牢の格子にすがりつくと、両手を伸ばす。
しかしルリアは嘲笑うと距離を取り、無様な義理の姉をニヤニヤしながら眺めていたかと思えば、
「きゃあああああ! 助けてぇぇぇ!」と突然、叫びだす。
「貴様、何やってる!」
悲鳴を聞きつけた看守が駆けつけたかと思えば、アリッサの腕を警棒で容赦なく殴り付けた。
「ぁああ!」
激痛に、腕を引っ込める。
「ルリア様、離れてください。穢れが移ります!」
「お姉様にひどいことをなさらないでください。お姉様は罪の意識で錯乱していらっしゃるだけなんです……」
そう看守に告げながら、ルリアはアリッサにだけ分かるようにニヤリと笑いかけてきた。
身心が消耗し、ルリアは目の前が真っ暗になった。
※
ルリアが去った翌日。
いつもは朝食を運んでくる看守の代わりにやってきたのは騎士たちだった。
牢の扉が開けられ、乱暴に腕を掴まれ引きずり出される。
「い、痛い……!」
悲鳴を上げても、まるで荷物を引きずるようにアリッサを扱うことをやめることはなかった。
――とうとうなのね。
地下牢から引きずり出されたアリッサは、久しぶりに外気を感じた。
空には分厚い黒雲が垂れ込めている。
――これから死ぬのに、朝日を見ることもできないなんて……。
これから自分の死に場所になるであろう広場には、藁を敷き詰めた磔台が設置され、その周囲には火あぶりが始まるのを今や遅しと待っている大勢の民の姿があった。
騎士たちによりアリッサは磔台に固定された。
「悪魔と寝たメス犬め!」
「神を冒涜する所業だ! 恥を知れ!」
民は腐った野菜を投げつけてくる。体にあたるたび、どろりとした気味の悪い感触と悪臭が全身を汚す。
騎士や兵士が血気に逸る野次馬たちを遠ざけると、役人が一歩踏み出し、文章を声高に読み始める。
「アリッサ・テュール・ヴェラを、悪魔に肉体を捧げたことで聖なる神を冒涜した罪により、火あぶりに処す! また、被告人を伯爵家の戸籍より除外する!」
アリッサは読み上げる声を、まるで他人事のように聞いていた。
心には諦念が広がっている。もう何もかも終わりなのだ。
――お母様、ごめんなさい……。
幸せになって欲しいと死の床で願ってくれた母を裏切ることへの罪悪感で、頭がおかしくなってしまいそうだった。
「火を付けよ!」
役人の指示により、騎士が掲げていた松明を藁山へ近づける。
火が燃え移れば、黒煙が上がった。
ゲホゲホと激しく咳き込み、涙が溢れる。
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