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第3章 賓客として、旅行者として
第28話 メモとキャリーバッグ
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「それジャ、これからのミノリサンの行動についテ、大まかな方針ヲ話すわヨ」
私の気持ちが落ち着いたところで、グロリアさんがパンと一つ手を打ち鳴らした。
その音に、その場にいる人々の注目がグロリアさんへと集まる。それを確認して、グロリアさんはこくりと頷いた。
「方針と言ってモ、ミノリサンにはこれまでと同様、マー大公国ヲ気が済むまで観光してモラウというところに変わりはないワ。
フーグラーにもまだまだ見どころはあるシ、何なら首都オールドカースルや大公国西部のシャンクリーに行ってもイイ。オールドカースルを中心にシテ各地に高速鉄道ガ通っているカラ、それを利用して都市間ヲ移動するといいワ。
タダシ、守ってほしいことガ一つ。この紙に書かれてイルお店のある街に行ったラ、必ず挨拶ニ行ってチョウダイ」
そう話しながらグロリアさんが取り出したのは、四つ折りにされた一枚のわら半紙だった。開くと都市名とお店の名前がリスト形式で、日本語とドルテ語でずらりと書かれている。
その中には「フーグラー 湯島堂書店」の記載もある。
私はその一覧に視線を走らせ、ぱっと顔を上げた。
「これって……もしかして、地球と繋がるお店の一覧ですか?」
「そうヨ。アガター先生にお願いシテ、リスト化していただいたノ。
アガター先生曰ク、地球とドルテの接続点とナルお店は互いに交流があっテ、連携を取りなガラ世界に迷い込んだヒト、自らの意思デ世界を渡ったヒトを、サポートしているそうナノ。
地球に繋がっている間ハ『いんたーねっと』ガ使えるカラ、都市間や国家間でもやり取りガ出来るのでショウ? そうやって連絡を取り合っテいるらしいワネ」
淀みなく話すグロリアさんの言葉に、元々日本出身のアサミさんと、日本に行ったこともあるロジャーさん以外の面々は目を丸くしていた。
この世界にも電話はあるが、都市内でしかやり取りが出来ないそうで、都市の枠組みを越えての言葉のやり取りをする仕組みは、まだないらしい。
それが地球では電波による基地間通信に加えて衛星通信が既に確立されているし、インターネットも普及して久しい。都市を越えてどころか国を越えて、世界中どこにいる人ともやり取りが出来るんだから、すごい話である。
グロリアさんが、私の手に持つわら半紙の一か所をトン、と指さした。指先で示された語句は、「マー大公国」。
「このマー大公国に存在スル、接続点は合計で五ヶ所ヨ。
ここフーグラー市と、日本のトウキョウが、古本屋ノ湯島堂書店。
首都オールドカースルと、アメリカのカリフォルニアが、雑貨屋ノハントストア。
シャンクリー市と、日本のカナガワが、喫茶店ノブルックスカフェ。
オフリー村と、日本のトウキョウが、エスニックレストランノ春秋飯店。
カニンガム村と、フランスのパリが、宿屋ノ赤金の馬車亭。
ミノリサンは日本の方だかラ、フーグラーかシャンクリーか、そのどちらかが拠点にするにはいいかしらネ……オフリー村は、結構な僻地にあるカラ」
「なるほど……日本以外のところに繋がる街でも、結構大都市に繋がってくれているのはありがたいですね」
どの都市の店が、どの都市に繋がっているかを確認した私は少しだけホッとした。
カリフォルニアもパリも、飛行機で日本に帰ることが可能な場所だ。カリフォルニア州の僻地に繋がっていたら涙目になるだろうけれど。
私の手元にはパスポートが無いから出国する時が面倒だが、いざという時は日本大使館に駆け込むなどという手もある。
オフリー村の春秋飯店が繋がっている東京も、湯島堂書店が繋がっている神保町とは別の場所で繋がっている可能性が高い。もしかしたら奥多摩とかに繋がっているかもしれないが、まぁ日本国内だったらいくらでもやりようはあるだろう。
私が状況を飲み込めたことを確認したグロリアさんが、指を一本ピンと立てた。
「フーグラー市内ではアサミの力も借りれるシ、オールドカースルのハントストアの店主さんハ地球とドルテが切り替わるタイミングを予測する『あぷり』ヲ作っていると、アガター先生から聞いたワ。
それらの力も借りテ、切り替わるタイミングが近づいタラそれらのお店ニ駆け込むように心がけるといいワネ。
他にも予兆を感じ取れる人ガいるかもしれないシ、ものがあるかもしれないケレド……そうしたらその力も借りるといいワ」
ピンと立てた指を前後に振りながら、説明をするグロリアさん。
確かに今のところはアサミさんしか予兆を感じ取れる人を知らないが、他にもいる可能性はあるし、そういう人と知り合いになれれば大きいことは間違いないだろう。
「マァ、理想としてはフーグラーにいる間ニ切り替わるタイミングが来テ、ミノリサンがすぐに日本に帰れれば一番いいワ。
デモそのタイミングが来るのは一時間後かもしれナイし、一日後かもしれナイし、一週間後かもしれナイし、一か月後かもしれナイし、一年後かもしれナイ。
だからフーグラーを離れて別の都市に行ってモ、地球に帰れるようニ心がけをしておくのは、大事なことヨ」
「分かりました」
グロリアさんの言葉に、私はこくりと頷いた。
既に分かっているとおり、地球とドルテの切り替わりが起こるタイミングは全くの不定。予兆があるとは言っても予測が立てられないことに変わりはない。
それに観光と言っても、一つの都市だけを見て回るのではどうしても限界が来るものだ。
私はこの世界の住民ではないし、市民権を得てもいないから仕事が出来ない。ずっとレストン家でお世話になりながら家の手伝いをするという手が取れないわけではないが、申し訳なさがすごくある。
加えて、あんまり私がフーグラー市に長いこと留まっていると、別の意味で厄介なことになるのだ。
パーシー君がこくりと頷きながら口を開く。
「マー大公国の法律デハ、二ヶ月以上同じ領内に留まって生活しているものハ、出自の如何に関わらず領民として登録サレ、徴税の対象になりますからネ……
徴税対象になるト、お帰りになるハードルが格段に上がりマス。二ヶ月なのでまだ間はありますガ、それまでの間にサワさんはフーグラーが属するアータートン領を出テ、別の領内に拠点を移さなくてはなりまセン。
一時的に別の領に出テ、間を置かずにまたフーグラーに戻っテ、ではダメなのが厄介なところデス。一月は間を置かなくテハ」
そう、旅行者である故に免除されている数々の税金を、納めなくてはならなくなるのだ。
マー大公国は昔から種族差別が酷くない気風だったらしく、その影響で移民が非常に多い。国土が肥沃な草原地帯ということも手伝って、この世界では珍しいくらいに国境を渡ってくる人々がいるのだそうだ。
と言ってもグロリアさん曰く年に数百人程度らしいが、国外に出ること自体が一般的でないこの世界では十分に多い。
そしてそれらの人々が一つの領内で二か月生活できるということは、その領内に受け入れられているということ、という考えが根底にあるそうで、法律の「領民として認められる」というのが効いてくるのだ。
領民になるということは領主の庇護を受けられるということ。生活の最低限は保証されるが、同時に名簿に登録されて領主に管理されるということでもある。
いずれ日本に帰らなければならない私としては、何としても避けたい話であった。
アータートン領はすなわちブレンドン伯爵閣下が領主を務めているので、融通を効かせてくれることも、あると思いたい、けれども法律で決まっているから難しいだろう。
「そうネ。だからミノリサンはあくまでも領民ではナク、旅行者として居続けなくてはならナイ。
その為には二ヶ月以上同じ都市、同じ領土に留まらズ、各地を転々としないとならないワケ。
ミノリサンがドルテに来たのが二日前ダカラ、あとひと月と二十八日……それまでに地球と繋がれバ、いいのだけれド」
「そうなるとは限らない、ってことですよね……」
確認するように発言した私に、グロリアさんはこくりと頷いた。
そこで一度言葉を切ると、グロリアさんは傍らに置いていたスカイブルーのキャリーバッグをポンと手で叩いた。
「それと、私のお古で悪いのだケレド、このキャリーバッグは私からのプレゼント。
昨日買った衣服ヤ旅行で必要なものヲ、お手持ちのかばんでハ持ち歩けないでしょうカラ、これを使って頂戴」
「いいんですか? 結構、大事に使われていたもののようですけど……」
ガラガラと床の上を転がして、パッと見使い込まれたキャリーバッグを私に差し出してくるグロリアさんに、私は申し訳ない表情をしながらもそれを受け取った。
目立つ傷や汚れは無い。綺麗に使われているが、車輪の細かな傷や表面のテカリは隠せるものではない。
愛用してきたことだろうに、しかしグロリアさんは首を振った。
「いいのヨ、軽くてすごく使いやすいのだケレド、移動する時に馬車を使うのが基本ダシ、馬車の中には持ち込みにくくてネ。
日本人のミノリサンがお持ちの方ガ、見た目的にも自然ダワ。遠慮なく使っていいのヨ」
「……ありがとうございます」
柔らかな笑顔で私に笑いかけてくるグロリアさん。その笑顔を見ると、本当に私に使ってもらいたいのだということが分かる。
事実、この後旅行カバンを買おうと思っていたわけで、思いもよらぬ有り難いプレゼントだ。カバンの代金分、資金に余裕が出来た。
私がキャリーバッグを受け取ったことを確認したデュークさんが、一歩前に進み出る。
「私ハ今後も引き続キ、ミノリ様の護衛と対外折衝を担当させていただきマス。
名目上はフーグラー市、ひいてはアータートン領の賓客に対しテ、伯爵家からお付けする護衛、となりますガ、ミノリ様がアータートン領の外に出られた際ニモ、継続して護衛にあたらせていただきマス。
ドウゾ、何なりとご用事ヲお申し付け下サイ」
「あっ……は、はい、よろしく、お願いします」
恭しく頭を下げるデュークさん。仮にも子爵位を持つ貴族なのに、こんなにがっつり謙っていいのか、と思わなくもないが、なんにせよ他の都市に行ってもついてきてくれるのは有り難い。
デュークさんの後ろでこくりと、満足そうな表情をしてグロリアさんが頷いている。
「サァ、話もまとまったことダシ、ミノリサンが落ち着いたラまたお出かけしまショウ。
心ゆくまで、楽しんでいって頂戴ネ、ミノリサン」
ぐっと握った拳を胸に当てるグロリアさんの自信満々な言葉に、私の表情は自然と綻んでいたのだった。
私の気持ちが落ち着いたところで、グロリアさんがパンと一つ手を打ち鳴らした。
その音に、その場にいる人々の注目がグロリアさんへと集まる。それを確認して、グロリアさんはこくりと頷いた。
「方針と言ってモ、ミノリサンにはこれまでと同様、マー大公国ヲ気が済むまで観光してモラウというところに変わりはないワ。
フーグラーにもまだまだ見どころはあるシ、何なら首都オールドカースルや大公国西部のシャンクリーに行ってもイイ。オールドカースルを中心にシテ各地に高速鉄道ガ通っているカラ、それを利用して都市間ヲ移動するといいワ。
タダシ、守ってほしいことガ一つ。この紙に書かれてイルお店のある街に行ったラ、必ず挨拶ニ行ってチョウダイ」
そう話しながらグロリアさんが取り出したのは、四つ折りにされた一枚のわら半紙だった。開くと都市名とお店の名前がリスト形式で、日本語とドルテ語でずらりと書かれている。
その中には「フーグラー 湯島堂書店」の記載もある。
私はその一覧に視線を走らせ、ぱっと顔を上げた。
「これって……もしかして、地球と繋がるお店の一覧ですか?」
「そうヨ。アガター先生にお願いシテ、リスト化していただいたノ。
アガター先生曰ク、地球とドルテの接続点とナルお店は互いに交流があっテ、連携を取りなガラ世界に迷い込んだヒト、自らの意思デ世界を渡ったヒトを、サポートしているそうナノ。
地球に繋がっている間ハ『いんたーねっと』ガ使えるカラ、都市間や国家間でもやり取りガ出来るのでショウ? そうやって連絡を取り合っテいるらしいワネ」
淀みなく話すグロリアさんの言葉に、元々日本出身のアサミさんと、日本に行ったこともあるロジャーさん以外の面々は目を丸くしていた。
この世界にも電話はあるが、都市内でしかやり取りが出来ないそうで、都市の枠組みを越えての言葉のやり取りをする仕組みは、まだないらしい。
それが地球では電波による基地間通信に加えて衛星通信が既に確立されているし、インターネットも普及して久しい。都市を越えてどころか国を越えて、世界中どこにいる人ともやり取りが出来るんだから、すごい話である。
グロリアさんが、私の手に持つわら半紙の一か所をトン、と指さした。指先で示された語句は、「マー大公国」。
「このマー大公国に存在スル、接続点は合計で五ヶ所ヨ。
ここフーグラー市と、日本のトウキョウが、古本屋ノ湯島堂書店。
首都オールドカースルと、アメリカのカリフォルニアが、雑貨屋ノハントストア。
シャンクリー市と、日本のカナガワが、喫茶店ノブルックスカフェ。
オフリー村と、日本のトウキョウが、エスニックレストランノ春秋飯店。
カニンガム村と、フランスのパリが、宿屋ノ赤金の馬車亭。
ミノリサンは日本の方だかラ、フーグラーかシャンクリーか、そのどちらかが拠点にするにはいいかしらネ……オフリー村は、結構な僻地にあるカラ」
「なるほど……日本以外のところに繋がる街でも、結構大都市に繋がってくれているのはありがたいですね」
どの都市の店が、どの都市に繋がっているかを確認した私は少しだけホッとした。
カリフォルニアもパリも、飛行機で日本に帰ることが可能な場所だ。カリフォルニア州の僻地に繋がっていたら涙目になるだろうけれど。
私の手元にはパスポートが無いから出国する時が面倒だが、いざという時は日本大使館に駆け込むなどという手もある。
オフリー村の春秋飯店が繋がっている東京も、湯島堂書店が繋がっている神保町とは別の場所で繋がっている可能性が高い。もしかしたら奥多摩とかに繋がっているかもしれないが、まぁ日本国内だったらいくらでもやりようはあるだろう。
私が状況を飲み込めたことを確認したグロリアさんが、指を一本ピンと立てた。
「フーグラー市内ではアサミの力も借りれるシ、オールドカースルのハントストアの店主さんハ地球とドルテが切り替わるタイミングを予測する『あぷり』ヲ作っていると、アガター先生から聞いたワ。
それらの力も借りテ、切り替わるタイミングが近づいタラそれらのお店ニ駆け込むように心がけるといいワネ。
他にも予兆を感じ取れる人ガいるかもしれないシ、ものがあるかもしれないケレド……そうしたらその力も借りるといいワ」
ピンと立てた指を前後に振りながら、説明をするグロリアさん。
確かに今のところはアサミさんしか予兆を感じ取れる人を知らないが、他にもいる可能性はあるし、そういう人と知り合いになれれば大きいことは間違いないだろう。
「マァ、理想としてはフーグラーにいる間ニ切り替わるタイミングが来テ、ミノリサンがすぐに日本に帰れれば一番いいワ。
デモそのタイミングが来るのは一時間後かもしれナイし、一日後かもしれナイし、一週間後かもしれナイし、一か月後かもしれナイし、一年後かもしれナイ。
だからフーグラーを離れて別の都市に行ってモ、地球に帰れるようニ心がけをしておくのは、大事なことヨ」
「分かりました」
グロリアさんの言葉に、私はこくりと頷いた。
既に分かっているとおり、地球とドルテの切り替わりが起こるタイミングは全くの不定。予兆があるとは言っても予測が立てられないことに変わりはない。
それに観光と言っても、一つの都市だけを見て回るのではどうしても限界が来るものだ。
私はこの世界の住民ではないし、市民権を得てもいないから仕事が出来ない。ずっとレストン家でお世話になりながら家の手伝いをするという手が取れないわけではないが、申し訳なさがすごくある。
加えて、あんまり私がフーグラー市に長いこと留まっていると、別の意味で厄介なことになるのだ。
パーシー君がこくりと頷きながら口を開く。
「マー大公国の法律デハ、二ヶ月以上同じ領内に留まって生活しているものハ、出自の如何に関わらず領民として登録サレ、徴税の対象になりますからネ……
徴税対象になるト、お帰りになるハードルが格段に上がりマス。二ヶ月なのでまだ間はありますガ、それまでの間にサワさんはフーグラーが属するアータートン領を出テ、別の領内に拠点を移さなくてはなりまセン。
一時的に別の領に出テ、間を置かずにまたフーグラーに戻っテ、ではダメなのが厄介なところデス。一月は間を置かなくテハ」
そう、旅行者である故に免除されている数々の税金を、納めなくてはならなくなるのだ。
マー大公国は昔から種族差別が酷くない気風だったらしく、その影響で移民が非常に多い。国土が肥沃な草原地帯ということも手伝って、この世界では珍しいくらいに国境を渡ってくる人々がいるのだそうだ。
と言ってもグロリアさん曰く年に数百人程度らしいが、国外に出ること自体が一般的でないこの世界では十分に多い。
そしてそれらの人々が一つの領内で二か月生活できるということは、その領内に受け入れられているということ、という考えが根底にあるそうで、法律の「領民として認められる」というのが効いてくるのだ。
領民になるということは領主の庇護を受けられるということ。生活の最低限は保証されるが、同時に名簿に登録されて領主に管理されるということでもある。
いずれ日本に帰らなければならない私としては、何としても避けたい話であった。
アータートン領はすなわちブレンドン伯爵閣下が領主を務めているので、融通を効かせてくれることも、あると思いたい、けれども法律で決まっているから難しいだろう。
「そうネ。だからミノリサンはあくまでも領民ではナク、旅行者として居続けなくてはならナイ。
その為には二ヶ月以上同じ都市、同じ領土に留まらズ、各地を転々としないとならないワケ。
ミノリサンがドルテに来たのが二日前ダカラ、あとひと月と二十八日……それまでに地球と繋がれバ、いいのだけれド」
「そうなるとは限らない、ってことですよね……」
確認するように発言した私に、グロリアさんはこくりと頷いた。
そこで一度言葉を切ると、グロリアさんは傍らに置いていたスカイブルーのキャリーバッグをポンと手で叩いた。
「それと、私のお古で悪いのだケレド、このキャリーバッグは私からのプレゼント。
昨日買った衣服ヤ旅行で必要なものヲ、お手持ちのかばんでハ持ち歩けないでしょうカラ、これを使って頂戴」
「いいんですか? 結構、大事に使われていたもののようですけど……」
ガラガラと床の上を転がして、パッと見使い込まれたキャリーバッグを私に差し出してくるグロリアさんに、私は申し訳ない表情をしながらもそれを受け取った。
目立つ傷や汚れは無い。綺麗に使われているが、車輪の細かな傷や表面のテカリは隠せるものではない。
愛用してきたことだろうに、しかしグロリアさんは首を振った。
「いいのヨ、軽くてすごく使いやすいのだケレド、移動する時に馬車を使うのが基本ダシ、馬車の中には持ち込みにくくてネ。
日本人のミノリサンがお持ちの方ガ、見た目的にも自然ダワ。遠慮なく使っていいのヨ」
「……ありがとうございます」
柔らかな笑顔で私に笑いかけてくるグロリアさん。その笑顔を見ると、本当に私に使ってもらいたいのだということが分かる。
事実、この後旅行カバンを買おうと思っていたわけで、思いもよらぬ有り難いプレゼントだ。カバンの代金分、資金に余裕が出来た。
私がキャリーバッグを受け取ったことを確認したデュークさんが、一歩前に進み出る。
「私ハ今後も引き続キ、ミノリ様の護衛と対外折衝を担当させていただきマス。
名目上はフーグラー市、ひいてはアータートン領の賓客に対しテ、伯爵家からお付けする護衛、となりますガ、ミノリ様がアータートン領の外に出られた際ニモ、継続して護衛にあたらせていただきマス。
ドウゾ、何なりとご用事ヲお申し付け下サイ」
「あっ……は、はい、よろしく、お願いします」
恭しく頭を下げるデュークさん。仮にも子爵位を持つ貴族なのに、こんなにがっつり謙っていいのか、と思わなくもないが、なんにせよ他の都市に行ってもついてきてくれるのは有り難い。
デュークさんの後ろでこくりと、満足そうな表情をしてグロリアさんが頷いている。
「サァ、話もまとまったことダシ、ミノリサンが落ち着いたラまたお出かけしまショウ。
心ゆくまで、楽しんでいって頂戴ネ、ミノリサン」
ぐっと握った拳を胸に当てるグロリアさんの自信満々な言葉に、私の表情は自然と綻んでいたのだった。
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