11 / 34
11.
しおりを挟む
「だってエリーは「王家の鳥籠」から外へ出るんだろう?
なら僕のところへおいで」
「宵闇の君」は、その紺碧の海のような瞳をいたずらっぽく煌めかせて、わたくしに言ったのだった。
(まるで一幅の絵画のようだわ…)
あまりの魅惑的な言葉と表情に夢見るような心地になるけれど、しかし何を言われたのかは、さっぱり理解できない。
(おいで…おいでとは?どこに?わたくしが自由な立場になったから、アプロウズ家に遊びにおいでとか…。
それとも何かいま社交界で流行りの比喩とか…かしら?)
「オリバー!お前いきなり何言って…!」
オリバー様は、怒鳴るお兄様には目もくれず席を立つと、優雅な足取りで私の元にいらして、
「エリザベス嬢、正式な婚約の申し出は改めて。
きちんと公爵閣下のお許しを得てからにするよ。でも、エリーに気持ちは伝えておかないとね」
そうして、わたくしの手の甲にキスをした。
(プ、プ、プロポーズ!?)
「エリーを愛称で呼ぶな!そんなすぐに父から許しなど出ない!」
「ほら、どうせそうして過保護な君が囲い込むだろうと、今朝は急いで…」
「少しは段階を踏め!」
(どどど動揺してはだめよ、わたくし公爵令嬢ですもの!)
幼い頃から「将来の王太子妃」だったわたくしは、恋をすることも、殿方から甘い言葉を囁かれることもなかった。
(初めてのことで舞い上がってしまったけれど、お兄様のおっしゃる通りだわ。
そう、お父様からお許しなど出ないのだもの)
内心の動揺を抑えてお二人に声を掛ける。
「お兄様、わたくし用事を思い出しましたわ。お先に部屋に戻らせていただきますね。オリバー様もごきげんよう」
「「え…………」」
目を瞬くお二人に軽くカーテシーをして、何事も無かったように、颯爽とダイニングルームを後にした。
「えっ、ちょっと?エリザベス嬢!」
背中にオリバー様の追いかける声が聞こえたような気がしたけれど、もう扉は閉まった後だった。
___________
あれほど早く行きたかった公爵邸の図書室には足が向かず、真っ直ぐに部屋へ戻った。
「お嬢様、軽くつまめる物をお持ちしました」
「ありがとう、ラリサ」
「でも、びっくりいたしましたね。まさかアプロウズ家のオリバー様が…」
「そうね、でもグリサリオとアプロウズの婚姻などあり得ないもの。きっとご冗談じゃないかしら」
「それに奥様のお告げもありますものね、お嬢様が公爵家を離れるわけにもいきませんし…」
「…ゴホッ」
一口サイズのサンドイッチが喉につまってしまい、紅茶で流し込む。
(お母様のお告げ、すっかり忘れていたわ!)
「そうは言っても「宵闇の君」から求婚されるなんて!さすがはラリサのお嬢様ですわ!」
「ラリサったら」
(王太子殿下との婚約破棄なんて不敬をしておいて、五大公爵家のうちのグリサリオ家とアプロウズ家の婚姻なんて…。
王家に叛意があると受け取られかねないもの。
きっと、お兄様があの後お断りになっているわね)
何だか熱を持っているような気がして、オリバー様の触れた右手を胸元で握りしめた。
けれど想像に反して、その日からグリサリオ公爵邸には、オリバー様からわたくしへの贈り物が毎日のように届いたのだった。
アプロウズ家のシンボルである「青薔薇」の花束を添えて…。
なら僕のところへおいで」
「宵闇の君」は、その紺碧の海のような瞳をいたずらっぽく煌めかせて、わたくしに言ったのだった。
(まるで一幅の絵画のようだわ…)
あまりの魅惑的な言葉と表情に夢見るような心地になるけれど、しかし何を言われたのかは、さっぱり理解できない。
(おいで…おいでとは?どこに?わたくしが自由な立場になったから、アプロウズ家に遊びにおいでとか…。
それとも何かいま社交界で流行りの比喩とか…かしら?)
「オリバー!お前いきなり何言って…!」
オリバー様は、怒鳴るお兄様には目もくれず席を立つと、優雅な足取りで私の元にいらして、
「エリザベス嬢、正式な婚約の申し出は改めて。
きちんと公爵閣下のお許しを得てからにするよ。でも、エリーに気持ちは伝えておかないとね」
そうして、わたくしの手の甲にキスをした。
(プ、プ、プロポーズ!?)
「エリーを愛称で呼ぶな!そんなすぐに父から許しなど出ない!」
「ほら、どうせそうして過保護な君が囲い込むだろうと、今朝は急いで…」
「少しは段階を踏め!」
(どどど動揺してはだめよ、わたくし公爵令嬢ですもの!)
幼い頃から「将来の王太子妃」だったわたくしは、恋をすることも、殿方から甘い言葉を囁かれることもなかった。
(初めてのことで舞い上がってしまったけれど、お兄様のおっしゃる通りだわ。
そう、お父様からお許しなど出ないのだもの)
内心の動揺を抑えてお二人に声を掛ける。
「お兄様、わたくし用事を思い出しましたわ。お先に部屋に戻らせていただきますね。オリバー様もごきげんよう」
「「え…………」」
目を瞬くお二人に軽くカーテシーをして、何事も無かったように、颯爽とダイニングルームを後にした。
「えっ、ちょっと?エリザベス嬢!」
背中にオリバー様の追いかける声が聞こえたような気がしたけれど、もう扉は閉まった後だった。
___________
あれほど早く行きたかった公爵邸の図書室には足が向かず、真っ直ぐに部屋へ戻った。
「お嬢様、軽くつまめる物をお持ちしました」
「ありがとう、ラリサ」
「でも、びっくりいたしましたね。まさかアプロウズ家のオリバー様が…」
「そうね、でもグリサリオとアプロウズの婚姻などあり得ないもの。きっとご冗談じゃないかしら」
「それに奥様のお告げもありますものね、お嬢様が公爵家を離れるわけにもいきませんし…」
「…ゴホッ」
一口サイズのサンドイッチが喉につまってしまい、紅茶で流し込む。
(お母様のお告げ、すっかり忘れていたわ!)
「そうは言っても「宵闇の君」から求婚されるなんて!さすがはラリサのお嬢様ですわ!」
「ラリサったら」
(王太子殿下との婚約破棄なんて不敬をしておいて、五大公爵家のうちのグリサリオ家とアプロウズ家の婚姻なんて…。
王家に叛意があると受け取られかねないもの。
きっと、お兄様があの後お断りになっているわね)
何だか熱を持っているような気がして、オリバー様の触れた右手を胸元で握りしめた。
けれど想像に反して、その日からグリサリオ公爵邸には、オリバー様からわたくしへの贈り物が毎日のように届いたのだった。
アプロウズ家のシンボルである「青薔薇」の花束を添えて…。
102
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
第三王子の「運命の相手」は追放された王太子の元婚約者に瓜二つでした
冬野月子
恋愛
「運命の相手を見つけたので婚約解消したい」
突然突拍子もないことを言い出した第三王子。その言葉に動揺する家族。
何故なら十年前に兄である王太子がそう言って元婚約者を捨て、子爵令嬢と結婚したから。
そして第三王子の『運命の相手』を見て彼らは絶句する。
――彼女は追放され、死んだ元婚約者にそっくりだったのだ。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる