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番外編・公爵閣下の夢のお告げ4
しおりを挟むガタゴトと馬車が大通りを走る中、窓の外の景色は、落葉樹の冬芽がほころびを見せ始め、少しずつ近づく春を感じさせていた。
(魔法で花を咲かせている貴族の庭園とは違って、街路樹が一番季節を感じさせてくれるわね……)
お茶会では庭園の端に控えていた侍女のラリサが、心配そうにこちらを伺っているけれど、今は誰とも会話をしたくなかった。
(……だって、あんなのただの噂だもの。
社交界なんて、嘘がもっともらしく真実のように語られる場所じゃない……。
オリバー様はわたくしの事、ずっと好きだったって………えっ?)
お茶会の間、ずっと自分に言い聞かせていた言葉を繰り返していると、何かピースが嵌らないような感覚がして、記憶を辿った。
あの時、拐われてしまった馬車の中で……
『ずっと好きだ』
『本当はずっと、どこかに攫ってしまいたかった。だが、王太子妃に相応しくあろうとする君の、その想いを踏み躙りたくなくて…諦めていたんだ』
「そう、そうだわ…!諦めてって……」
諦めていらしたんだわ。
(……うそ)
わたくしが王太子妃になるのは、本来ならば揺るがない確定事項だった。
アプロウズ公爵家の嫡男であるオリバー様が、わたくしを諦めて他の女性と結婚するつもりでいても何ら不思議ではない。
(そもそも、オリバー様は独身を貫くなんて許されるお立場の方ではないのに……。
どうして思い至らなかったのかしら。公表していなくたって、特別なお相手がいるはずだって……)
頭では理解できたけれど、心が否定していて胸が苦しくなってしまう。
先程見掛けた、ピンクブロンドの愛らしい髪色に水色の瞳の男爵令嬢が脳裏に焼き付いて離れなかった。
髪に編み込んだ青い小花と、深い紺碧色のドレス。そのどれもがオリバー様への想いを表しているようで……。
(……あの方の気持ちはよく分かるわ。だって、わたくしも最近オリバー様の色ばかり身に纏っていたもの……。
まるで、自分がオリバー様のたった一つの大切な存在になれたようで嬉しかったから。
でも、もしかしたら贈り物なのかもしれないわ。わたくしと同じで…………
……オリバー様に直接会って、噂が本当なのかお聞きしたい。あの女性とはこれからどうするおつもりなのか……。
ううん、やっぱり聞けない。聞きたくないもの)
私を好きだとおっしゃった瞳に嘘は無かったと思う。でも、オリバー様は優しい方だから、きっとあの女性を捨て置くなんてなさらない。
考えなくてはいけない事が沢山あって、目眩がしそうだった。
王立魔法学院で噂になっているならお兄様はご存知のはず、きっと内々に婚約する時にはお父様だって調べないはずが無いわ。
もしかしたら、お相手の方の爵位の低さから問題になさらなかった可能性もあるけれど……。あの、わたくしに重度な過保護のお二人がそんな事お認めになるとは思えなかった。
(前世の『私』だったら、こんな時に何て叫ぶかしら……)
王太子殿下との婚約が解消できてから、少しずつ前世の感覚と物語の記憶が薄れてきているのを感じていた。
好きな男性を誰かと共有するなんて絶対嫌だと『私』の心が遠くで訴えていても、今世で公爵令嬢として教育された『わたくし』は、貴族社会の中では良くある仕方がない事なのだと諦めている。
「…………諦めるの?」
「お嬢様?」
わたくしが思わず零した言葉は、しっかりラリサに拾われたようだった。
「ごめんなさい、何でもないわ」
「…………」
(何でも……。いえ、何でもなく無いわ!!)
「…………ラリサ、わたくしオリバー様にお会いしてお聞きしたい事があるの。
アプロウズ公爵邸へ向かってくれる?」
「えっ!本日いまからですか?」
「そうよ」
「お、お待ち下さい。もしや先程のお茶会での噂話の件で……?」
「…………だって、ご本人に事実を確認するのが一番でしょう」
「ですがお嬢様、先触れも無くと言うのは……。取り敢えず一旦ご帰宅されて、少し落ち着いてからの方が…………」
「いいの、このまま伺うわ!」
一度帰宅して冷静になってしまったら、たぶん勇気が出せなくなる。
このまま何も聞かなかった事にして飲み込んでしまったら、以前の普通の公爵令嬢のままだ。
(せっかく前世の記憶を思い出して運命を変えたのに、わたくしの中の『私』を消してしまったら勿体無いわよね!)
確か、前世で日本人がよく使う言葉があったはず。そう、確か……。
(当たって砕けろの精神! つまり突撃よ!!!)
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