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14.そっと距離ができた日
しおりを挟むその日の帰り道、アダム様は何やら考えているようでした。
あの女性のことかしら?
あの女性、マーティン様では物足りなかったのかしら?
マーティン様、愛が重いです。
マーティン様………、もう終わったことよね。だから、そこは気にしなくていいわ。
だけど、あの女性、次はアダム様を狙ってるのかしら?
アダム様、あの女性とは、どんな関係かしらね。
肩に手が触れるような関係?
キスをしてしまう……、関係…なの?
チクッ――心臓が痛い。
いけないわ、また心臓が痛い。早く帰ってお医者様に診てもらわなきゃダメかしら?
いつものように、木登りしながら本を読むの――今日はやめた方がいいみたい。
……だって、そんな気、起きないんだもの。
馬車に揺れながら、いつもとは違う静かな空気。――重いわね。
握る手に少しだけじんわり汗が滲む。
今日は私の手を握ってくださらないの?
今日は私に言ってくださらないの?
――愛してるって。…ねぇ、アダム様。
寂しいような、苦しいような、よく分からない気持ちが私の胸の中を駆け巡る。
カラカラ回る馬車の車輪は、私の胸の中を走るよく分からない気持ちを余計に重くする。
「着いたよ、エリッサ。さあ、手を」
いつものように優しい笑顔に、少し安堵する。だけど……。
アダム様の手の温もりが、少しだけ。
いつもより冷たい気がして、私の心に一滴の不安を落としてゆく。
そして、それは、後にゆっくり、ゆっくり波紋を広げて行った。
「アダム様――」
あの女性とはどのようなご関係ですの?
言いかけたけど、聞いてはいけない気がしてこれ以上は、言えなかった。
「んっ?エリッサ、なにかな?」
「アダム様、ごきげんよう。また明日ですわね︎」
「ああ、また明日。エリッサ、愛してる」
今日は、聞きたくありません。
「さようなら」
そう伝えて、私は足早に屋敷に駆け込みましたの。アダム様の顔が見れなかったわ。
顔を見てしまうときっと“聞いてしまう”から。
屋敷に入ると、メイド達が温かく迎えてくれる。
「お帰りなさいませ。エリッサ様。お風呂になさいますか?それとも…読書をなさいますか?」
「そうね、お風呂に入るわ」
いつもなら、私はすぐに読書をするって答えるのに、今日はお風呂って言ったのが珍しかったようね。
「はい、分かりました。いつもの読書でござい…………え?あっ、はい。お風呂でございますね。かしこまりました。」
私の後ろにいるメイドたちが、慌てているわね。
でも、ごめんなさい。やっぱりお風呂に入りたいの。
この胸の奥のドロドロとした感情を、すぐに流してしまいたいの。
お風呂で、流してしまえたらいいのに。
少しだけ待って、私は湯に浸かる。
さっきまでは、シャワーを頭から掛けてみたのだけれど、拭えなかった。
湯船には、木綿の袋に詰めたラベンダー。
気持ちが落ち着く、リラックス効果が期待できるの。
ポチャーン――
私の手からお湯が雫になって落ちていく。
私の心のガラスが割れて、手から零れていくみたい。
胸の奥に――チクリ。
この胸の痛みは、なんなのかしら?
お母様に聞いてみた方がいいかしら?
お父様に話したら、
「外出禁止、自宅療養だ。この国最高の医者を今すぐ手配しろっ」
って言いかねないわね。…クスッ。
お父様の行動が読めてしまって、笑ってしまったわね。
少しだけ気分が晴れた気がした。
「エリッサ様、そろそろご夕飯のお時間でございます。ご準備致しましょう」
「ええ」
ザザーン。湯上りのお湯が浴槽の中を大きく波打つ。
エリッサ、美味しいものを食べるわよ。
美味しいものを食べて、元気にならなきゃ。
心臓病だってどっかに行っちゃうわ。
だって“病は気から”って言うじゃない。
気持ちを上げれば大丈夫よ。
エリッサ、口角上げて笑うわよ!
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