100 / 126
~番外編~
おうちかふぇ
しおりを挟む
こちらは2013年にどこでも読書さんの『冬のエタニティフェア2013』に参加させていただいたSSです。編集さんの許可をいただきましたので、こちらに投稿しました。
********************************************
本日は日曜日だというのに昨夜からずっと雨が降り続いている。雨は嫌いじゃないけれど、午前中からこうも薄暗いとなんとなく気鬱になってしまう。何より、この雨では外に出るのも億劫だ。
それに、旦那様の正宗さんは家に持ち帰ったお仕事にかかりきりで、朝からずっと書斎に籠っておられるし。
……はい。要するに私は一人ぼっちの休日を持て余しているのでございます。
うん、仕方ないってわかってるけど、ちょっと寂しい。
「うーん……」
何をして時間を潰そうかなー、と考える。家事……はね、もうあらかた済ませてしまっているのだ。お洗濯は毎日やっているし、二人分だからそれほど量は多くない。今日は外に干せないから室内干ししている。お掃除は、掃除機をかけるとお仕事をしている正宗さんの邪魔になるかな? と思って、一階だけ掛けた。二階は明日、重点的にやろうと思う。
昨日買い物に行ったから食料は充分揃っているし、雨が降っているから家庭菜園の草むしりもできない。
こういう空いた時間、いつもなら漫画を読んだり小説を読んだりゲームをしたり、ネットサーフィンをして過ごしているんだけど……
「ふむむ……」
なんでだろうな? 今日はそういう気分になれない。一応、茶の間に小説本を持ちこんで(お気に入りのBL小説だ。カバーを掛けてそれとわからないようにしている)はみたものの、ぱらりとページを捲っても、どうも気が乗らない。
ごろんと、座布団を枕にして寝転がる。そしてツイツイッといじるのはスマートフォン。こういうちょっと暇な時、ついつい弄ってしまうんだよね~。パソコンより起動が早いし。
「あ……」
スマートフォンで何とはなしにサイトを巡っていたら、カフェ特集のページに行きついた。カフェ……良いなぁ。カフェってだけでなんかこう、心がときめくよね……! 美味しいコーヒーに、美味しいランチ、スイーツ!!
わわ……!! このお店雰囲気良さげ……!! パンケーキも美味しそう~!! よし、お気に入りに登録しておこうっと。ふふふ、今度正宗さんと一緒に行きたいなあ……
「カフェオレ飲みたいなあ……」
カフェ特集を見ていたらカフェオレ飲みたくなってきちゃった。そうだ! そろそろ正宗さんの所にお茶を持って行こう。いつもは緑茶を淹れるけど、たまにはコーヒーも良いんじゃないかな?
ふっふっふ。実はですね、最近新しいコーヒーメーカーを買ったのですよ! これで簡単に美味しいコーヒーが淹れられるのですよ!!
「あっ! そうだ!!」
私はあることをひらめいて、がばりと座布団から起き上がった。
「おうちかふぇ、やろう」
カフェに行けないならお家をカフェにしたらいいのよ!!
「正宗さん、ちょっとよろしいですか?」
こんこん、と書斎の扉をノックして、旦那様に声を掛ける。
すると「どうぞ」とのお声がかかり、私はムフフと口元を緩めながら中に入った。
正宗さんは椅子をキイと回転させて、こちらを向く。おお……ちょっとお疲れのように見受けられます。朝からずっとお仕事されてるからなぁ……。やっぱり息抜きは大事だよね。というわけで!
「こちら、メニューになります」
私はにっこりと微笑んで、正宗さんに一枚の紙を手渡した。
「メニュー?」
「はい! この中からお好きなメニューをお選び下さい」
お家をカフェにしちゃえ!! ということで。紙でメニュー表を作ったのだ。まあ、書いてあるメニューは家で出せる飲み物と、今日のお昼に作ろうと思っていたメニュー、なんだけどね。
でもたまにはこういうのも楽しいかな、って。えへへ、実はメニュー表作るの結構楽しかったのです。
「千鶴さん?」
「今日は『おうちかふぇ』の店員なのです」
そう言うと、正宗さんはくすりと笑って、メニュー表を指差した。
「……それじゃあ、コーヒーはエスプレッソで」
「はい」
私はタンスから出してきたカフェエプロン――アイボリーの地に黒地のポケットが付いていて、腰紐も黒く、カフェの店員さん風ハーフエプロンだ――のポケットからメモ帳を取り出し、オーダーを記入する。……まあ、それくらい覚えられるだろって話ですけれど、これも気分ですよ気分!! それっぽく!!
「ランチは……Bランチを」
ちなみにランチはAとBの二種類書いております。Aランチはサラダ・タラコスパゲッティー・コンソメスープ。Bランチはサラダ・ライス・チキンソテー・コンソメスープだ。どちらもデザートでフルーツヨーグルトが付く。
「かしこまりましたー! コーヒーはすぐにお持ちしますね。ランチはこちらでお召し上がりになりますか? それとも下で?」
「下で食べます」
「すぐにお席をご用意いたします」
ふっと、正宗さんが微笑んだ。
「……徹底してますね、店員さん」
『おうちかふぇ』に付き合ってくれる旦那様は、私の店員振りが面白いらしい。
こういうのはなりきるのが大事ですから!!
それからエスプレッソコーヒーを淹れて(といっても、ボタン一つでコーヒーメーカーが美味しいエスプレッソを淹れてくれるんだけど)、書斎に運んで。ランチ作り!!
どれも手が込んだ料理ではないけれど、カフェ風に! と思ってワンプレートに盛り付けたら、それだけでとっても美味しそうに見える。ムフフ。
そしてテーブルセッティング! 今日は雨降りだけど、雨に濡れる庭を見ながらランチ……もいいかと思って、縁側に面した障子戸を開けて、和室のテーブルの上にランチョンマットを敷いて、料理を並べる。
あっ、そうそう。普段はあまり使わないけれど、ガラス製の水差しがあったんだ。あれに氷水を入れて、お揃いのグラスを二つ、一緒に並べておく。
うんうん。和室でカフェ風ご飯っていうのも中々良い感じ。
「そうだ! それから……」
我が家の玄関脇、北に面した小さな庭には今、コスモスが咲いているのです。それを摘んできて、グラスに挿してテーブルの上に飾ってみる。
「うん!」
やっぱり花があると華やかだなあ。
ランチの用意ができて、正宗さんを呼びに行って。
下に降りてきた正宗さんは、和室に用意したカフェご飯を見て少し驚いてくれて、「すごいですね」って言ってくれた。
えへへ。張り切ってセッティングした甲斐があります。
いつもとはちょっと違うランチ。雰囲気一つで、憂鬱な雨の休日が楽しく感じられる。
『おうちかふぇ』、ハマっちゃいそうです!
ランチの後、食後のコーヒーを飲んでから、正宗さんはまた書斎に籠った。私は食器を洗いながら、夕飯のメニューを考える。
お昼が洋風だったからな~。寒くなってきたし、お鍋でも良いかも。
食器洗いを終えたら、お茶の間で一人読書タイム。……それでもやっぱり、集中できない。
ついつい、時計を窺ってしまうのだ。
正宗さんが食後にコーヒーを飲んでから、一時間余り。さすがに今「今度は何を飲みますか?」って聞きに行くのは早すぎる? 鬱陶しいと思われちゃう?
もうちょっと待とう……と再び本に視線を移し。けれど十分後には、またちら……と時計を見て、と同じことの繰り返し。
……私、どんだけ正宗さんの所に行きたがってるんだろ。
我ながら呆れる。うん、わかってる。ちょっとだけ憂鬱なのは、正宗さんが家にいるのに構ってもらえなくて寂しいからだ。そして頻繁にメニューを聞きに行きたがるのは、正宗さんに会いたいから。
……我ながら、ちょっと恥ずかしいぞ。
「う~!!」
私は本を閉じた。それから、テーブルの上に置いたままの手作りメニュー表を見て、「新しいの作ろうかな」と思う。あ、そうだ今夜の夕飯も正宗さんに選んでもらおうっと。
ええっと、お鍋の候補……。鶏の水炊き……は、お昼も鶏肉だったからやめておこう。キムチ鍋、豆乳鍋、寄せ鍋、トマト鍋……ってところかな、うん。
ついでに飲み物の種類も増やそうかな……。ええと、確かコーヒーと緑茶、紅茶の他には……っと。
「あ!」
そうだ。あれがあったんだ! 今の季節にぴったりのやつ。これを店員おススメメニュー……とか、良いかも!!
「お飲み物と、それから今夜のお夕飯をこちらのメニューからお選び下さい」
書斎でメニュー表を差し出した私は、にこにこと正宗さんの様子を窺う。
正宗さんはメニュー表が新しくなったことに気付いてくれて、またちょっと驚いたような表情を浮かべた。
それからふっと笑って、「それじゃあ、夕飯は寄せ鍋が良いです」と。
「はい!」
寄せ鍋か~。魚介もお肉もたっぷり入れようっと。うふふ、美味しいよねぇ、寄せ鍋。
「それと、飲み物はこの店員さんおススメの……」
正宗さんの指が、赤ペンで大きく「おススメ!!」と書かれたメニューをなぞる。
「柚子茶を、二人分」
「えっ?」
二人分? 正宗さん二杯も飲むの?
「ちょうど仕事が一段落ついたので。お茶に付き合ってくれませんか? 店員さん」
「っ!」
よ、喜んでー!!
それから私達は一階の、ランチを食べた和室に降りてお茶を飲むことに。
ちなみにお茶うけには、小さな海老煎餅を用意した。お茶が甘いからね、しょっぱいお煎餅がよく合うのですよ。
そして、お揃いのマグカップにはほんわか甘い香りのする柚子茶が。これね、昔から大好きで通販で毎年買っている柚子茶なのです。ジャム状のそれをお湯で溶くだけ! 簡単で美味しい!! 秋冬の定番です。
それに柚子茶は身体にも良いんだよ~。ビタミンたっぷりで風邪予防にもなるし、リラックス効果も高いんだって。
相変わらず外は雨が降っていて、家の中もちょっと薄暗い。けれど、テーブルの上のコスモスが、秋を感じさせてくれる。
それから、言葉少ない二人の間に立ち昇る、甘い柚子茶の湯気。ほっと、心を和ませてくれる。
こんな時間が、私は好きだ。
「……今日は、せっかくの休みなのにあまり構ってあげられなくてすみません」
お茶を飲みながら、正宗さんが申し訳なさそうに仰った。私は慌てて首を横に振る。
「いえいえ!」
さ、寂しかったのは本当だけど、正宗さんは大事なお仕事をされていたんだし。何より、休みの日なのに休めなかった正宗さんの身体の方が心配だ。
「……でも、楽しかったです。千鶴さんの『おうちかふぇ』」
くすりと、正宗さんが笑う。
「次はいつ、メニューを聞きに来てくれるかなって、楽しみにしてました」
「ええっ」
う、嬉しい……。自己満足のような思い付きだったけれど、正宗さんも楽しんでくれたのか……。そうか……。良かった……!!
私は思わずにんまり、してしまう。
「たまにはこんな休日も、悪くないですね」
「はい」
私達はにこにこしながら、柚子茶を飲んだ。
甘い、甘いお茶に、しょっぱめのお煎餅。
それから、雨の音とコスモスの花。
それを一緒に楽しんでくれる旦那様の、優しい笑顔。
「またやりたいです、『おうちかふぇ』」
うん。本当に……
こんな休日も、悪くない。
********************************************
本日は日曜日だというのに昨夜からずっと雨が降り続いている。雨は嫌いじゃないけれど、午前中からこうも薄暗いとなんとなく気鬱になってしまう。何より、この雨では外に出るのも億劫だ。
それに、旦那様の正宗さんは家に持ち帰ったお仕事にかかりきりで、朝からずっと書斎に籠っておられるし。
……はい。要するに私は一人ぼっちの休日を持て余しているのでございます。
うん、仕方ないってわかってるけど、ちょっと寂しい。
「うーん……」
何をして時間を潰そうかなー、と考える。家事……はね、もうあらかた済ませてしまっているのだ。お洗濯は毎日やっているし、二人分だからそれほど量は多くない。今日は外に干せないから室内干ししている。お掃除は、掃除機をかけるとお仕事をしている正宗さんの邪魔になるかな? と思って、一階だけ掛けた。二階は明日、重点的にやろうと思う。
昨日買い物に行ったから食料は充分揃っているし、雨が降っているから家庭菜園の草むしりもできない。
こういう空いた時間、いつもなら漫画を読んだり小説を読んだりゲームをしたり、ネットサーフィンをして過ごしているんだけど……
「ふむむ……」
なんでだろうな? 今日はそういう気分になれない。一応、茶の間に小説本を持ちこんで(お気に入りのBL小説だ。カバーを掛けてそれとわからないようにしている)はみたものの、ぱらりとページを捲っても、どうも気が乗らない。
ごろんと、座布団を枕にして寝転がる。そしてツイツイッといじるのはスマートフォン。こういうちょっと暇な時、ついつい弄ってしまうんだよね~。パソコンより起動が早いし。
「あ……」
スマートフォンで何とはなしにサイトを巡っていたら、カフェ特集のページに行きついた。カフェ……良いなぁ。カフェってだけでなんかこう、心がときめくよね……! 美味しいコーヒーに、美味しいランチ、スイーツ!!
わわ……!! このお店雰囲気良さげ……!! パンケーキも美味しそう~!! よし、お気に入りに登録しておこうっと。ふふふ、今度正宗さんと一緒に行きたいなあ……
「カフェオレ飲みたいなあ……」
カフェ特集を見ていたらカフェオレ飲みたくなってきちゃった。そうだ! そろそろ正宗さんの所にお茶を持って行こう。いつもは緑茶を淹れるけど、たまにはコーヒーも良いんじゃないかな?
ふっふっふ。実はですね、最近新しいコーヒーメーカーを買ったのですよ! これで簡単に美味しいコーヒーが淹れられるのですよ!!
「あっ! そうだ!!」
私はあることをひらめいて、がばりと座布団から起き上がった。
「おうちかふぇ、やろう」
カフェに行けないならお家をカフェにしたらいいのよ!!
「正宗さん、ちょっとよろしいですか?」
こんこん、と書斎の扉をノックして、旦那様に声を掛ける。
すると「どうぞ」とのお声がかかり、私はムフフと口元を緩めながら中に入った。
正宗さんは椅子をキイと回転させて、こちらを向く。おお……ちょっとお疲れのように見受けられます。朝からずっとお仕事されてるからなぁ……。やっぱり息抜きは大事だよね。というわけで!
「こちら、メニューになります」
私はにっこりと微笑んで、正宗さんに一枚の紙を手渡した。
「メニュー?」
「はい! この中からお好きなメニューをお選び下さい」
お家をカフェにしちゃえ!! ということで。紙でメニュー表を作ったのだ。まあ、書いてあるメニューは家で出せる飲み物と、今日のお昼に作ろうと思っていたメニュー、なんだけどね。
でもたまにはこういうのも楽しいかな、って。えへへ、実はメニュー表作るの結構楽しかったのです。
「千鶴さん?」
「今日は『おうちかふぇ』の店員なのです」
そう言うと、正宗さんはくすりと笑って、メニュー表を指差した。
「……それじゃあ、コーヒーはエスプレッソで」
「はい」
私はタンスから出してきたカフェエプロン――アイボリーの地に黒地のポケットが付いていて、腰紐も黒く、カフェの店員さん風ハーフエプロンだ――のポケットからメモ帳を取り出し、オーダーを記入する。……まあ、それくらい覚えられるだろって話ですけれど、これも気分ですよ気分!! それっぽく!!
「ランチは……Bランチを」
ちなみにランチはAとBの二種類書いております。Aランチはサラダ・タラコスパゲッティー・コンソメスープ。Bランチはサラダ・ライス・チキンソテー・コンソメスープだ。どちらもデザートでフルーツヨーグルトが付く。
「かしこまりましたー! コーヒーはすぐにお持ちしますね。ランチはこちらでお召し上がりになりますか? それとも下で?」
「下で食べます」
「すぐにお席をご用意いたします」
ふっと、正宗さんが微笑んだ。
「……徹底してますね、店員さん」
『おうちかふぇ』に付き合ってくれる旦那様は、私の店員振りが面白いらしい。
こういうのはなりきるのが大事ですから!!
それからエスプレッソコーヒーを淹れて(といっても、ボタン一つでコーヒーメーカーが美味しいエスプレッソを淹れてくれるんだけど)、書斎に運んで。ランチ作り!!
どれも手が込んだ料理ではないけれど、カフェ風に! と思ってワンプレートに盛り付けたら、それだけでとっても美味しそうに見える。ムフフ。
そしてテーブルセッティング! 今日は雨降りだけど、雨に濡れる庭を見ながらランチ……もいいかと思って、縁側に面した障子戸を開けて、和室のテーブルの上にランチョンマットを敷いて、料理を並べる。
あっ、そうそう。普段はあまり使わないけれど、ガラス製の水差しがあったんだ。あれに氷水を入れて、お揃いのグラスを二つ、一緒に並べておく。
うんうん。和室でカフェ風ご飯っていうのも中々良い感じ。
「そうだ! それから……」
我が家の玄関脇、北に面した小さな庭には今、コスモスが咲いているのです。それを摘んできて、グラスに挿してテーブルの上に飾ってみる。
「うん!」
やっぱり花があると華やかだなあ。
ランチの用意ができて、正宗さんを呼びに行って。
下に降りてきた正宗さんは、和室に用意したカフェご飯を見て少し驚いてくれて、「すごいですね」って言ってくれた。
えへへ。張り切ってセッティングした甲斐があります。
いつもとはちょっと違うランチ。雰囲気一つで、憂鬱な雨の休日が楽しく感じられる。
『おうちかふぇ』、ハマっちゃいそうです!
ランチの後、食後のコーヒーを飲んでから、正宗さんはまた書斎に籠った。私は食器を洗いながら、夕飯のメニューを考える。
お昼が洋風だったからな~。寒くなってきたし、お鍋でも良いかも。
食器洗いを終えたら、お茶の間で一人読書タイム。……それでもやっぱり、集中できない。
ついつい、時計を窺ってしまうのだ。
正宗さんが食後にコーヒーを飲んでから、一時間余り。さすがに今「今度は何を飲みますか?」って聞きに行くのは早すぎる? 鬱陶しいと思われちゃう?
もうちょっと待とう……と再び本に視線を移し。けれど十分後には、またちら……と時計を見て、と同じことの繰り返し。
……私、どんだけ正宗さんの所に行きたがってるんだろ。
我ながら呆れる。うん、わかってる。ちょっとだけ憂鬱なのは、正宗さんが家にいるのに構ってもらえなくて寂しいからだ。そして頻繁にメニューを聞きに行きたがるのは、正宗さんに会いたいから。
……我ながら、ちょっと恥ずかしいぞ。
「う~!!」
私は本を閉じた。それから、テーブルの上に置いたままの手作りメニュー表を見て、「新しいの作ろうかな」と思う。あ、そうだ今夜の夕飯も正宗さんに選んでもらおうっと。
ええっと、お鍋の候補……。鶏の水炊き……は、お昼も鶏肉だったからやめておこう。キムチ鍋、豆乳鍋、寄せ鍋、トマト鍋……ってところかな、うん。
ついでに飲み物の種類も増やそうかな……。ええと、確かコーヒーと緑茶、紅茶の他には……っと。
「あ!」
そうだ。あれがあったんだ! 今の季節にぴったりのやつ。これを店員おススメメニュー……とか、良いかも!!
「お飲み物と、それから今夜のお夕飯をこちらのメニューからお選び下さい」
書斎でメニュー表を差し出した私は、にこにこと正宗さんの様子を窺う。
正宗さんはメニュー表が新しくなったことに気付いてくれて、またちょっと驚いたような表情を浮かべた。
それからふっと笑って、「それじゃあ、夕飯は寄せ鍋が良いです」と。
「はい!」
寄せ鍋か~。魚介もお肉もたっぷり入れようっと。うふふ、美味しいよねぇ、寄せ鍋。
「それと、飲み物はこの店員さんおススメの……」
正宗さんの指が、赤ペンで大きく「おススメ!!」と書かれたメニューをなぞる。
「柚子茶を、二人分」
「えっ?」
二人分? 正宗さん二杯も飲むの?
「ちょうど仕事が一段落ついたので。お茶に付き合ってくれませんか? 店員さん」
「っ!」
よ、喜んでー!!
それから私達は一階の、ランチを食べた和室に降りてお茶を飲むことに。
ちなみにお茶うけには、小さな海老煎餅を用意した。お茶が甘いからね、しょっぱいお煎餅がよく合うのですよ。
そして、お揃いのマグカップにはほんわか甘い香りのする柚子茶が。これね、昔から大好きで通販で毎年買っている柚子茶なのです。ジャム状のそれをお湯で溶くだけ! 簡単で美味しい!! 秋冬の定番です。
それに柚子茶は身体にも良いんだよ~。ビタミンたっぷりで風邪予防にもなるし、リラックス効果も高いんだって。
相変わらず外は雨が降っていて、家の中もちょっと薄暗い。けれど、テーブルの上のコスモスが、秋を感じさせてくれる。
それから、言葉少ない二人の間に立ち昇る、甘い柚子茶の湯気。ほっと、心を和ませてくれる。
こんな時間が、私は好きだ。
「……今日は、せっかくの休みなのにあまり構ってあげられなくてすみません」
お茶を飲みながら、正宗さんが申し訳なさそうに仰った。私は慌てて首を横に振る。
「いえいえ!」
さ、寂しかったのは本当だけど、正宗さんは大事なお仕事をされていたんだし。何より、休みの日なのに休めなかった正宗さんの身体の方が心配だ。
「……でも、楽しかったです。千鶴さんの『おうちかふぇ』」
くすりと、正宗さんが笑う。
「次はいつ、メニューを聞きに来てくれるかなって、楽しみにしてました」
「ええっ」
う、嬉しい……。自己満足のような思い付きだったけれど、正宗さんも楽しんでくれたのか……。そうか……。良かった……!!
私は思わずにんまり、してしまう。
「たまにはこんな休日も、悪くないですね」
「はい」
私達はにこにこしながら、柚子茶を飲んだ。
甘い、甘いお茶に、しょっぱめのお煎餅。
それから、雨の音とコスモスの花。
それを一緒に楽しんでくれる旦那様の、優しい笑顔。
「またやりたいです、『おうちかふぇ』」
うん。本当に……
こんな休日も、悪くない。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる