ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~番外編~

おうちかふぇ

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こちらは2013年にどこでも読書さんの『冬のエタニティフェア2013』に参加させていただいたSSです。編集さんの許可をいただきましたので、こちらに投稿しました。

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 本日は日曜日だというのに昨夜からずっと雨が降り続いている。雨は嫌いじゃないけれど、午前中からこうも薄暗いとなんとなく気鬱になってしまう。何より、この雨では外に出るのも億劫だ。
 それに、旦那様の正宗さんは家に持ち帰ったお仕事にかかりきりで、朝からずっと書斎に籠っておられるし。
 ……はい。要するに私は一人ぼっちの休日を持て余しているのでございます。
うん、仕方ないってわかってるけど、ちょっと寂しい。
「うーん……」
 何をして時間を潰そうかなー、と考える。家事……はね、もうあらかた済ませてしまっているのだ。お洗濯は毎日やっているし、二人分だからそれほど量は多くない。今日は外に干せないから室内干ししている。お掃除は、掃除機をかけるとお仕事をしている正宗さんの邪魔になるかな? と思って、一階だけ掛けた。二階は明日、重点的にやろうと思う。
 昨日買い物に行ったから食料は充分揃っているし、雨が降っているから家庭菜園の草むしりもできない。
 こういう空いた時間、いつもなら漫画を読んだり小説を読んだりゲームをしたり、ネットサーフィンをして過ごしているんだけど……
「ふむむ……」
 なんでだろうな? 今日はそういう気分になれない。一応、茶の間に小説本を持ちこんで(お気に入りのBL小説だ。カバーを掛けてそれとわからないようにしている)はみたものの、ぱらりとページを捲っても、どうも気が乗らない。
 ごろんと、座布団を枕にして寝転がる。そしてツイツイッといじるのはスマートフォン。こういうちょっと暇な時、ついつい弄ってしまうんだよね~。パソコンより起動が早いし。
「あ……」
 スマートフォンで何とはなしにサイトを巡っていたら、カフェ特集のページに行きついた。カフェ……良いなぁ。カフェってだけでなんかこう、心がときめくよね……! 美味しいコーヒーに、美味しいランチ、スイーツ!! 
 わわ……!! このお店雰囲気良さげ……!! パンケーキも美味しそう~!! よし、お気に入りに登録しておこうっと。ふふふ、今度正宗さんと一緒に行きたいなあ……
「カフェオレ飲みたいなあ……」
 カフェ特集を見ていたらカフェオレ飲みたくなってきちゃった。そうだ! そろそろ正宗さんの所にお茶を持って行こう。いつもは緑茶を淹れるけど、たまにはコーヒーも良いんじゃないかな?
 ふっふっふ。実はですね、最近新しいコーヒーメーカーを買ったのですよ! これで簡単に美味しいコーヒーが淹れられるのですよ!!
「あっ! そうだ!!」
 私はあることをひらめいて、がばりと座布団から起き上がった。
「おうちかふぇ、やろう」
 カフェに行けないならお家をカフェにしたらいいのよ!!


「正宗さん、ちょっとよろしいですか?」
 こんこん、と書斎の扉をノックして、旦那様に声を掛ける。
 すると「どうぞ」とのお声がかかり、私はムフフと口元を緩めながら中に入った。
 正宗さんは椅子をキイと回転させて、こちらを向く。おお……ちょっとお疲れのように見受けられます。朝からずっとお仕事されてるからなぁ……。やっぱり息抜きは大事だよね。というわけで!
「こちら、メニューになります」
 私はにっこりと微笑んで、正宗さんに一枚の紙を手渡した。
「メニュー?」
「はい! この中からお好きなメニューをお選び下さい」
 お家をカフェにしちゃえ!! ということで。紙でメニュー表を作ったのだ。まあ、書いてあるメニューは家で出せる飲み物と、今日のお昼に作ろうと思っていたメニュー、なんだけどね。
 でもたまにはこういうのも楽しいかな、って。えへへ、実はメニュー表作るの結構楽しかったのです。
「千鶴さん?」
「今日は『おうちかふぇ』の店員なのです」
 そう言うと、正宗さんはくすりと笑って、メニュー表を指差した。
「……それじゃあ、コーヒーはエスプレッソで」
「はい」
 私はタンスから出してきたカフェエプロン――アイボリーの地に黒地のポケットが付いていて、腰紐も黒く、カフェの店員さん風ハーフエプロンだ――のポケットからメモ帳を取り出し、オーダーを記入する。……まあ、それくらい覚えられるだろって話ですけれど、これも気分ですよ気分!! それっぽく!!
「ランチは……Bランチを」
 ちなみにランチはAとBの二種類書いております。Aランチはサラダ・タラコスパゲッティー・コンソメスープ。Bランチはサラダ・ライス・チキンソテー・コンソメスープだ。どちらもデザートでフルーツヨーグルトが付く。
「かしこまりましたー! コーヒーはすぐにお持ちしますね。ランチはこちらでお召し上がりになりますか? それとも下で?」
「下で食べます」
「すぐにお席をご用意いたします」
 ふっと、正宗さんが微笑んだ。
「……徹底してますね、店員さん」
『おうちかふぇ』に付き合ってくれる旦那様は、私の店員振りが面白いらしい。
 こういうのはなりきるのが大事ですから!!


 それからエスプレッソコーヒーを淹れて(といっても、ボタン一つでコーヒーメーカーが美味しいエスプレッソを淹れてくれるんだけど)、書斎に運んで。ランチ作り!!
 どれも手が込んだ料理ではないけれど、カフェ風に! と思ってワンプレートに盛り付けたら、それだけでとっても美味しそうに見える。ムフフ。
 そしてテーブルセッティング! 今日は雨降りだけど、雨に濡れる庭を見ながらランチ……もいいかと思って、縁側に面した障子戸を開けて、和室のテーブルの上にランチョンマットを敷いて、料理を並べる。
 あっ、そうそう。普段はあまり使わないけれど、ガラス製の水差しがあったんだ。あれに氷水を入れて、お揃いのグラスを二つ、一緒に並べておく。
 うんうん。和室でカフェ風ご飯っていうのも中々良い感じ。
「そうだ! それから……」
 我が家の玄関脇、北に面した小さな庭には今、コスモスが咲いているのです。それを摘んできて、グラスに挿してテーブルの上に飾ってみる。
「うん!」
 やっぱり花があると華やかだなあ。

 ランチの用意ができて、正宗さんを呼びに行って。
 下に降りてきた正宗さんは、和室に用意したカフェご飯を見て少し驚いてくれて、「すごいですね」って言ってくれた。
 えへへ。張り切ってセッティングした甲斐があります。
 いつもとはちょっと違うランチ。雰囲気一つで、憂鬱な雨の休日が楽しく感じられる。
 『おうちかふぇ』、ハマっちゃいそうです!


 ランチの後、食後のコーヒーを飲んでから、正宗さんはまた書斎に籠った。私は食器を洗いながら、夕飯のメニューを考える。
 お昼が洋風だったからな~。寒くなってきたし、お鍋でも良いかも。
 食器洗いを終えたら、お茶の間で一人読書タイム。……それでもやっぱり、集中できない。
 ついつい、時計を窺ってしまうのだ。
 正宗さんが食後にコーヒーを飲んでから、一時間余り。さすがに今「今度は何を飲みますか?」って聞きに行くのは早すぎる? 鬱陶しいと思われちゃう?
 もうちょっと待とう……と再び本に視線を移し。けれど十分後には、またちら……と時計を見て、と同じことの繰り返し。
 ……私、どんだけ正宗さんの所に行きたがってるんだろ。
 我ながら呆れる。うん、わかってる。ちょっとだけ憂鬱なのは、正宗さんが家にいるのに構ってもらえなくて寂しいからだ。そして頻繁にメニューを聞きに行きたがるのは、正宗さんに会いたいから。
 ……我ながら、ちょっと恥ずかしいぞ。
「う~!!」
 私は本を閉じた。それから、テーブルの上に置いたままの手作りメニュー表を見て、「新しいの作ろうかな」と思う。あ、そうだ今夜の夕飯も正宗さんに選んでもらおうっと。
 ええっと、お鍋の候補……。鶏の水炊き……は、お昼も鶏肉だったからやめておこう。キムチ鍋、豆乳鍋、寄せ鍋、トマト鍋……ってところかな、うん。
 ついでに飲み物の種類も増やそうかな……。ええと、確かコーヒーと緑茶、紅茶の他には……っと。
「あ!」
 そうだ。あれがあったんだ! 今の季節にぴったりのやつ。これを店員おススメメニュー……とか、良いかも!!


「お飲み物と、それから今夜のお夕飯をこちらのメニューからお選び下さい」
 書斎でメニュー表を差し出した私は、にこにこと正宗さんの様子を窺う。
 正宗さんはメニュー表が新しくなったことに気付いてくれて、またちょっと驚いたような表情を浮かべた。
 それからふっと笑って、「それじゃあ、夕飯は寄せ鍋が良いです」と。
「はい!」
 寄せ鍋か~。魚介もお肉もたっぷり入れようっと。うふふ、美味しいよねぇ、寄せ鍋。
「それと、飲み物はこの店員さんおススメの……」
 正宗さんの指が、赤ペンで大きく「おススメ!!」と書かれたメニューをなぞる。
「柚子茶を、二人分」
「えっ?」
 二人分? 正宗さん二杯も飲むの?
「ちょうど仕事が一段落ついたので。お茶に付き合ってくれませんか? 店員さん」
「っ!」
 よ、喜んでー!!


 それから私達は一階の、ランチを食べた和室に降りてお茶を飲むことに。
 ちなみにお茶うけには、小さな海老煎餅を用意した。お茶が甘いからね、しょっぱいお煎餅がよく合うのですよ。
 そして、お揃いのマグカップにはほんわか甘い香りのする柚子茶が。これね、昔から大好きで通販で毎年買っている柚子茶なのです。ジャム状のそれをお湯で溶くだけ! 簡単で美味しい!! 秋冬の定番です。
 それに柚子茶は身体にも良いんだよ~。ビタミンたっぷりで風邪予防にもなるし、リラックス効果も高いんだって。
 相変わらず外は雨が降っていて、家の中もちょっと薄暗い。けれど、テーブルの上のコスモスが、秋を感じさせてくれる。
 それから、言葉少ない二人の間に立ち昇る、甘い柚子茶の湯気。ほっと、心を和ませてくれる。
 こんな時間が、私は好きだ。
「……今日は、せっかくの休みなのにあまり構ってあげられなくてすみません」
 お茶を飲みながら、正宗さんが申し訳なさそうに仰った。私は慌てて首を横に振る。
「いえいえ!」
 さ、寂しかったのは本当だけど、正宗さんは大事なお仕事をされていたんだし。何より、休みの日なのに休めなかった正宗さんの身体の方が心配だ。
「……でも、楽しかったです。千鶴さんの『おうちかふぇ』」
 くすりと、正宗さんが笑う。
「次はいつ、メニューを聞きに来てくれるかなって、楽しみにしてました」
「ええっ」
 う、嬉しい……。自己満足のような思い付きだったけれど、正宗さんも楽しんでくれたのか……。そうか……。良かった……!!
 私は思わずにんまり、してしまう。
「たまにはこんな休日も、悪くないですね」
「はい」
 私達はにこにこしながら、柚子茶を飲んだ。
 甘い、甘いお茶に、しょっぱめのお煎餅。
 それから、雨の音とコスモスの花。
 それを一緒に楽しんでくれる旦那様の、優しい笑顔。

「またやりたいです、『おうちかふぇ』」

 うん。本当に……
 こんな休日も、悪くない。
 

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