デイリーさんに叱られる〜転生先を奪われた悪役令息は、デイリーミッションで世界の秘密を知るようです〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)

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第5話 魔王の器の守り手

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 なるほど、こうしてスキルを手に入れられるのか、とシルヴィオは思った。これならば神の使徒の体でなくとも、強くなることは出来そうだ。

 デイリーミッションというからには、毎日なにかしらを手に入れられるのかも知れない。それであれば、成長する頃には神の使徒の体を奪った八阪よりも強くなれるかも知れない。

 デイリーミッションはその1とあったので、鍵はまた何かに使う可能性がある。シルヴィオが持っていては、乳母が誰かに回収されてしまうことだろう。ギィに鍵を持っていてくれるように頼んだ。

 ギィは服をまくって、その下に鍵を隠すと、ギィッと鳴きながら、ポンと腹なのか胸なのかわからない部分を叩いた。任せろ、ということなのかも知れなかった。

 その日の夜、寝ているシルヴィオを、木の枝に腰掛けて足を組みながら、見下ろす影がひとつ。

 美しい長い銀髪を三つ編みにまとめた美しい少女だった。黒いコートのようなマントのような服をはおり、前側が鼠径部近くまでめくれ上がって、その部分が黒いレースになっているドレスを身にまとっている。
 
 高い魔力保持者に多い金色の目をしており、ほんの僅かにひらかれた、艷やかな唇からは、吸血鬼であることを示す尖った牙の先が覗いて見えていた。

「……ようやく見つけたわ。まさか人間の王族の子どもとはね。あの子を守る為に、なんとか城に入りこまなくちゃ。」

 誰に言うともなくそう呟くと、その体を霧に変えて消えた。窓の隙間から霧のまま入りこもうとすると、魔を退ける結界が反発し、その行く手を阻もうとする。

 だが少女の力のほうが強かった。その身は始祖の血を引く吸血鬼だ。
 彼女を退けられる程の結界をはれる存在は、聖女くらいのものだった。

 部屋の中で、霧が集まってもとの少女の姿へと戻る。その存在にギィが驚いて、シルヴィオを守ろうとするように、両手を広げて後ろにかばいつつ、ギィッと叫んだ。

「……驚いた。こんな矮小な存在が、結界の中に存在出来るなんて。あの方の魔力のニオイがするわ。器が生み出した存在なのかしら?お前、そこをどきなさい。」

「ギィッ!ギィッ!」
 ギィッを睨みつける少女に、ギィが抵抗して叫ぶ。

「私は先代から直々に“守り手”を任された存在よ。お前なんかの出る幕ではないの。」
 2人のやりあう騒がしい声に、シルヴィオは目を覚まし、少女とばっちり目が合った。

『だ……誰!?』
 見知らぬ存在に怯えるシルヴィオ。
「おや、念話は使えるのね。さすがは、と言ったところかしら。私はシーラ。始祖の血を引く吸血鬼で、“魔王の器の守り手”よ。」

 クイ、と人差し指を動かすと、シルヴィオの体が宙に浮かび、シーラのほうへと飛んで行く。それを慌てておいかけるギィ。

「お前の体は、魔王さまが復活する為の器。魔王さまが復活なされるまで、私はお前の体を守る役目があるの。」

 牙を見せつけるかのように嫣然と笑うシーラは、そう言ってシルヴィオを胸に抱いた。

 この体には呪いがかかっている。それは魔王の器として生まれたということなのだろうか。シルヴィオは吸血鬼だと言ったシーラが自分をどうするつもりなのかわからず、その冷たい瞳をじっと見つめた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ──その頃、孤児院の前に捨てられた八阪は、あまりの空腹に泣いていた。
 平民の赤ん坊に転生した八阪は、食い詰めた両親に教会の前に捨てられたのだった。

 その泣き声に気が付いた若いシスターが、教会の中から出て来て、八阪を抱き上げた。
「まあまあ、お腹が空いているのね。もうだいじょうぶですよ。」

 そう言って八阪をあやすシスターだったが、突如ゾワリと肌に泡が立つのを感じた。
 腹を減らして泣く八阪は、全身をウネウネと変形させ、異形の姿へと変貌していく。

「あ、あ……。」
 恐怖に怯えながら、八阪を手放すことが出来なかったシスターは、自分を包み込むように広がる粘液となった八阪に飲み込まれた。

 本来であれば、魔物を取り込んでその力を得るスキルを持って生まれた筈の神の使徒の体は、八阪の魂が入ったことにより、そのスキルを変化させていた。

 スキル、<喰ライ尽クスモノ>。
 このスキルを使って食した対象のスキルとステータスを奪い成長し、その生命を糧として、しばらく食事を取らなくてもよくなる。

 八阪からすれば、腹が減ったところに食べ物があったから食べただけ。
 動く虫を反射的に食べるカエルのように、スキルが反応したに過ぎない。

 腹一杯になったことで泣き止んだ八阪は、地面に取り落とされたのも構わずに、スヤスヤと寝息を立てて、満足げに眠り始めた。

 先程の八阪の姿を見て、神の使徒であるだなどと、信じる人間はいないだろう。
 だが八阪には幸いなことに、シスターを喰らう瞬間を目撃した人間はいなかった。

 シスターの力を取り込んだ八阪は、貴重な聖魔法の使い手として、幼い頃から国の注目を集めることとなる。

 そして王族も通う名門ストレイシア学園への入学を許可され、やがて学園でシルヴィオと出会うことになるのだった。

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