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第29話 優秀な兄さま
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「それは確かに⋯⋯。そうだね。国が割れるよ。多分じゃなく、それも確実に。」
神妙な面持ちでそう呟くラヴェール王子。
自分の2つ上にも関わらず、もうそのことに思い至ることの出来るラヴェール王子は、生まれ持ったスキルや、神さまの手助けがあるシルヴィオとは、また違った方向での神童と言えるだろうとシルヴィオは思った。
自分の5歳の時はどうだったかな?と思い出してみようとしたが、祖父に基礎的な稽古をつけてもらっていたことと、虫を追いかけて遊んでいたことしか思い出せない。
「僕は次代の王には兄さまが相応しいと思っています。僕たちの間では、そこははっきりしておきましょう。僕たちは兄さまが正しく王位を継げるように動く。周囲の目が僕に向かないように。どうでしょうか?」
「父さまもまだ王太子を決めていないことだし、僕はシルヴィオにもその可能性があってよいと思うのだけれど⋯⋯貴族たちに二心を抱かせない為に、早い段階から推す王子を決めさせておくのはいいことだとは思う。」
「では、よろしいですね?王太子になるのは兄さま。僕の功績は隠していただくということで。」
「うん、わかったよ。⋯⋯正直もったいないと思うけどね。でも、こんなに優秀なシルヴィオが、僕を次期国王にと推してくれるんだ。僕も期待に応えられる人間になれるよう、頑張るよ。」
「はい、僕に出来ることなら、なんでもおっしゃってくださいね、兄さま!ところで、他の人は兄さまのように、魔石の出どころについて何か疑ってはいないでしょうか?」
「今のところその様子はないかな。まだ王宮内にしか出回っていないから、他の貴族たちの耳にも届いていないしね。」
「そうなんですね。」
「ただ、今回の討伐の結果が報告される次の会議では、気付く人も出て来るかも知れない。僕は僕付きの専属護衛を通じて、先に騎士団の様子を知れたから、知っているというだけだからね。」
「気付かれるでしょうか⋯⋯。」
「今回の討伐の為に、魔石を集めていたとすれば、おそらくそれはないと思う。騎士団長も手柄の為に、簡単に出来たと思わせるようなことはない筈だよ。」
簡単に練度の高い魔力が込められた魔石が手に入ると知られれば、騎士団の功績でなく、魔石のおかげだと思われてしまうだろうからね、とラヴェール王子は言った。
「ただ、今後は出す数を絞ったほうがいいと思うな。我が国だけが簡単に練度の高い魔力を込めた魔石が手に入れられるという事実は、知られて得のないものだよ。」
「戦争を始める可能性があるからですね?」
「仕掛けられる可能性もね。我が国は食料自給率が低いから、輸入元の国に働きかけて、食料を止められたら、どれだけ力があっても兵糧攻めですぐにやられてしまうだろうね。そうして魔石を手に入れようとする国が出てもおかしくないよ。」
「確かに⋯⋯。わかりました。普通の魔石を売るようにして、練度の高い魔力を込めた魔石は、訓練の為に作ったうちの、いくつかだけを納めることにします。」
「それがいいね。多分あてにしてくるだろうから、今まで納めていたものが急に手に入らなくなったら、同じ数を寄越せと言われるかも知れないけど、過去に作ったものが倉庫に残っていたのを吐き出してしまったとでも言うといいと思うよ。なければ納めようがないんだからね。少しずつでも手に入るなら、それをためた計画を考えるだろうし。」
「わかりました、そうします。」
ラヴェール王子のアドバイスに従うことにして、シルヴィオが練度の高い魔力を込めた魔石の納品をしていたことは隠すことに決まった。
そのことをシーラに話すと、
「わかりました。──レルグ、うまいこと説明しておいてちょうだい。」
「あいよー。」
とあっさり請け負われた。シルヴィオは念の為、国政会議に眷属を忍び込ませて様子をうかがわせた。
今回の討伐をきっかけに、大臣たちは他の森にも開発の計画を立てようとしていたが、練度の高い魔力が込められた魔石のない騎士団が、それを突っぱねたようだ。
今まで出来るのにやらなかっただけではないのか、騎士団の怠慢だ、と、有効農地を広げたい大臣たちは騎士団を責めたが、今まで魔石に貯めた魔力を使い切ってしまったので、また貯められるまで大規模な遠征は出来ない、させたければ練度の高い魔力を込めた魔石を騎士団に渡して欲しい、と言ったところ、途端に黙った。
『魔石提出すれば同じことが出来るのに、どうしてそうしないんだろう?』
とシルヴィオは内心首をひねる。
【いざという時の為に、作った魔石は貯めているのですよ。練度の高い魔力を込めた魔石を作れる人間の数は多くありません。】
と、デイリーさんが教えてくれる。
『うん、でも、あるんだよね?』
【この国は現在の国王の血の粛清によって、国王が代替わりした国です。いつまた自分たちにその火の粉がかぶるかわからないと思っているようですね。
逆らった貴族たちもたくさん殺された過去がありますから。国王が力ずくでどうにかしようとして来た場合、逃げ延びる為に必要なものとして、魔石を手元にある程度置いてきたいのでしょう。】
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神妙な面持ちでそう呟くラヴェール王子。
自分の2つ上にも関わらず、もうそのことに思い至ることの出来るラヴェール王子は、生まれ持ったスキルや、神さまの手助けがあるシルヴィオとは、また違った方向での神童と言えるだろうとシルヴィオは思った。
自分の5歳の時はどうだったかな?と思い出してみようとしたが、祖父に基礎的な稽古をつけてもらっていたことと、虫を追いかけて遊んでいたことしか思い出せない。
「僕は次代の王には兄さまが相応しいと思っています。僕たちの間では、そこははっきりしておきましょう。僕たちは兄さまが正しく王位を継げるように動く。周囲の目が僕に向かないように。どうでしょうか?」
「父さまもまだ王太子を決めていないことだし、僕はシルヴィオにもその可能性があってよいと思うのだけれど⋯⋯貴族たちに二心を抱かせない為に、早い段階から推す王子を決めさせておくのはいいことだとは思う。」
「では、よろしいですね?王太子になるのは兄さま。僕の功績は隠していただくということで。」
「うん、わかったよ。⋯⋯正直もったいないと思うけどね。でも、こんなに優秀なシルヴィオが、僕を次期国王にと推してくれるんだ。僕も期待に応えられる人間になれるよう、頑張るよ。」
「はい、僕に出来ることなら、なんでもおっしゃってくださいね、兄さま!ところで、他の人は兄さまのように、魔石の出どころについて何か疑ってはいないでしょうか?」
「今のところその様子はないかな。まだ王宮内にしか出回っていないから、他の貴族たちの耳にも届いていないしね。」
「そうなんですね。」
「ただ、今回の討伐の結果が報告される次の会議では、気付く人も出て来るかも知れない。僕は僕付きの専属護衛を通じて、先に騎士団の様子を知れたから、知っているというだけだからね。」
「気付かれるでしょうか⋯⋯。」
「今回の討伐の為に、魔石を集めていたとすれば、おそらくそれはないと思う。騎士団長も手柄の為に、簡単に出来たと思わせるようなことはない筈だよ。」
簡単に練度の高い魔力が込められた魔石が手に入ると知られれば、騎士団の功績でなく、魔石のおかげだと思われてしまうだろうからね、とラヴェール王子は言った。
「ただ、今後は出す数を絞ったほうがいいと思うな。我が国だけが簡単に練度の高い魔力を込めた魔石が手に入れられるという事実は、知られて得のないものだよ。」
「戦争を始める可能性があるからですね?」
「仕掛けられる可能性もね。我が国は食料自給率が低いから、輸入元の国に働きかけて、食料を止められたら、どれだけ力があっても兵糧攻めですぐにやられてしまうだろうね。そうして魔石を手に入れようとする国が出てもおかしくないよ。」
「確かに⋯⋯。わかりました。普通の魔石を売るようにして、練度の高い魔力を込めた魔石は、訓練の為に作ったうちの、いくつかだけを納めることにします。」
「それがいいね。多分あてにしてくるだろうから、今まで納めていたものが急に手に入らなくなったら、同じ数を寄越せと言われるかも知れないけど、過去に作ったものが倉庫に残っていたのを吐き出してしまったとでも言うといいと思うよ。なければ納めようがないんだからね。少しずつでも手に入るなら、それをためた計画を考えるだろうし。」
「わかりました、そうします。」
ラヴェール王子のアドバイスに従うことにして、シルヴィオが練度の高い魔力を込めた魔石の納品をしていたことは隠すことに決まった。
そのことをシーラに話すと、
「わかりました。──レルグ、うまいこと説明しておいてちょうだい。」
「あいよー。」
とあっさり請け負われた。シルヴィオは念の為、国政会議に眷属を忍び込ませて様子をうかがわせた。
今回の討伐をきっかけに、大臣たちは他の森にも開発の計画を立てようとしていたが、練度の高い魔力が込められた魔石のない騎士団が、それを突っぱねたようだ。
今まで出来るのにやらなかっただけではないのか、騎士団の怠慢だ、と、有効農地を広げたい大臣たちは騎士団を責めたが、今まで魔石に貯めた魔力を使い切ってしまったので、また貯められるまで大規模な遠征は出来ない、させたければ練度の高い魔力を込めた魔石を騎士団に渡して欲しい、と言ったところ、途端に黙った。
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とシルヴィオは内心首をひねる。
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