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第64話 変わりつつある夫②

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「……みんな君を歓迎している。声をかけてやってはもらえないだろうか。」
 心做しかドヤ顔をしているイザーク。

 私を歓迎する従者たちを連れてこられたことを、自分の手柄のように思っているのかしら。……そもそもあなたが私を尊重していれば、今までの従者たちだって、そんな態度は取らなかった筈だわ。

 彼らが私を尊重してくれているのは、あなたの態度が変わったから。妻を大切に扱うよう、あなたが言ったからにほかならない。

 そうでなければ、彼らが今までの従者たちと同じ態度を取っただろうというだけ。
 ……もっと早くにそうしてくれていれば良かったのにと、思うだけ。

 それでも一応、ニコニコと集まってくれた人たちを無碍にする気もない。私は出迎えてくれた従者たちに、出迎えありがとう、感謝するわ、と告げた。

 伯爵夫人としてはこれが正解。従者にへりくだりすぎてはいけないから。
 ……さも、今までそれが当たり前だったかのように、私はイザークにエスコートされながら、家の中へと入った。

「君の部屋、私の隣に移してあるんだ。それと、絵を描く為の道具も用意しておいた。君から奪ってしまった絵の具も戻してある。」
「──は?」

 私は理解が追いつかなくて、思わず素っ頓狂な声を上げた。……ここでは駄目だ。さすがに従者たちが見ている。

「……イザーク。このあと時間はあるかしら?私の部屋か、あなたの部屋で、少し話がしたいのだけれど。」

 私がそう言うと、イザークは嬉しそうに、ああ、と言って、新しい私の部屋に行こう、ということになった。

 いつも仕事で忙しくて、滅多に昼間家にいない人なのに、今日は仕事はだいじょうぶなのかしら?と思いつつ、私とイザークは連れ立って新しい私の部屋へと移動した。

 新しい部屋は、窓からの自然光が入り、なおかつ窓から庭が見える位置にあった。絵を描こうと思ったら、窓の外の光景だけでも、色々とモチーフになりそうなものがある。

 私の絵のことを考えた上で、この場所にしてくれたのだろうか?それとも、単純に、本来夫婦の寝室は隣り合っているものだということを思い出したから?

 私はそのどちらなのかわからず、まずはイザークが何か言い出すのを待った。あれだけドヤ顔をしていたのだから、何か特別な意図があって部屋を移動させた筈。
 それを話したい筈だわ、と思ったのだ。

「部屋は気に入って貰えただろうか?この部屋なら絵も描きやすいだろうと、絵師に相談して決めたのだ。もう、君から絵を取り上げようとは思わない。私は絵を描いている君が好きだからな。ここにいる間、ぞんぶんに絵を楽しんで欲しい。元の部屋のほうがよければ、すぐに家具を移動させよう。」

「……いえ、この部屋で結構です。どうせひと月しかおりませんから、どちらでも。
 というかわかっていらしたのですね。」
「ん?なにがだろうか?」

「私がひと月でいなくなるつもりだということを、きちんとわかっていらしたのだなと。てっきり夫婦の寝室は隣り合わせが基本であることを、今更思い出されたのかしらと思いましたの。その可能性もありましたから。」

 イザークは困ったように、悲しげに眉を下げて微笑んだ。
「意地悪を言わないでくれ。……わかっているさ。君が私と別れたがっているというのは、痛いほどに理解しているつもりだ。」
「そうですか。」

「……そのことだが、先代の家令に言われてハッとしたよ。夫婦の寝室は隣り合わせが基本だと。私は貴族の女性を遠ざけようとするあまり、そんな基本的なことでも、夫として必要最低限のことが出来ていなかった。君にとって最悪な夫だっただろう。……今更ながらに、済まなかった。ここにいる間はそれを忘れて、心穏やかに過ごして欲しい。」

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