188 / 192

第69話 仲が悪くなる2人③

しおりを挟む
「──そういえば、聖女さまが現れたという噂は聞きましたか?」
「聖女さまですか?いいえ?」

 聖女さまというのは、国が困窮した際に現れるとされる、人を癒やし、病気すらも治し、時に魔物を討伐する力を持つこともある人のことだ。

 今の我が国は、聖女さまが必要とされるほど、魔物の被害がひどいわけでも、病気が蔓延しているわけでもないから、聖女さまが現れるのを待たれているわけではない。

 それなのに聖女さまが現れたというの?そんなケースもあるのね。
「まだ人々の噂にのぼっている程度ですが、いずれ国も確認に動くのではないでしょうか。本当に聖女さまであれば、国の保護が必要になるでしょうからね。」

 聖女さま……ねえ。確かにそんな方が現れたら、教会に囲い込まれる前に、国が保護したいと言い出すことだろう。

 学生時代に教わった歴史によると、聖女さまが現れた国が聖女さまを保護しないと、教会に縛られて、自分たちの国に現れた聖女さまなのに、優先的に瘴気をはらってもらえなくなるらしい。

 それくらい、聖女というものは貴重で、教会と国とで取り合いになる存在なのだ。
 そんな聖女さまが我が国に現れたなんて、ひと目拝見したいものね。

 そこへ、ドアがあいて1人の男性が店の中へと入って来て、ショーケースに並んだケーキを選び始めたのだけれど、私はその姿を見て思わず、あら、と声をもらした。

「フィリーネさま!こんなところでお会いするとは。偶然ですね。」
「ええ、本当に偶然ですね。ケーキを買いにいらしたんですか?シュテファンさま。」

 私はショーケースの前のシュテファンさまに話しかけた。
「はい、祖母がここのケーキを好きでして、それで買いに。」

 どうやら貴族もお忍びでケーキを買いに来るというのは本当のようだ。
「お久しぶりです、トラウトマンさまも。」
 シュテファンさまはそう言って、ヴィリに微笑みかけた。

「バルテル侯爵夫人のお茶会以来ですね。お久しぶりです。」
 ヴィリは立ち上がって礼を尽くした。

 2人とも、バルテル侯爵夫人と親しくしている関係上、時折顔を合わせていた筈だけれど、そこまで親しくはないのね。どこか儀礼的だわ。シュテファンさまは、ヴィリと一緒にいる私のことが気になっているようで、先程からチラチラとこちらを見ている。

「お2人は、親しかったのですね。」
「バルテル侯爵夫人の写生大会以来の関係ですね。アデリナ嬢と3人でピクニックに行ったりと、親しくさせていただいております。」

 そうヴィリが説明をすると、
「ピクニック……。そうですか……。」
 と、何事かを考えるようにそう呟いた。

「そういえば、アデリナ嬢とも暫くお会い出来ていないわ。2人の家に、ペットの絵を描きに行かせていただいて以来ね。また3人で出かけたいわね、ヴィリ。」

「ええ、ぜひ。」
 私がそう言うと、ヴィリがニコリと微笑んだ。そして、シュテファンさまが、

「フィリーネさま、彼のご自宅に……行かれたのですか?失礼ですがトラウトマンさまは、ご家族とお住いでいらっしゃいますか?」

「──いいえ?1人暮らしですが?」
 なぜかヴィリの雰囲気が、スンッと感情を殺したような感じになる。

「そうですか……。ああ、フィリーネさま、祖母がまた家に遊びに来て欲しいとせがんでおりまして。ぜひまた祖母にも会いにいらしていただけませんでしょうか?」

「まあ、本当ですか?ええ、ぜひ。」
「──フィッツェンハーゲン卿は、ご家族に彼女を紹介されたのですか?」
 なぜだか冷たい口調でそう言うヴィリ。

「ええ。祖母がたいそうフィリーネさまのことを気に入りまして。ぜひにと……。」
 それに微笑みで返すシュテファンさま。

 なぜかしら……。2人の間に不穏な緊張間が漂っているような気がするのは、私だけ?
 互いにニコニコと微笑みあいながら、牽制し合っているようなそんな空気を、私はこの日確かに感じたのだった。

────────────────────

X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...