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クラスのマドンナと友達になるまで
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「おはよう、えぇっと……初めまして、だよね?」
そう言いながら、彼女は少し気まずそうに眉を下げた。
「いや、こういう態度をするのは失礼かな」
彼女は独り言のように呟いた後、教室の窓を静かに閉め、俺の方に向き直る。
「改めて、初めまして! 私は 佐々木悠里(ささき ゆうり) です! これから1年間よろしくね!」
――眩しい。
その笑顔に、一瞬目がくらんだ気がした。潮風に揺れる青みがかった髪。長い睫毛に縁取られた瞳は、まるで夏の海のように澄んでいた。
こんな綺麗な子が、俺に話しかけている。
「あ、え、あ、えっと……俺、俺は 裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう) です」
言葉が上手く出てこない。胸がドクンドクンと鳴り続ける。
「裕貴くん、か! ……ねぇ、ちょっとさ、私の暇つぶしに付き合ってよ!」
悠里はそう言うと、躊躇なく俺の手を握り、ぐいっと引っ張った。
「――あれ? ……ぐぬぬ! 動かない!」
だが、俺の重量により彼女の足が止まる。
彼女が怪訝そうに見上げてきたので、俺は申し訳なさそうに言った。
「ご、ごめん……俺、太ってるから」
「……そういうことか、じゃあさ、裕貴くんも一緒に行こう?」
「……うん」
俺は彼女の歩くスピードに合わせながら、ゆっくりと足を踏み出した。
※
「よかったぁ! 私、さっきまでずっと一人だったからさ、寂しかったんだよ!」
「そ、そうなんですか」
「そうそう! だから裕貴くんが来てくれて助かったよ!」
「そんな……俺なんかが来たところで」
「いやいや、そんなことないよ。だって、裕貴くんが来てくれたから、こうやって“接点”が生まれたじゃん? しかも、人の少ない学校を探検できてるし?」
「そうです……か」
佐々木さんは優しい。俺のような人間に、こんなにも自然に接してくれるなんて――。
「そうだ! 屋上に行こうよ! きっと海が綺麗だから感動するよ!」
「お、屋上!?」
悠里は俺の返事を待たずに、元気よく走り出した。
「ま、待って! は、速い!」
俺も慌てて後を追うが、すぐに息が上がる。気づけば、彼女は遥か先に走り去っていた。
「ゼェゼェ……運動なんてロクにしてなかったから……」
そんなことを呟いていると、廊下の方から大きな声が響いた。
「こらぁ! 廊下を走るな!」
怒声にビクッと振り向く。そこにいたのは、眼鏡をかけた女性教員だった。
「走るなら外で走――……お、お前、真一郎か!」
「す、すみません」
心臓が跳ねる。まさか、俺のことを知っているのか?
「いやいや、次から気をつければいいんだ。それより、真一郎だったよな? 初めまして、私は君の担任の 沢田(さわだ) だ。1年間よろしくな」
「は、はぁ……よろしくお願いします」
※
ようやく屋上へ繋がる重い扉の前に辿り着く。
ハァハァと肩で息をしながら、ゆっくりと手を伸ばし、ドアノブを回す。
ギィィ……
開いた隙間から、潮風が吹き込んできた。
「あ、ようやく来た」
その先には、悠里がいた。
青く広がる空と、海を背景にした彼女の姿。
夕日を浴びて揺れる長い髪。瞳には光が反射し、透き通るように輝いている。
――美しい。
それしか、思えなかった。
「裕貴くんもこっちに来なよ、綺麗だからさ」
「う、うん」
屋上から見える景色は確かに綺麗だった。けれど、それ以上に――彼女が眩しく見えた。
この日は俺にとって、学校が“楽しい”と思えた最初の日だった。
※
時間が経ち、学校には続々と生徒が登校してきた。
気がつけば、さっきまで俺と悠里しかいなかった教室は、にぎやかな空間へと変わっていた。
「みんな、おはよう。私が1年間お前らを見ることになった 沢田 だ。よろしく」
ホームルームが始まる。
担任の自己紹介。それから、地獄のような時間が訪れた。
――1年生の頃から築かれた人間関係。
周囲はすでに、去年からの友達と楽しそうに談笑していた。
そして、悠里もまた、たくさんの女子たちに囲まれていた。まるで教室の中心にいるかのように。
一方で俺は、たった一人。
この高校でまともに学校生活を送らなかった俺に、話しかけてくる人はいない。友達を作ろうとも思えない。
周りがどんどん人間関係を築いていく中、俺は耐えきれなくなり、席を立った。
「帰ろう……」
机の上に置いていた荷物をまとめ、教室を後にしようとする。
その時――。
「1人で何してるの? 裕貴くん」
優しい声が降ってきた。
驚いて振り向くと、そこには悠里が立っていた。
「あ、えっと、その……もう帰ろうかなって」
悠里の表情が、一瞬困惑する。
「もしかして体調が悪い? 保健室行く?」
「いや……体調が悪いわけじゃなくて……ただ、この場に居づらいだけ……。友達もいないし……」
「え? 友達ならいるでしょ?」
「……え?」
「私が友達でしょ?」
――は?
脳が一瞬、処理を止めた。
そんな俺の反応を見て、悠里はクスクスと笑った。
「何驚いてるの? 私たち、もう“友達”じゃん?」
彼女は自然に、まるで当たり前のことのように言う。
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
俺は……俺にも、“友達”ができたのか?
悠里の笑顔を見つめながら、俺は言葉にならない感情を飲み込んだ。
――この学校生活、もう少しだけ頑張ってみようか。
そう言いながら、彼女は少し気まずそうに眉を下げた。
「いや、こういう態度をするのは失礼かな」
彼女は独り言のように呟いた後、教室の窓を静かに閉め、俺の方に向き直る。
「改めて、初めまして! 私は 佐々木悠里(ささき ゆうり) です! これから1年間よろしくね!」
――眩しい。
その笑顔に、一瞬目がくらんだ気がした。潮風に揺れる青みがかった髪。長い睫毛に縁取られた瞳は、まるで夏の海のように澄んでいた。
こんな綺麗な子が、俺に話しかけている。
「あ、え、あ、えっと……俺、俺は 裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう) です」
言葉が上手く出てこない。胸がドクンドクンと鳴り続ける。
「裕貴くん、か! ……ねぇ、ちょっとさ、私の暇つぶしに付き合ってよ!」
悠里はそう言うと、躊躇なく俺の手を握り、ぐいっと引っ張った。
「――あれ? ……ぐぬぬ! 動かない!」
だが、俺の重量により彼女の足が止まる。
彼女が怪訝そうに見上げてきたので、俺は申し訳なさそうに言った。
「ご、ごめん……俺、太ってるから」
「……そういうことか、じゃあさ、裕貴くんも一緒に行こう?」
「……うん」
俺は彼女の歩くスピードに合わせながら、ゆっくりと足を踏み出した。
※
「よかったぁ! 私、さっきまでずっと一人だったからさ、寂しかったんだよ!」
「そ、そうなんですか」
「そうそう! だから裕貴くんが来てくれて助かったよ!」
「そんな……俺なんかが来たところで」
「いやいや、そんなことないよ。だって、裕貴くんが来てくれたから、こうやって“接点”が生まれたじゃん? しかも、人の少ない学校を探検できてるし?」
「そうです……か」
佐々木さんは優しい。俺のような人間に、こんなにも自然に接してくれるなんて――。
「そうだ! 屋上に行こうよ! きっと海が綺麗だから感動するよ!」
「お、屋上!?」
悠里は俺の返事を待たずに、元気よく走り出した。
「ま、待って! は、速い!」
俺も慌てて後を追うが、すぐに息が上がる。気づけば、彼女は遥か先に走り去っていた。
「ゼェゼェ……運動なんてロクにしてなかったから……」
そんなことを呟いていると、廊下の方から大きな声が響いた。
「こらぁ! 廊下を走るな!」
怒声にビクッと振り向く。そこにいたのは、眼鏡をかけた女性教員だった。
「走るなら外で走――……お、お前、真一郎か!」
「す、すみません」
心臓が跳ねる。まさか、俺のことを知っているのか?
「いやいや、次から気をつければいいんだ。それより、真一郎だったよな? 初めまして、私は君の担任の 沢田(さわだ) だ。1年間よろしくな」
「は、はぁ……よろしくお願いします」
※
ようやく屋上へ繋がる重い扉の前に辿り着く。
ハァハァと肩で息をしながら、ゆっくりと手を伸ばし、ドアノブを回す。
ギィィ……
開いた隙間から、潮風が吹き込んできた。
「あ、ようやく来た」
その先には、悠里がいた。
青く広がる空と、海を背景にした彼女の姿。
夕日を浴びて揺れる長い髪。瞳には光が反射し、透き通るように輝いている。
――美しい。
それしか、思えなかった。
「裕貴くんもこっちに来なよ、綺麗だからさ」
「う、うん」
屋上から見える景色は確かに綺麗だった。けれど、それ以上に――彼女が眩しく見えた。
この日は俺にとって、学校が“楽しい”と思えた最初の日だった。
※
時間が経ち、学校には続々と生徒が登校してきた。
気がつけば、さっきまで俺と悠里しかいなかった教室は、にぎやかな空間へと変わっていた。
「みんな、おはよう。私が1年間お前らを見ることになった 沢田 だ。よろしく」
ホームルームが始まる。
担任の自己紹介。それから、地獄のような時間が訪れた。
――1年生の頃から築かれた人間関係。
周囲はすでに、去年からの友達と楽しそうに談笑していた。
そして、悠里もまた、たくさんの女子たちに囲まれていた。まるで教室の中心にいるかのように。
一方で俺は、たった一人。
この高校でまともに学校生活を送らなかった俺に、話しかけてくる人はいない。友達を作ろうとも思えない。
周りがどんどん人間関係を築いていく中、俺は耐えきれなくなり、席を立った。
「帰ろう……」
机の上に置いていた荷物をまとめ、教室を後にしようとする。
その時――。
「1人で何してるの? 裕貴くん」
優しい声が降ってきた。
驚いて振り向くと、そこには悠里が立っていた。
「あ、えっと、その……もう帰ろうかなって」
悠里の表情が、一瞬困惑する。
「もしかして体調が悪い? 保健室行く?」
「いや……体調が悪いわけじゃなくて……ただ、この場に居づらいだけ……。友達もいないし……」
「え? 友達ならいるでしょ?」
「……え?」
「私が友達でしょ?」
――は?
脳が一瞬、処理を止めた。
そんな俺の反応を見て、悠里はクスクスと笑った。
「何驚いてるの? 私たち、もう“友達”じゃん?」
彼女は自然に、まるで当たり前のことのように言う。
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
俺は……俺にも、“友達”ができたのか?
悠里の笑顔を見つめながら、俺は言葉にならない感情を飲み込んだ。
――この学校生活、もう少しだけ頑張ってみようか。
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